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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
55/65

55. 二日酔い

 さて目下の課題は今後どうするかだ。 ここから一度退却して町へ報告へ行くか、それとも留まって状況を確認するかである。


「空間小袋なんかはざっと計算して13万260ギリルね。 これだけあれば皆で一生遊んで暮らせるわね」


「フィアちゃんは遊んで暮らしたいの?」


「スマイルちゃん。 そんなことは無いわよ。 その位の価値があるって話よ。 スマイルちゃん達はどうするの?」


「スマイルちゃんは稼ぐだけ稼ぐの~」


「そうともよ。 俺たちゃ孤児院を背負ってるんだからよ。 いくら稼いでも足らないぐらいだぜ」



 この発言には僕も正直ビックリしてしまった。

 まさかこのスマイルさんやガイアさんが、孤児院にお金を出しているとは思わなかった。 僕らがサトリさん達のいるギルドを訪れた理由は、ギルドの孤児院の人に頼んで信頼できる大人を紹介してもらうことだった。 もしそれが順調に行っていれば、今ごろはガイアさんやスマイルさんのお世話になっていたかもしれなかったのだ。


「空間小袋とかは、とりあえず換金して山分けして各自自由にする、でいいわね」


「ああ、俺とスマイルはそれでもいいぜ。 それでお前たちはどうするんだ?」


「私とサトリンは、……ギルド運営側だから、同じように大部分は寄付になると思うわ」


「ああ、フィアちゃん。 僕はそれでよいよ。 Aランクだから一生暮らしには不自由しないし、こんな大金はギルドの安定化のために使うのがいいのさ」


「……それで、カインちゃんとアスナちゃんはどうするの?」


「えっと僕はお金に不自由してないです。 コインロード王国へ帰るために用意したお金も今回の騒動で減るどころか増えてるし。 それに子供が大金を持ってると知られたら危険だし」


「私もカイン兄ちゃんと同じです。 お金なんていらないから私たちの秘密を漏らさないでください」


「おい、そういえばカイン、お前はさっき魔法を使ってたよな。 どういう事なんだ?」


「えっと、あの、その、詳しいことはサトリさんに聞いてもらえると助かります」



 面倒なので説明はサトリさんに任せてしまう。 もちろん僕も説明はできるが、出来心で誤魔化しが入るだろうし、話をややこしくしてしまう可能性があったから止めておいたほうが賢明だ。 そんな僕を見てサトリさんはため息をついた後l、理路整然と僕とアスナのことを説明してくれたのだった。 さすがはサトリさん、頼りになる。



「なるほどな。 カインとアスナちゃんは旧クローク伯爵領にいて空間倉庫持ちなのか。 まさかフィリアの持っていたのもアスナちゃんからの借り物だとは思わなかったぜ。 それでやっと肉の秘密も分かった気がしするぜ」


「えっ? 肉の秘密?」


「どう考えても、オークヒーラの肉の保管量が多いと思ったっちゅうことだ。 まあフィリアのことだから(ろく)でもない秘密が有るんだとは思っていたがな」


「ガイア、碌でもないって何? 私のことを何だと思っていたの?」


「そうよ、スマイルちゃんはフィアちゃんの味方なのです。 フィアちゃんはちょっと不思議ちゃんだけど信用できるの!」


「……」


「スマイルちゃんに、不思議ちゃんって呼ばれてしまったわ……」



 スマイルさんは不思議ちゃんであることは間違いない。 対してフィリアさんはというと、世間一般的には怖いお姉さんといったところだがスマイルさんほど不思議な感じはしない。 このパーティの共通認識は僕の見解通りだと思うが、スマイルさんからはフィリアさんが不思議ちゃんに見えるということのようだ。

 人はその立ち位置で見解が変わるものなのだ。 常識だって人によって違っていて様々なのだ。 もしかして、まさかとは思うが僕も意外な風に思われている可能性すらあり得る。



「コッホン、……ええと説明するわね。 つまり私が持ってるのはアスナちゃんからの借り物で、アスナちゃんとカインちゃんはそれぞれ一つづつ空間倉庫を持ってるってわけよ」


