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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
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49. 僕等の空間倉庫

 ダンジョンを見つけるための探査を始めてから2週間後、僕らは一旦イカレポの町に帰還した。

 定期報告が必要であること、大規模討伐隊の状況の把握、そして骨休めのためだ。

 それにしてもスマイルさんは凄かった。 

 あれだけ迷走していたような進み方であったのにも関わらず、帰るとなったらほぼ一直線に街道に止めてあった人力車まで辿りついたのだ。


 町に到着すると、サトリさんはさっさと冒険者ギルドへ行ってしまい、ガイアさんとスマイルさんもどこかへ行ってしまった。 

 僕とアスナとフィリアさんは、何時もの宿をとり中で休息した。


「は~~。 やっと帰って来たっていう感じね~。 カインちゃん、アスナちゃん疲れたでしょう」


「そりゃ疲れましたよ。 あんな危険なのに僕たちのような児童を連れ出すんですからね、この世の仕組みは何か間違っている気がしますよ」


「今は戦時下だしね、手不足なのよ。 いくら若くても有能な人物は使われる運命なのよ」


「おお~ 僕たちって有能なんだ~」


「……」


「まあ貴方は私にショーギに勝つし珍獣カインゲームでも勝つようになったんだから有能だとは思うわよ」


「えっと、それってフィリアさんが弱いだけじゃ……」


「何ですって?!」


「いえ、何でもないです。 何でもないんですが……」


「何よ?」


「その~、珍獣カインじゃなくてスッコロビゲームって言ってください。 世間にその名前が定着したてしまったら困ります」


「カイン兄ちゃん。 この前雑貨屋へ行った時に見かけたけど、珍獣カインゲームって大きく書かれて売り出されていたわよ? もう遅いんじゃない?」


「何だって? その雑貨屋ってどこにあるんだよ。 文句言ってやる!」


「カインちゃん。 貴方が文句言ったら、貴方が珍獣カインってことがバレるんじゃないの?」


「ええっ?」


「カイン兄ちゃん。 この前道場も見学してきたんだけど、先生が珍獣カインに扮して皆と戦うトレーニングをしていたわよ。 珍獣カインって大分人気があるみたい」


「そ、そんな~」


「カインちゃん。 こうなったら、珍獣カインとは一切かかわりありません、っていう態度を取るしかないわよ。 下手に騒ぐと逆効果よ? 有名になりたいの?」


「いえ、そんなつもりは全くありません」


「じゃあ、珍獣カインゲームってことで決まりね!」


「……」


「それで、えっと、あれっ? 僕ば何を話したかったんですっけ?」


「お兄ちゃん。 そんなこと私たちに聞かれても分かるわけないじゃない」


「そうですよね~。 ……う~ん。 ……あ! そうだ、冒険者ギルドだ!」


「冒険者ギルドって、貴方まだ働き足りないの? 私は嫌よ。 貴方ってもはや変態レベルの……」


「あ~違います。 違いますって! 働きたいんじゃなくて、訓練を見たいんですよ」


「訓練を見たいって、そんなマニアックなこと、……やっぱり変態レベルの」


「違いますって言ってるじゃないですか! 僕はそんなんじゃないです!」


「あら、そうなの? 何かニタリニタリしながら、私を見たり、サトリンを見たり、ガイアまで見てるじゃない。 もはや変態レベルの……」


「いやいやいや。 それはですね。 あの魔力吸引が魅力的過ぎて、ちょっと妄想してしまって」


「ああ~、なるほどね。 ちょっと強く吸い過ぎだったかしらね。 中毒気味になっちゃったかな?」


「た、たしかに言われてみれば少し中毒気味なのかもしれないです。 フィリアさん、僕どうしたらよいでしょう」


「そうね有効な治療方法は一つね」


「なんでしょうか。 受けてみたいです」


「そうなの? すぐできるけどやってみる?」


「はいお願いしたいです」


「それじゃ、魔銀器出してね。 それから補助器具を外してね」


