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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
46/65

46. 任務開始

 それから数日後、僕とアスナ、フィリアさん、サトリさん、ガイアさん、スマイルさんの6人でパーティを組んだ。

 Aランク3名、Bランク1名、仮Cランク2名のランク構成のパーティである。 そう、なんと驚いたことにガイアさんはレベル184のAランク冒険者、スマイルさんもレベル176のAランク冒険者だったのだ。 やはり所属していた攻略組織って半端ない集団だったようだ。

 それに比べて僕とアスナは当然レベル0なのであるから、超高レベルの冒険者と超低レベルの冒険者が混在する凸凹パーティができあがったことになる。 


 このパーティの目的は街道の安全確保である。 

 そのためには先ず街道に現れる魔物の状況を調査することが求められているのだ。

 調査といっても要は囮みたいなもので、まずは街道を10回程度行ったり来たりして襲ってきた魔物を討伐するという何とも単純な任務だ。 襲ってくる魔物が弱い奴だけで街道の安全が確認されたら、次は山沿いの方へと移動して調査することになっている。


 さて今は出発日の早朝だ。

 ガイアさんとスマイルさんは僕らの宿まで来るといきなり自己強化を始めた。

 ガイアさんは、VIT強化Lv10、極大魔法を使った。

 スマイルさんも、STR強化Lv10、同じく極大魔法を使った。

 そして二人とも詠唱が終わると、僕にMPを要求してきた。


「じゃカイン君。 魔銀器を使って、ガイアとスマイルちゃんにMPを補給してやってくれたまえ」



 僕は、サトリさんから渡された補助具付きの魔銀器に右腕を入れて、その時を大人しく待った。

 まずはスマイルさんが魔力を補充するようだ。



「カインちゃん。 スマイルちゃんのMPはほとんどゼロになっちゃったから、いっぱいもらうね~」


 スマイルさんが魔力を吸い始めた。 

 すると僕は、しびれるような気持ちいい感覚に包まれた。 


 前のように痛くないことはいい事だ。 だがこれはこれで別の意味でヤバイ。

 不覚にも気持ち良すぎてちょっとだけ漏らしてしまった。 幸いあっという間に吸引は終わってしまったので、粗相は目立たないが、次に吸引される前には必ず先にトイレを済ませておくことが必要だろう。



「はい。 おわりました~。 カインちゃんありがとね~」


「は、はい。 よかったです」


「じゃ次は俺だな。 カインちゃんよろしくだぜ~」


「あ、あのガイアさん。 ちょっとトイレ行って来ていいですか?」


「お? いいぞ行ってこい。 まさかお前初めてだったのか?」


「はい、補助具有りの吸引は初めてでした。 補助具なしでフィリアさんに思い切り吸われた時には死ぬかと思ったんですが。 今度は逆だったんだすけど、それはそれでピンチでした」


