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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第五章 アラウミ王国編
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64. 白紙

「ガハハハ、あのメガアシエラプトルがまるで雑魚扱いじゃねーか。 やっぱ睡眠魔法はチートだな!」


「すごいのだ。 ビックリするのだ」


「いえいえいえ、僕のできることはアスナもできるようになりますから、アスナはスタンを持っている分、僕より強くなりますよ」


「はっ? お兄ちゃん、何を言っているの? 私を巻き込まないでくれる? 全く、都合が悪くなるとすぐに私を利用してタゲを逸らそうとするんだから!」


「いや、僕が言っていることは事実だと思うよ。 アスナは強くなるだろ?」


「今の段階でそんなこと言わないでよ。 今の私のステータスなんて8才児そのものなんだからね!」


「そうよ、カインちゃん。 アスナちゃんは私たちと違って、まだ子供のステータスなのよ」


「……わかったよ。 僕が悪かったよ。 スタンが強いから、ついフィリアさんたちと同じに扱ってしまっていたよ。 ……ところでアスナ、新しい<ボード>の能力は解放した?」


「いえ、未だよ。 そんな暇なかったし」


「そうだよね。 早めに解放して、自動修練を始めた方がいいかな~」


「そんなことは分かってるんだけど、マルチプレクサ?回路とかは未だ先の話だと思ってたし、難しくて検討してなかったのよ。 <ボード>の中で回路も見つけなきゃならないし」


「……サトリさん。 僕らは<ボード>について少し研究しないとならないので、できるだけ自由時間を増やしてほしいです」


「そうだね。 それに、転移された時に新しい魔法を覚えてんだよね。 それも実験しないとね」


「あ~あ。 何か気が重いな~」


「贅沢言ってんじゃねーよ。 お前はまだまだ強くなれるんだから、頑張れるだけ頑張れよ」


「ガイアさん。 すみませんでした。 頑張ります」


「お、おう。 頑張れよ」


「はい。 ガイアさん、そこでお願いなんですが…」


「……ま、まさか、……イヤイヤイヤ、実験台とか無理だからな。 今回の新魔法は転移関係の魔法だろ? いくら何でも危険すぎるだろ」


「ま~ そういわずに。 ほら、転移石の魔法は、レベル1とレベル2とレベル8の組み合わせだったじゃないですか。 これだけ大がかりな転移は最後のレベル8の威力だったと思うんですよ。 だから今なら大丈夫だと思います」


「組み合わせってなんだよ!  そんなこと俺は聞いてねえぞ。 それにレベル1が安全が保証されてる訳じゃないが、……だがまあ、俺がやるしかないか。  まずはレベル1で試してから危険ならレベル2は無しだからな」


「もちろんです、じゃやりますね」


「ちょっ、待て、覚悟が未だ……」



 ガイアさんが恐怖を感じてはいけないと思ったので、即座にレベル1の新魔法を使ってみた。

 ところが……。


「アレっ!? 何だこれは!」


「ど、どうした!!」


「何か、こう、変な感覚が、…。 これって白紙? 何か転移と関係しない気がするんですけど…」


 僕の中に新たな感覚が発生したのだ。

 それは、紙のような白紙で見ることしかできなかったのだ。

 全く意味がわからなかった。


「じゃ、次行きますね」


 またまた文句を言わせる時間を与えずにレベル2の魔法を使ってやった。

 そしたら、白紙の中に点を打つことができる手ごたえが発生した。



「おい、今何かしたか?」


「はい、レベル2の魔法も使ってみました。 でも何かこう、さっきの白紙に点を打つだけのような魔法でした」


「お前、断りもなしにレベル2の魔法まで使うなんて、あんまりじゃないか?」


「ガイアさんを怖がらせたらイケナイと思ったので。 さっと、やりました」


「ま~怖いのはそうなんだがな、それでも何かあった場合には備えなきゃならんから事前に一言でも言って貰いたいものだな!」


「わかりました。 すみませんでした」


「おう、わかりゃいいぜ。 お前も少しは物分かりが良くなったな。 でも考えてみれば人に使わなくてもよかったんじゃねーか?」


 僕はガイアさんに背中をどつかれてしまった。

 どうやら僕が以前のままのステータスだったと思っていたようで、かなり手加減はしてくれていた。

 とはいえステータスが大きく上がった僕には、殆ど感じられないぐらいの威力であったので、どつかれても微動だにしなかった。


「あれっ?、何か壁を叩いた感触だったぞ。 もしかして、カインはVITもかなり上がったのか?」


「ええガイアさん、上がりましたとも。 今では600を超えてますよ」


「何だと! じゃこれでど~じゃ~!」



 またもやガイアさんに背中をどつかれてしまった。 だけど前回同様に僕は微動だにしなかった。


「お、お前、俺の攻撃を受け付けないぐらいになったのか…」


「そうなの~? スマイルちゃんも叩いてみるぅ~」


「だ、ダメです。 スマイルさんの攻撃には耐えられないと思います。 ちょ、止めてください。 さ、サトリさん助けて~」



 僕はニコニコ顔のスマイルさんに追いまわされた。

 僕の方がAGIが高いようで逃げることは簡単だが、逃げ回りながら一応、自己強化付与セット2 を使っておいた。 万一捕まって叩かれたら無事で済むとは思えなかったからだ。



