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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第四章 アシエラプトル編
39/65

39. 極大魔法

 僕は、護衛パーティに HP回復Lv1、状態回復Lv1、治療Lv1を掛ける。


 その時、サトリさんのAGI強化Lv5が発動した。 そしてサトリさんは直ぐに次の詠唱に入った。


 これは回復魔法ではない。 何だろう。 

 僕は<識別ボード>を注視していたのだがその魔法がわかってしまった。  こ、これは、……80ビットLv10 極大魔法の、火魔法Lv10……。


 イヤイヤイヤ。 こんなの発動させたらどうなるんだ? 

 火魔法Lv10は、太陽の表面温度の色をもつ。 即ち推定温度6000℃程度の爆裂魔法だ。 


 いくら空気の温度だとはいえ、こんなものが発生したら魔物どころか僕たちだって無事じゃすまないじゃないか! サトリさんたち攻略組織は何を教えてんだよ! 


 ……攻略組織か。 ……そういえば背中だ。 


 背中に魔法を叩き込むと聞いたことがある。 まさかサトリさん。 魔物の背中にそれをぶち込む気なのか? そうだよね? そうに違いない!



「アスナちゃん 来ちゃダメ 絶対ダメよ~」


「フィリア姉ちゃん 私から魔力を吸い取って~。 魔力沢山あるから~」



 アスナは構わずにフィリアさんに駆け寄っていく。


 そしてフィリアさんは、アスナを捕まえて何とか言い聞かせようとしている。


 僕は構わずに叫んだ。


「フィリアさん、サトリさんが爆裂魔法を使おうとしてます」


 フィリアさんはアスナを説き伏せようと頑張っていたのだが、僕の言葉で正気に戻った。


「貴方たちぃ~~~~!! 爆裂魔法行くわよ~~~~ !!」


 フィリアさん渾身の叫び声が響いた。 それを聞いた護衛パーティは、徐々にこちら側サイドに集結していった。 つまり魔物と僕たちの間で戦う形になっていった訳だ。 僕はクールタイム毎に、 HP回復Lv1、状態回復Lv1、治療Lv1を掛け続けている。


 アスナがその隙に、魔力移動用の魔銀器を空間倉庫から取り出して片手を突っ込むのが見えた。


 そしてまたゴネ出す。


「早くして! はやくぅ~!」


「ダメよ ダメよ ダメダメ~。 これは遊びじゃないの。 貴方だけでも隠れていて」


「ばかぁ~。 あれが見逃すわけないわ~。 負ける時は全滅なのぉ~~~」


「……それでも、ダメよ……」


 フィリアさんは逆に説得されそうになってしまっている。

 その途端爆裂魔法――火魔法Lv10の極大魔法がアシエラプトルの背後で炸裂した。


 ドォォォォーーーン!!!!!!


 これでもかという大音量の爆発が起り、アシエラプトルは苦しみに身を悶えた。


 どうだ! やったか? と思ったが、やはりそんなには甘くなかった。


 この攻撃でアシエラプトルは標的をサトリさんに定めてしまった。


 うぁ~ まずい。 サトリさん死ぬ~~~。 サトリさん死んだ~~。 死ん?

 死にたがりか! 


 そういえば サトリさんは、”死にたがりのクールなINT使い”と呼ばれていた。


 こ、これは、この状況は、サトリさんの最後っ屁だったのか!!


 僕は衝撃を受けた。 まさか自殺の現場に立ち会うとは思わなかった。


 アシエラプトルはサトリさんへ向かって咆哮すると、突進していった。

 サトリさんは諦めたように動かない。

 そしてアシエラプトルはサトリさんを引き裂いた。 ……ように見えたが違った。


 サトリさんはアシエラプトルの攻撃を寸前で避けた。 


 アシエラプトルが攻撃する。

 サトリさんが避ける。

 アシエラプトルが攻撃する。 攻撃する。 攻撃する。

 サトリさんが避ける。 避ける。 避ける。 避ける。


 うぐぇ~~。 AGI強化ってこのためだったのか~~~。 トンデモない。 

 トンデモないなサトリさん!!


 そして避けながらサトリさんは再び詠唱を始めた。


 イヤイヤイヤ! 今度こそ僕らを巻き込んじゃうじゃないか! やめて! やめてよ~!


 いやちがう。 これはちがうぞ! これは何だ? 何の魔法だ?

 あ、ああ分かったこれは、火魔法Lv9の大魔法だ!