「……」


「フィリアよ~。 ガキ相手に何てことするんだよ。 あれって大の大人でも泣き叫ぶレベルだぞ?」


「ち、ちがうのよ。 補助具が付いてないなんて思わなかったのよ。 気持ちが良くて涙と鼻水まみれになったのかと思ったのよ」


「お、恐ろしいですぅ~。 フィアちゃん鬼畜ですぅ~。 大鬼畜なのですぅ~」


「ち、ちがうって言ってるでしょ。 本当に知らなかったのよ~」



 僕はフィリアさんたちが楽しそうに問答している間にトイレを済ませてきた。

 この件ではフィリアさんにもう少し分かってもらう必要がある。



「ガイアさん。 準備完了です~」


「お~、じゃ吸わせてもらうぞ。 これからは魔銀器に補助具があるかどうか事前に調べておいた方がいいぞ~。 出来れば自前の魔銀器を持つのがいいぞ」


「はい。 お金を貯めていつかは自分のを手に入れます」



 そして僕の魔力タンクとしての一回目の役目は完了したが、吸われた魔力は二人合わせて1200程度だった。 

 魔法レベル10の極大魔法の必要MPは1000だ。 つまり、ガイアさんとスマイルさんは必要なMPの半分だけ吸い取ったわけである。



「あれ? なぜMP600位しか吸わないんですか?」


「そりゃ~よ~。 次の掛け直しは2時間後だぜ。 それまでに500位は回復するから一回あたり600もいただけりゃ十分だってことだ」


「な、なるほどわかりました。 ……あれ? ところで極大強化魔法の持続時間って3時間ぐらいじゃなかったですか?」


「カイン君。 持続時間が切れた時に戦闘になってしまったら意味無いから最低でも1時間ぐらいは余裕をもって更新するぐらいの方が丁度いいのさ」


「よくわかりました。 ありがとうございました」



 2時間に一人につき600、二人で1200程吸われるのか……。 僕のMPは4~5時間で5000程回復するんだから、全然余裕だな~。 

 僕は楽でおいしい仕事にニンマリしたのだった。




 強化が終わると僕らは馬車に乗って移動を始めた。

 御者は雇っておらず、サトリさん、ガイアさん、スマイルさんの3名で交代して務めることになっていた。 

 御者を雇わない理由は単に危険だからだ。 

 ステータスがある程度高くないと急に襲われた場合に対処できない。

 ガイアさんとスマイルさんはその点問題がない。


 サトリさんは、自分で御者をする場合のみ自分でAGI強化Lv5と、防御付与Lv3を掛けていた。 

 効果時間は40分程度と短いが、使用MPは比較的少ないので僕の出番はなかった。



 何事もなく、街道を進んだ僕たちはお昼近くになったので休息を取ることになった。

 そして今馬車の中にいるのは、僕とフィリアさん、そしてアスナだけだ。 その他のメンバは外で何やら打ち合わせをしているらしい。



「フィリア姉ちゃん。 ちょっと相談があるんだけどいい?」


「ん? アスナちゃん何? おシッコ?」


「お姉ちゃん酷い! そんなことじゃないわ」


「アスナちゃん。 ごめんね。 モジモジしてたから、そう思っちゃたのよ」


「えっとね。 空間倉庫なんだけど、……まだ予備を持ってるの。 使う?」


「ええっ? そんな高価なものを2つも持ってるなんて、貴方どんな、……そういえば空間倉庫で有名な領地の令嬢だったわね。」


「はい。 それで、使う?」


「いいの? 借りられるなら大歓迎よ。 色々なグッズも入れておけるし今回の仕事も楽になるわ」


「じゃ、ちょっと待ってね」



 アスナはモジモジ始めた。 まるで本当に、おシッコに行きたいみたいだった。

 そしてワッペン見たいな物を1つ取り出したのだった。



「お姉ちゃんこれよ」


 フィリアさんはアスナからそのワッペンを大事そうに受け取ると、暫くの間不思議そうに、そして確かめるように裏表をひっくり返しながら確認をおこなった。


「ありがとう。 ちょっと使ってみるね。 ……これってかなり大きくない? 4立米ぐらいあるわよ」


 かなり驚いた顔になった。 空間倉庫の4立米というのは破格の大きななのだろうか。



「でも、私のより大分小さいし、今のところ使う当てもないから、お姉様使てみてね」


「わ、わかったわ、ありがとう。 でもこれって……そうね、ギルドから借りたってことにしてしまいましょう」


「え? フィリアさん、また空間倉庫借りました詐欺するんですか? 今度はサトリさんに事前に相談してくださいね」


「分かってるわよ。 また怒られるのヤダからね。 ちゃんとサトリンには話しておくわよ」


「やっぱり怒られたんですね」


「そうよ、だから何?」


「いえ何でもありません」


 フィリアさんはそのワッペン状の空間倉庫を大事そうに服の中に括りつけてあるお財布に仕舞いこんだ。 その様子はアスナがモジモジしながらワッペンを取り出した時の恰好と同じようだったので笑えた。



 そんなことがあった後、僕らは夕暮れ前には隣町へ到着した。

 まずはこの町の冒険者ギルドを訪ねなければならない。

 そして街道の状況や、情報の伝達、頼まれた重要な荷物の引き渡しを行うことになるのである。

 そういう面倒なのは、サトリさんの仕事と決まっているので、僕らは宿泊先見つけて早めに宿へ引き籠った。

 ガイアさんとスマイルさんは宿に荷物を置くと、とっとと外出してしまった。


 僕とアスナ、そしてフィリアさんの3人は宿屋の一室に集合して優雅にお茶の時間だ。



「フィリアさん。 空間倉庫の件はサトリさんに話しましたか?」


「ええ、助かるって言ってたわ。 ギルド関係から借りたことにするのも問題ないそうよ」


「よかったです。 これで少しは楽ができますね」


「……」


「カインちゃん、アスナちゃん。 私は空間倉庫に入れるものをちょっと下見してくるね。 じっくり探す時間がなさそうだから、急がなきゃね」



 フィリアさんは思い出したようにそう言うと、あっという間に出かけてしまった。

 二人きりになったので、僕はアスナに空間倉庫のことを聞いてみることにした。



「ところでアスナ、なんで今頃になって空間倉庫を貸すことにしたの?」


「えっとね。 これから、街道から外れて森の中も移動するんでしょ? 荷物とか持つの大変じゃない」


「なるほどそりゃそうだね。 聞いた僕が愚かでした」



 何か当たり前の事を聞いてしまったような気がして僕はちょっと落ち込んでしまった。

 それに対して、アスナは突然モジモジ始めた。 ん? おシッコかな?



