43. 新ステータス
僕達の本番、つまりBRDのボード研究についての話題に切り替わった。
「……さて、それでアスナちゃんの報告って何なのかい? 教えてもらえるかな?」
「カイン兄ちゃん。 いいの?」
「うん。 もう隠さないでいいんじゃないかな?」
「わかった。 それで、えっとね、<識別ボード>なんだけど、新しい機能が発見できたのよ」
「おお~。 流石アスナだ! 頑張ったな。 で、どんな機能なんだ?」
「それが分からないのよ」
「えっ? う~ん、分からないのに機能があるって分かったのか。 よくわからないな。 ……どうやって発見したの? 僕にも発見できそうかな?」
「多分できると思うわ。 やってみてよ」
「なんかヒントとかある?」
「そうね。 <識別ボード>をひっくり返して見る感じかな……」
「ひっくり返す? な、なるほど。 一応やってみるね。 ……うぁっ、簡単にひっくり返ってしまったよこれ。 一体何だこれは?」
「……」
「なんだろう……。 魔法のパターンがリスト化されて並んでるのはわかるんだけど、<魔法大全>に書かれているよりも大分種類が少ないし、違うのもあるか、って、あ!」
僕は<識別ボード>の裏に並んでいる空欄が目立つリストの魔法のパターンをじっと見た、 そしてピンと来てしまった。 もしかしたら僕のリストとアスナのリストに違いがあるかもしれない。
「どうしたの?」
「いやね。 僕は<魔法大全>に載ってないのは魔法パターンを3つ知っているんだ。 それは隷属魔法と、それの解除魔法、そしてスッコロビの睡眠魔法なんだ。 そしてそれらがこの<識別ボード>の裏リストに載っているんだよ」
「えっ? 私の<識別ボード>の裏リストには<魔法大全>に書かれているものだけだわ。 でもところどころ歯抜けになっているけど……。」
「……これは多分、僕やアスナが<識別ボード>で確認できた魔法の一覧だね。 ほら欠損回復やレイズ、そして爆裂魔法のパターンもあるだろ?」
「あ、ああなるほどね。 だから<魔法大全>に載っていてもこの裏リストに載ってないのが沢山あるのね」
「でもさ、……それにしても変なんだよな」
「そうよ変だわ。 なぜ修練魔法は8種類のみのはずなのに、修練魔法の、――つまり16ビット魔法欄に空欄が4つもあるの?」
「そうだな。 何故こんな空欄があるんだ? ……もしかして、う~ん。 まさかね」
「カイン兄ちゃん、何なの? 白状してしまいなさい。 楽になるわよ?」
「あくまでも僕の予想なんだけど。 僕らが知らない未知の修練魔法があるかも……。 じゃないかな」
「ええっ? 未知の修練魔法? た、確かに裏リストの欄は16ビットの未知のパターンが入るはずなんだけど、未知の修練魔法ってことは未知のステータスがあるってことなの? 未知のステータスって何?」
「あのさ、これは推測なんだけど、実はスッコロビの睡眠魔法とかは、未知のステータスに関係している可能性はないかな」
「……未知のステータスとその修練魔法なのね。 でもそのパターンを突き止めるには、……全部のパターンを総当たりで確かめる必要がありそうね。 でもそれには膨大な時間がかかりそう」
「そうだよね、16ビットの魔法パターンは、……6万4千通り程あるから、それだけの回数試行しなくちゃならないだろうね。 これはちょっと無理……ん? 無理じゃないかも」
「どういうこと? 教えて!」
「ちょっと待って、今考えるから……。 え~と、その、ああ、OKかな、分かったよ。 新しい修練魔法の存在は直ぐわかるかも」
「なぜなの? なんなの? 早く、早く!」
「ちょっ、アスナ落ち着けって。 ……えっとね、さっき僕が自己強化一気にやったの分かったよね」
「うん。一瞬で魔法を5つも発動させたわよね」
「そういうことだよ」
「……」
「わからない。 一瞬で魔法を発動できたのってパターンが分かっている魔法だったからでしょ?」
「ほら、わからないかな。 クロックを使って一つずつパターンを変化させて発動するかを確かめていけいいんだよ」
「あ~なるほどネ~。 それもそうね。 で? 全てのパターンを確かめるにはどの位時間がかかるの?」
「今計算したら16ビットのコードを全て実行するのに512秒かな。 直ぐできるよこれは」
「やった~。 やってみて、やってみて、すぐやって!」
「……」
「ちょっと、聞いてる?」
「だから今回路を作ってるんだ、ちょっとぐらい待てよ。 結構この……アレ?どこか間違いが? う~ん、これでどうかな。 最後に自動修練を切って、と。 よしできた~」
「よ~しカイン兄ちゃん、やっておしまいなさい!!」
「おお~。 いくぞ~スタ~ト~! ってことで約9分程お待ちください」
「さぁ~、新しい修練魔法はあるのでしょうかぁ~~~。 カイン兄ちゃん 賭ける?」
僕とアスナは興奮している。 何か新しい魔法が発見できるかもなのだ。 ワクワクしない方がおかしい。 僕らのやりとりをしばらく観察していたサトリさんが口をはさんで来た。
「ちょっと! ちょっと待った。 カイン君、アスナちゃん。 今やってることって新しい修練魔法を探しているってことかい?」
めずらしくサトリさんが慌てている。 確かに新魔法の発見は重要だ。 だが慌てすぎじゃないだろうか?
