36. 自動修練
さて1か月経過したことで、僕はついに10才になった。 つまり次の不明ボードを覚えたのである。
今度は何ができるようになるか非常にワクワクする。 もしその<ボード>が第二の<発動ボード>とかであれば、もっと高位の魔法も使えるようになるかもしれないし、2つ同時に魔法が使えるようになるかもしれない。
僕の<ギフト>がコンピュータのハードウエアに強く関連していそうなことから、コンピュータの入出力機器となるディスプレイやスピーカー、プリンタ、記憶装置、通信装置なども候補になる。 だだまあ、今のボードになるコンピューターのハードはかなり基本的な者ばかりだから、現時点でそのような複雑なものは期待できないだろう。
さて何が出るだろうか、僕は待ちに待った期待の<ボード>について調査を始めた。 そして何と今回は1時間程度の研究でその未知の<ボード>に図形を浮かびあがらせることに成功した。
その図形は長方形で、その長辺の片方から線が32本出ていて、逆側からは1本出ている奇妙な形だった。
早速、<論理回路ボード>から信号線を引き出して繋いでみた。 どこへ繋げることができるかを確認した結果、32本の線は入力、そして1本の線は出力側の線であることが判明した。
入力の32ビットパタンを色々を変化させて分かったことは、出力側の1ビットが周期的に青と赤を交互に繰り返すという性質を持ち、入力側の32ビットは、その周期の速度を決めるための者だった。
その周期は推定4000秒に一回青赤が変化するものから、100万分の1秒で変化する(早すぎてピンク色に見える)まで変化するものであると推測できた。
何でこんな物が必要になるんだ? 時計のような物だよな。 時計か、……クロックか~。
あ! そういえばパソコンにはクロック周波数というのがあったはずだ。 となると、これはクロック周波数回路なんだな。 僕は早速その未知の<ボード>を <クロックボード>と名付けてみた。
100万秒に一回周期が変わるということはクロック周波数の最大値は1MHz程ということだ。 これはパソコンのクロック周波数としては随分貧弱じゃないか? 僕は少し失望してしまったのだが、よく考えると黎明期のパソコンのクロック周波数ってその位のだったのかもしれない。
そしてピン! と来てしまった。
これを使えば、2入力の1制御信号のマルチプレクサを自動で切り替えられるじゃないか!
さらにピン! と来てしまった。
このクロック回路を増やせば、複数制御信号のマルチプレクサも動かせるんじゃないだろうか。
僕は早速、試験的にこのクロック回路を4つ使って、あの修練魔法パタンが駆動できるかを試みた。 1ビット目を16秒周期、2ビット名を32秒周期、3ビット目を64秒周期、4ビット目を128秒周期としてみたが、思った通りには修練魔法が発動できなかった。 それぞれのクロック回路が動くタイミングが微妙にずれていたのが原因だ。
タイミングが微妙にずれているため、本来は、0101の次が0110であるはずのものが、0100になってしまったりしたのだ。 つまりクロックが同期していない問題があるのだ。
どうしたものか、暫く考えて、またまたピンと来てしまった。
クロック回路に設定する32ビットを今まで手動でスタートさせていたのだが、4つ全部同時にスタートすればよいのだ。 つまり、32x4=128ビットを同時に動かす 128ビット2入力マルチプレクサを前段に挟めばいいのだ。 おまけで、後段にも、4ビット2入力マルチプレクサを挟んでやり、この出力を、<発動ボード>の16ビット修練魔法へと接続して、リセットしてからスタートを掛けてみた。 結果、今度は期待どおりに自動的に修練魔法が順次発動していくのが確認できた。
おおお~、やってやったぞ!
