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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第五章 アラウミ王国編
62/65

62. 転移石

 程なくしてカジュアルな装いにもかかわらず、エレガントで威圧感があるブロンド女性が入って来た。 一目見ただけで高貴な方だと僕でも分かる。

 彼女は僕たちを見回して微笑んだ。



「シャナエ・ドリク・アラウミ王女で有らせられる」  



 サマンサ卿がうやうやしく例をした後で僕等に向き直り紹介してくれた。



「サマンサ。 この方たちが今回サトエニア側で護衛を引き受けてくれる方たちですか? 小さい子が混じっているようですが……」


「はい、王女様。 大人の4名は信用のおけるAランク冒険者で、子供達もそれに勝るとも劣らない戦闘能力があります。 今年の護衛は今まででも一番優れていると断言できます」


「そうなのですね。 ……私はシャナエです。 護衛の方々、今回はよろしく頼みますね」



 それから、僕らは一名ずつサマンサ卿からシャナエ王女に紹介されたのだった。

 シャナエ様は見た目には威圧感感がある美人なのだが、物腰は丁寧な感じで人当たりが良い人物だった。

 紹介の後に、ちょっと困ったことに、僕らは夕食会に招待されてしまった。 そのような夕食会ではガイアさんもスマイルさんもハメをはずしての飲食などせず、僕とアスナもシャナエ様から直々に色々と聞かれることになってしまった。

 サトリさんとフィリアさん、アスナ、スマイルさんはシャナエ様と打ち解けることができて良い雰囲気だったが、僕やガイアさんにはちょっと無理だった。


 翌朝、僕らは早速サトエニア共和国側へと出発することになった。

 僕たちとシャナエ様、タミルさん、近衛隊長、そしてサマンサ卿がバスのようなサイズの専用自動車へと乗り組んだ。 中はビックリするぐらい広く、そして質素だった。

 本当は僕たち護衛は車外で控えているのが普通だと思われるのだが、出国する関所までは近衛部隊が外を固めているので、親睦の意味も込めての僕らも専用自動車に乗ることになったのである。