「そうですけど、何か問題があるんですか?」
「……いや、ね。 ……実は修練魔法は8つ以外にもあるかもなのだよ」
「おお~、あるかもなのか~。 カイン兄ちゃんの予想通りだね~」
「そうですか。 何故一般に知られてないんですか? って1つヒットした~~。 今1つを発見しました~!」
「き、君たちは、トンデモないな。 まさかそんなことが本当に出来てしまうなんて……」
「ちょっとサトリン、これってヤバくない?」
「そうだね。 ヤバいね。 知られたら確実に消されるパターンだね」
「ええっ? 何でですかっ?」
「それは……。 こうなったら君が全て発見してしまった後で教えてあげるよ。 君のステータス欄を見たら分かることだからね」
そして待つこと約8分弱。 <識別ボード>の16ビット枠の一覧が全て埋まった。
そして僕のステータスには、以下の新しい項目が4つ追加されていたのである。
SPR 0 1/1000
MOB 0 1/1000
SPC 0 1/1000
ACL 0 1/1000
僕はお茶を飲みながらゆっくり待っていたのだが、結果が出たので早速発表することにした。
「探索終わりました~~」
「で、どうだった? 何か追加されたかい?」
「えっとですね。 ステータスに4つの新項目が追加されました。 SPRとMOB、そしてSPCとACLです」
「フッ、アッハッハッハ。 やってしまったか~。 アッハッハッハ。 ……ま~、今更だけど、すごいものだ」
「どういうことですか?」
「では教えてあげよう。 そのステータスの中のSPRっていうのはね、隷属魔法に必要なるステータスだと思うんだよ」
「ええっ? 隷属魔法って、血族と人殺し数が関係してるって本に書いてあるんですけど」
「まあね。 一般的にはそう言うことになっているんだよ」
「といいますと、違うんですか?」
「そうだね。 あくまでも僕たち攻略組織の幹部も噂レベルでしか知らないんだが。 修練魔法でしかあげられないSPRというステータスがあって、それのステータスが隷属魔法に必要なんだそうだ」
「隷属魔法? それで何故僕は消されるんですか?」
「簡単なことだよ。 隷属魔法なんて危険な魔法が世の中に蔓延ったら破滅的だろう? だから政府がその存在をコントロールしているんだよ。 ……最近は非合法な隷属魔法組織が暗躍していて、それを殲滅すべく大規模な作戦が動いているくらいなんだ。 ほら君が解決に尽力した児童人攫い事件もその一つさ」
「それはヤバイですね。 これは、……どうしましょう」
「君は今更だよ。 僕たちが守って見せるさ。 そう決めたからね。 ただ、その魔法の存在やパターンを他人に言っちゃダメだよ。 アスナちゃんにも、僕らにもね。 まあアスナちゃんは自分で見つけることができるだろうけどね」
「わ、わかりました。 これは育て無いことにします」
「いや育てた方がいい、というか育ててほしい。 SPRのステータスで何ができるようになるかを僕たちも把握しておく必要があるのさ。 特に魔法レベル3以上はね。 魔物も隷属魔法のようなのを使う奴がいるんだ。 その対策のためにも魔法の研究は重要なのさ」
「わかりました。 ……修練しておきます。 それで、SPR以外は何なんですか?」
「それは僕たちにもわからないよ。 恐らく知られていない種類の魔法に関係するステータスだね。 それも研究して置く必要があると思うから修練してくれるとありがたいよ」!
「……分かりました。 やっておきます」
なんか凄くスリリングなひと時だったのだが、その後はすぐに僕はサトリさん達から解放された。
よし、それでは自動修練回路に組み込もう~。
あ、アレ? 8種類で回路が全部埋まってて空きが無いじゃないか。
これは、入れ替えが必要か? 入れ替え修練を定期的にやらねばならないのか? 面倒だな。 何でこんなに種類が多いんだよ。
何とかならないかな……。
そこで、ピン、と来てしまった。
なんだ簡単じゃないか。 今は16ビット16入力4制御線のマルチプレサを使っているけど、これを16ビット32入力5制御線のマルチプレサすればいいじゃないか。 そして今までの各修練魔法の間隔を16秒から8秒に減らせばいいだけだ。
クロックの同期は160ビット2入力1制御線マルチプレクサに拡張してっと。
いけぇ~、自動修練再スタ~ト~。
ということで、12種類の自動修練が始まった。
あとは待つだけだ。 そしてステータス値が100に達したら隷属魔法やスッコロビの睡眠魔法が使えるかもしれない。