「わかった。 空間倉庫の件はそれでいいとしてもだな。 この年齢で下級魔法とはいえ魔法が使えるってか? しかもオリジナルの様な魔法だぞ? 末恐ろしい物があるな」


「いえ。 僕は怖くないですよ。 サトリさんの方が百倍怖いじゃないですか」


「何をいっているんだカイン君。 僕が怖くしたことがあるかい?」


「ええっ? サトリンがそんなこというの~? サトリンが怖く無かったら、ドラゴンだって怖くないじゃないのぉ」


「ちょっと、スマイルちゃん。 ドラゴンは言い過ぎよ。 せめて、ワイバーンぐらいにしてあげてよ」


「いや、ワイバーンは怖いぞ? ありゃ空飛ぶし、咆哮でフリーズさせらるしな。 何よりも戦っている最中に食われるからな。 ありゃ~初見だとビビッて動けなくなるぜ」


「ワイバーンですか~。 見てみたいな~」


「おお、アラウミ王国へ入りゃ見れるかもな。 あの空飛ぶ雄姿は空の覇者って感じでカッコいいぜ?」


「ちょっと、ガイア。 そんなこと言って本当に遭遇したらどうするのよ」


「ちょっと、君たち。 僕は怖くないっていう話をしているんだけど……」


「大丈夫。 スマイルちゃんがワイバーンに合わせてあげるのですぅ~。 楽しみにしてね~」


「おお~、スマイルが言うなら会えることは確実だな。 期待してろよ?」


「ちょっとガイア、ワイバーンに遭遇するなんて嫌よ。 本当に嫌だからね」


「なんだフィリア、ワイバーンを見たくないのか? 遠くから見りゃ大丈夫だぜ?」


「私は何回も見ているわ。 もう好奇心なんて涸れ果てているのよ」


「フィリアさんは枯れているいるのか~」


「……」


「ね~スマイルお姉ちゃん。 ワイバーンって怖くないの?」


「アスナちゃ~ん、見るだけなら怖くないよぉ~」


「な~君たち。 僕は怖くないって話を……」


「ええっ?? サトリさんはワイバーン怖くないんだ!。 流石がは僕たちの魔王様だぁ~」


「ちょっと、カインちゃん。 何てこと言うの。 魔王様って何よ。 そんな訳ないでしょ」


「フィアちゃ~ん。 サトリンはやっぱり魔王様だったのかぁ~。 よし! このスマイルちゃん様が成敗してくれるわぁ~」


「ガハハハ。 いいぞスマイルやっちまえ。 骨は拾ってやるぞ」


「君たちって、コラ、スマイルちゃん。 君は力が強いんだから加減しなさい。 痛いじゃないか、コラ」


「こらぁ~~~スマイル~~~! 私のサトリンに何さらすんじゃ~~」


「フィアちゃん。 大丈夫だから落ち着きなさい。 僕はなんでもないから。 ほらスマイルちゃん誤って」



 その後ガイアさんにはお酒が入り、スマイルさんが再び暴れ始め、フィリアさんが叫び声をあげて、サトリさんがなだめる。 そんな宴会が始まってしまった。

 僕たちの夜はこうして更けていったのだった。 結局今後の方針をどうするかについては明日に持ち越されてしまった。



 ◇   ◇   ◇



 そして朝が来て僕は起きた。 昨日はあれから僕とアスナは眠くなったので、早々に寝袋へ入って寝てしまっていた。 そして僕はその夜、怪獣大戦争の夢をみてしまった。


「やあ、起きたのかい? 昨日はご苦労だったね」


「あ、サトリさん。 おはようございます。 何か昨日は色々な意味で大変でした。 昨日はあれからまた何かあったのですか?」


 僕は辺りを見回しながら言った。 何故か辺りの木が何本か、なぎ倒されていて、まるで何かが暴れたような有様になっていた。 スマイルさんが酔って暴れたにしては、ちょっとやり過ぎなように思った。



