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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第五章 アラウミ王国編
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59. 新しい町へ

 僕たちは今、街道を馬車に乗って移動している。

 今回は御者を専用に雇っており、これから先は毎日宿場に泊まることにしていた。 先週までのダンジョン探索の冒険と比べると、打って変わって平穏な旅だといえる。

 馬車や宿屋では僕らは、あの珍獣カインゲーム、いやスッコロビゲームで遊ぶことが多くなった。 ガイアさんやスマイルさんは僕の敵ではなかったが、最近はフィリアさんに時々負けていた。


「ふぉぉぉぉ~~~。 勝った~。 カイン、ざまぁ~~」


 今回はフィリアさんが僕に勝った。

 こういうのは度々あることのあのだが、毎回何かこう、やはり負けると悔しいものだ。

 ショーギゲームでは負ける気がしないのに、どうしてスッコロビゲームでは負けることがあるんだろう。 それにしても、喜び過ぎじゃないだろうか。 かなりムカついてきた。



「フィリアさん、子供に勝ったぐらいでそんなに嬉しいですか?」


「アハハハハ。 子供って誰? この珍獣のことかな~?」


「珍獣っ、珍獣っ、珍獣っ」



 アスナまで僕をからかってくるし、ガイアさんとスマイルさんも悪乗りしそうな雰囲気に見えた。


 ヤ、ヤバイ。 

 このままでは血祭にされる。

 この状況は何とかしなければならない。


 そこで僕は空を指さして叫んでみた。



「あ! ワイバーン!



 すると全員が指さした方向を見たので、もう一度言い放つ。



「アレっ、消えた? まさかワイバーンは転移した?」


「何? ワイバーンが転移だと~。 そりゃ不味いな、そうなると奴は特別個体かもしんねーな!」



 ガイアさんは真剣な面持ちだ。

 スマイルさんも、フィリアさんも、アスナまで真剣な表情をしている。

 唯一サトリさんだけがニヨニヨ顔だ。



「じゃ、この際だから僕も転移して追いかけようかな~」


「なっ! お前いつの間にっ!」


「って、そんな分け無いですよ。 なんでサトリさん以外はコロっと騙されるかな~」


「グッ、ふ、ふざけるなカイン、お前、いつから……。 全く本当にいい根性になったなっ!!」



 ガイアさんは叫び、フィリアさんとアスナを僕を睨んでいる。

 サトリさんはニコニコ顔だ。 サトリさんを見たスマイルさんも顔を(ほころば)ばせた。 スマイルさんについては状況がわかっているのか不明である。



「全くもう。 これじゃ対外交渉役はサトリさん以外に任せられませんね~」


「それで思い出したんだがカイン君、たしかに関所での尋問は厳しいからちょっと練習しておくのもいいかもだね」


「な、なによサトリン。 カインの味方をする気なの?」


「フィ、フィアちゃん、それはちがうよ。 本当にアラウミ王国への関所だと怪しいと思われたら、とことん追及されるみたいなんだ。 秘密なんかあったら否応なく喋らされてしまうらしいのだよ。 場合によっては隷属化されて尋問というのも有りと聞いているよ」


「ええっ! 隷属化されて尋問ですか?」


「そうなんだよ。 う~ん困ったな。 カイン君とアスナちゃんには秘密が多すぎるからね。 僕やカイン君、そしてスマイルちゃんは大丈夫かもだが、ガイアとフィアちゃん、アスナちゃんは心配だな~」


「なんでスマイルが大丈夫で俺が心配なんだよ!」


「スマイルちゃんは、ほら、誰とでも仲良くなれるじゃないか。 そんな感じで上手くいくはずだよ」


「恐らくですが、アスナも大丈夫かと思います。 僕が口では言い負かされるぐらいですから」


「と言ってもね。 困ったな」


「ならいっそ、(あらかじ)め皆を隷属化しておきましょうか?」



 既に隷属させらている者は、隷属魔法による上書きはできない。 これを逆手にとることで敵からの隷属化に対して有効な対抗手段となる。

 僕はガイアさんに二コリとほほ笑んでみせた。



「お、おま、やめてくれ」


「ですよね~」


「アラウミ王国へ入るために公式任務とかがあれば、いいんだけどね」


「サトリン、冒険者ギルドで何か仕事を引き受けない? 何かあるかもしれないわ」


「なるほど、僕たちにはAランクが4人もいて明らかに一流冒険者パーティのはずだから、重要任務を獲得するのは難しくないかもだね。 関所前の町でギルドに相談してみることにするよ」



