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婚約破棄してもいい友達でいられると思っている元婚約者の謎

作者: 河辺 螢

 アウフレヒト侯爵家次男のライムントと、ランベルツ伯爵家の私、カトリナは同い年の幼なじみで、親が学生時代からの親友だったこともあって、頻繁に両家に出入りしていた。

 貴族の子女にしてはやや活発な私と、自由気ままなライムントは何でも遠慮なく話せる間柄で、両親も「これならばうまくやっていけるだろう」と勘違いしてしまったらしく、八歳の時に婚約が結ばれた。

 友達としては、確かに仲は悪くない。だけど、多少は結婚に夢を抱く乙女を前にして、

「おまえが婚約者かぁ…。ちぇっ」

とつぶやかれたのが、婚約1時間後。

「おまえを好きになるところなんて、想像できないなあ」

 その言葉で、私も「あなたを愛することはないだろう」と確信した。

 そう思いはすれど、こちらは格下の伯爵家。どんなに仲の良いおじさま、おばさまであっても、「この婚約、いやです!」と泣いてすがることなどできないのは百も承知だったので、ぐっと全てを呑み込んで、練習を積み重ねてきた笑顔で我慢した。

 思えば、この頃から自分の立場をわきまえた、ちょっといい子すぎる令嬢だった。


 ライムントはその後も変化なく、本気になってもらおうなんて努力をするのも馬鹿げていたので、私も特に媚びることはなく、二人でいる時は友人としてそれまでと全く変わることなく過ごしていた。


 同じ王立学園に入学し、校舎は男女別だけど時々お昼を一緒に食べたり、剣や弓の試合の応援に行ったり、テスト前の勉強会と称して仲の良い友人を集め、放っておくと油断しがちなライムントのお尻を叩いて、何とか学年十位以内のポジションをキープさせた。過去問による傾向と対策、わからない問題を徹底分析したりとお世話してるうちに、こっちは常時二、三位を取れるようになっていた。

 苦労の上で成り立ったこの順位さえ、ライムントは気に入らなかったようで、男友達との会話で「小賢しい女」とぼやいているのを立ち聞きして、ますますこの男、夫に向かないな、と思った。私の方が成績が上なのが気に入らないなら、一念発起して勉強すれば良いのに。見返してやろうという発想は生まれないのかなあ。

 せめて同レベル。共に励まし合い、切磋琢磨できたら、恋心まで抱けなくても不快感はないんだけど。

 もう少し高望みするなら、自分より高い位置にいて、それでも驕らず、私を引っ張ってくれるような、頼りがいのある人だったら、そりゃ恋にだって落ちるかも知れない。

 友達を超える愛情を持つには、あまりに足りなさすぎる相手だった。


 去年の王家主催の狩りでは、大人に混じって5番手の獲物を仕留め、学園の弓の大会では優勝していたライムント。背も高く、造形も悪くない彼は、学園では令嬢たちの話題に登る一人。本人にも自覚があるらしく、応援してくれる令嬢ににこやかに手を振り、

「キャアーーー」

という黄色い悲鳴を浴びて、まんざらでもない様子。

 学園の中では、婚約者がいてもファンクラブ的にお慕いするのは多目に見られてる。手さえ出さなければ。だから、我が婚約者殿も自分はモテる、という自覚はあり、私もまた、そんなキャーキャーにいちいち反応することなく、得意げな()()()を「はいはい、モテるモテる」とあしらうのが定番だった。


 そんな彼にも、自分から好意を持つ人が現れた。

 ある日の昼食中、

「お前のクラスに入ってきた転校生、なかなかかわいいよな。つなぎ、つけらんない?」

と言ってきた。それって、婚約者に頼むことじゃないでしょ??

「私もまだお友達になってないから」

 やんわりと断る気遣いを気遣えない、デリカシーのない男は、

「じゃあ、仲良くなって、俺のアピール頼むな!」

 誰が頼まれるか。薄ら笑いで示す拒絶は、周りの人には通じてたけど、当人には通じてないかもしれない。


 つなぎつけろと言われるくらいだから、見た目は奴のどストライクなのはわかってる。

 私が紹介しないのにしびれを切らし(そもそも紹介する義務もないけど)、彼女の様子を伺っていたライムントは、彼女が転倒して持っていた本をひっくり返したところを目撃し、助けたことから仲良くなった。

 …という話をしっかり報告された。それも本人同伴で。

 インメル男爵令嬢、エルメ様。ふわふわツインテールの似合うかわいい女の子。私とは違う分野の人間だと一目でわかった。

 しかも、それだけじゃなく、彼女が転倒して傷めた図書室の本を目の前に積まれ、返しとけって、なんで私が?

