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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
54/65

54. 空間小袋

 僕らは幸いにも結界内にいる。

 そのため投石キャットは僕らに気づいていない。 

 肉だけ攫ったのが良い証拠だ。

 もし僕らに気づいていたなら、肉を攫うよりも先に頭の上に石を落してくる攻撃を受けていただろう。 そして全員が攻撃を受けたなら、逃げ切れるのはガイアさんとスマイルさんぐらいなのではと思う。 いくらサトリさんが素早くても頭上数センチに岩を置かれたら身構えてないと避けられない。 攻撃を受けた場合には、ある程度VITが高くからだが頑丈でないと太刀打ちできない。



 さてここで僕らには選択肢が2つある。

 一つはやり過ごすこと。 

 これはこの場にひっそりと隠れていて気配が消えたら逃げるのだ。 これはスマイルさんが居るので彼女の勘で成功する可能性はある。


 もう一つは戦うこと。

 ガイアさんとスマイルさんが結界の外へ出て討伐していくのだ。

 ただしガイアさんなら攻撃されても十分耐えられるだろうが、スマイルさんはそこまでは耐えられないだろう。 そして大問題なのは、相手が素早すぎて攻撃が中々当たらないことと、相手の攻撃が遠隔攻撃であることだ。


 結界の中にいて、直ぐには攻撃を受けないことが判明したので、僕らは一旦警戒を解き、作戦会議に入った。



「う~ん。 投石キャットか~。 厄介だね。 ちょっと状況を観察してみようか」


「ああ、そうだな。 これはヤバイな。 外へ出ている個体数によっちゃ逃げることもできね~かもしんねえな」


「スマイルちゃんはピンチなのぉ~」


「ええ、サトリン。 状況を見てから戦うか逃げるかを判断しましょう。 どのみち投石キャットの個体数が多ければ逃げるのも困難かもだけどね」


「まずは、この近辺にどの位いるかだね。 スマイルちゃん分かるかい?」


「えっとね、1,2、3、…11匹だと思うの。 あとアッチの方にはもっといるかも」



 スマイルさんは、昼食前に指さした方向をもう一度指さした。



「11匹か。 これは逃げられないな。 少なくともアスナちゃんは厳しいな」


「……」


「じゃ、危険覚悟で打って出るか? 俺はどちらでもいいぞ」


「……ガイア、あの戦法を取ることになるがいいのか?」


「お、おう。 仕方ねーな。 それでいいぜ」


 うん? あの戦法ってなんだろう。 攻略組織での戦法なのだろうか。  



「す、スマイルちゃんはどうしよう?」


「そうだね。 ……スマイルちゃんは、とりあえず後衛を守ってほしいかな。 頭上に鉄板を掲げて頭に石が当たらないようにしてもらうよ。 もし後衛が見つかってしまったら気を引いてもらってガイアまで誘導してもらいたいよ」


「わかった。 スマイルちゃん頑張る」


「……それでカイン君。 君には悪いが、もう隠すとかの余裕は無いな。 例の火魔法で気をそらしたり攻撃してもらいたい。 全力でやってもらって良いからね」


「……そうですか。 わかりました」


「お、おい。 カインが火魔法ってなんだよ。 魔力タンクに何を要求してんだよ」


「ガイア、スマイルちゃん。 カイン君の事情については後で話すよ。 それでアスナちゃん」


「はい。 サトリお兄様。 私はどうすれば?」


「アスナちゃんは後衛の誰かが襲われそうだったらスタンを掛けてしてほしい。 ただしスタンはできるだけ慎重にね。 そしてスタンをつかったら結界に直ぐに逃げ込んでくれよ」


「はい。 お兄様、分かりました」


「フィアちゃん。 爆裂後の処置をお願いするよ。 HP回復はカイン君に任せて治療優先で頼むよ」


「分かったわ」


「……」

「……」


「よし。 それじゃあ開始といくか。 あっ、アスナちゃんとカイン君も念のため鉄板を頭上に掲げておいてくれ。 それである程度防げる場合もあるからね」


「 「 はい、わかりました 」 」



 全員の強化魔法による戦闘準備が始まった。

 ガイアさんは、VIT強化Lv10の張り直し、STR強化Lv5、AGI強化Lv5を使う。

 スマイルさんは、STR強化Lv10の張り直し、DEX強化Lv5、AGI強化Lv2、VIT強化2だ。

 サトリさんは、AGI強化Lv5、VIT強化Lv2、そして防御付与Lv2、速度付与Lv2を自分へ掛けた。

 防御付与は僕とアスナにも掛けてくれた。

 フィリアさんは自力で防御付与Lv1を掛けていた。

 僕は重複はあるものの、自己強化セット2を使い、付与強化セット1 を皆にばらまいた。

 Lvが高いか同じであれば上書きされ、低いと弾かれるが今は漏れがないことが重要だ。

 そして、スマイルさんは自分の指を傷つけて、フィリアさんから状態回復Lv10を貰い、痛み軽減措置を受けた。


 強化が一通り終わると僕は皆のMPを補充した。 

 フィリアさんは、欠損回復魔法の予備詠唱を開始した。 予め途中まで詠唱を貯めて置くことで30秒で発動できるテクニックだ。 フィリアさんは結界内からのアシストなので余程でなければ投石キャットの注意を引くことはない。