「スマイルちゃん、駄目よ。 今は叩かないでおいてあげて」


「ええっ? フィアちゃん、スマイルちゃんはちょっと試してみたいのですぅ~。 駄目?」


「駄目よ。 壊れたら私一人じゃ直せないからね」


「了解~」



 フィリアさんの取り成しで、スマイルさんは、僕を追いまわすのを止めてくれた。

 でもなんかフィリアさんの発言は、ちょっと引っかかるものがあった。

 ”今は叩かないで” と、 ”私一人じゃ直せない” だ。

 まさか、直せるなら叩いても良いってことだろうか? イヤまさか、と思ってフィリアさんの表情を確かめようとしたのだが、ニコニコしていただけなので、それだけでは良くはわからなかった。

 そういえば、攻略組織の入団条件は、VITなどのフィジカル系はレベル7なのだが、MNDはレベル6、複合魔法(補助魔法や操作魔法)はレベル4なので、今の僕は組織への入団条件を満たしていると言える。 まさかとは思うが、攻略組織の仲間内で行われる洗礼の儀式を受けるさせる気だったのかもしれない。 その洗礼の儀式は、新人が慢心しないように行われると聞いている。



「ガ、ガイアさん。 僕は慢心しないように、これからもいっそう精進しますのでよろしくお願いします」


「ガハハハ、カインはよく分かっているじゃね~か。 まあお前なら大丈夫だな、洗礼は必要ないだろうぜ。 だが覚えていろよ? 強くなったからって何でも許されるわけじゃね~んだぞ。 人を思いやる心だけは忘れちゃいけね~。 相手が弱者でも毒とか盛られたら対抗できねーし、仲間が居なくなると悲惨だからな」


「はい。 わかりました。 って、あああああ!!」


「ん? カインどうした?」


「あの、さっき覚えた新魔法で現れた白紙なんですけど、正体がわかりました~」


「ほぉ~、カイン君。 どういう事だい?」


「サトリさん。 あれは地図だったんです。 さっきスマイルさんに追いまわされて、この広間を一周したことで僕を中心にしたダンジョンの地形が現れたんです」



 僕は先ほどの新魔法の白紙――地図を出しっぱなしにしておいたので、それが変化していることに気づけたのだ。


「なるほど、……転移には先ず地図を使うということなのかね。 ということはレベル2で現れた点というのは?」


「ええと、ちょっと待ってください。 ……ここへという場所を意識すれば動かせるし、消そうとすれば消えるけれど、何もしなければその位置にとどまるようです。 これは……」


「なるほど。 転移魔法とは、LV1とLV2の魔法で地図上の地点を指定して、そこへ転移するということなのかもだね」


「はい。 そういうことだと思います」


「ハハハ。 新魔法の正体が分かって良かったよ。 でも少なくともレベル3にならないと転移は使えそうにないね。 そしてレベルが8になれば大規模な転移が使えるかもしれないのだね?」


「そうかもです。 ただ地図は、このダンジョンの通ってきた場所しか表示されないです。 それに、僕を中心にして約10m位の範囲にしか点を移動できません」


「う~ん。 地図だけでも、もっと広範囲に表示できないかい? 」


「……」


「えっと……。 ちょっと待ってくださいね。 お、おおお、地図が拡大できました。 でも何も表示されてないようです。 もしかしたら魔法を発動しておかないと地図が成長しないのかもしれないです。 発動地点から半径約10m位が見える感じかな~」 


「その半径10mというのが不思議だね。 地図に書き込まれる場所が半径10mで、地点を指定できる範囲が現在位置から10mなのだよね。 どちらも10mというのが仕様なのか、あるいはステータスのレベルに依存しているかだね」


「サトリさん。 そういえば僕の未知ステータスのレベルは、あと数日で500を超えると思います。 その時に何らかの変化があれば分かるかもです」


「そうだね、もし変化があってその距離が伸びれば、そしてステータスが800を超えれば、転移石と同じ距離を転移して戻れる可能性があるな。 つまりこのダンジョンから脱出できる可能性があるということになるね」


 それらの会話を聞いていたシャナエ様がサトリさんに話しかけた。


「サトリ殿、このダンジョンから脱出できる可能性が見つかったのですか?」


「シャナエ様、カインのステータスが800になれば脱出できる可能性はあります。 ですが、かなりの月日がかかるものと思われますし、まだ推測の段階です」


「そうですか、……いづれにしても貴方達は私が思っていたよりもずっと有能なのですね。 わたくしは何が起っているのかも理解できないまま、命を助けられているような気がします」


