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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第五章 アラウミ王国編
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61. 護衛任務

 僕等は一旦ギルドへ戻ってからそこを出て町中を外門へ向かっていた。 一行は僕たちとサマンサ卿とタミルさんになっている。

 僕はタミルさんのことをAGI特化型であることと、口癖が語尾に ”のだ” をつけるという事ぐらいしか知らない。 道中のタミルさんを見ていると、どうもスマイルさんに興味を示しているかのように見えた。



「ね~ね~。 スマイルちゃんはタミルちゃんに色々と質問したいの~。 タミルちゃんは今いくつなの~?」


「お嬢さん。 男に年を聞くのは失礼な事なのだ。 僕は黙秘権を行使するのだ」


「いいじゃな~い、減るもんじゃないし~。 スマイルちゃんを ”お姉さん” と呼べる資格があるかを知りたいの~」


「じゃあお嬢さんは、いくつなのだ?」


「ええっ? 聞かれたことが無いからわからな~いの~」


「なんだ~。 分からないのかぁ~。 僕はもう23になるから自分の年はわかるのだ」


「ああっ! まさか同い年だったなんて、スマイルちゃんショック~」



 いろいろと突っ込みどころが多いやりとりで、スマイルさんの年齢もバレてしまったのが、その情報は僕にとってどうでもいいことだ。 むしろ重要なのは、タミルさんがスマイルさんと同類であることが判明したことだ。

 不思議ちゃんが2名になってしまったので僕は少しだけ先行きの不安を覚えたが、今回の任務中だけとはいえ、タミルさんが入ったことでパーティの戦力的には完璧に近い布陣となったのは良い事だ。

 ふとサトリさんを見るとどうやら僕と同じように感じているらしく微妙な表情をしていた。

 そしてその時、僕の目の前で黒い影が動いたように見えた。


 ドン。


 僕の認識できたのは、事が終わってからだった。

 とっさに音の方を目を向けるとタミルさんがアスナに向かって突っ込んで来た不審者を(とら)えていた。



「お前は何者なのだ?」


「君も逃げられないよ?」



 サトリさんも、こっそり僕らに忍び寄ろうとしていた二人目の不審者を(つか)まえていた。

 すると突然サトリさんが捕まえた不審者が小爆裂魔法の詠唱を開始した。



「サトリさん、そいつ小爆裂を詠唱してます!」


「ああ、確かに何かを詠唱しているね」



 そう言うとサトリさんはその不審者に当身を食らわせて気絶させてしまった。 同時にフィリアさんが状態回復魔法Lv3の詠唱を開始した。 その不審者達は隷属化されている可能性が大なのだ。

 タミルさんが捉えている不審者は、最初はタミルさんから逃れようと藻掻いていたが、タミルさんが空間小袋?に隠し持っていた金属製の拘束具を使用すると観念して大人しくなった。

 恐らくこちらも同様に隷属化されている可能性が高いと思われる。


 サトリさんもフィリアさんに続いて、状態回復魔法Lv3の詠唱を開始した。

 フィリアさんとサトリさんの状態回復魔法が2人に掛かって正気を取り戻したところで、サトリさんの尋問が始まった。 口頭での緩い尋問なので、R-15指定になる行為は無く、僕もアスナもその場で様子を知ることができた。

 周囲の人は僕らの様子に殆ど関心を示さず、人だかりも出来ていなかった。  アッという間の制圧だったからか、あまり目だっていなかったのだ。



「さて、君たちは盗賊の一味なのかな? それとも別の何かなのかな?」


「……すみません許してください。 僕は強要されてやっただけなんです。 空間小袋を取ってこいと言われて……」


「やはりね。 じゃあ、先ほど僕らから盗ったのも君達なのかな?」


「そ、そ、そ、そうです。 お願いです助けてください。 何でもしますから。 僕らは強要されただけなんです」


「ふむ、それで盗った物はどこにあるのかな?」


「お頭……名前は分かりませんが、お頭に渡しました。 それでもう一度行ってこいと言われたんです」


「まあ状況は理解したよ。 後はギルドを通して治安組織に任せることになるだろう。 ところで君たちは隷属化されていたのだよね?」


「ええ、そうです。 だから逆らえなかったんです」



 それから僕らは、冒険者ギルドへ引き返して、隷属化されていた盗賊たちを引き渡した。



「う~ん。 思ったよりも隷属組織の暗躍が激しいな。 盗賊にまで手を伸ばしているなんてね。 これは困ったことだ」


「サトリ君。 実は我らのアラウミ王国でも隷属組織の問題が大きくなっていてね。 今はその壊滅へ向けて本格的に活動を始めたところなのだよ。 そして我々の護衛対象の御方もその活動の重要な位置にいるので、狙われているとの情報があるのだよ」


「サマンサ卿、それは、……もしかして私たち仕事の本質は隷属組織から護衛対象を守るということなのですか?」


「サトリ君。 そうとも限らないが、大筋は間違っていないだろうね。 恐らく奴らは襲ってくる可能性が高いと思う。 だから最高の護衛体制をお願いしたのだよ。 それも我が国の隷属組織にバレないようにね」