 火魔法Lv9は推定温度3000℃の小規模爆裂魔法のはずだ。 これなら僕たちに被害は少ないはずだ。


 僕はさすがに呆れた。 

 サトリさんは攻撃を俊敏な動きで避けながら、適格な魔法を選択し、ぼーっとした表情で大魔法を詠唱しているのだ。


 この時護衛パーティの人たちは、すでに観戦モードになっていた。

 アスナとフィリアさんは未だ揉めている。


「諦めちゃダメよ。 (わら)にでも(すが)ってよ。 私から魔力を吸ってよ~」


「そんなことできないわ。 アレは痛いのよ。 アスナちゃんには無理なのよ」


「だめぇ~。 無理でもアスナはやるの! そうしないとヴァイタリさんが死んじゃうよ。 死んじゃうの!」


「無理よ。 無理なのよ。 諦めて、分かってアスナちゃん」


「お姉ちゃん、ヴァイタリさんを見捨てるのぉ~! 薄情者。 薄情者!。 薄情者!!」 


「この裏切者!!!!!」


 僕はフリーズした。 

 フィリアさんもフリーズしてしまった。

 スティンガさんもフリーズしてしまった。

 ヴァイタリさんもフリーズしてしまった。

 護衛パーティの人達もフリーズしてしまった。

 アシエラプトルもフリーズしてしまった。

 そして、サトリさんもフリーズしてしまい、詠唱が中断されてしまった。


 あ、アスナ! 何てことするんだ! 皆フリーズしてしまったじゃないかっ!! 

 それにしてもアスナの特殊攻撃はすごいな!!


 アシエラプトルは、アスナに振り返った。


 ヤバイ、アスナに標的が移ったかも。 


 そう思った時、サトリさんがアシエラプトル背中の傷口を素手で殴った。

 そして標的をサトリさんへ向け直したのだった。


 うぁ~、サトリさんも凄いことするんだな。

 あんなものを素手で殴るなんてあり得ないよ~。

 恐ろしい。 恐ろしいよサトリさん。


 僕は方針を変更して、ヴァイタリさんにHP回復Lv1、状態回復Lv1、治療Lv1を掛けた。


 一方フィリアさんは、フリーズが解けて放心してしまっていた。

 その隙にアスナが無理やり魔銀器をフィリアさんの腕にはめ込んだ。


「も~逃げられないからね、お姉ちゃん観念して私から魔力を吸いなさい!」


「……わかったわアスナちゃん。 やるからには容赦しないわよ。 こんガキがぁ~~~!」


 フィリアさんは諦めて、魔力をアスナから吸い取り始めたようだ。 

 それが始まったのかアスナの顔がやがて苦悶の表情となり、そして涙をボロボロ流し始めた。


 アレは痛いのだ。 優しくされても痛いのだ。 


 フィリアさんは攻略組織にいたから、容赦などしてないだろう。 僕がかつで母から吸われた時の数倍は痛いだろう。


 僕はそれを考えて震えあがった。

 そして僕は、苦痛軽減のためにアスナに 状態回復Lv1をそっと掛けた。 状態回復魔法のリキャストは回復魔法とは独立しているので今は問題ない。


 フィリアさんは、最初アスナを睨んでいたが、それはやがて驚愕の表情へと変わっていった。

 アスナはもう涙まみれ鼻水まみれとなってしまっているが、苦痛軽減が効いたのか少しだけ落ち着いていた。 外から見ると明らかに児童虐待の場面である。


 僕は、ヴァイタリさんにHP回復Lv1、治療Lv1を掛けた。

 サトリさんは避け続けながら魔法の詠唱を続けている。

 護衛パーティの人達やスティンガさんは観戦している。

 そして、サトリさんの火魔法Lv9が発動した。


 ドォーン!!!


 アシエラプトルは倒れた。 だがよろよろと立ち上がった。

 まだ終わってないようだが、最早奴に攻撃する能力はほとんど残されていないようだ。


「君たち、後は任せた!」


 サトリさんのその言葉で護衛パーティの人達やスティンガさんは我に返ったようにアシエラプトルへ向かっていった。 そして取り囲んでタコ殴りをはじめた。


 う~ん。 

 何と言えばいいのか。 えげつないな、これは。 

 とてもアスナには見せられないな。

 でも見ちゃってるかもだよね~。 問題だなこれは! 

 こんなのはR-10指定にしないとダメだな!


 サトリさんは、ヴァイタリさんに向けてHP回復Lv5を詠唱始めていた。

 そしてフィリアさんの魔法吸い取りが終わったようだ。 


 アスナは涙と鼻水にまみれて座り込んでしまい放心状態だ。 そしてフィリアさんがヴァイタリさんへ向けて詠唱を始めた。 

 これは魔法レベル7の大魔法、治療Lv7だ。 だがフィリアさんの魔法は発動までに2分ほど掛る。


 僕はヴァイタリさんにHP回復Lv1、治療Lv1を掛けた。


 ヴァイタリ

 HP 14.66 %

 状態:苦痛大(低減効果小)


 ヤバイ、もう殆どHPが無い。


 HP回復Lv1を掛けた直後でこれじゃ、持たないんじゃないだろうか。

 僕は焦りに焦った。


 30秒経過しクーリングタイムが終わった。 

 すぐに僕は、ヴァイタリさんにHP回復Lv1、治療Lv1を掛けた。


 ヴァイタリ

 HP  12.33 %

 状態:苦痛大(低減効果小)


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!