「……後ね、お兄ちゃんはこれを使って」


「これは何? フィリアさんに渡したワッペンみたいな……ってこれも空間倉庫じゃないか! しかも10立米以上あるって。 ……アスナ凄いね。 これだけ持ってれば一生遊んで暮らせそうだよ」


「そうね。 だけど私たちはBRDなのよ。 油断はできないのよ」


「そうだな。 油断は禁物だよな。 ……それにしてもアスナ、他にももっと空間倉庫の予備って持ってたりするの?」


「あとは2立米ほどの小さいのを一つだけ持っているだけだわ」


「ふ~ん。 なら、今の僕の持ってる1立米のは返そうか?」


「いえ、カイン兄ちゃんが持ってて。 これで私が27立米のと2立米のの2つ。 カイン兄ちゃんが12立米のと1立米のの2つ。 合計4つでリスク分散ができるってわけよ」


「わかった。 なるほどリスク分散か~。  ……ところで、何か大きいのが入ってるな、セーフハウス?って何だこれは」


「ああ、それね。 4人用のセーフハウスっていうテントの一種だそうよ」


「ええっ? そんなのはアスナが持ってた方がいいんじゃない?」


「大丈夫よ。 私のには10人用のが入ってるの。 だから気にしないで」


「すごいな。 これって僕らを世話してくれたキャサリンさんのアドバイスで?」


「ほら、伯爵領でサバイバル装備を注文した時があったじゃない。 あの時にキャサリン……さんに頼んでキャンプするために用意しておいたのよ」


「なるほど、用意周到だったわけだね」


「そうね。 私に感謝しなさいね」


「……」


「でもさ、なぜこの国に来るまで隠していたの? セーフハウスというのがあれば山の中の移動であんなに苦労しなくて済んだはずなのに」


「……それは、……だからよ」


「ん? 何て言ったの? 聞こえないよ」


「それは、使い方を知らなかったからよ。 それに付属の説明書を見たら組み立ての推奨ステータスがSTR200以上って書いてあったから、私達だけでは無理だったのよ」


「ああ、それなら仕方がなかったね」



 僕は2つ目の空間倉庫をゲットしたわけなのだが、1つめの小さい空間倉庫でも十分空きがある状態なので、今のところ有効な活用方法はなかった。 


 それにしても、明日はこの町を出て一旦イカレポの町へ帰り、明後日はまた巡回調査に行くのか~。 

 これを10回繰り返すって過剰な対応なんじゃないかな。 



 ◇   ◇   ◇



 翌日、僕らはイカレポの町へと帰っていった。

 いろいろと交渉した結果なのであろうか、馬車は依頼された物品でいっぱいであり、サトリさんは非常に疲れているようだった。

 そんな往復を2回繰り返し、3周目の出発の朝、パーティメンバーにサトリさんから空間倉庫についての話があった。



「やあ、おはようございます。 今日はちょっと報告があるんだ」


「なんだよ。 大事なことか?」


「実はね知り合いのギルド関係者から空間倉庫を借りることができたんだよ」


「おお~! すげ~な。 どんな知り合いなんだそれは」


「それはね、僕がギルドマスターだった頃の知り合いとだけ言っておこう。 あまり知れ渡ると危険だからね」


「それはそうか。 空間倉庫ってやつは、めちゃくちゃ高け~からな。 ……でもよ、空間小袋ならともかく空間倉庫なんてもんは、かっぱらっても売れね~んじゃないか? ま、俺はそいつの出所なんて興味ねーけどな」


「……それでね、キャンプ用品を買っておいたんだよ。 これで森の中の探索も快適にできるよ」 


「やった~。 スマイルちゃんの荷物をもってくるぅ~」


「あああ、ダメよ、スマイルちゃん。 4立米ぐらいのだから、大きなのはダメよ。 とりあえず野営用のテントセットと、魔道具類、そして保存食料を入れたから、後は少ししか入らないのよ。 予備の装備類も重いものだけにしてもらわないと入りきらないわ」