「ふぅ。 隷属組織が相手ですか……。 それならそうと事前に言ってくれれば良かったです」


「そうしたら引き受けてくれていたかね?」


「サマンサ卿、勿論引き受けませんとも。 私達には最強とはいえ年少者がいますからね。 万一があるといけないですから」


「……」


「それで、サマンサ卿。 隷属組織相手となると、有効な防御手段は……」


「分かってるじゃないか。 対策としては予め隷属されておくことが有効なんだ。 実のところ、こっそりと君たちを隷属化しようとも考えていたんだが、BRDギフト持ちがいるとなるとそれは無理ということになったんだ」


「お、おいサトリ。 コイツ等の仕事、今からでも破棄しようや」


「そうよ、サトリン、……サトリさん。 割に合わないんじゃないかしら」


「いやいや。 それは困る。 サトリ君、もちろん隷属化はしないし、正直に話したのだから引き受けてくれたまえ。 BRDギフト持ちが居ればこっそり隷属化されてしまうこともないだろうしね」


「う~ん。 どうすべきかな。 ……少なくとも、僕とフィア……フィリアはMNDとINT値が十分高いから、たぶん隷属化をレジストできるかもしれない。 問題は他のメンバーなんだが、……その中でも一番やっかいなのはカイン君かな」


「ちょっ! 嫌です!。 僕は隷属化には断固反対です! それよりもアスナの方が重要だと……」


「か、カイン兄ちゃん。 ドサクサに紛れて私を巻き込まないでくれる?」


「ス、スマイルちゃんも断固反対するの~」


「あっ、あっ、誤解させてすまない。 カイン君とアスナ君については僕が死んでも守ってみせるよ。 そのためにも僕らの(そば)を離れないでくれよ?」


「スマイルちゃんは、守ってくれないの?」


「ははは。 スマイルちゃんもガイアも基本は同じだよ。 つまりパーティはできるだけ固まって行動するということになるね」


「あの~。 ガイアさんは隷属化に慣れているので、僕が隷属化しておきましょうか?」


「か、カイン何を言うか~! 俺だって隷属化は嫌だぞ!」


「ガイアさん。 冗談ですよ~。 ちょっと揶揄(からか)ってみただけですよ」


「お前、言っていい事と悪い事があるだろ。 あまり変なことをしているとアスナちゃんに嫌われるぞ!」


「ちょっ、ガイアさん。 言ってることがわからないです」


「あれ~、カインお兄ちゃん。 私に嫌われたくないの~?」


「き、嫌われたくはないさ。 そ、それよりほら、ガイアさんだってフィリアさんに嫌われたくないじゃないか」


「おい、カイン、いい加減にしろよ?」


「ガイアさん、大丈夫よ。 これはカイン兄ちゃんお得意の作戦よ。 話を複雑にして煙に巻くつもりなのよ。 誰も気にしないわ」


「……」


「お前らは結構面白いのだ。 僕もフィリアさんに守ってもらうのだ」


「……」


「サトリ君、話は終わったかね? ところでさっきカイン君が隷属化しようかとか言った気がするんだが」


「あ、ああ。 それはゲーム上でのことです。 私達は新しいゲームを開発中で、その中で隷属化された役を演じるってことなんですよ。 なかなか精神的にしんどいので改良が必要という見解です」


「ふむ、……まあ、こんな子供が隷属魔法を使えるとは思えないし、私の考え過ぎだったようだ。 それでは気を引き締めて護衛を頼むよ」



 正直肝が冷えた。 僕としたことが大変な失言をしてしまったものだ。 ガイアさんが絡むと、つい警戒感が薄れてしまう。 これからは気を付けなければならない。

 それにしてもサトリさんも、なかなか大した嘘つきだな。



「ええ、サマンサ卿、大丈夫です。 細心の注意を払って任務を遂行します」


「助かるよ」



 結局その日は宿へ引き返し、出発は明日ということになった。

 明くる日の朝、僕らは町を出発し、やがてアラウミ王国の関所へとやってきた。

 町を早めに出発したはずなのだが、すでに関所はかなりの人で混み合い、長い入国審査待ちの列ができていた。 かなり待たされることを覚悟したのだが、サマンサ卿が一言いうと融通を聞かせてくれて、僕らは優先的に審査を受けることができた。


 入国審査室に入ると、案内の方に(うなが)されて、男性チームと女性チームとに分けられた。

 僕が男性チームの部屋へ入ると、まず徹底的に持ち物を検査された。 僕等が保有する空間倉庫についてはほとんど僕のアイテムボックスの中だったので検査では見つからない。 ただそれだけでは怪しまれるので、サトリさんたちの大人はそれぞれ1つずつダミーの空間小袋を持っていた。

