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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
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58. イカレポの町

 討伐を終えて、1日かけてイカレポの町へと帰還した。

 このまま投石キャットの討伐を続けることも可能だったが、ダンジョンの奥底まで討伐を進めてしまうと余りにも不自然なので、そこそこで切り上げたというわけだ。

 帰る途中に例の魔法植物の群生地を経由した。 そこはすっかり小ぎれいになっており、簡易的な建物も散見されるにまでなっていたが、今は採取ツアーの人は誰も残っていなかった。  群生地から町までの路はすっかり整備されて、そこから町へは直ぐに行き来できる状態になっているため、特別な駐留要員も必要ないのだろう。


 整備された路を進み、イカレポの町に着くと既にダンジョン討伐のための大部隊が到着していて混雑していた。

 僕らはそんな中、サトリさんに連れられてギルドの中へと入って行った。 ギルドの中も外と同様に混雑していたが、混乱しているわけではなく比較的整然とした雰囲気だった。

 何名か知り合いが居たらしく、サトリさんやガイアさんたちは声を掛けられていたが、簡単な挨拶だけで済ませて、そそくさとギルドマスター室へと入って行った。 

 マスター室の中には、あのギルドマスターと、老年夫婦のような男女、そして小ぎれいな服を着た壮年男性がいた。


「マスター、今戻りました。 やっとダンジョンを発見しましたよ」


 サトリさんの挨拶にマスターが応えた。


「おお~帰ったか、サトリ君。 やはりダンジョンがあったんだな。 ごくろうさまでした。 それで状況はどうだったね?」



 同様に老年の見知らぬ男性と小ぎれいな壮年男性が声をかけて来た。


「サトリ、ご苦労じゃったね。 お役目ご苦労さん。 これからは儂らが引き継ぐよ」


「ああ、君がサトリ君か。 ダンジョン発見ご苦労さまでした。 私は政府から派遣されたハリウランと申します。 今回のダンジョン討伐の政府側の責任者です。 よろしくお願いします」


「サトリです。 よろしくお願いします。 それでマスター、早速ご報告したいことが有るのですがよいでしょうか?」


「サトリ君、随分急ぐじゃないか、何かあったのかね?」


「ええマスター。 まずはこれをご覧ください」



 サトリさんは、ワッペン状の空間小袋を4個、空間倉庫を1個、机の上に置いた。 マスターは手に取って確認を始めた。


「ん? 何だこれは、……空間小袋か、そしてこれは、空間倉庫じゃないか。 これはどこで手に入れたのかな? ……まさか?」


「はい。 その ”まさか” です。 今回発見したダンジョンには投石キャットが多数生息していました。  そしてダンジョンの外へ溢れ出る直前にまで群れが大きくなっていたのです。 何とか討伐できて外へ溢れ出るのだけは抑えるに成功したと思うのですが、このまま放置すると危険です。 私が考えるにあまり時間的な余裕は残されていないと思われます」


「……」


 流石は偉い人たちだ。 少し驚いた顔をしているが取り乱さない。

 僕は関心しながら成り行きを見守った。

 先ず口を開いたのは老人男性の方だった。


「それは、一大事だったの。 よく抑えてくれたものだ。 ということは空間倉庫の産地になり得るということじゃな?」


「ええ。 そうです。 観察したところ、一日に数匹ずつは外へ出て行こうとするペースでしたので、そのままダンジョンから外へ出てくる投石キャットを討伐するだけでも立派な産地になると思われます」


「それは誠に喜ばしいことだ。 ……それで、大事な事じゃが、その出てきたのは投石キャットだけか? アシエラプトルはいなかったのか?」


「ええ、ダンジョン内部では、アシエラプトルにもオークにも遭遇しませんでした。 遭遇したのは投石キャットばかりで、しかも手負いは一匹もいませんでした」


「……」


「ということは、すでにそこは投石キャットが支配しているダンジョンということなのかね?」


「その可能性は高いと考えられます。 おそらく外で発見されたアシエラプトルやオークは奴らに追い立てられたのかと思われます」


「よし! それでは直ぐ出発の準備じゃ。 丁度部隊も到着したころだし、そうとなれば一刻でも早い方が良いだろう。 すぐにダンジョンの入口を抑えてしまおう。 サトリ、まずは……そうじゃなラプエラ隊を案内してやってくれ」


「はい、分かりました。 1時間後でよろしいでしょうか。 我々も帰って来たばかりで物資の補充も必要なので、……そして、物資はその空間倉庫に入れていきたいと思います」