 サトリさんも爆裂魔法の予備詠唱を始めて戦闘開始となった。 


 まずガイアさんが外へでて、現在の位置から10mほど離れて叫んだ。



「おら~。 俺が相手だ~! かかって来いや~!!!」



 思いっきり中二病的ともいえる笑えるセリフなのだがこれが正しいのだろう。

 その叫び声に呼応するように僕の<識別ボード>へ新しい魔法のパタンが刻まれていき、

 ガイアさんの頭上に岩やら石やらが発生して降り注いだ。



 ガン、ドン、ガン、コン、ガカン。



 ガイアさんは頭を守りながら防戦一方となる。


 僕は一瞬結界の外へ出て水蒸気攻撃セット(水生成Lv1、 火魔法(水)Lv2)をガイアさんの右側から5mほど離れた位置に発動させて直ぐに結界へと逃げ込んだ。


 ドシュッ!



 水蒸気攻撃が何もない場所に着弾して破裂音を発した。

 ガイアさんはこれに一瞬たじろいたが直ぐに立ち直ってみせた。

 破裂の余波で驚いたのか木の上から投石キャットが5匹地上へ落ちてきて姿を現した、だがそこから移動せずに、そこへ留まってとガイアさんに目を向けて攻撃を再開している。


 僕には他に猫が4匹ほど左へ逃れるのが見えた。

 ガイアさんは落ちて来た投石キャット5匹と僕たちの結果の間に立ちふさがった。

 そしてサトリさんの爆裂魔法が発動した。



 ドォォォォーーーン!!!!!!



 サトリさんの爆裂魔法がガイアさんに――僕等からは死角になる位置に着弾した。



 げげっ! サトリさん、やることが相変わらずエグイな! ガイアさんを攻撃して向う側の魔物を巻き込む戦法だなんて!


 直後ガイアさんにフィリアさんの欠損回復魔法が着弾してガイアさんは光に包まれた。 それを見て僕は慌てて結界の中からガイアさんに回復セット3 (Lv1とLv2の回復魔法全て) を使った。



 今の爆裂魔法に巻き込まれた5匹の投石キャットの内4匹が戦闘不能となった。 そして残る1匹は瀕死のようだ。

 ガイアさんの左側に逃れていた投石キャットのうち4匹が爆裂魔法の余波で落ちてきていた。


 僕は再度少しだけ外へでて、瀕死の投石キャットへ熱水攻撃セット(水生成Lv1、 火魔法(水)Lv1)を浴びせてから結界内へと直ぐに隠れた。



 ジュワワワワ



 少量とはいえ沸騰した水が瀕死だった投石キャットへと降りかかり、投石キャットは少し暴れたが、直ぐに動かなくなった。



 これで投石キャットを5匹倒した。 差し引き6匹が残っているはずである。 その6匹から攻撃を受けているからか、相変わらずガイアさんへは投石キャットから間断のない攻撃が続いている。


 サトリさんとフィリアさんは結界の中で予備詠唱を再開している。

 スマイルさんは、僕とフィリアの上の鉄板を支えて守ってくれている。

 すると地上に落ちて来た投石キャットの内の1匹が結界の方へと目を向けた。



 ガン!



 僕らの近くに50cmほどのサイズの岩が落ちて来た。

 僕らの方へと投石キャットの1匹がランダム攻撃を仕掛けたのだと思われる。



「!!!!!」


 アスナが一瞬結界からでてスタン攻撃を放った。

 僕らの方を向いていた猫はフリーズした。 そのフリーズ時間は15秒だ。

 僕は結界の外へ一瞬出て、その投石キャットへ水蒸気攻撃セット(水生成Lv1、 火魔法(水)Lv2)を使った。



 ドシュッ!



 フリーズしていた投石キャットは至近距離での水蒸気破裂に巻き込まれた。 レベル2の攻撃ではあるもののかなりダメージを与えた感がある。投石キャットって案外防御力は低そうだ。 動きさえ止めれば楽勝な相手なのかもしれない。

 おまけで木の上から2匹の投石キャットが水蒸気破裂の余波で落ちて来た。

 これで残る6匹全ての投石キャットは地面に落ちて視認できることになったのだ。



 ガン、ドガン、コツン



 結界内の僕らの周辺に石や岩が降り注いできた。

 見たら先程の1匹を含めた2匹がこちらを向いている。

 スマイルさんが持ってくれている鉄板の上にも時々石が当たっている。

 今外へ出るのは大変危険だ。


 ガイアさんが動いた。

 頭からガードを外してこちらを向いている投石キャットへ駆け寄って殴ったのである。

 こちらを向いていた投石キャットは、ガイアさんの方へ向き直った。

 ガイアさんの頭には岩が沢山着弾して血が流れている。


 残る一匹はこちらを向いて攻撃を仕掛けているが、

 僕らは結界の中で石が当たらない場所へと移動することで難を防いでいた。


 そしてガイアさんが投石キャットと結界の間に回り込み、サトリさんがスピードに任せて外へ出て爆裂魔法を発動させた。


 ドォォォォーーーン!!!!!!