「シャナエ様、申し訳ありません。 私たちのスキルの件についてはもう少し落ち着いたらご説明させてもらいます。 とりあえず今は安全確保を優先して行動していきたいと思っております」


「わかりましたわ。 落ち着いたら是非おしえてくださいませ」


 そう言ってシャナエ様はセーフハウスの方へ戻って行った。



 ガイアさんとスマイルさん、そしてサトリさんは、倒したメガアシエラプトルの解体を始めていた。 鱗は非常に強固で良い素材だし、メガアシエラプトルからは必ずDEXの魔核魔石が取れるのでだ。

 もっとも解体は強固な分だけ大変である。 倒れているとはいえ、解体作業自体は主にスマイルさんが担当しているという感じだった。 ガイアさんは、主に剥いだ鱗や皮、そして肉を回収していた。 サトリさんは主に水生成魔法と水操作魔法で血抜きとか洗浄をしていた。


 フィリアさんとタミルさん、そしてシャナエ様はセーフハウスの直ぐそばで料理をしているようだった。 僕らは容量の大きな空間倉庫を持っており、その中には生鮮食料も、お弁当すら多量に入っている。 だが、あえてフィリアさんたちはここで取れた材料も使って料理をするようだった。 そして、その中でシャナエ様は嬉々として器用に食材を扱っていた。 もしかしたらシャナエ様の<ギフト>はDEXなのかもしれないと、その時僕は思った。



 その間、僕とアスナは、ぼーっとした顔をして、新しく追加された<ボード>の調査研究をしていた。 

今アスナが研究している<ボード>は、<論理回路ボード>と<クロックボード>のはずである。 <論理回路ボード>には二等辺三角形のNAND論理回路が書き込めるため、その組み合わせでマルチプレクサ回路などの有用な基本回路を作成できる。 そしてそれらの基本回路をさらに組み合わせて<発動ボード>の中の回路に繋げればステータスの修練が開始できるのである。 さらに、その<クロックボード>の中にクロック回路を発現させれば、めでたく自動修練が開始できるようになる。


 僕が研究しているのは、2つの未知の<ボード>である。

 恐らく64ビットの大魔法の発動回路が隠れていると思われるのであるが、それを見つけるために一生懸命探さねばならない。 そしてそれらを探す作業は、長ければ1か月、早くても数日かかる見込みだ。

 今僕らは魔法陣ダンジョンの奥側という大変厳しい環境に居て、ある意味危機的な状況にある。そんな状況で悠長に研究などやっているのは気が引ける思いなのだが、こういう危機的な状況だからこそ何か有効な打開策につながるような発見をしたいという思いがある。


 そんな僕らの前に、突然タミルさんがすっ飛んできた。


「ご飯ができたのだ。 セーフハウス前に集合なのだ」


 そういった途端、僕らの前からタミルさんは消えるように走り去った。 彼は次にサトリさんたちの前で、ご飯が出来たことを伝えるのが見えた。

 そして僕たちは、セーフハウス中に設営された食卓前に集まった。 そこには見たこともないような見事な料理が並べられていた。 どう見てもフィリアさんやタミルさんだけでは不可能なレベルの料理なので、これらはシャナエ様が深く関わった仕事だと察せられた。



「では、みなさんディナーに致しましょう。 この料理は、わたくしの趣味で準備していた素材を用いたものです。 素材などはまだまだ十分にあるので遠慮せずに食してくださいませ」



 どうやら、シャナエ様は料理が趣味であるらしい。 DEXタイプのギフト持ちのような感じなので、このような見事な料理ができても不思議ではない。

 それに王族ならではの高級食材を用いているせいか、全く持って僕らには分不相応な料理であることだけは間違いない。

 スマイルさんなんかは、涙を流して生きてて良かったとか言いながら感動して食べていた。 勿論僕もサトリさんたちも同じだったのだが、僕は見てしまった。 ガイアさんが、こっそりとお酒を隠れながら飲んでいるところを。

 残念ながら当分の間は大酒を飲むことはできないのだから、これぐらいは許容の範囲だろうと思い僕は何も言わなかった。


 そういう至福の時を過ごした後で、僕らは就寝した。

 後で教えてもらったのだが、その夜サトリさんは僕らのことをシャナエ様に説明したようだった。 生憎、僕とアスナは子供の身なので早寝してしまい、その詳しい内容まではわからなかった。

 サトリさん達攻略組織の面々は、ダンジョンの中での野営キャンプに慣れていた。 セーフハウスには迷彩機能と防音機能があり、ダンジョンの壁に擬態していたし、フィリアさんの結界魔法Lv4の極大魔法により守られていた。 フィリアさんは結界魔法を定期的に張り直す必要があり、スマイルさんは危険がないかを定期的に調査してサトリさんへ伝えているとのことだ。

 ガイアさんたちも自己強化を切らすことはできないので定期的に起きているようだった。

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