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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
44/65

44. 奴ら

 その後しばらくの期間僕は道場でVITの高い教官が扮する魔物と対戦して技術を磨いていた。

 そしてアスナは、サバイバル訓練を止めてしまい、専ら僕が扮する珍獣カインと対戦して技術を磨いていたた。 


「ぐぉぉぉ~~!!」


「ていや~! この~、負けるかぁ~!」


 アスナは確実に強くなっていた。 8才のアスナに対して、僕は10才児の手加減で対戦しているが、かなり拮抗するまでになっている。 アスナのステータスは8才児のままなのだが、技でカバーできていた。 何だか僕よりもずっと技の習得が早い気がしてしまい微妙な気分だ。 


「貴方たち、お昼ご飯食べたの? いい加減に区切りにしたらどうなの?」


 フィリアさんは今ではすっかり僕らの保護者だ。 

 フィリアさんとサトリさんは、何というかもう、あれっていうか、まあいい。


 そんなある日、サトリさんが神妙な顔をして帰って来た。


「サトリン、お帰りなさい。 ……ん? 何かあったの? 様子が変よ?」


「ああ、フィアたん。 あのね、そのね。 ……アイツらが来るのだよ」


「アイツらって、まさかあのアイツら?」


「そう、そのアイツらだよ」


 僕らにはアイツが何を意味しているのか全く分からないのだが、お二人は以心伝心で分かっているらしい。


「サトリさん。 何かあったんですか? 僕らが邪魔なら向うへ行きますけど?」


「いや、そういうんじゃ無いんだ。 ええと、あのアシエラプトル関係なんだよ」


「ええっ? アシエラプトルの奴らがこっち来るんですか?」


「……君の発想は時々分からないところがあるな。 何故そう思ったんだい?」


 ううっ。 何かディスられている気がする。 

 僕だってサトリさんが分からないからお互い様なんじゃないかな。



「アイツ等ってアシエラプトルの事かと思って……」


「ああそうか、 アイツ等っていうのはね。 昔攻略組織で一緒だった知り合い達なんだよ」


「そうでしたか……。 それでは僕やアスナには関係なさそうですね」


「さぁ、それはどうだろうね。 ……いや、もしかしたら、結構関係があるかもしれないね。 特にカイン君はね」


「な、なんか嫌な予感がするな~」


「アイツ等はね、前衛特化タイプなんだよ」


「何を言いたいのか良くわからないです」


「MPを余り育ててないのに高位の身体強化を多用するんだから魔力タンクが当てにされるんだ。 それで僕もフィアたんも魔力は高い方だから、魔力タンク扱いされて大変だったんだよ」


「うへぇ~、僕は魔力タンク担当だから連れ回される危険があるんですね。 そんなのはアスナでもいい……」


「ちっと待って、カイン兄ちゃん。 私はスタン担当なのよ。 もちろん緊急時には最悪補助タンクになるけど、私たちのことを知らない人のタンクにはなりたくないわ」


「今回は魔力タンク役の人は来ないんですか?」


「魔力だけ専用に育てたいって人は少ないからね。 治療師よりも希少なのさ」


「ぐぅ……わかりました。 ……それはそうと一つお願いがあるんですが」


「なんだね?」


「できるならフィリアさんのことを人前で ”フィアたん” って呼ぶのは止めた方がよいかと思います。 せめて ”フィアちゃん” に留めておいた方がよいです。 僕でもちょっと引くレベルですから」


「うぐっ。 ……分かったよ。 気を付けることにするよ」




 それから時は過ぎ、あのアシエラプトル討伐から約1か月半経過した頃、その奴らはやって来た。 


 僕たちはその日の日課の訓練を終えて夕食を済ませたあとフィリアさんとスッコロビゲームで対戦していた。 巷では珍獣カインゲームという名前で通っているらしいのだが、僕にとってはあくまでもスッコロビゲームだ。  

 それにしてもこんなに早くこの町までこのゲームが普及するとは思わなかった。 

 まさかショーギゲームの人気をはるかに凌ぐなんて想定外もいいところだ。


 僕たちのスッコロビゲームはいよいよ終盤になり、僕とアスナの連合軍は、珍獣フィリアを追い詰めていた。 そして、僕が勝ちを決めるその一手を指そうとしたとき、宿の食堂の方から突然声がしたのである。