 フィリアさんの欠損回復魔法が、そして僕の回復セット3がガイアさんに着弾したところで周囲を見ると、残る投石キャットは2匹であった。 先程僕が水蒸気攻撃セットを浴びせただろう投石キャットは倒れている。 生き残った中の1匹は瀕死であり、結界の中へのランダム攻撃はない。


 僕は結界の外へ出て、その瀕死の投石キャットへ 熱水攻撃セットを放った。


 ジュワワワワ


 瀕死の投石キャットは倒れた。


 残るはあと一匹となった。

 ガイアさんはその一匹とは離れた位置にいる。

 僕はその場に留まってそいつに向かって水蒸気攻撃セットを放ってやった。


 ドシュッ!


 最後の一匹も倒れた。 どうやら瀕死とはいかないまでもサトリさんの爆裂魔法でダメージを負っていたようだ。  



「後2匹来るぅ~」



 これで終わったと一安心してしまったのだが、投石キャットは後2匹来るようだ。


 さて、戦うのか逃げるのか。


 サトリさんの判断は、”戦う” であった。

 サトリさんと帰って来ると、フィリアさんと共にMP回復のために僕からMPを吸い取った。

 ついでフィリアさんはアスナからMPを吸い取った。


 そしてサトリさんは爆裂魔法の予備詠唱を開始した。

 フィリアさんも続いて予備詠唱を開始した。

 僕はもう一度ガイアさんに回復セット3を使った。


 結界の外にいるガイアさんへ投石が始まった。



「おら~。 こっちだ! こっちだコラ~!!!」


 投石キャットが理解しているかは不明だが、ガイアさんが吠えた。

 僕は結界の外へ出ると、ガイアさんの右側の上側へ水蒸気攻撃セットを放った。


 ドシュッ!


 投石キャットが2匹、破裂音で落ちてきた。

 そしてガイアさんが僕等との間に回り込み、爆裂魔法が炸裂し、僕も熱水攻撃セットで止めを刺して戦闘が終了した。

 僕としては今回の戦闘では大分貢献できた手ごたえが有った。




 戦終わって倒れている投石キャットは合計13匹。

 僕らは直ぐにその場から撤退することを選び、僕はその13匹を空間倉庫へ入れようとした。

 ところが空間倉庫へ入ったのは8匹のみで、5匹は中に入れようとすると弾かれてしまった。


「すみません。 残っている5匹は空間倉庫へ入りません」


 サトリさんは驚いた顔を浮かべた後、ガイアさんとスマイルさんに頼んで、その5匹の死体を急いで担いでもらいその場から移動を始めた。

 先ほどの場所から約10分ほど離れてからフィリアさんが結界魔法を使い、改めて戦後処理に移った。



「サトリン、もしかして、この5匹って……」


「そうだねフィアちゃん。 僕も空間小袋が5個取れると思うね」


「……」

「……」



 サトリさん(愛称はサトリン)とフィリアさん(愛称はフィアちゃん)は慎重にその5体の解体を始めた。


 ガイアさん達だと空間小袋を壊してしまう危険があるようだ。 ガイアさんはともかくスマイルさんになら任せられると思うのだが慎重にやりたいのだろう。

 解体が終り確かめると期待した通り、空間小袋4個と空間倉庫1個が取れた。 空間小袋は10リットルが1個、30リットルが1個、100リットルが2個だった。 空間倉庫は1000リットルすなわち1立米、つまりギリギリ空間倉庫サイズのやつだった。

 それらの中には投石キャットが攻撃のために準備していた石や岩が入っていたのだが、そんなことは些細なことだった。


 1立米サイズとはいえ空間倉庫は約10万ギリルすなわちギリル金貨5万枚で国へ売却することになるそうだ。 もちろん個人で保有しても良いのだが、パーティで取得した場合には揉める原因となるのでギルドを通して国へ譲渡することになるのだ。


 空間小袋についてはギルドを通して競売への出品が可能で、10リットル品は50ギリル、30リットルは200ギリル、100リットルは15000ギリル程になる。 

 僕らはこの戦闘でざっと計算して、130260ギリルを稼いだ計算になる。

 そしてこれも予想通りなのだが、僕の空間倉庫に保管してあった投石キャットからは空間小袋などは取れなかった。


 空間倉庫の中には空間倉庫や空間小袋は入れられない。

 これはどういう原理だか分からないが普通に知られている常識だ。 空間倉庫に入れられない投石キャットの死体はその内部に空間小袋か空間倉庫があるということを示していたということなのだ。

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