「えっと、それってまさか!  いやいやいや、痛いのは嫌です! 十分凝りてますから!」


「でも、それ以外に方法は無いそうよ?」


「いえ、それを聞いただけで目が覚めました。 もう必要ありません」


「そうなの。 ……まあニタリニタリしてサトリンを見たりしないなら、必要無くなるかもね?」


「……はい。 必要ありません。 ニタリニタリしてサトリさんを見たりはしません」


「よろしい! 以上ね」


「……」


「あの~、カイン兄ちゃん。 冒険者ギルドの件はどうなったの?」


「あ、ああ。 そうだった。 ありがとうアスナ。 あんまりな話でちょっと気が動転してまって忘れるところだった」


「それで、何なの?」


「エットですね。 冒険者ギルドで魔法の練習を見たいんです」


「また良からぬことを考えてる?」


「そんな、僕を何だと思ってるんですか。 ちゃんと理由があります」


「理由があっても、良からぬことは、良からぬことよ? それで何なの?」


「僕たちの<識別ボード>の裏側に、魔法一覧表があることは以前話しましたよね」


「ええ、隷属とか良からぬステータスの修練魔法を見つけた時ね」


「……はい。 その時です。 それでその一覧表というのが魔法の発動を実際に見たり、自分で試さない限り埋まらないんですよ」


「なるほど、一覧表をできるだけ埋めたいから魔法の実演を見たいという事ね」


「はい、そうです。 やっとわかってもらえましたか」


「それで一覧表を埋めてどうするの?」


「あのですね。 判明している魔法を一覧表に登録しても空白欄が沢山ありそうなんです。 それを調べて見つけたいんです」


「良からぬことを?」


「ちがいます、フィリアさん。 ……もう許してください」


「……」


「カイン兄ちゃん。 空白欄を調べてどうするの?」


「いや、空白欄を調べるんじゃなくて、空白欄がどういう配置で残っているかを調べたいんだ。 明らかに未知の魔法が多数あることは分かるんだけど、それらのヒントが得られるかもしれないって思ってね」


「……分かったわ。 カインちゃん。 ギルドに頼んであげるわ。 それでもね、未知の魔法を発見したらちゃんと私たちに報告するのよ? 本当に危険だったりするからね?」


「はい。 それは勿論です」


「僕って、結構信用無かったりするのかな~」


「カイン兄ちゃん。 日頃の行いのせいよ」


「なんだよ、日頃の行いって」


「だって、この前もこっそりとオークキングの死体を空間倉庫にしまってたじゃない」


「ちょっ、アスナそれを言っちゃダメだろ」


「あ! しまった!」


「やっぱり、カインちゃん良からぬことを企んでたのね。 さあ~白状なさい」


「あ、え、そ、それはですね。 オークキングってまだ良い素材が取れそうじゃないですか。 それで、捨てるのはもったいないな~って思っちゃったんです」


「なるほど、それで空間倉庫に入れたってわけね?」


「はい。そうです」


「わかったわ」


「はい。 以上です」


「で? 誤魔化せたと思った?」


「ですよね~。 オークキングは提供します」


「……」


「そこじゃないでしょ? まだ粘る気?」


「うぐっ、……仕方ない。 アスナ説明して」


「ちょっと、兄ちゃん。 酷くない? 今更私に振るなんて」


「だってアスナの失敗じゃないか。 責任を取るのが義理とはいえ妹の責任じゃないか」


「誰が義理よ! 義理も人情もない冷血漢の癖に、良く言うわね」


「だれが、冷血漢だよ。 それじゃ、フィリ……じゃ無くて、サトリさんはどうなんだよ。 すまし顔で爆裂打つんだぞ」


「ちょっと、サトリお兄さんの悪口をいうなんt…」


「 ちょっと待ちなさい!!!」


「……」


「本当に貴方たちってこの後に及んで大したものよ。 口喧嘩で誤魔化そうとする根性というか連携は何なの? そんなに大型の空間倉庫を隠したいの?」


「……連携については、お兄ちゃんに鍛えられました」


「……」


「ふぅー。 これまでだな。 確かに僕も大型の空間倉庫を貰いました。 ついこの前ですけどね。 あんまり僕たちのような児童がそんなのを持ってたら危ないからできるだけ秘密にしようと思ったんですよ」