 見かけ上の僕の持ち物は、バックパックに入っている着替えとお金と、おやつが少々、そして将棋ゲームといったところだったから全く問題視されなかった。 

 結局僕らは隷属化尋問を受けることもなく無事入国をはたすことできた。


 聞くところによると、一般的な人の検査では服も脱がされて持ち物を調べられ、さらに怪しい人物は隷属化までされるとのことだから、サマンサ卿のおかげで大分優遇されたとみて間違いないだろう。。

 検査後、無事アラウミ王国へ入国できた僕らは人力車を雇って護衛対象の要人が待つ近隣の町へと急いだ。



 到着したその町は僕の見解では何処にでもある普通の町だった。

 僕は海で隔てられた遠くの大陸にあるアタスタリア王国出身なので、コインロード王国もサトエニア共和国も、そしてこのアラウム王国も同じような異国として僕の目には映った。

 サトリさん達は自国から出たことが無いためか、珍しそうに周囲を眺めながら歩いていた。



「サトリン、あそこ見て! あの屋根の上の模様は何なのかしら」


「フィアちゃん。 多分あれは家紋だね。 この国では昔からの家柄が大事にされているようだから、格式ある家にはそういう印が付けられていると聞いたことがあるよ」



 サトリさんとフィリアさんは、サマンサ卿達がいることを完全に忘れて、お互いを愛称で呼び合っている。 外見だけ見れば微笑ましい夫婦みたいなのだから、サマンサ卿達は別に気にしていないようだった。

 まあ二人の戦闘場面を見てしまうと、こういうのは違和感ありありなんだけど。



「ガイア~、スマイルちゃんは焼肉が食べたいの~。 何処にあるか探して~」


「俺が知るわけないだろ。 それよりも酒だ! 酒場を探さないとだ!」



 ガイアさんもスマイルさんは、せわしくキョロキョロして、飲食店を探している。


 僕はちょっと呆れたので一言ってやった。



「ガイアさん、ここは外国なんだからハメをはずしちゃ不味くないですか? お酒は宿で飲む方が良いと思います」


「ぐっ、そ、そうか。 しょうがない宿まで我慢するか~」


「スマイルさんは、……見た目がソレだから、一人で食事したりすると絡まれるんじゃないかな」


「スマイルちゃんは絡まれても平気だよ~。 絡んで来た奴はぶっ飛ばしちゃえばいいの~」


「スマイルちゃん。 それはダメだぞ。 怪我人が出ては面倒だ」



 スマイルさんは、小さくて年齢より若く見えるというか、可愛い少女といった感じなので、一人での行動は控えた方が良いと思うのだが、本人にはその自覚がない。



「焼肉なら僕が案内してあげるのだ。 夕食は任せておくのだ」


「タミル? 今は任務中だから控えなさい。 宿でも十分な食事が取れるはずだ」


「チッチチ、それは残念なのだ」



 サマンサ卿の一言で全員が要人が泊っている宿で夕食をすることになってしまった。

 到着したその宿の屋根には立派な家紋が刻印されており、雰囲気も上品でいかにもという高級感が漂っていた。

 サマンサ卿は僕らを宿へ引き入れて、そのまま宿泊の手続きをしてしまった。

 それから僕らは宿の3階へと移り、護衛対象に引き合わされることになった。

 3階には所々に甲冑などで完全武装した警護役が見張りをしていた。

 その甲冑には文様が印刷されており、調べるとこの王国の近衛部隊であることが分かってしまった。



「アスナ、あれって近衛兵だよね。 しかも結構高位の。 何か嫌な予感がするんだけど……」


「何言ってるのお兄ちゃん。 サマンサ卿自らが手配しているのよ? 王族か重鎮とかの高位貴族に決まってるじゃない」


「う~ん。 それはそうなんだけどね。 平民の僕としては何かこう緊張してしまうのさ」


「私も平民よ?」


「いや、アスナは曲がりなりにも伯爵令嬢だったわけだし、僕とは経験がちがうと思うよ」


「曲りなりにもって何よ? ちゃんと公務はこなしてたでしょ?」


「クローク伯爵城での会合のこと? 大げさな衣装と化粧をして、ただ座っていただけじゃないか」


「そうよね。 ……だから私は平民とほぼ同じなのよ。 でも今はそんなに怖くないよ」



 そんな会話をしているうちに、謁見の間みたいな部屋に通された。

 宿屋なのにこんな部屋が有るなんて、ちょっと意外だった。



「では皆さん。 ここで少々お待ちください。 もうじきシャナエ様がいらっしゃいます」



 サマンサ卿が初めて僕らに護衛対象の人物を明かしてくれた。

 シャナエ様はこの国の第二王女で、その秀でた才覚からこの国の次期女王と目される人物である。

<文字記録ボード>の中の”全国貴族名鑑”にそう記載してあった。



 まさかこの国の最重要ともいえる方が護衛対象だったなんて。

 それを聞いて僕は思わず頭を抱えてしまった。

 アスナでさえ少し狼狽したようである。

 僕たちサトエニア側で緊張していないのはスマイルさんだけだった。

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