 町から出て街道を1時間ぐらい進んだところで急に僕らを乗せた自動車が停止した。

 何やら魔物とかに遭遇したらしく、外が騒がしい。

 状況を確かめるために、近衛隊長とサマンサ卿が外へ出て行った。


 その時僕は魔法のパターンが<識別ボード>に高速に刻印されていくのを察知した。

 人間が魔法を唱える場合には発動までに2分位を要するのだが、魔物の詠唱はずっと早い。 

 そして今回も魔物クラスに魔法構築のテンポが早く、10秒程度で32ビット魔法の詠唱が完了してしまった。



「サトリさん! 不明な魔法が始まって一旦発動しました! あ! また魔法の構築が始まりました。 あ!発動した。 あれっ、またです。 3つ目もすぐ発動しそうです!」



 32ビット魔法の詠唱が2回高速で完了し、その後で64ビット魔法も高速完了してしまった。

 そのとたん唐突に周囲の空間が揺らめきだしたと思ったら、自動車の辺りの景色は一変してしまった。


 僕たちは暫く無言のまま自動車の中から外を警戒して見ていた。 外の光景は正にダンジョンの中そのものだった。



「やられましたわ。 これは転移石を使われましたわね」 



 暫くして、シャナエ様が冷静にお言葉を発した。



 転移石。 


 それはダンジョンの中で極めて稀に発見されるアイテムで、魔力を流して使うとどこかへ飛ばされる性質を持つのである。

 転移石は魔物であるとする説も存在していた。 

 何故なら転移を発動した後はINT系の魔核魔石になるからである。


 「カイン君。 さっき魔法が発動したと言ったが、そのパタンは記録されているか?」

 「えっと、サトリさん。 未知系列の魔法で、レベル1と、レベル2、そして…レベル8です」


 「……」


 「お兄ちゃん、大変! 私の<ボード>が増えている!」


 「なんだって!!?」


 僕は慌てて自分のステータスも見てみた。

 <ボード>ではなくステータスを見たところが実に僕らしいミスである。



 カイン(アレン) 10才


 位階レベル 0   0/1000


 HP  6365/6365   56/100

 MP  10165/10165  1/100

 STR  615    349/1000

 VIT  615    532/1000

 AGI  615    359/1000

 DEX  615    419/1000

 MND  615    410/1000

 INT   615    429/1000

 SPR 494    175/1000

 MOB 494    175/1000

 SPC 494    175/1000

 ACL 494    175/1000


 状態 幼少加護


 <ギフト> BRD




 驚くことに僕のステータスは爆増していた。



「アスナちゃん、どうした! <ボード>が増えてるって言ったかい?」


「はい。 サトリさん、2つほど増えてます」


「カイン君は?」



 僕は自分のステータスが急激に増えたことにショックを受けて固まっていたが、サトリさんに言われてから気を取り直して、<ボード>を確認した。

 そして確かに未知の<ボード>が2つ追加されていたのを知ったのだった。



「……僕も2つ増えてます。 それよりも……」


「カイン君どうした? まさかステータスに変化が?」


 さすがはサトリさんだ。

 こういう時の洞察力には凄い。


「はい。 ステータスが大幅に増えてます。 これは、……時間に換算すると、約18か月程も経過したことに相当します」



 そんな僕の報告に対してガイアさんが目を剥いた。


「何を言ってるんだカイン、お前こんな時にそんなバカなことを言うんじゃねーよ」



 ガイアさんには怒られてしまったが、それどころではなくなった。

 小爆裂魔法が2つ高速で詠唱されていくのが見えたのだ。


 僕は叫んだ。



 「アスナ!! 範囲スタンを!!!」


 「!!!!!」


 アスナの無言で範囲スタンが間髪入れずに弾けた。

 それにより小爆裂魔法の詠唱は2つとも止まった。


 僕はすぐに自動車のドアを開けて外へ飛び出して慌てて周囲を見回した。


 すぐに付近にメガアシエラプトルを発見した。

 メガアシエラプトルは、アシエラプトルの上位種で一回り大きく赤色鱗を持つAランクの魔物である。 それが2体、アスナのスタンでフリーズしていたのだった。


 僕はそれを見るや否や即睡眠魔法を使った。



 ドサッ


 睡眠魔法はレジストされることなく入ったようで、2体のメガアシエラプトルは崩れ落ちるように眠ってしまった。



 僕に遅れて外に出て来た面々は、その光景を見てしばらく驚愕していたのだが、唯一スマイルさんのみが反応して、寝ているメガアシエラプトルに斬りかかって行った。

 そして次に我に返ったサトリさんが指示を出した。



「カイン君! 寝かせを続けてくれ!!」

「スマイル、一匹に集中して攻撃を!」

「ガイア、こちらでシャナエ様と自動車を守れ!」

「フィア、最高位の結界を!」

「そして、タミル。 こちら側はいいからダンジョンの反対側の偵察を頼む」

「僕は、……水を出すから、カイン君空間倉庫を渡してくれ」



 僕はサトリさんが何を考えていることが分からなかったのだが、アイテムボックスの中から全員の空間倉庫を出して手渡してやったのだった。

 もちろんスマイルさんは戦っているので渡すのは後になる。


 そして最初に寝かせてから30秒近くが経過したので、僕はもう一度睡眠魔法を使った。



 ドサッ



僕の睡眠魔法が入り、メガアシエラプトルのみならず、それに攻撃していたスマイルさんも眠って倒れてしまった。

 僕はすぐに水魔法Lv1をスマイルさんに使った。


 パシャッ



 覚醒するとスマイルさんは飛び上がるように起き上がり、再び全力で攻撃を再開した。

 スマイルさんはメガアシエラプトルの首元を集中して斬りつけているようだが、随分固いようで中々ダメージを与えられていないように見える。



「スマイル! 一旦引いて、STR強化を使え!」



 サトリさんは空間倉庫から取り出した透明なカップに水を注ぎながらスマイルさんに指示を飛ばした。


 