嬉しさと面白さで修練魔法が順次発動していく様子を1時間ほど観察に没頭してしまった。
それで漸く実感できた、”これで修練地獄から解放されたのだ、僕は遂に自動修練を習得してやったのだ” と。 これからはゲームに熱中していても、寝ていても意識することなく自動的に24時間修練が続けられるのである。
現時点での僕のステータスを確認してみた。
カイン(アレン) 10才 男
位階レベル 0 0/1000
HP 794/794 86/100
MP 4595/4595 21/100
STR 69 602/1000
VIT 69 584/1000
AGI 69 593/1000
DEX 69 576/1000
MND 69 591/1000
INT 69 592/1000
状態 幼少加護
ギフト BRD
ステータス100まであと31だ。
これからは、この各ステータスの修練値が約2分間に1づつ自動的に上がっていくはずだ。 1日だと修練値が670程度にもなる。 1か月だと2万程上がって行く計算だ。
そしてこの計算だと、あと1か月半ぐらいでステータスは100に到達し下級魔法(僕の表現だと32ビット魔法)のLv1が使えるようになるはずだ。
さらに年間だと、240もステータスが上がる計算で、このペースだと11才くらいで修練値が300に到達し、下級魔法(32ビット魔法)の最上位であるLv3魔法が使えるようになるだろう。
そんな経緯で、僕は10歳になったその日に、自動修練を開始できたのだった。
これで、修練中 ”ぼーっとして目を開けたまま寝ている” と思われなくて済む。
僕はひっそりとほくそ笑んだ。
その後、その日僕は自動修練を行いながら、今後の自分の可能性をアレやコレや色々と想像して楽しんでしまった。 もちろん時々自動修練が進んでいることも確認していた。
「カイン、そんな ”ニヤけたまま目を開けて眠っているような顔” をしてないで、もう遅いから早く寝ろよ!」
僕はヴァイタリさんに怒られて、引き連られるようにしてベッドへ放り込まれた。 そうまでされても僕は ”ニヤけたまま目を開けて眠っているような顔” をしてアレコレ想像して楽しんでいたのだが、いつの間にか僕は眠りに落ちていた。
翌朝、僕は目が覚めてから、暫くして正気に戻った。
昨日のアレは夢ではなかったか? 僕はすぐに僕のステータスを確認した。 自動修練は夢などではなく無事動いていた。 予想通りに修練値は上がっていた。
僕は、またも、ほくそ笑んでしまった。
「カイン兄ちゃん。 またニヤけてる。 キモイんだけど。 ……何かあった? そういえば昨日は誕生日だったはずね。 まさか新しい<ボード>で発見があった?」
僕はアスナに核心を突かれてしまい、ドキッっとしてしまった。
それをアスナが見逃すはずもなく、追い打ちをかけられた。
「ほほ~~、あったったんだ。 ちょっとこのお姉様に教えてみなさい。 しょうがないけど条件次第では相談に乗ってあげますのよ。 ほっほっほっ」
「アスナ、お前はの本の影響を受けすぎだ。 人格がごちゃ混ぜになって破綻しかかってるぞ」
「何をおっしゃってるんのでしょう。 私には心当たりがございませんのよ。 ほっほっほっ」
「あくまでもその態度を貫き気だな。 そういうお子ちゃまには何も教えてあげない~」
「ゴラ! 教えんかぁ。 この裏切り者!!!」
「……」
「……その ”裏切り者!!!” っての止めてほしい。 本当に心臓に悪いからね」
「……」
「ま~そうだな、態度を改めれば教えてやらなくもないかな」
「カインお兄様ぁ~ アスナ聞きたいぃ~~」
「……まぁ いいだろ。 アスナの推測通り新ボードについて発見があって凄いことになったんだ」
「そ、それでどうだったの?」
「えっと覚えたのは長方形に線が32本と反対側に1本出ている図形で、その図形には当然配線ができたんだ。 それで……」
「ああ~。 理屈は後でいいの。 結論を早く教えてぇ~~」
「結論としては、”ぼーっとして目を開けたまま寝た顔” をしなくて良くなったんだ」
「……全く、わからないかも。 もしかして”シャキっとして目を閉じて起きている顔” ができるようになったの?」
「そうなだよ。 ”シャキっとして目を閉じて”じゃなかった。 アスナ~、話の腰を折るなよ。 何を話していたか分からなくなるじゃないか」
「もう少し詳しく教えてもらえないかな~」
「う~ん、何と言ったらいいのか。 修練する努力が必要無くなったということさ」
「……なんで努力が必要無くなったの?」
