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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第一章 アタスタリア王国編
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4. 治療院


 治療院(ちりょういん)へ到着すると、近くには馬車や人力車が数台停車していたのが見えた。

 治療院の入口は比較的広く作られており、人力車での直接搬送が可能となっている。 馬車も入ることは可能なのだが、不衛生になるので通常は入らないのがルールだ。 僕はいつものように気軽に中に入って行ったのだが、今日はいつもと少し雰囲気が違っていた。 簡易折りたたみ式のベッドが10床ほど出されており、8名が静かに寝ていたのである。

 一時は野戦病院のような状態だったような痕跡が残っていたが、今の状況を見る限り全員治療済のようだった。 今ベッドで寝ている人は疲れているだけなのだろうと思われた。 それにしても僕がここへ来るようになって以来こんなことは無かったのでちょっと不意をつかれて驚かされてしまったのだった。 


 ベッドで寝ている人達は着ている服に付いているマークからダンジョン開拓団の人達であることがわかる。 ダンジョン開拓団はステータスの高い者が主力メンバーになっていて、その他の人はサポート係である。

 この付近で活動している開拓団へは素行が悪いと入団はできないので、所属している人達は荒くれ者というよりは騎士や事務員というイメージが強い。 そんな人たちが無茶をするはずがないし、開拓団内部にも治療師がいるはずなので、この町の治療院にいること自体が非常に不思議なことだ。 


 それはさておき、取り込み中でも無さそうなので、いつもの通り遠慮なく奥の診察待機室の方へ入っていった。 すると、中にはまだ治療待ちと思われる人が数名待機していた。

 ”まずい!仕事の邪魔になる” とちょっと(あせ)った僕はすぐに診察待機室がら出ようとしたが、看護師のアイラさんに呼び止められた。


「あ、アレン君!、丁度よかった手伝って」 

 え?と思ったが、状況から何なのか察してしまった。


「魔力切れで困ってるの、ちょっと診察室まで来て」  

 言うが早いか僕はアイラさんに(つか)まって引っ張っていかれた。


 僕は顔を引き()らせたまま、人助けのためなのだからと、なすがままに連れていかれた。

 診察室へ入ると、母と下級治療師のモナコさんが、椅子に座って不自然に(くつろ)いだ様子で病人を見ていた。 これは魔力切れになったからできるだけ早く魔力を回復するために安静にしていたのだろう。 母は我が子を発見すると獲物を発見したような目でほほ笑んだ。


「あ~助かった、アレンちょっと来て。 アイラちゃん魔銀器(まぎんき)の準備お願いね」 


 またもや僕は母に捕まってしまって、更に2階へ引っ張られていったのだった。 

 魔銀器の正式名は魔力移動銀製魔道具といい、1メートル程の長さの銀の円筒が2本並列配置されて、それぞれの円筒の反対側には腕を入れる箇所がある。 単純な構造ではあるが人から人へ魔力を移動することを目的として作成された立派な魔道具である。 つまり母は僕の魔力を吸い取るつもりなのだ。 


 魔力の移動は魔力タンクと呼ばれる魔物からとれる魔石を原料とした魔道具からでも可能であるが、それ自体は魔石の性質上INT系やDEX系の属性を持つことになる。 INT系やDEX系以外の属性の魔石が発見されていないからである。

 回復系の魔法はMND依存の光属性であるとされるているが、属性がこれらの魔力タンクと異なるため貯めるための移動効率が低くなり容量も小さい。 特にINT系タンクには反発するのだろうか、ほぼ貯められない。

そしてMNDステータスの方がINTステータスよりも高い治療師にはINT系タンクが使えないのだ。 それでも治療院には緊急用としてDEX系のタンクに魔力が多少備蓄されていたのだが、緊急用の魔力タンクもすでに空になったようなので本当に緊急事態なのだろう。 


 連れていかれた2階には治療師が休息するための個室部屋がある。 いつもなら仕事が一段落すると、この個室部屋で待機しているのだ。 

 母の個室部屋へ入ると、デスクワーク用の机の他に、来客用のソファーとテーブルのセットがあり、僕はそのソファーに母と対面するように座わらされた。 

 魔力移動は、多少痛みが伴うと言われているので本当はやりたくない。 また人から人への魔力移動には、持っている魔力の大小が効率に大きく影響を与えそうである。 魔力の大きい人から小さい人への移動効率は高いが、逆は(いちじる)しく低下するのである。 そして母は僕が<BRDギフト>持ちということを知っているので、魔力量が多いことは勿論(もちろん)承知だし、なぜか治療院の人も知っているようだ。 

 僕には……まぁ人間魔力タンクとしての価値はあるようなのだ。


 僕は黙って腕をまくり、魔銀器の中に腕を入れて目を閉じた。 母も黙って同じようにして魔力を吸い取り始めた。

 

 痛い、痛い、痛い。 思ったより痛い。


 耐えられない程ではないのだが、できるだけ痛くしないように手加減しているのだろうか、時間が長くかかる。 そして10分ぐらい経過して(ようや)く魔力移動が終わった。 僕の魔力は3/4程度残っているが、とりあえず十分な量は移動できたようだ。 

 母は 「ごめんね まだちょっと待っててね」 と言ってすぐに下の診察室へと降りていった。 魔力が無くなっても時間経過で元に戻るし、魔法が使えない僕には全く影響がない。 僕は母に用事があるからここへ来たので、待つのは当然問題ないのだが、母の言う ”待ってて”というのは、"また魔力を移動するかもしれないから待機していてね”という意味なのだろう。