「フィアちゃん、そんな意地悪ぅ~。 持って行きたいもの――縫いぐるみとか縫いぐるみが沢山あるのぉ~。 あと着替えも~」


「スマイルちゃん。 縫いぐるみはちょっと……」


「フィリア姉ちゃん。 私の縫いぐるみもダメ?」


「アスナちゃん……も、ダメよ。 我慢してね。 遠足に行くわけじゃないからね」


「……」



 結局、皆でいろいろと持ち物を出し合って空間倉庫へ入れる品物をサトリさんが選んだのだった。 その結果、共用品や必需品以外は、着替え、重い装備や重い道具類などだけに限られてしまった。 その他は当然各自の手荷物となるのである。

 僕の手荷物は、スッコロビゲームとショーギゲームだけとしてバックパックに入れておいた。 他の人もバックパックをもって来ているのだが、その中身まではわからない。

 どちらにしても、僕やアスナは空間倉庫持ちなのでバックパックはあくまでも偽装で、アスナが持っていきたいと主張した縫いぐるみの件についても、ちょっとしたカモフラージュだったのである。



 ◇   ◇   ◇



 街道の巡回調査も4周目に入った時に、御者担当のサトリさんが魔物を発見してしまった。


「みんな、女鹿モドキを10匹ほど発見したよ」


「おい、女鹿モドキごとき、てめ~で何とかしろよ。 いま俺は忙しいんだよ」


 どう見てもガイアさんは忙しいように見えない。 どうやら女鹿モドキのような魔物を相手どるのが面倒だけなようで、眠そうな顔をしている。



「いや、アスナちゃんの実戦トレーニングとかに丁度いいんじゃないかと思ってね」


「そうか、ならしょ~がね~な。 ほれアスナちゃん行くぞ」



 ガイアさんは重い腰をあげてアスナに手を伸ばした。



「えっ? イヤよ。 魔物なんてイヤ。 そ、そうだカイン兄ちゃんが先に……」



 少し抵抗したがアスナはガイアさんに抱えられて強制的に女鹿モドキの群れの前に立たされてしまった。 ガイアさんにスタンを使えば逃げられたはずなのだが、いつかは経験しなければならないので今回は逃げなかった。