 そして僕たちは遂に関所手前の町に到着した。

 その町は中々の(にぎ)わいをみせていた。 何故なのかを聞いたところによると、数日後に年一度行われるアラウミ王国とサトエニア共和国の武術大会が行われるそうなのだ。


 武術大会では危険な魔法も使えるそうだ。 ただし詠唱時間の問題で後衛的な人は勝ち残るのは非常に困難である。 そのため、出場選手はぼぼ前衛の人ばかりになるそうだ。

 サトリさんみたいに逃げ回りながら魔法の詠唱ができる人は大変めずらしいことである。 もちろん殺傷能力の高い攻撃魔法は禁じられている。


 宿を探すこと2時間、何とか普段より一段も二段も落ちるグレードの宿屋を見つけて何とか落ち着くことができた。 


 僕等は武術大会には興味がないので、次の朝になると例のごとくサトリさんは冒険者ギルドへと出かけていった。

 昨日の夜、久々に飲んだくれたガイアさん、フィリアさん、スマイルさんはまたもや二日酔い状態だ。



「カインちゃん、お願い。 状態異常回復かけてっ」


「フィリアさん。 そのぐらい自分で対処しましょうよ。 癖になったら困りませんか?」


「今は集中するのがちょっとつらいのよ。 カインちゃんなら一瞬じゃない」



 そんなフィリアさんに僕はため息をつきながら状態回復Lv2を使ってあげた。



「ふー、やはり大分楽になるわね。 ありがとう」


「それにしてもフィリアさん。 ガイアさんは重症じゃないですか? あれはどうしましょう。 僕で他対処できるか怪しいです」


「仕方がないわね」



 フィリアさんはガイアさんに状態回復Lv5の詠唱を始めた。

 Lv5ってそんなに必要なのか! と思いながらも僕の魔法のクーリングタイムが終了したので、僕も状態回復Lv2をスマイルさんに使ってあげた。

 そしてフィリアさんの魔法が発動したところで、二日酔い3人衆は完全に回復したのだった。



「ところで、みなさんは昨日のこと覚えてますか?」


「……」


「ですよね。 覚えてないですよね。 当然ですよね。 サトリさんが許可とたんに、これだもんな。 でもサトリさんは何も言わずに出て行ったってことは、大きなトラブルは無かったということですよね? フィリアさんやスマイルさんのHPも減ってなかったですから大丈夫でしょう」


「……」


 そんな僕の物言いに皆は黙ったままだった。 そんなに後ろめたく感じるんだったら、程々にしておけば良いのにと思ったが、そこは大人の事情とかなのかもしれない。 僕だってうっすらとした記憶ではお酒はヤバイものだと分かっているつもりだ。



 コン、コン、コン、コン。


 その時ドアをノックする音が聞こえた。



「失礼します。 サトリさんはいらっしゃいますか?」



 僕たちの部屋に誰かが尋ねてきた。

 僕たちは顔を見合わせたが、フィリアさんが対応のために入口の方へ歩いていった。



「えっと、パーティリーダーのサトリは今、外出中なのですが、何か私達に御用でしょうか」


「ああ、すみません。 昨日空間小袋を数個販売予定だと聞いたもので、直接交渉に来たのです。 ご不在でしたか、どちらへ行かれたかお教え願えませんでしょうか」


「サトリは、冒険者ギルドへ行ったと思います。 それで、その空間小袋についての情報は誰から聞かれたのでしょう?」



 フィリアさんは少しだけ懐疑的な顔つきになり情報の漏洩元を探ろうとした。



「クッ、遅かったか。 大男の人が空間小袋を沢山ゲットしたとか言っていたので、昨日その話で盛り上がってしまってね。 サトリさんという方が窓口だと聞いたもので直ぐに来たわけなんです。 そうですか、冒険者ギルドへ行ったんですね。 冒険者ギルドに売却するということなんでしょうか」


「それは私にもちょっと分からないです。 たぶん売却するとなると冒険者ギルドになるとは思います」


「ああ、そうでしたか。 ありがとうございました。 ならすぐに冒険者ギルドへ行かねば。 それでは失礼します」



 応対したフィリアさんが、首を振りながら帰って来た。 そして僕はガイアさんに顔を向けた。



「ガイアさん。 やっぱりやらかしてましたね!!」


「い、いやカイン。 俺はおぼえてねーぞ!」


「全部覚えてないんでしょ? やらかしたかどうかも含めて」


「お、おう。 それは当たり前じゃねーか」


「……」


 ちょっとだけ黙り込んだガイアさんであったが、納得いかないのか悪あがきを開始した。



「き、きっとこれは、スマイルやフィリアも関係しているぞ! 俺だけじゃないはずだ!」


「スマイルちゃんは大人しく飲むのですぅ~。 ガイアみたいに暴れたりしないです~」


「ガ、ガイア。 私を巻き込むのは止めてくれる? 私は無実のはずなのよ」


「……」


 ふたたび沈黙が訪れた。 大人の3人は互いに顔を見合わせている。



「それにしても、どれだけの詳しく話してしまったのかが重要ですね。 それでサトリさんが慌てて出て行った理由も分かりましたね」


「カインお兄ちゃん。 どうなるの? なんか嫌な予感がするんだけど」


「そ、そうだね。 念のため一応皆の空間倉庫は僕のアイテムボックスの中に入れた方がいいかもしれない。 もし何らかの拍子に見つかってしまったら大騒ぎになりそうだよね」