「おまえ、図書委員だろ?」

「自分が借りて傷めた本は、自分が持って行って謝るのが当然でしょ?」

と言ったら、エルメ様は

「ひどい! 私が格下の男爵家の娘だから、意地悪するんですねっ」

 そう言って、一応婚約者である私の目の前でライムントの背後に隠れ、上着をぎゅっと握って涙なんか見せている。

 なんだ、こいつ。

 格下、と自分で言いながら、格上の伯爵家の私に自分の後始末をさせようと??

「それくらいのこと、やってやれよ。エルメ嬢は転校したてでそういうことに慣れてないんだから」

 いつもは、ライムントの大概なわがままを仕方がない、と思って聞いてきたけど、こんなこと頼むデリカシーのなさにちょっとプチッときて、

「なら、あなたがやって差し上げてください。お優しいですわ、ライムント()。さすが!」

 わざと様付けでおだてるように言って、にっこり笑って立ち去った私を、二人は呆然と見ていた。

 

 誰が謝ろうと本が直るわけじゃなく、壊れた本の修理は図書委員のもとにやってきた。私が直せるものは直し、ひどく傷んだものは先生に相談してプロに任せ、再製本に出すことになった。


 ちょっと授業が長引き、少し遅れて昼食を取りに食堂に行くと、ライムントといつもの友人の中にエルメ様がいた。授業、長引いてたのに、どうやって抜けたの?

 ライムントとエルメ様はお揃いのメニューを前にして盛り上がっていた。今更その近くに座るのも嫌だなぁ、と思っていたら、私に気がついたエルメ様が、あえてこちらをちらっと見ながら、

「これ、作ってきたんです。私、お菓子作るのが趣味で…」

と、机の上にお菓子の入ったバスケットを広げた。どうも、お手製のクッキーのようだ。しかも上に砂糖やジャムがかかってる。

 ライムントは甘い物が苦手で、私が用意したお菓子もたびたび文句をつけ、いつも彼の分だけ甘さを抑えたものを用意していた。

 遠くから様子を伺っていると、ライムントは少し顔を引きつらせながらも、

「嬉しいなあ」

と言って、それを口に入れ、飲み込んだ。

 私が作ったものは、ちょっと甘いと一口かじっただけで「いらない」と突き返してきたのに、同一人物とは思えない。

 ああ、なるほど、これが愛のパワーか。愛のためなら、苦手なものも笑って我慢できるんだ。

 それでは、食材の無駄遣いを防ぐためにも、今後はおやつ担当はエルメ様、ということで、私は自分のため、家族のため、他の友達のために作らせてもらおう、と心に決め、黙ってその場を立ち去った。

 それでも、お菓子を作るたびに甘さ控えめな取り置きを思い出して、時々チクリと胸が痛んだ。


 あの日以来、お昼を一緒に取るのはやめた。向こうも私がいないところで特に気にもならなかったようで、声をかけられることもなく、頻繁にライムントとエルメ様が一緒に昼食を取るところを見るようになった。周りに友人がいる時もあれば、二人きりの時もあり、面白がってわざわざ報告に来てくれる人もいた。お昼代はエルメ様の分も支払っているのは有名で、学園内で腕を組んで堂々と歩くのも、初めは恥ずかしがっていたライムントも、エルメ様の積極さに押され、次第に当たり前になっていった。慣れによる当たり前、結構恐い。


 他の婚約者を持つ方々からも学園内の暗黙ルールを超えていると心配とお叱りを受け、一応、婚約者の不始末の尻拭いとして、私がエルメ様に注意をすることになった。とんだ貧乏くじだ。

 大方の予想通り、呼び出した時点で涙の準備万全。泣くよ、いつでも泣くよ、と言う目でこっちを見てる。

 やんわりと、婚約者がいる人に手を出すと世間的にも色々大変よー、と伝えたところで、当人同士だからこそ余計にうまくいかないこともある。

「私とライムント様が仲良くするのが嫌なんですねっ、ひどいっ!」

 そう言って、案の定泣き出した。まあ、こうなることは想像がついていたから、慌てないけど。

 二人が仲良くするのが、嫌?