「おはよう、カイン君。 あれから皆飲み過ぎてしまってね。 それでガイアがミスって結界から出ちゃったんだよ」


「おしっこ、とかでですか?」


「……まあ、そうなんだけどね。 それで色々あったんだ」



「ええっ? 私たちが寝てる間に色々あったんですか?」



 今起きてきたアスナが、いきなり会話に入って来た。



「その通りだよ。 けれど不味いことに僕たちは酔ってしまっていてね。 大変だったんだ」


「僕は寝たまま気づかなかったですよ。 怪獣の夢はみたけれど」


「お兄ちゃん。 怪獣って何?」


「あ、いや、怪しい獣のことだよ。 僕は夢の中で怪しい獣を怪獣って名付けていたんだよ」


「変なの。 まあいいや。 それより朝食はどうするの? フィリアお姉さんも寝てるみたいだし」


「ああ、悪いね。 少し寝かせてやってくれ。 昨日大変だったからね」


「サトリさんは大丈夫なんですか?」


「ギルドで深夜残業なんて普通だったからね。 僕はこのぐらいは慣れているのさ」


「……」


「じゃあ私が朝食準備するわ。 カイン兄ちゃん手伝って」



 サトリさん、不憫だな! ギルドの社畜と化していたのか。 ギルドマスターとかになれば、そんなものなんだろうか。 この世も気を付けないと過労死とかあるのかもしれない。


 僕らは朝食を終えて、一息ついた。 そのうちフィリアさん達も次々と起きて来て朝食を食べた。



「ね~ガイア兄さん。 昨日どうしたの?」


 僕は慌ててしまった。 アスナ、それは聞いてはいけないやつだ。 サトリさんが具体的に話をしなかったんだぞ? ガイアさんでも話しずらい事に決まっている。


「ア、アスナちゃん。 耳元で大きな声を出さんでくれ。 頭が痛くてかなわん」


「アレっ? VIT高いと痛みに強くなるんじゃないの?」


「それとこれとは違うんだぞ。 状態異常に近いのかもしれん」


「そうなんですか~。 カイン兄ちゃん、ちょっと回復してみて」



 僕は頼まれるままにガイアさんに状態回復Lv2を掛けた。


 ガイア

 HP 98%

 状態 二日酔い(苦痛軽減小)


「ガイアさん、HP減ってますよ。 ダイジョブですか? 酩酊状態だとHPの自然回復はかなり遅れるって聞いてましたけど、それにしてもHPが減ってること自体おかしくないですか?」


「お、おお。 少し楽になったわ。 HPが減ってる? ……お、本当だ。 昨日何があったんだ? カインは知ってるか?」


「い、いえ。 僕は早く寝てしまったので、何があったかは見ていません」


「そうか……。 おい、スマイルちゃん。 何かあったか分かるか?」


「う~ん。 スマイルちゃんも頭が痛いのです。 カインちゃん、スマイルちゃんにも状態回復かけて~。 あと何があったかなんて覚えているはずないよ~。 スマイルちゃんは、お酒を飲んだら忘れるタイプなの~」



 スマイルさんにも状態回復Lv2を掛けてあげた。


 スマイル

 HP 97%

 状態 二日酔い(苦痛軽減小)


「スマイルさんも、HP減ってます」


「う~ん、おかしいなぁ~。 今まで酔っただけじゃHPなんて減ることなかったのに~。 お酒に悪い物が入っていたのかな~。 まさかフィアちゃん。 何か混ぜた?」


「何言ってるの? 私がそんなことするわけないじゃない。 HPが減る理由なんて知らないわよ。 それより、私も頭が痛いから、カインちゃんお願い」


「フィリアさん……。 フィリアさんは自分で掛けられるじゃないですか」


「う~ん。 なんか(だる)くて。 とりあえずカインちゃんお願い」


 フィリアさんが僕に手を合わせてお願いしてきたので、僕はフィリアさんへ、回復セット3(回復魔法系Lv1とLv2全て)をつかった。 



 フィリア

 HP 66%

 状態 二日酔い(苦痛軽減小)



「フィリアさん。 ヤバイです。 HPがかなり減ってます」


「えっ? そうなの? ……アレっ? どうしてだろう。 私の結界も切れてるし昨日何かあったのかな。 とりあえずカインちゃんHPもお願い」


 僕はフィリアさんへ回復セット3(回復魔法系Lv1とLv2全て)をもう一度使った。


 フィリア

 HP 91%

 状態 二日酔い(苦痛軽減小)