 老人の指示を受けて出て行こうとしたサトリさんをギルドマスターが引き留めて質問した。



「この小袋は売却でいいのだな? 空間倉庫は君たちで使うのかね?」


「いえマスター、空間倉庫はこのミッションが終わったら売却します。 マスター、売却の手配をお願いします」


「おお、わかった。 売却手続きを進めておくよ」



 そしてマスターは先程自己紹介をしてくれたハリウランさんに振り向いた。



「ハリウランさん。 これで問題ないな?」


「はい。 結構です。 こんな一大事になるとは思いませんでしたが、結果をみれば大変喜ばしいことになりそうですね」


「ああ、そうじゃな。 では一時間後にギルド前に集合じゃ。 サトリ君、準備に行ってきなさい」


「わかりました。 行ってきます」



 そんなわけで僕等は空間小袋や倉庫を所有していることをキルドマスターたちに伝えたのである。  

 町で補給を行い、僕等は冒険者ギルド前へと戻って来た。 もちろん焼肉中心のお弁当を沢山買い込んだのはいうまでもない。



 ギルド前で皆で待っていると厳つい感じの方がサトリさんに話しかけて来た。


「ようサトリ久しぶりだな。 お前投石キャットのダンジョンを発見したんだって? 相変わらず凄腕なんだな。 フィリア君も無事射止めたようだしな」


「ラプエラ隊長。 もうちょっと小さい声でお願いします。 人が見ているので困ります」


「なんだ、サトリ。 入籍しているんだろ? もう隠すこともないじゃないか」


「まあ、それはそうなんですが、空間倉庫を保持しているので目立つのはよろしくないですよ?」


「ああ、そうだったな。 すまない、悪いことをしたよ。 それでもう出発できるのか?」


「はい。 行けます。 ええと、とりあえず私のパーティをご紹介しておきます。 フィリア、ガイア、スマイルはご存じですよね。 それから、この子はカイン君です。 ギフトはBRDなのですが活発な子で魔力タンク役を担ってくれています。 それから、こちらの子は、アスナちゃんと言って、スタン能力保持者です」


「ほほ~ その年齢でサトリのパーティメンバーとは立派なもんだ。 俺は攻略組織、第一特攻部隊の隊長ラプエラだ。 よろしくな」


 そう言ってラプエラ隊長は僕等に微笑みかけた。 だがガイアさんに勝るとも劣らない厳つい顔で微笑まれても戸惑うばかりだった。 だがそんなことはおくびにも出してはいけない。


「 「 よろしくおねがします 」 」



そうして、ラプエラ隊との行軍が始まった。

聞くところによれば、ラプエラ隊は、攻略組織のトップに君臨する部隊、つまりこの共和国で一番強い部隊とのことだ。 かつてサトリさん達は、このラプエラ隊に所属しており腕を磨いていたとのことであり、旧知の仲間も多数居たのである。


 その投石キャットのダンジョンへの行軍は2日かかった。 途中の魔法植物の群生地で一夜を過ごし、その翌日にダンジョン前へと到達したのである。

 僕たちが疲れていたのもあったが、大所帯であるのでそれなりに時間が掛かった。


 ダンジョンへ着くやいなや、ラプエラ隊の主力部隊はダンジョンの中へと入って行き、その他はダンジョン入口の整備を始めた。

 至る所で高度な土操作魔法が使われ、屈強な作業部隊が瞬く間に周辺を切り開いて大きな施設が建築されていく。

そしてそれを見届けて、僕らは町へ帰ることになった。 


 帰る途中の魔法植物の群生地にも後続部隊が到着していた。

 ラプエラ隊の斥候小隊が案内役を勤め、後続の部隊がダンジョンへの行軍を始めていたのである。 魔法植物の群生地にも大規模な施設建設が始まるようで、土木業者風の人達も多く来ていた。 群生地からダンジョンへ至る街道整備も行うことになるそうだ。


 イカレポの町へ戻ると、大部隊の移動後だったためか、混乱は収まっていた。


 これでもうダンジョンの任務は完了した。 僕らは報告のためにギルドマスター室へやって来た。


「マスター。 ラプエラ隊を無事ダンジョンへ案内しました。 私たちの任務はこれで完了ということで宜しいでしょうか」


「サトリ君、ご苦労様でした。 任務の件は完了ということで了解したよ。 それで、これからどうするのだ?」


「当初の目的通りにコインロード王国を目指したいと思っています。 少なくとも私とフィリアにはその責務がありますからね」


「そうなのか。 これからこの町は、あのダンジョンの存在で大きく発展することになるだろう。 私としては是非とも頼りになる人材がほしかったのだがね。 当初からの責務があるなら諦めざるをえないかな。 それでは、ガイア君とスマイル君は自由の身になるということでいいんだね?」


「ええとだな。 俺は自由といえば自由なんだが、できればサトリにくっ付いて行ってコインロード王国の見学もいいんじゃないかと思ってるんだ。 これは、まあ、カイン君達次第なんだがな」


「スマイルちゃんも同じです。 何か楽しいのでついて行ってもいいかなと思ってます。 スマイルちゃんの勘だとお金にも不自由しそうにないし~」


 比較的短い間だったとはいえ、共に活動することでガイアさんとスマイルさんの存在は僕たちの中ですでに欠くことができないぐらい大きくなっていた。 アシエラプトルの子供事件で少しだけガイアさんには思う所が無いわけではないが、それは別の話である。


「僕もガイアさん達が一緒にいてくれるなら心強いです。 ちょっとアレですけど」


「おい、ちょっとアレってなんだよ」


「ほら、アシエラプトルの子供事件ですよ。 もう忘れてしまいましたか?」


「い、いや何でもない。 ちょっとアレだが俺も同行するぜ」


「ありがとうございます。 よろしくお願いします。 雇用費用は安くお願いしますね」


「お、おう。 それでいい。 これからもよろしく頼むぜ」



 それから、僕らは例の空間倉庫を町のギルドへ売却し、代金をギルドの口座へ振り込んでもらった。

 そして1週間程町に滞在した頃、やっと安全確認が終了して街道の通行禁止が解かれた。

 これで僕とアスナは、本来の目的のコインロード王国を目指す旅へと戻ることができたのだった。

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