「それは、自動で修練値を上げることができるようになったからだよ」
「なんで自動で修練値を上げることができるようになったの?」
「この前教えた修練用のマルチプレクサの入力を自動で変化できるようになったからさ」
「なんで修練用のマルチプレクサの入力を自動で変化させることができたの?」
「自動的に0、1の信号を変化できるようになったからさ」
「なんで自動的に0、1の信号を変化できるようになったの?」
「クロック、つまり時計機能が<ボード>にあったからさ」
「なんで時計を覚えたらできるようになったの?」
「……」
「……それは アスナが可愛いからさ」
「……」
「……」
「私が可愛いのは間違いないけど、また誤魔化そうとしてるっ、ちゃんと答えてよっ!」
「うぐっ。 ……時計を覚えたことで、0と1を周期的に変えることができたからだよ」
「なんで0と1を周期的に変えることができると、マルチプレクサの4つの入力を変化できるのよ」
「それは、その時計を4つ用意して、それぞれ16秒、32秒、64秒、128秒で変化させたからさ。 そうすれば、16秒ごとに4桁の2進数が、0000から1111まで順番に変化するようになるんだよ」
「……」
「……」
「……何とか、わかったような気がするわ。 要するに時計を使ってマルチプレクサの入力を0000、0001、0010、0011のように最後の1111まで自動で変化させる事ができたのね。 それで16パタンの修練魔法を順場に自動的に発動させることができたといこと。 16パタンというのは8種類の修練魔法とそのリセット信号のペアの合計ね」
「……てっきりアスナが ”なんでなんで口撃”で僕をからかってるのかと思ったよ。 ちゃんと真面目に質問していたんだな」
「……カイン兄ちゃん、本気で言ってる? お兄ちゃんこそ私を焦らして苛めているかと思ったのよ?」
「ええっ? そうなの? なんでだろ~」
「カイン兄ちゃんって、質問に対して答えを妙に簡略化する傾向があるのよ。 だから なんで? って誘導してあげないと、要領を得ないの。 本当にどうしてそんな癖がついたのかな~。 ちょっとは聞く側がどう理解するかを考えながら話してよね。 全くもう兄さんは頭がいいんだか悪いんだか分からなくなるわ」
「……」
僕は愕然としてしまった。 そういえば僕は本能的に話を混乱させて誤魔化すような癖をつけてしまっていたかもしれない。
「……ごめん、そういえば大事な話を誤魔化す癖がついていたかもしない」
「なるほど誤魔化し癖がついていたのね。 分かったわ、これからは腹黒く対処する場合と真面目な対象の場合をハッキリと区別つけるのがいいかもね」
「……」
なんか、アスナに大事なことを教えてやったつもりなのに、大事なことを教えられてしまった感があるな。 今回は有利なはずの僕だったのに敗北を喫してしまったのかもしれない。
それにしても、アスナは随分口達者になったもんだ。 これじゃまるで大人と変わらないじゃないか。 読書の効果ってすごいな。
それから、アスナに図を利用して原理を含めて、もう少し深く教えてあげた。 アスナは最初大変喜んでいたが、これを実践できるのが10才からということで、早く年を取りたいとか言い出して、最後にはだだをこねる始末だった。 まあこの変は年相応といったところなのかもしれない。
アスナ気持ちはわかるけど、君はまだ幼い児童で甘い夢の中のように幸せな時期なのだよ。 こんな幸福な時期を早く捨てたいなんて勿体ない。 僕はだだを捏ねるアスナをほほ笑みながら暖かい目で見てあげた。
◇ ◇ ◇
小学校へ通いながらも、時は過ぎ、僕は10才と1か月になろうとしていた。 後1か月程度で小学校でのお勤めが終わることになる。 自動修練の効果で僕のステータスは、すべて90になっている。
そして、3日後アスナが8才になるはずだ。 8才で覚える<ボード>は、<識別ボード>と<配線ボード>だが、現時点でそれらが何かしら有用であるかを問われれば、正直微妙であるとしか答えられない。 それでも3日後はアスナの誕生日であり、おめでたいことだ。
前回の誕生日は山の中という状況だったので、曖昧にしてしまったのだが、今回はプレゼントとか渡すべきなのだろうか。 う~ん、渡さないと怒られそうだし、渡しても何か言われそうだな~。 そう思うと少し憂鬱になった。
それでも、やはり何か手作りの品をプレゼントしようと決断し、早速考えを巡らしたところ、閃いたことがあったので、早速実行に移してみた。
そしてアスナの誕生日の朝となった。