 改めて問われれば、嫌だろうか。

 私だってたまに一人になってホッとする時もあるし、ライムントと話しているより図書委員の友達と新作の小説の話で盛り上がった時の方が、ずっと楽しいこともある。

 ライムントが誰と仲良くしてようと、別に問題ないし、機嫌がいいならそれに越したことはない。一緒にいなければ、別に機嫌が良かろうと悪かろうと気にもならないし…。

 そうか。別に私とライムントは一緒にいなくていいし、誰と一緒にいてもいいんだ。

 最近、話題もズレてきたし、自慢話が増えてきて、褒めるのも疲れてきてた。そんなことじゃダメだって自分を奮い立たそうとしてたけど、ナチュラルにそれができるエルメ様のような人と話をするほうが、ずっと楽しいに違いない。

 エルメ様が泣きながらプリプリと怒っているのも聞き流して、一人納得してそのままその場を離れた。


 ユーヴェルベーク伯爵から、新しい水彩画を購入したので見に来ないか、とお誘いがあった。

 小さい頃、ライムントのお父上であるアウフレヒト侯爵と一緒に伯爵の別荘を訪ね、絵画のコレクションを見せていただいた。そのコレクションは多彩で、私は風景画を、ライムントは動物の絵を気に入り、以来、新しい作品を入手すると、お披露目の日にお声をかけていただいていた。

 今回も招待状をいただいて、それをいつも同行するライムントに見せると、

「ああ、もらっとくよ」

と言って、招待状を持って行かれてしまった。私が感想入りのお返事を書くから、私宛に来てるのに…。

 デートに使うのかなあ…。ちょっと残念だったけど仕方がないか、と諦めていたら、次の日、

「あんな絵に興味ないから」

 そう言って、招待状を戻してきた。

 あんな絵…。

 昔は感想を言い合ったり、真似て絵を描いたりしたこともあったのに。興味がないのは、エルメ様? 好きな人が興味を持たないと、自分も興味をなくすのかな。

 面倒がらず、招待状を戻してくれただけでもよしとしよう。せっかくの機会だし、一人でも行こう、と決意したら、

「それ、ユーヴェルベーグ伯のコレクションの招待状だよね。前から興味あったんだけど、譲ってもらえないか?」

 ライムントの友人の一人、ニコラウス様が声をかけてきた。あまり話したことのない方だけど、ライムントが持っていたあの招待状が私のものだと知って、声をかけてきたみたい。

 知らない人に招待状を譲る時は紹介状を書かなければいけないけれど、同伴なら面倒な手続きなく歓迎される。手抜きのつもりで軽い気持ちで

「一緒に行きます?」

と声をかけたら、

「本当かい? 嬉しいな」

と、かなり乗り気だったので、待ち合わせをして二人で伯爵の別荘に行った。

 お互い興味のある絵は違ったけれど、なかなか面白い解釈をする人で、伯爵に紹介すると、次からは彼の元にも招待状が送られることになったみたい。ずいぶん感謝された。

 それから時々学校でも話をするようになったけれど、節度をわきまえた良い方だった。あんな友人もいたなんて、意外だった。


 普段から会うことも話すこともなくなったライムントとは、試験が近くなってもかつてのように集まることもなくなった。友人の一人であるデニス様に「今回は勉強会しないの?」と聞かれたけど、隣にいたニコラウス様に肘でつつかれ、あっ、と慌てた様子で言葉を濁し、二人は去って行った。

 ライムントの世話をしないと、勉強がはかどるということがわかった。

 勉強をしたがらないライムントをなだめながらやる気にさせるのにかなり時間がかかっていて、そこで学び直せる部分もあったけど、何であんなことに時間を使ってたんだろう。今更ながら疑問だ。自分のために使える時間がある、こんなことに喜びを感じるなんて。

 別の友達に声をかけられ、「わからないところがあるんだけど」と相談を受ければ、ちょっと教えてみたり、逆に聞いてみたり。ノートも見せ合ったり、いい参考書を教えてもらったり。

 そうよ、人生は双方向よ。婚約者としてだけじゃない。友達だって、みんなお互いいたわり、いたわられて仲良くなっていくものじゃない。

 こんな簡単なことに気がつかず、一人よがりで力んでいた自分の至らなさに気付き、思わず笑ってしまった。


 突然、エルメ様にノートを貸して欲しい、と頼まれたけど、お断りした。そもそもそんなに親しい間柄じゃないし、何より明日が試験の王国史のノートを家に帰る今頃借りたがるって、普通はないと思うんだけど。

 エルメ様が教室を出ると、入れ替わるようにライムントが教室に入って来た。

「おまえ、エルメをいじめてるんじゃないぞ」

 このところろくに話もしていないのに、久々に会って、開口一番、それ?