 女鹿モドキは、僕たちの前で一旦停止してこちらの様子を伺っている。

 アスナはすごく緊張しているようだ。 明らかに顔が強張っている。

 格上の魔物との戦いは見たことが有っても、初めての実戦だから緊張するのは当然のことだ。



「ほれ、やっちゃいな。 後は俺に任せときゃいいからよ」



 ガイアさんに急かされてアスナは女鹿モドキを睨むと意を決したように叫んだ。



「こ、このっ!!!!、裏みりもにょ!」



 女鹿モドキの群れは一斉にフリーズした。


 これには僕らも唖然として固まってしまった。

 アスナのスタン攻撃 ”この裏切り者!!!” の発声は、明らかに噛んでしまっていた。 

 それなのにスタンが成功したから驚いたのだ。

 僕たちは暫く呆れてその様子をみていたのだが、スタンが解けた女鹿モドキがこちらに向かって来るのに気づいてやっと正気に戻った。



「ガイア、スマイル。 少し多いから、数を減らして!」



 フィリアさんの指示によってガイアさんとスマイルさんは行動をおこし、立ちどころに9匹を倒してしまい、残り1匹も逃がさないように囲い込んでしてしまった。



「じゃ、アスナちゃん。 怖くないから、もう一度お願いね~」


「は、ふぁい、でも、こ、こわゃい」


「大丈夫よ、大丈夫。 怖くなんてないからね。 ……じゃあ、 ”このっ!” だけでいいからやってみて。 失敗してもいいからね」


「は、はい」


 アスナは覚悟を決めたようで、ガイアさんたちに囲い込まれている魔物に向かってスタンを放った。



「こ、このっ!!!」



 残り1匹の女鹿モドキはフリーズした。

 アスナのスタン攻撃が成功したのである。



「よくやったねアスナちゃん。 成功だよ」


「そうよアスナちゃん、成功よ。 最後にちょっと待ってから、もう一度やってみてね」



「このっ!!!!!」



 女鹿モドキはフリーズした。 

 スタン攻撃は大成功し、アスナは無事に初陣を飾ることができた。



「アスナちゃ~ん、すご~い。 噛んだけど、スタン成功させちゃうなんて~。 スマイルちゃんちょっと嫉妬しちゃうのぉ~」


「いや、本当にビックリだな! 最初は完全にミスったと思ったぜ」


「良かったわね。 アスナちゃん。 全然平気だったでしょ?」


「見事だったね。 おめでとうアスナちゃん。 あとは慣れだね」


「アスナ~、これでお前も立派な戦闘員だな~。 僕を守ってね?」



 アスナは皆からの祝福を受けて、満更でもない顔付きをした。



「へへっ。 ありがと~。 わたしはこのスタンを極めてやるわ!」


 後日女鹿モドキに再度遭遇した時にスタンの練習をした結果、アスナのスタン攻撃は、

 気合を入れて睨むだけで発動できるようにまで習熟した。



 ◇   ◇   ◇



 それから数回の街道巡回を繰り返してやっと9周目になって、あとわずかで任務終了のはずであったのだが、運悪く例のアシエラプトルに遭遇してしまった。


「アシエラプトル発見だよぉ~!」


 御者だったスマイルさんが叫んだ。

 慌てて外を見ると、遠くからアシエラプトルが馬車の方へと一直線に向かってくるのが見えた。


 馬車の中にいるにも関わらず、サトリさんは直ぐに爆裂魔法の詠唱を始めてしまい、詠唱しながらゆっくりと馬車から降りようとしている。


 うぁっ、サトリさん未だ馬車の中にいるのに始めちゃうなんて! 

 ちょっと最初から飛ばし過ぎなんじゃ?



 フィリアさんは空間倉庫から、ガイアさんの分厚い盾とこん棒のような短剣、そしてスマイルさんの巨大な大剣を馬車近くの地面に出現させた。


 ガイアさんは馬車から飛び出でて地面に置かれた盾と短剣を拾って、走りながらアシエラプトルとの間合いを詰めていく。

 スマイルさんは、同じく巨大な大剣を拾ってガイアさんの後に隠れるようにしてガイアさんを追ってアシエラプトルに迫っていく。


 アシエラプトルとガイアさんが交差した。

 その瞬間、ガイアさんはアシエラプトルの噛みつき攻撃を盾で受けとめた。


 ゴイーン!


 そしてほぼ同時に棍棒のような短剣でアシエラプトルの顎を狙って打ちつけた。


 どしゅっ!


 アシエラプトルへの棍棒?攻撃がヒットした。 

 アシエラプトルは一瞬よろめいたが、直ぐに立ち直ってガイアさんに前足の爪でのひっかき攻撃を仕掛けた。


 ガッキン!


 ガイアさんは短剣でその爪を受け止めた。

 その隙にガイアさんに隠れていたスマイルさんが、アシエラプトルの横へ回り込んで大剣で脇腹を横に薙いだ。


 ズヴァン!


 アシエラプトルの強靭な鱗を物ともせず、スマイルさんの攻撃はアシエラプトルの横腹を大きく切り裂いた。

 アシエラプトルはスマイルさんへと振り返って咆哮を上げた。


 ぐっ、があぁぁ~~!!!!


 スマイルさんは躊躇せずにガイアさんの後ろへと逃げる。

 アシエラプトルは完全にスマイルさんに敵対を向けている。

 今度はガイアさんが自分から目を離したアシエラプトルの頭を盾で激しく殴りつけた。


 ゴイーン!


 アシエラプトルはガイアさんの攻撃を受けてよろめき、今度はガイアさんに咆哮を上げる。


 があぁぁ~~!!



 流れるような連携だ。 これが攻略組織の力なのか!

 あれっ、これってもしかして、もうアシエラプトルは大分弱っている?



「アスナちゃん、最後の練習よ、やっちゃって!」



 フィリアさんが、余裕の表情でアスナを促した。

<識別ボード>を見る限り、サトリさんの魔法発動まではあと少しだ。



「!!!!!」



 アスナが気合をいれてアシエラプトルを”ギン”と睨めつけて15秒深度のスタン攻撃を発動した。


 アシエラプトルはフリーズした。


 そのスタンの間にガイアさんとスマイルさんは、こちら側に退いて来る。

 そしてサトリさんの爆裂魔法がアシエラプトルの背中へと着弾した。



 ドォォォォーーーン!!!!!!



 その魔法攻撃でアシエラプトルは悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちた。

 このパーティは、アシエラプトルに遭遇してから2分ちょっとで、あっけなく倒してしまったのである。


 前回あれだけ苦労したアシエラプトルをこんなに簡単に倒すなんて!

 僕はその戦闘力に戦慄を受けてしまった。


 そして、この時をもってアスナは正式に対魔物のスタン攻撃要員になったのだった。

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