 えっと……僕の魔力は()だ3/4も残ってるけど、こんな痛いのをもう一度やるの? ……うん、戻ってきたらイヤですとちゃんと伝えよう。 病人のことを考えると実際には拒否できないけどね。


 今回吸い取った量の魔力を使い切る可能性がある程、大がかりな治療や回復が必要というならば、結構時間がかかるのは間違いない。 回復魔法や状態治療魔法を使って(なお)るまで何回も繰り返えさなければならないためだ。 

 僕は一旦ソファーで寝ることにした。 寝ることで魔力回復して、もう一度魔力移動が必要になった場合に備えるのだ。 そして気づかずに眠りに落ちていて、魔銀器から逃げる夢を見ている時に母に起こされた。 魔銀器は放置してあるようなので、今度こそ治療は終わったのだろう。 


 そして母は僕に今回の顛末(てんまつ)を説明してくれた。 

 ダンジョン開拓団は今回ほぼ全力で大規模ダンジョンの攻略を進めたそうだ。 その際、状態異常攻撃を頻繁(ひんぱん)に仕掛けてくる魔物の群れに遭遇して、撤退戦を余儀なくされたそうだ。 とりあえず全員無事にダンジョンから脱出できたのだが、被害は思ったよりも甚大で、開拓団の治療師だけでは対応できなかったようだ。 そこで、伯爵領と男爵領へ分割して状態異常に罹患(りかん)した患者を搬送して現在に(いた)るということだった。

 今回の状態異常は毒のように時間経過でHPを削っていくものであったため、HPを回復魔法で回復する対症療法で(しの)ぎながら、その合間に状態異常を治療していったそうである。この状態異常になった人が多数いて、さらに一人に何回も高位の状態異常治療魔法を使用する必要があったので、やがて魔力不足に(おちい)り、対処療法だけで手いっぱいの自転車操業になっていたとのことであった。


「アレンが来てくれて本当に助かったわ。 家まで使いを出そうか迷っていたところだったのよ」


「それにしても、さすがにアレンね、私の魔力を満タンにできるなんて思わなかったわよ」

 そう言うと、母は僕をみてほほ笑んだ。


 母は僕が<BRDギフト>持ちだと知っているし、そのせいで魔力が高いとも知っている。 

 (へこ)んでいた僕にも活躍できる場があること教えたかったのかもしれない。


「けっこうギリギリまで無くなって(あせ)ったけどね、魔力の相性がよかったのかな」 


 本当はまだ十分残っているんだが、なんとなく誤魔化すのが正解な気がしたのだ。 それに魔力移動には本当に魔力の相性という不確定要素もあるらしいのだ。


「まあそういうことも有るのかもね。いづれにしても、遊びに来てくれて助かったわ」


「あの、僕はちょっと相談があったから来たんだけれど……」  


 僕は(ようや)く本題に入ることができた。 


「ん? なんなの?」


「お母さん、僕小学校へは行きたくない。どうしても行かなければならないの? 」 


 すると意外な答えが返ってきた。


「アレンちゃん 今更何で小学校なの? どうせなら中学校の卒業資格試験を受けてみたらどうなの?」


 この世界の中学校とは、13歳~15才まで通う基礎教育を習うための教育機関なのである。 その後は修練(しゅうれん)魔法を教えられて修練しながら、それぞれ専門分野の学校へ行くか、そのまま就職するかなのである。


「ええ~? そんな事していいの? というかできるの? それってお貴族様だけに許される特権なんじゃないの?」 


「アレンちゃんが優秀な事はこの町では有名よ? この前の商工業交流会パーティでエスナ様から特別に提案があったの。 小中学校へ行く必要ないレベルの子供でも遊ばせておくのは勿体(もったい)ないんだって」 


 エスナ・モトリオーネ男爵は、このマインタレスの町の領主だ。 エスナ様の提案なら実現可能だろうと一瞬喜んだが、ちょっと待った。


「勿体ないって、僕に何かさせる気なの? 」 


「う~ん。そうね、何か思惑があるのかもね。でもそんなに面倒なことにはならないと思うわよ」 


 母は思ったより楽天的だった。


「わかった、中学校の卒業資格試験に挑戦してみる」  


 僕はエスナ様の思惑に多少不安を感じたのだが、さすがに6歳児に重要な仕事はさせないだろうと考えたのだ。 それに僕にとっては、この世界の中学校の卒業資格試験なんてハッキリいってゴミみたいなものだ。


「じゃエスナ様に伝えておくね。 今日は(つかれ)たから帰りましょ」


「治療院はもう大丈夫なの?」


「モナコさんの魔力も回復した(ころ)だし、イレギュラーは終わったのよ」 


「わかった」  


 とりあえず、僕の目標は達成したのだった。 あとはエスナ様次第だし、考えても仕方がない。

 

 帰り(ぎわ)に僕は母から貴重なDEX系の魔石を加工した指輪をもらった。 微々たる光属性魔力が入っているそうだ。 微々たるものでも光属性魔力を込めるのは大変なんじゃと一旦はもらうのを遠慮したのだが、今回のお礼のために、僕から吸い取った魔力の余りで込めたのだそうだ。 それならと貰っておいた。 

 妹のミレイに指輪を見せつけようかとも思ったが、(からま)まれる光景が浮かんだのでその案は却下(きゃっか)した。

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