「…それでどの位のを持っているの?」


「僕が元から頂いて持ってるのが1立米で、秘密にしたのが12立米ほどの物です。 これでもう隠し事はありません」


「それで、その中には何が入っているの?」


「オークヒーラーの肉とオークキングの死体」


「ん??」


「……と、セーフハウスです。 それだけです」


「なるほど、セーフハウスか。 確かに高価な物ね。 隠したくなる気持ちも分かったわ」


「それでアスナちゃんは?」


「えっと、私物と、同じくセーフハウスです」


「まったく呆れるほどお金持ちだったのね。 クローク伯爵って」


「いえ、僕の見た限りじゃ、意外と質素な感じでしたよ」


「……」


「まあ、わかったわ。 危険だから持ってることを他人に言ってはダメよ?」


「……何だよ、フィリアさんは強制的に聞き出したくせに何という……」


「カインちゃん? 何という、何なの? ハッキリ言ってごらんなさい?」


「何という、……何という? ええと」


「ほら言ってごらんなさい。 何という? 何なの?」


「何という、……そう、何というか何時ものフィリアさんじゃないみたいです」


「どういう意味よ」


「その何というか、……鋭くなったなと思って」


「なるほど、そうよね。 わたしは鋭くなったのよ。 貴方達に鍛えられたからね!!」


「……本当にすみません」


 それにしても、フィリアさんって怒りっぽいよな。 

 そんなんじゃお嫁にいけない……じゃ無くてお肌に良くないんじゃないかと思うんだが、それで良いのだろうか。



 そんな話の後で、僕らは早速冒険者ギルドまでやって来た。

 冒険者というのは、この大陸の独自組織である冒険者ギルドに所属している人達だ。 

 ただし実態は何でも屋で、雑用やダンジョン探索、魔物討伐、果ては国家防衛まで引き受ける人達なのだ。 分かりやすく言えば派遣会社に登録している派遣社員と言ってもよいのかもしれない。 

 社員のようなものなのだから、当然保険や福利厚生もあったりするが、何もしない冒険者に手厚い手当は出せないのでランクによってそれらを規定している。 そのランクはかなり詳細に分けられているが、大まかにはA~Fまでで分類されている。 


 ギルドに貢献するということは、ほぼお金を稼ぐことと同じことなのだが、ボランティア業務や危険な業務のように、お金で何とかならない仕事もその貢献に加算されたりするのだ。



 僕とアスナはFランクだ。

 ついこの間まで僕は、冒険者見習いという学生のような立場だった。 もっとも冒険者見習いでも通常15才以上にならないと資格を得られないので、僕らがFランクというのはあり得ないほど破格なことなのである。


 さて今回は、魔法パタンを<識別ボード>へ反映させることが目的だったのだが、通常ギルドでは冒険者資格を持たない者の見学ツアーは許可されていない。 

 何等かの業務依頼があれば、特例で見学できることもあるが、それなりにお金がかかる。

 勿論僕やアスナはすでにFランクなのだから、見学も許可されてしかるべきなのだが、なにぶん容貌が児童なので、目立つし信じてもらえない。

 だからこそフィリアさんに付いて来てもらい、お金を払っての特例的な見学者のフリをする必要があった。


 フィリアさんは僕たちを伴って、依頼受け付けへと並んでいたのだが、ギルド内部から出てきたサトリさんと、この町のギルドマスターに見つかってしまって、奥へと連れていかれてしまった。

 ギルトマスター室へ入ると、マスターはいきなり本題を話始めた。


「いや~ フィリア君。 今回の巡回任務と魔物討伐はご苦労さまでした。 それでギルドの決定でフィリア君をAランクに昇格させるという話になってね。 丁度迎えに行こうと思っていたのだよ」


「ええと。 わたしは未だ未熟者で、そのような……」


「ま~、そういわずにお願いするよ。 あのガイア君やスマイル君もAランクなのだから、君がBランクというのはちょっと困るのだよ。 君たちのパーティのリーダはサトリ君なのだろうが、サブリーダがあの二人のどちらかと言われると困るだろう? それにこれは決定事項だからね」


「……はい。 謹んでお受けします」


「うむ。 これからも頑張ってくれたまえ」


「はい。 ありがとうございます」


「ところで、今日は何しに来たんだね? Aランク昇格については誰にも話していなかったのだが……」


「あ、はい。 ええと、この子達にギルドでの魔法練習を見せてあげたいと思いまして。 それで 

 見学者用の許可を貰いに来たのです」


「……この子たちはFランクなのだろう? そんなのは必要ないのではないかね?」


「いえ、あまりにも低年齢なので、目立つというか信じない輩とか、色々と面倒があると困るのでお願いしたいのです」


「ああ、なるほどわかった。 それなら受付に言っておくから後で見学許可証を取りに行ってくれ。 それでその子達なんだが、……まさか珍獣カインゲームとかの開発者と関わりがあったりするのかね? いやね、大分評判になっておってね。 関係があるならできればサインとか貰えると記念になると思ってね」


「ええと、 御内密にしていただけるなら、大丈夫かと思います。 カインちゃんいいわね?」


「はい。 内密にしていただけるなら喜んでサインします。 そのゲームの名前はスッコロビゲームって言うんですけどね」


「ん? スッコロビゲーム? そんな名前は知らないな。 ああ、開発者のチームがスッコロビといったかな。 そのリーダがカイン君なんだろ?」


「……」


「どうしたのかね?」


「いえ、ちょっと個人的に思う所があったので。 特に問題はないです。 はい」


 その後、僕は珍獣カインゲームのゲーム盤5つにサインをしてあげた。 

 ギルドマスターは、これでプレミアが何たらと言って喜んでくれたので、それはそれでよかったと思ったのである。

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