『お~い! サトリ、フィリアいるか~! 来てやったぞ~! お前ら感謝しろよ~!』



 凄い大声だ。 僕は余りのことに重要な一手を間違えたところに指してしまった。 



「うぁ~、ビックリした~。  って、あ! 驚いて刺し違えた~。 フィリアさん待って待って」



『お~い。 サトリ、フィリアいるか~ いるなら返事しろ~!』



 凄い大声は続いている。


「何を言うの? 実戦では待ったは無しなのよ? ビックリして間違える方が悪いのよ?」



『お~い! お~い!』



 大声はシツコイが、フィリアさんは完全に下に来た奴を無視している。 

 大声で叫ぶのは近所迷惑なんだから、ちょっと何とかした方がよい気がする。


「フィリアさん、何か下で騒いでるんですけどいいんですか?」



『お~い! お~い! いるのは分かってるんだぞ~!!』



「いいの、いいの。 これで私の勝ち筋も見えたからこのままいくわよ」



『こら~!! サトリフィア出てこ~い! この卑怯者~!!』



「さて、これで形成逆転ね!」


「こ、この裏切者!!!」



 そこでアスナのスタン攻撃が炸裂した。


 僕はフリーズした。

 フィリアさんもフリーズして、一手を刺し違えた。



「ああ~、アスナちゃん何てことするの? 間違えたじゃない。 まったくも~戻すわね」



『卑怯者~ サトリフィア出てこ~い! この卑怯者~』 



「フィリアさん、実戦に待ったは無しですよね?」



『おい~ サトリフィア出てこ~い! 出てこなければ、アレのことをバラすぞ~!』



「……」  



「……ああ~うるさい! うるさくて勝負にならないわ。 この勝負中止ね。 ノーカウントね。 はい終わり終わり」


 フィリアさんは、言うが早いか下に降りて行ってしまった。

 なんか、僕らが勝ちそうになったのに強引に勝負無しにされてしまった。

 フィリアさんは本当に卑怯者かもしれない。


『おお~ やっと来たか~ 全くお前は相変わらず愚図だな~』  


『このっ、オークキングもどきが~~! でっかい声でわめき散らすんじゃね~~!』  



 お、おお! 久しぶりにフィリアさんのキレ声だな~。 



『きゃ~! 生フィアちゃんだぁ~。 フィアちゃんお久~ぷいー』 


『ギヤッ、離せスマイル、そんなに……痛い、痛い。 テメ~、いい加減に手加減覚えろや~』 


『フィリア、サトリはどうした? 出てこないのか? 出てこないとアレのことをバラすぞ~』


『ぐふぅ、離せコノ。 ……お前らここ来る前に、まずギルドいけや~。 頭沸いてんじゃね~かコノやろう』 


 何か下はかなり愉快そうだから僕たちは関わらない方がよさそうだ。

 僕とアスナは黙ってゲームの後片付けをして、2階の勝手口から裏へと出て行ったのだった。

 遠くで誰かの大声が聞こえているが僕らは気にせずに散歩に出かけた。


「カイン兄ちゃん、あの人達ってなんか凄いね」


「ああ、関わりたくないね。アレには」


「カイン兄ちゃんは魔力タンクだから逃げられないでしょ? ふっふっふ。 日頃の行いのせいね」


「クッ、 まあアスナもね」


「なんでよっ。 私は関係ないから~」


「だって、あんなに強力なスタン攻撃があるんだから見逃してくれるはずないよ」


「ええ~、そんな~」


「ま、日頃の行いのせいだな」


 それはともかく、とりあえずフィリアさんがピンチなので助けなければならない。

 僕らはそのまま冒険者ギルドへと入って行き、受付の男性に話しかけた。


「あの~、すみません」


「なんだい坊や達、アメが欲しいのかい?」


「……」


 くぅ、突然何を言い出すんだこのアフォ受付め! 意味がわからん。


「僕たちの宿にでっかい声でわめき散らす人が来ていて迷惑なんです。 ギルドで何とかしてくれませんか? なんかサトリっていうギルドの人の知り合いみたいなんです」


「何だって~? 坊や達ちょと待ってな」


 受付の男性は奥の方へと入って行った。


 よし、これで僕たちの仕事は終わった。 あとは巻き込まれないようにこの場から消えるだけだ。


 僕はアスナの手を引いてギルドから出ようとした。 が、不意にギルドへ入って来たサトリさんに見つかってしまった。


「アスナちゃん、カイン君、珍しいね、ギルドに何か用かい?」


「いえ、ちょ、ちょっと。 ……ギルドに珍しいものが無いか覗きに来たんです。 何もなかったから……」


「あ~、サトリさん丁度いい所にいらっしゃいました。 この子たちが宿に迷惑な人が来てるっていうので、ちょっと対応していただけませんか?」


「う~ん。 僕はいろいろと準備で忙しいのだけどね。 カイン君が困っているなら仕方がないね。 じゃ一緒に行こうか」


「いや、僕達はちょっと別に用事があるので、これで失礼……」


「ま~そういわずに。 ねっ、もう暗くなるから一緒に帰ろうよ」


「いや、今は帰りたくないです」


「ダメだよ。 君だって関係者なんだからね」


 あれっ? サトリさん? まさか状況が分かっていて僕を道連れにしようとしてる? 