 スマイルさんも一旦引いてSTRの自己強化魔法を開始し、ガイアさんも気づいたようにVITの自己強化魔法を開始した。



 カップに水を注いだサトリさんが何を考えているのか僕にはわからない。

 やがて僕が3回目の睡眠魔法を重ね掛けしたところでサトリさんが動いた。

 そして寝ているメガアシエラプトルの口の中に水を入れたカップを押し込み、そのまま少しづづ離れながら魔法の詠唱を開始した。



うあ~、サトリさん、相変わらずやることが斬新でえげつ無いな!



 サトリさんの詠唱は、火水魔法Lv3だった。

 つまり、メガアシエラプトルの口の中へ押し込んだ水入りのカップを対象として、あの一瞬で水を蒸気に変える、水蒸気版の破裂魔法とも言うべき魔法を使う気なのだ。

 水の入ったカップの周囲が囲まれていれれば破裂の威力は何倍にも上がるはずであるから、あえて口の中に入れて水蒸気破裂させる気なのだ。


 ちなみに水蒸気破裂とは、弱い水蒸気爆発という感じの意味で、僕が作った造語である。

 サトリさんといえば爆裂魔法のイメージなのだが、爆裂魔法の属する火魔法は周囲の空間が十分に開けていないと狙いが定まらないため口の中を狙うには不向きである。 それにメガアシエラプトルの鱗は固いため爆裂魔法といえども、外側からはそれほど大きなダメージを与えられないと考えられる。

 そういう意味では、サトリさんがやろうとしている水蒸気破裂魔法はピンポイント攻撃が可能だし、魔物の弱い部分を狙うので合理的だといえる。



「サトリさん。 もう少し下がってください。 睡眠攻撃に巻き込みそうです」



 サトリさんは詠唱しながら頷くと、空間倉庫から盾を取り出して僕から視界に入らないように隠れた。


 そうしているうちにフィリアさんの結界魔法Lv4が自動車の屋根を基点に展開され、スマイルさんとガイアさんの強化が完了した。

 そしてスマイルさんが再びメガアシエラプトルへ突撃していった。

 強化されたスマイルさんの攻撃は、強化前とはまるで違う威力だった。

 斬りつけ攻撃を一点へ集中することで、メガアシエラプトルの傷は目に見える程徐々に広がっていっている。



「スマイルさん。 離れてください。 サトリさんの詠唱が完了します」



 僕の報告でスマイルさんはすぐに退却し、そしてサトリさんの水蒸気破裂魔法が発動した。



 ドォォン!!



 洞窟内に大きな音が響き、メガアシエラプトルの顎が吹っ飛び、その衝撃は脳にまで達したのであろうか、メガアシエラプトルは息絶えた。

 僕はその魔法攻撃の威力の凄まじさに恐怖を覚えたが、スマイルさん全く気に止めずに直ぐに残る一体に攻撃しようとメガアシエラプトルへ駆け寄っていってしまった。



 ドサッ


 スマイルさんは寝倒れてしまった。



 「あ! スマイルさん。 ごめんなさい」



 睡眠魔法の重ね掛けの時間が来ていることを言わなかったため、スマイルさんを僕の睡眠魔法に巻き込んでしまったのだ。

 慌てて水生成魔法で水を掛けて起こした上で誤っておいたのだが、スマイルさんは全く気にかけておらず、飛び起きると直ぐに傷口への攻撃を再開して2体目のメガアシエラプトルの首を致命傷にまで切り裂いて息の根を止めてしまった。



「スマイルちゃんの勝利ぃ~~」


 

 メガアシエラプトルを倒し、大剣を真上に突きあげて勝利の雄たけびを上げたスマイルさんは、凛々しい少女戦士と言った感じでカッコよかった。

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