「いじめるって、何が?」

「エルメにだけノートを貸さないって言ったそうじゃないか。何意地悪してるんだ」

 おおお、虚構の「だけ」。ここがポイントね。

「私だって自分の勉強があるのよ。明日テストがある王国史のノートだもの、エルメ様だけじゃなく、誰にも貸せないわ」

 お、正常な反応。「えっ」て、今、言ったよね? 明らかに驚いた顔をしたのに、続く言葉は、

「…貸してやれよ、おまえ点数いいんだから」

ときた。がっかりした。なんでそうなるんだろう…。優先すべきはエルメ様ただ一人?

「受けてないテストの点がいいかどうかなんて、わからないでしょ? 私だって油断してたら、とんでもない点を取ってしまうかもしれないし、まだ覚えてないところもあるし。…ああ、それならライムント()のをお貸ししたら?」

 私の言葉に、ぐっと手を握りしめ、恨みがましく上目遣いでこっちを睨んでる。ライムントはろくにノートも取らない。いつも私のノートを当てにしてる。知ってて言う私も意地悪だけど。

 軽く会釈して、教室を出た。

 ライムントは、廊下で待つエルメ様に何やら説明しながら肩に手をやっていた。

 こういう私の一挙一動で、私は悪役になり、二人はお互いを慰め合い、更に愛が深まる訳だ。

 …ああ、関わりたくない。


 テストの結果は、私は学年二位、ライムントは三十位以内にはおらず、かなり下がったようだけど、探すのが面倒になって正確な順位は知らない。今まで勉強会がそこそこ役に立っていたんだな、と、かつての自分を評価してみたところで、「友人」としてでも一方的にあんな奴の世話を焼くのはもうごめんだ、と思うようになっていた。


 その後開かれた学園の弓の大会で、ライムントは優勝は逃したものの、二位と大健闘だった。

 喜びを分かち合うのもエルメ様と。エルメ様はみんなのいる前でぎゅっと抱きついて、ライムントはみんなに冷やかされて照れ笑いを浮かべ、もらった花束をエルメ様に渡した。もはや二人は公認になっているのかもしれない。うるさく言う人も次第にいなくなり、私に気遣う人もいない。

 事実上、もう終わっている。


 双方の親にもこの状況は伝わっていた。

 父母からは家は格下でも婚約解消を申し入れてもいいと言われ、アウフレヒト家からもお詫びと、まだ婚約を続けてもらえるか、とかなり遠慮気味な打診があった。

 別に未練があった訳じゃないけれど、ここで私一人が答えを出すよりライムントの話も聞いて、ちゃんと終わらせた方がいいかと思って保留にしていたところで、爆弾を落とされた。


 食堂で友人と昼食を取っていたら、突然ライムントとエルメ様が机のそばにやって来た。

「カトリナ、おまえとの婚約は破棄だ」

 決して、大きな声じゃなかったけど、いきなりのその言葉に、食堂がシーーーーン、と静まった。

 同席していた友達も固まってる。私がやった訳じゃないけど、巻き込んでしまって本当に申し訳ない…。

 よくある小説では、王子様とヒロインが結ばれるのは、大抵夜会。意地悪な令嬢がコテンパンにやっつけられるのも、きらびやかなシャンデリアの下。

 学生のために開かれるパーティは多くないけれど、その代わりが食堂というのはなんとも色気がない。

 でもどこで言われようと、答えは決まってる。

「ああ、そうですか」

 私があまりにけろっとしているのが、二人は面白くなかったらしい。

「婚約破棄だぞ、わかっているのか」

「いえ、婚約解消です。わかってますよね?」

 わたしがライムントと目を合わせると、なぜだかちょっとうろたえている。さっきまで強気だったくせに。

 しかし、エルメ様につつかれて、再度奮起すると、

「俺とエルメが弓の大会で仲良くしていたからって、見苦しい嫉妬で親に告げ口をしただろう。ああいうのはどうかと思うぞ」

 嫉妬で告げ口…。どういう発想からそうなるか…

 この勘違いは、ちゃんと正さなくちゃ。

「あのね。嫉妬というのは、私があなたのことを好きでないと、成り立たないの」

「えっ?」

 あれ? ライムントが急にしゅんとなって、首をかしげてる。

「長年の付き合いだから、わかるでしょ? 私が本当に嫉妬したら、こそこそせず、あの場に乗り込んでいって、二人に直接文句を言ってるわよ?」

「だ、だが、」

「あれだけ派手にいちゃついて、親にばれないと思ってたの? 親どころか、学園はもちろん、社交界でも有名よ、アウフレヒト家の次男は男爵令嬢に夢中で、婚約者である私は寝取られたって」