 良くない、それは良くないなサトリさん。 

 くそ~、ならばリスク分散のためにアスナも道連れにしなければならないな。

 僕はがっちりとアスナの腕を捕まえてやった。 

 へっへっへっ、アスナだけ助かろうだなんて許さないのだ。


 そしてサトリさんは僕を、僕はアスナを引きずるように連行して宿前までやってきた。

 宿屋に入るとフィリアさん、大きな男性、小柄な女性が静かに三人でお茶を飲んでいた。


 なんだ、フィリアさん助けなくても大丈夫だったのか。 

 わざわざギルドへ行って損したよ。


「お~サトリ、久しぶりだな。 ……なんだ? そのガキはサトリフィアの子か?」


 フィリアさんが固まるのが見えた。 

 サトリさんは無表情だ。 きっと怒っているにちがいない。


「え~~? もうそんなおっきな子がいるのぉ~? 信じられな~い。 スマイルちゃんショックー」


「……」


「君たちは、……まぁ相変わらずだね。 僕たちが入籍したのはつい最近だよ。 この子たちは僕たちが保護している子達なんだ」


「なんだ。 お前たちのガキじゃねえのかよ。 つまんねーな」


「え~~? サトリフィアの子じゃないのぉ~?。 スマイルちゃんショックー」


「……」


「それで今日は何か用なのかい? 君たちは3日後に来るはずだって聞いていたのだが?」


「つれね~な。 お前たちが入籍したっていうから愛しきお前らに合うために遥々やって来てやったんじゃね~か」


「そ~よ、そ~よ。 この際だから、スマイルちゃんは、サトリフィアの秘密をバラしにきたのよ~」


「ちょっと、スマイル~。 バラさないってことで、大人しくお茶にしてあげたんじゃないの。 約束破る気?」


「え~? 約束したのは~、ガイアですぅ。 スマイルちゃんは約束してないも~ん」


「ふ、ふざけるな。 これ以上ふざけるなら、治療魔法を薄目かけて状態回復も掛けてやらないから覚悟しておくといいわ!」


「えっえっ! フィアちゃん。 それは卑怯なの~。 スマイルちゃんは痛いの嫌なの。 泣いちゃうよ~」


「フィアちゃん。 落ち着いてよ。 スマイルちゃんが泣くと面倒だからこのぐらいにしてあげようよ」


「スマイルちゃんはサトリンに賛成なの~」


「それにしても、君たちは早く来すぎなんじゃないかな。 う~ん、どうしたら良いだろうか。 そうだ、とりあえず僕の仕事を手伝ってもらおうかな」


「お、おぅ。 任せておけや。 そこらへんのアシエラプトルなんざ俺たちの敵じゃね~な」


「やった~。 スマイルちゃん、すっごく嬉し~。 サトリフィアとの魔物狩り楽しみ~」


「……では、ギルドへ行こうか。 あ! ……う~ん後でいいか。 では行こう」


 サトリさんはガイアさん?とスマイルさん?を伴ってギルドの方へ行ってしまった。 

 僕らはやっと解放されたのである。


「フィリアさん。 サトリフィアって、サトリさんとフィリアさんの事なんですか?」


「分かったとは思うけれど。 アイツらだけかな、そう言うのは」


「そうですよね~。 ところで、秘密ってなんですか?」


「カ、カイン兄ちゃん。 空気読んでよ。 何で今そんなこと聞くの?」


「……」


「カインちゃん、あなたって、アイツ等に似て来たかも知れないわ」


「ええっ!? 僕はあの人達と初対面ですよ?」


「……」


「カイン兄ちゃん、私はいいけど、からかうのは程々にね?」


「……」


 僕はアスナの言葉に衝撃を受けてしまった。

 確かに僕はフィリアさん達に気安く接し過ぎなのかもしれない。

 保護してくれる人達なのだからもう少し敬意を払わなければいけないのだろうか。

 僕は少し反省が必要なのかもしれない。 それにしても秘密って何だろう。 すっごく気になる。



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