「そうね。 念のため、皆の空間倉庫はすべてカインちゃんに預けましょう。 そして空間小袋を2個ずつ持っておくだけにしましょう」


「お、おう。 わかった」


「スマイルちゃんもそうする~」



 ということで、僕のアイテムボックスの中には、アスナの空間倉庫2つ、僕の空間倉庫2つ、ガイアさん、スマイルさん、そしてフィリアさんの空間倉庫を収納した。

 それから、新たに空間小袋を8つ取り出して各自に配ってあげた。

 もちろんすぐに使うものは各自空間倉庫から取り出して空間小袋の中に入れ変えておいた。   今預かり品以外で僕のアイテムボックスへストックしている空間小袋は114個、空間倉庫は38個である。



「困ったわね。 これじゃ心配で外出できやしないわ。 この辺はスリが出るそうだしね」


「フィリアお姉ちゃん。 私はここで待つのがいいと思います。 そうしていればきっとサトリお兄ちゃんが何とかしてくれそうな気がします」


「まあ、俺たちは正直言って無敵だがな。 特にアスナちゃんとカインが居れば怖い者無しだぜ」


「スマイルちゃんは、アスナちゃんとカインちゃんは大人しくしていた方がよいと思うの~」


「そうよ。 カインちゃんとアスナちゃんの秘密はどうあっても守らなければならないから、派手なことはできないのよ。 下手するともっと大事になってしまうかもしれないわ」


「僕たちの戦力は、ガイアさん、スマイルさん、フィリアさんですね。 そして普通の子供が2人」


「お前が、普通の子供とか言うと違和感が半端ねーんだが。 表向きはそういうことになるな」


「どちらにしても、Aランク冒険者が3名ですよ? 何とかなるんじゃないですか?」


「いえ、問題は今が武術大会シーズンということよ。 Aランクはともかく、Bランク相当の実力者は多く来ているはずなのよ。 決して油断できないわ」


「それはまた、……タイミングが悪かったですね」


「そうね」


「お姉ちゃん、それでどうするの?」


「まー、待つってのが正解なんだろな。 俺はそれでいいぜ?」


「ガ、ガイア、貴方自分の立場わかってるの? 少しは反省しなさいよね」


「反省しろっていってもなー。 覚えてねーし」


「ス、スマイルちゃんは、反省していますですぅ~」


「あれっ? スマイルさんは関係ないんじゃ?」


「……」


「兎に角、サトリンが帰ってくるのを待ちましょう。 きっと上手くいくはずだわ」



 そういう事になって、僕らは宿屋の中で大人しく珍獣カインゲームを始めたのだった。


 よし! こうなったらゲームでガイアさんをいたぶってやろう。 などと考えていたのだが、弱い者苛めになってしまうと考えて、つい出来心で手加減してしまった。 


 それにしても、この世界には娯楽が少ないな。 カードゲームとか有ればいいのだが、いかんせんDEXの高い人とかにはカード自体の個体差が見破られてしまうため、中々普及させるのは困難と言わざるを得ない。 AGI特化型の人なんかは、素早さに任せて、いかさまを働くような気もする。

 そんなことを考えながらゲームで暇潰しをしていたところにサトリさんが帰って来た。



「だだいま。 あれっ? 君たち、部屋に籠ってゲームかい?」


「おかえりなさい。 待ってたのよ。 それでどうだったの?」


「あ、ああ。 何とか護衛の仕事を引き受けることになったよ。 対象はアラウミ王国の要人の方でね、 こちらに武術大会の見学に来るそうなのだよ。 期間中の護衛と、帰るまでの護衛になるそうだ。 帰る時にあちらの関所を通れるから、いろいろと詮索はされずに済むはずなのさ。 まあ僕等の身元はハッキリしているしね」


「……」


「ん? フィアちゃん、どうしたの?」


「サトリン、空間小袋の件はどうなったの?」


「空間小袋? いったいそれは何のことなんだい?」


「何って、空間小袋の件についてギルドへ相談に行ったんじゃないの?」


「空間小袋の件は秘密のままだよ? わざわざ私達からバラすことも無いだろう」



「 「 「えっ!」 」 」


「ん?」


「サトリン、実は……」



 僕たちは一瞬で真っ青になった。

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