 私の言葉に、エルメ様が顔を赤くした。

「ね、ねね、寝取られただなんて! 私達は清い関係です!」

 そう言う誤解を招きかねない話題を振りまいたのは、自分たちでしょうに…。

「世間はそう言うの、面白がるものだって、お伝えしたはずなんだけど…。物わかりの悪さは成績に比例するんでしょうか」

「ひどい! カトリナ様はそうやってすぐ私を馬鹿にして」

「そうだそうだ、俺の成績が落ちたのだって、おまえがちゃんと勉強会を準備しなかったからだ。いつも通りにやってれば、俺だって…」

 そうか。私は準備をするのが当たり前の人なんだ。手下? 使いっ走り? 便利屋? それは婚約者でも、友人ですらない。

「今後は一切、あなたたちには関わりません。二人で、仲良く、お過ごしください。勉強も自分たちでやってくださいね」

「えっ??」

 そこで意外そうな顔をされて、こっちが意外だった。婚約解消しても、まだ面倒見てもらえると思ってたんだろうか。

「もちろん、そっちも私に関わらないでくださいね。学園でもできるだけ声をかけないでください。こう見えても、傷心の身ですから」

 にっこりと笑うと、食事を共にしていた友人に

「お騒がせして申し訳ありませんでした」

と頭を下げ、一人、先に席を立った。


 あっさりと片がついて良かった。これで思い残すことなく、婚約解消の手続きを進めてもらえる。

 何も保留にすることなかった。無駄な時間を取っただけだったわ。

 両親へどう報告しようか考えていたら、ライムントが急に腕を掴んできた。

「次の勉強会は?」

「どうぞ、ご自身で企画してください。私は関係ありません」

「ら、来週のうちの夜会、来るだろ?」

「はあっ?」

 エルメ様がびっくりした顔でライムントを見てる。こっちもびっくりした。

「行く訳ないでしょ、婚約解消するのに」

 何でそこでそんなに驚いた顔してるんだろう。

「婚約解消したって、友達だよな」

「いいえ?」

「えっ?」

 この人は、もしかして、めでたい人?

「恋心がなくても、婚約者に裏切られれば傷つくのよ。自分を傷つけた人と友情が続くわけないでしょ? 元婚約者とまだ関わり続けたいだなんて、今度はエルメ様を傷つけるつもり? あなたが選んだ人なんだから、大事にしてあげなさいね」

 珍しく、エルメ様が私をキラキラした視線で見てる。別に喜ばせたくなんかなかったんだけど。

 腕を掴む手を振り払って食堂を後にし、午後の授業は体調不良でお休みして、すぐに家に帰って婚約解消の手続きをしてもらった。

 事情を知ったアウフレヒト侯爵も、ただ謝るだけで、解消を渋ることはなかった。

 おじさま、おばさまはとても良い方だったから、縁を結べなかったことは少し残念だった。

 

 ライムントとエルメ様の仲は卒業まで続かなかったみたい。あんなに仲良かったのに。


 婚約解消から三ヶ月ほど経った頃、ニコラウス様からお声をかけられ、時々一緒に絵画鑑賞をするようになっていた。周りからは、それはデートだ、と言われるけれど、どうなんだろう。

 成績も二位・三位を競い合うようになり、切磋琢磨しているうちに、一度だけ絶対王者から難攻不落の首位を奪い取ることができた。ニコはちょっと悔しがりながらも、自分のことのように喜んで、褒めてくれた。こういうの、ずっと憧れてた。

 視線に少し感じるドキドキ。

 この友情は、やがて恋に変わるだろうか。




お読みいただき、ありがとうございます。


相も変わらず、投稿後にも直しまくってます。

誤字ラ出現報告、ありがとうございました!


七夕の日に、一番星をちょうだい致しました。

お読みいただきました皆々様に、かしこみかしこみ御礼申し上げ奉ります。


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