「アスナ、おはよう。 今日はおめでたい誕生日だね~」
「はぁ~。 私はまだやっと8才なのね。 さっき確認したけれど、<識別ボード>と<配線ボード>は覚えたわ。 これらってまだ効果的な使い方ができないのよね?」
「<配線ボード>は今時点で有用な使い方は無いかもね。 一応<発動ボード>への配線は試してみた?」
「あ! ちょっと待って、それ忘れてた~。 ……あ~繋げれた~、よかった~」
「まぁ、僕ができることは、アスナもできるはずだからね。 それに他の<ギフト>の人だって同系統なら誰だって同じことはできるはずだね。 ん?稀に何か有ったかな? でもそれはできることが増えていただけで標準的なことは皆できていたはずだよ」
「カイン兄さんが特殊って可能性はないの? 私には自動修練なんかできないとか」
「ほ~、アスナが珍しく弱気じゃないか~。 お兄ちゃんとしては、ちょっと微笑ましく思うぞ」
「兄さんって、やっぱりクズなのね。 小学校でも不良グループの仲間だって聞いているし」
「何を言ってるんだぁ~。 あれはギルド依頼でやってるだけだ。 それに今ではその不良グループも解散しているんだ。 僕の功績は大きんだぞ」
「……なんか随分必死にみえるけど。 まあいいわ。その内に真実は暴かれるのよ」
「……」
「それにしても、私は8才になっても特別にできることはないのね。 図書館のコピーもそろそろ終わりそうだし」
「僕も8才でできることが少なすぎるように思うんだよな。 なんか2つも<ボード>覚えてもその時点で何もできないとか変なんだよな。 魔法の識別には役立つんだけど。 あ、そういえばスッコロビの睡眠魔法パタンも記録しておいたんだった。 識別ができれば魔物相手だとかなり有効なのかもな」
「睡眠魔法か~。 あとで教えてね。 でも魔物相手って、ひ弱な8才児でできることではないわね」
「う~ん。 やはり<識別ボード>にも隠れた何かがあるんじゃないか? アスナちょっと研究してみたらどうかな?」
「研究、研究ね~。 カイン兄さんはもうしないの?」
「えっとね、僕はもうすぐステータスが100を超えてくるんだよ。 だから下級魔法とかでいろいろと調べることが有るんじゃないかと思ってるんだ」
「じゃ~、<識別ボード>とかの研究は、私が担当するね。 どうせ私の方が見つけるの早そうだし~」
「うぐぅ。 是非お任せするよ。 何か見つけたら教えてくれよな」
「分かったわ。 色々教えてもらってるし当然かな」
「アスナも8才になって、しばらくは研究に勤しむことになるんだね。 じゃ僕から誕生日プレゼントとしてこれを渡しておくよ」
「何なの? 実験道具かなにか? これ研究に必要なの?」
アスナは僕から渡されたサプライズプレゼントを開けて見た。
そしてそれを見たとたん涙を浮かべて泣いてしまった。
「……カイン、カイン兄さん。 ありがとう。 本当に嬉しいプレゼントね。 本当に……」
「ああ、気にはなってたんだよ。 逃げるようにしてクローク伯爵領から脱出したからね」
「そうね。 ……私も後で空間倉庫をさがしたけど、こういうのは無かったわ」
アスナに渡したプレゼント。
それはツキヨミ様の写真を原画としてアスナ、つまりエミリ様と一緒にほほ笑んでいるところを描いた絵だった。
僕のスケッチ能力はミズチ様に鍛えられて結構上がっていたし、今ではDEXが90もある。
僕の<図面記録ボード>に保存されている写真やパラパラ動画を参考にして描かれたそれは、まるで本当の写真のような出来の人物画だったのだ。
ざまぁみろ~。 久々にアスナを泣かせてやったぞ! これは僕の勝利だな~。
◇ ◇ ◇
翌朝、僕は小学校へ来ていた。 今日は小学校編入業務の最終日だ。
当たり障りなく小学校から退くために僕は小学校の卒業試験を受けることになっていたのだ。 試験会場の教室へ入って行くと、すでに数名の児童が着席していたが、その中には見知った顔は見当たらなかった。 僕も着席して暫くすると、試験係のアスカル先生が入って来た。 僕を見るなり顔をしかめたのだが、そこはプロなので嫌がらせを受けることもなく試験を受けることができた。
ただ、やっぱり試験内容はゴミだった。 小学生卒業レベルとしては適正かもだが、中学校卒試験もゴミと感じた僕にとってはまるで問題にならない。 さっと解いて早めに退出しようと廊下に出たところで、アスカル先生に呼び止められた。
「カイン君、ちょっと待ちたまえ」
「アスカル先生、何でしょうか」
「もうカイン君は、ここを出ていくつもりなのか?」