「フィリアさん。 HPはまだ全回復してないです。 あと30秒待ってください」


「分かったわ。 お願いね。 それにしても昨日何があったのかしら。 飲みすぎて覚えてないわ」


 どうやら3人とも昨日の事は覚えていないらしい。 それよりもHPが減るほどの何かがあったのに僕やアスナが無事だったのが不思議だ。 僕も昨日の出来事がとても気になってしまった。


「サトリさん。 昨夜は何があったんですか」


「ああ、つまりね、ガイアがアシエラプトルの子供に絡まれてしまったんだよ」


「 「 「 アシエラプトル!? 」 」 」


 フィリアさん、ガイアさん、スマイルさん、もちろん僕もアスナも一斉に声を上げて驚愕した。

 僕たちは寝ていたから仕方が無いが、フィリアさん達は飲みすぎで本当に記憶が無いのだろう。 



「ガイアが結界の外でアシエラプトルの子供に絡まれたのを、君たちは覚えてないのかい? そういえば、ガイアは戦うと言うよりは追いまわしていたように見えたが……」


「ん? そういえば思い出したかもしれないぞ。 そう昨日は確か……。 そうだな俺が小便してたら、カインが俺のアソコへちょっかい出して来たんだ。 それで怒ったら逃げたんで追いかけたような?」


「ちょっ、ガイアさん。 僕とアシエラプトルを間違えるなんて失礼でしょう!」


「う~ん。 そんなこと言われてもな~、あれは確かにカインだったぞ。  捕まえたと思ったら噛みついて来たりしてな。 ……ん? 噛みついて来た? 変だな。 何か分からなくなっちまった」


「……」


「スマイルちゃんも思い出したの~。 スマイルちゃんはね、ガイアとカインちゃんが ”鬼ごっこ” して面白そうだった混ぜてもらったのぉ。 そしたらカインちゃんに噛まれて……」


「……」


「フィリアさんはどうしたんですか?」


「そう言われれば、私はカインちゃん達が、”じゃれて” いるのかと思ったような気がするわ。 そして皆が大暴れるようになったから、”なだめ”に行ったの。 そしたらカインちゃんに噛まれて……」


「酷いじゃないですか。 皆で僕とアシエラプトルの子供を間違えるなんて、これはあんまりです!」


「……」


「カインお兄ちゃん、だから私は日頃の行いを改めなさいって言ってたの」


「アスナ、僕の何を改めろって言うんだよ」


「珍獣カインゲームで、ガイアさんにあらゆる卑怯な手を使って勝に行くからじゃない?」


「えっ? ゲームが関係してるの? まさかそんな……」


「いつもゲームで珍獣カインのお兄ちゃんが、ガイアさんを挑発して怒らせてるからね」


「い、いやそれは、ガイアさんには有効な手だったから……」


「……」


「君たちが変だったから僕は被害が出ないように火魔法7とかで少しづつアシエラプトルを攻撃するしかなかたんだよ? アシエラプトルの子供程度の魔物なのに、君たちを治療しながらだったから倒すまで1時間以上かかったんだ。 それから今の結界も僕が張った簡略版なんだよ」


「さ、サトリン誤解よ。 私はガイアとスマイルちゃんを止めようとしたのよ。 私は悪くないわ!」


「フィアちゃん。 フィアちゃんも奇声を上げてアシエラプトルを素手で殴っていたじゃないか。 さすがに危ないから引き離して泣く泣く当身技を使って寝てもらったんだよ? ある程度回復はしておいたけど気が気じゃなかったよ」


「ちょっ、アシエラプトルを素手で殴ったんですか? それって僕を殴るつもりだったの?」


「ええっ? そんなはずは……」


「……」


「お酒の飲みすぎで大暴れとかは良くないですよね!!」


 さすがの僕も怒ってしまった。 



「お、お、お酒は、スマイルちゃんのように程々にして置くがいいのですぅ」


「……」

「……」


 僕たちの様子を観察していたサトリさんが決断した。



「兎に角、お酒は当面禁止とせざるをえないね。 いいね?」


「 「 「 ええっ!!! 」 」 」


「君たち、投石キャットのような強力が魔物がいるのに、まさかこんな状況で不服が有るとでも言うのかい?」


「……」


 そんな経緯で二日酔いと気の落ち込みで士気が下がってしまったので、僕等はそのままお昼まで休息を続けたのだった。

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