 

 30秒経過した。 僕は、ヴァイタリさんにHP回復Lv1、治療Lv1を掛けた。


 ヴァイタリ

 HP 10.05 %

 状態:苦痛大(低減効果小)


 ヴァイタリさんは意識を失ってしまっている。 僕は焦りで振るえてしまっている。


 間に合え、間に合え~~!!


 30秒経過した。 

 僕は、ヴァイタリさんにHP回復Lv1、治療Lv1を掛けたが発動しなかった。


 ヴァイタリ

 HP  0  %

 状態: 仮死状態


 ……間に合わなかった。 

 ヴァイタリさんは死んでしまった。

 僕はその事実にがくっとして力が抜けた。


 その直後、フィリアさんの魔法が発動仕掛けたが、死亡したため中断されてしまった。

 続けてサトリさんの魔法も中断された。

 僕は悲しみの余り倒れ込んでしまい、自然に涙が零れ落ちた。


 そんな状態なのに、フィリアさんがまた魔法の詠唱を始めてしまった。 サトリさんもそれを追うように詠唱を始めた。


 バカな! もう遅いじゃないか! いいかげんにしろよ!

 HPが0なんだから、蘇生しない限り生き返らないんだよ!  


 ん? 蘇生?

 まさかフィリアさん!  フィリアさんの魔法って!


 これは、魔法レベル10の極大魔法、レイズじゃないか!

 うぁ~。 攻略組織半端ないな~。 フィリアさんもサトリさんも極大魔法使えるのか~。


 って、ここで気を抜いてはいけない。 

 蘇生後も治療しなければ助からない。 僕はフィリアさんの魔法発動に備えて待機した。


 フィリアさんのレイズが発動した。  ヴァイタリさんの体が淡い虹色をまとった光に包まれた。

 僕は即座に、HP回復Lv1、状態回復Lv1、治療Lv1を掛けた。


 ヴァイタリ

 HP  60 %

 状態:苦痛大(低減効果小) 


 やった~ ヴァイタリさんが蘇生した~!


 そして一呼吸おいてサトリさんの治療Lv5が発動した。

 フィリアさんが、魔法詠唱を始めた、 これは治療Lv3だ。 

 おかしいな、またMP切れなのだろうか?


「フィリアさん MP切れなら僕の魔力も吸ってください」


 フィリアさんは、詠唱を中断して、僕に頷いて見せた。

 それを見たサトリさんは、魔法詠唱を始めた。 魔法レベル5のHP回復Lv5だ。



「カイン兄ちゃん。 かなり痛いよ。 頑張ってね」


 涙と鼻水に塗れたアスナに激励された。 僕はアスナから魔銀器を受け取り腕に装着して身構えた。 フィリアさんも腕に装着して魔力吸引が始まった。


 痛い! 痛い! 痛い! 

 しまった、状態回復魔法を事前に掛けおくべきだった!


 痛い! 痛い! ちょっと これマジ痛い 半端ない!

 ちょっ、加減してフィリアさん。 ダメ これはダメ! 痛い、前より数倍痛い!

 数倍いたい。 すうばいいたい すうば……。

 僕の感じる痛みは極限に達し、ボックは我を忘れた。

 もう何も考えることができない。


 おそらく僕はアスナと同じように涙と鼻水塗れになってしまっているだろう。

 そんな耐えがたい苦痛が続いた後、やっとフィリアさんの吸引が終わった。


 フィリアさんは僕に驚愕のまなざしを向けたが、ぼーっとした顔に戻り、直ぐに魔法の詠唱を始めた。

 苦痛から解放された僕はフィリアさんの魔法を識別した。 これは、魔法レベル10の治療Lv10。 通称、欠損回復魔法だ。

 僕はもうどんな魔法が出てきても驚かないことにした。 こんなのは想定済だ。 それよりも僕のステータスの方が気になった。


 カイン(アレン) 10才


 位階レベル  0  0/1000


 HP  1214 /1323   90/100

 MP  2014/5123  35/100

 STR  111     183/1000

 VIT  111     366/1000

 AGI  111     193/1000

 DEX  111     253/1000

 MND  111     244/1000

 INT   111    263/1000


 状態: 幼少加護

 <ギフト> BRD


 よかった。 HPは少しだけしか減っていない。

 それにMPもかなり残っている。

 こんなに残っているのにフィリアさんが極大魔法を使えるということは、フィリアさんは僕よりも最大魔力が低いということだ。 魔力の大小はこの際どうでもよいが。 ……いや良くないか。 これでは今後僕は魔力タンクにされかねない。


 だがしかし!! 

 ヴァイタリさんは助かったのだ。 これは僕らの大勝利だ!


 その時、護衛パーティから歓声が上がった。

 アシエラプトルを打ち取ることができたのだろう。


 僕はその結果に安堵して力が抜けてしまい、そのまま意識を失った。


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