「ええ。 ギルドとの契約期間は終わりですので問題ないかと思います」
「……そうか。 それは残念だ。 君は、予想外に凄いエージェントだったな。 このまま教師になってほしいぐらいだ」
「ん? 僕が教師ですか? いやもういいです。 僕もこれからアラウミ王国へ行かなきゃならないので無理ですね」
「わかったよ。 でもこれだけは言わせてほしい。 短期間だったが、あの学生達を更生させるなんて神業だったよ。 本当にありがとう」
「ええっ! いえいえ神業だなんて、単にゲームをして遊んだだけですよ」
「そのゲームなんだがな、是非我々にも教えてもらえないだろうか。 その意義も含めて教えてもらいたいんだ」
「そうですか。 ……教えるのは簡単なんですけどね。 ただ僕が関与したのは最初だけで、あとはあの先輩方が試行錯誤して調整していったものなんです。 僕の独断で教えることはできても、それを公式に使うのは厳しいのではないでしょうか」
「なるほど、そういうことだったのか。 ……では商業ギルドで正式に登録して貰えないだろうか。 そうすれば我々も公式に使えるようになるはずだからね」
「商業ギルドで登録ですか。 ……僕は構いませんが、他の先輩方の了解は先生が取ってくださいね? 僕はあと1週間以内にこの首都モナッコを出ていくので早めにお願いします」
「一週間ってそんな急に? でも了解した。 あとは任せてくれたまえ。 準備が整ったら連絡するよ」
「はい。 お待ちしています」
それから2日後、僕は先生から呼び出しを受けた。 約束の時間までに商業ギルドまで来てほしいとのことだ。 あのゲームの登録を行うのだろうから、 スティンガさんにお願いして一緒に商業ギルドまで連れていってもらった。
そこには先生と、あの12名の先輩方がすでに到着していた。
そしてアスカル先生が話を始めた。
「さて皆、集まってくれてありがとう。 これからあのゲームについて、新規事案登録を行いたいのだが、いいかね?」
「 「 「 はい 」 」 」
「おぅ」
「ギヒヒ」
「やったね」
「これは私たちの実力ね」
「ざまぁ~」
「では最初にこのゲームの名前を教えてほしいのだが、決まっているのか? 決まってないなら提案はあるかね?」
「……」
「何もないのか。 ……は、私から提案しよう。 ”戦術的教育訓練ゲーム” とかどうかね?」
「いや、それは無いだろう~。 どう考えてもダサいよな」
「そうよ。 ダサいよ~。 先生ダサいよ~」
「ダサイ、ダサイ~」
「……では何か案を出してくれ」
「そうよね~。 魔物に関係したゲーム名がいいんじゃないの?」
「そだな~。 知的な強い魔物がいいな~。 おいカイン何か知らないか?」
「えっとですね、強いならドラゴン系ですよね。 知的となると、……スッコロビという特殊な名前の魔物しか心当たりがないです」
「スッコロビって何だ? 聞いたことが無い魔物だな」
「水生の魔物で、睡眠魔法を使ってくる奴で人語をある程度解するんです。 アタスタリア王国付近の海に生息しています」
「じゃ~、スッコロビゲームで決まりだな。 何か文句がある奴は前へでろや、コラ!」
何か一番年上の先輩が必死に威嚇してきて、なんでだろうと思ったが誰も否定しなかった。
「そうか、スッコロビゲームか。 面白そうな名前でいいかもな。 先生もそれでいいと思うぞ。 あとは駒の名前なんだが、決まっているのか?」
「はい、STRとかVITなんかは冒険者チームでいいと思います。 それぞれの駒はそのままSTRとかのステータス名が分かりやすくていいです。 それから魔物の名前ですが、珍獣カインです」
「ちょっ、珍獣カインは反対です。 なんで僕の名前が入っているんですか~」
「よし、わかった。 それでは、得られた利益の分配金なんだが、13人で等分でいいか?」
「 「 「 「 「 はい 」 」 」 」 」
「あの~、珍獣カインはちょっと困るん……」
「では登録しに行こう」
「 「 「 「 「 おー 」 」 」 」 」
こうして僕の抗議は完全に無視されて、多数決によってスッコロビゲームが登録されてしまった。
アスカル先生によれば今後この国の小学校では珍獣カインを倒すスッコロビゲームが教育プログラム入りするとのことだ。
なんてことだ!
僕はこの結果に残念な気持ちになりながら、ここを出ていく時を大人しく待ったのだった。
第三章はこれで終わりです。
すみません。 もしかしたら投稿ペースがさらに遅くなるかもしれません。 ただ下書きはまだままストックが沢山あるので投稿は続けていきます。