35. 新しいゲーム
苦虫を嚙み潰したような顔をしたあの教師――名前はアスカル先生に連れられて僕は特別特待生クラスを見学することになった。 クラスは国語の授業を別の先生達から受けていた。 2名に教師が1名の割合で付くというかなり手厚い教育体制だ。
アスカル先生と僕は、クラスを別の場所から見学できる場所へとやって来た。 教室は小ぎれいで、むしろ上品とも言える感じであり、荒れ果てたという感はなかった。
それなのに、中の児童には特徴があった。 明らかにやる気のある子と無い子に別れていたのだ。 それ自体さほど不思議ではないかもだが、やる気のない感じの子は死んだような目をしながらも整然と授業を受けているのだ。 つまり、教室は予想に反して非常に平穏だったのだ。
まさか! これは、まさか!
やる気のない感じの子は隷属化されて強制的に授業を受けさせられているんじゃないのか?
ヤバイ! ヤバイ!
隷属化されて強制的に授業を受けさせられたら、修練ができないじゃないか。
僕はあまりのことに大きく動揺してしまった。
そして怯えるような目でアスカル先生の様子を窺ったのだが、そんな僕にアスカル先生は少し驚いたような顔をした。
「……こんなにまでして、この年齢の子に授業を強いるべきなのでしょうか?」
「お前……、この光景が何なのかわかるのか?」
「ええ。 隷属化して強制的に授業を受けさせてます」
「なるほど、単なるコネ入学では無かったということなんだな。 ということは本当にギルドから派遣されてきたエージェントだったってわけか?」
「エージェントかどうかは知らないですが、ギルドの依頼で来たのは事実です」
「う~ん、では、ちゃんと答えねばなるまい。 隷属化は、……お前の言う通りだ。 それがやり過ぎなのは十分承知なんだが、仕方がない事なんだ」
「何がどう仕方がないのですか?」
「お前が編入するクラス、特別特待生クラスはな、この学校のスポンサーとなる方々の子供達で構成されているクラスなんだ」
「能力的には普通の子たちなんですよね、どうして隷属化までするのでしょう」
「この子らの親は財力があるのだよ。 この国には世襲制の貴族は存在しない。 そして財産の相続も厳しい上限が設定されていて、裕福な親の子が裕福になる確率はそれほど高くない。 商家でさえ、国家資格による規制があってな、実力主義が徹底されているのだよ」
「徹底的な実力主義なら、裕福な親の子の方が教育にお金を掛けられるから結局有利なんじゃないの?」
「まぁ そうだな。 だからこのクラスで特別な授業をしているわけだ。 必要に応じて隷属化するという手段まで用いて徹底的に英才教育を受けさせるわけだ。 そして、20才になったら、必要最低限の支度金を持たされただけで、親からも引き離されて社会へ放り出される子供達なんだよ」
「隷属化しての英才教育ですか……」
「隷属化といってもな。 授業時間のみの間だし、本人がどうしても拒絶するなら申し出て隷属を解除してもらうこともできるのさ。 ここで隷属化されて教育を受けている子は、半分は望んでやっていることなのさ」
説明されたことに一応理性では納得はできたものの心情的には不愉快だった。
これって、子供を思う親のエゴなのではないか? とも思ったが、これほど徹底した実力主義の国では特殊あっても実践的な方法なのかもしれない。
これじゃ実力の無い者は浮かばれないな。
福祉事業みたいな仕組みは無いのだろうか? 僕は<文字記録ボード>の中の政治経済に関する知識を調べたが、この国にはそんな仕組みは存在していないようだ。
「英才教育と努力で実力をつけた者が裕福になる、というのは納得できるるけど、その反面、弱者たちは貧乏のままなんですか? 何等かの救済措置はないの?」
「そんなものは必要ないな。 努力できない奴はクズなのさ。 貧乏で当たり前だ」
ここは弱者に厳しい社会だ。 弱者を放置すると治安が乱れるような気がするけど、今は力づくで押さえつけるんだろう。 こんな状態では隠れたところで治安が悪化してしまっていても不思議ではない。
あれ? いつの間にか会話が社会的な問題の話に代わってしまっているじゃないか。 こんなのは大人が考えればいいことだ。
う~ん、でも僕は大人の記憶を持っていて精神的には大人だから僕は考えるべきなのか? いや、だからと言って僕はこの国のために何かを成す必要はないだろう。 やはり関わるべきではない。 僕はあくまでも小学校へ編入して3か月間を無事に過ごせばいいだけなんだ。
「わかりました。 僕には関係なさそうなので、このクラスで静かに勉強させてもらいます」
「うむ。 静かに授業を受けていれば問題はないだろう。 だが君はエージェントなんだろ? 何かをするんじゃないのか?」
「いえ、ギルドからの依頼では、ただ普通に編入して3か月ほど過ごせばいいと聞いているので、その通りに大人しくしておきます」
「……ギルドの意図は分からないが、問題を起こさなけばそれでもいいだろう。 ただ、ここの生徒らの他にも、サボって出席していない奴らがいてな。 そいつらはちょっと厄介な生徒なんだ。 お前に絡んでくるかもしれないから気をつけろよ。 間違ってもそいつらの仲間とかにはなるなよ?」
「僕には別にやることがあるので、そんな仲間になる暇はないです。 その辺は心配いただかなくて大丈夫です」
「わかった。 では担任になる先生を紹介しよう」
それから僕は実際に授業を受けてみたが、大人の知識と知恵、そして<文字記録ボード>がある僕にはまるで問題にならなかった。
これなら何時ものように、”ほーとして目を開けたまま眠っている” ようにして修練魔法による修練ができる。
そして早速修練を始めることにした。 そんな僕に対して最初の頃先生は僕がサボっていると勘違いしていたのだが、”授業レベルが低いのでもっと高度な問題を解いていたり、暗記したものを復習したりしてるんです” と言って先生を説得することには成功した。
そんな授業を受けながら平和な数日が過ぎで、ある授業を受けていた時、教室に子供の乱入者があった。 先生が乱入者に対応するだろうと思ったが、意外なことに先生は無関心を通した。
そしてその乱入者は、僕の前まで来るといきなり絡んできた。
「おい! お前起きろ! 嘗めた態度で授業受けてるって奴はお前だな?」
「僕は起きてるよ? 授業中なんだから静かにお願いします」
「貴様ぁ! ちょっとこっち来い。 分からせてやる。 来ないと騒ぐぞ!」
騒ぐってなんだよ! 僕泣いちゃうぞ的なものか?
そんなのは周りに迷惑がかかるだけで僕には実害が無いじゃないか。
やはり子供だな~、考えが幼稚すぎる。
だけど、空気が読める僕には有効なんだなこれが。
「はい、はい、 付いて行きますよ。 だから騒がないでよね」
面倒くさいので、素直に付いて行くことにした。 連れていかれたのは、学校の最上階にある、”特別控え室” と書かれた表札のある胡散臭い部屋だった。
その部屋には、僕を案内した子供の他に、僕とそんなに年齢が変わらない子供と中学生らしき子供が合計で11名ほどが遊んでいた。
「先輩、例の新しい候補を連れてきました~」
「おお、コイツがサボっていて隷属化も拒否したっていう有望な奴か」
有望な奴って、……まぁその自覚はあるのだけれども。
コイツ等が例の先生の言う ”厄介な生徒” なんだろうか。
それならば適当に煙に巻いてやり過ごしてやろう。
「はい、僕が有望な生徒です」
「……」
「じゃあ テストしてやる。 11+12はいくつだ?」
「……」
「なんだ、答えられないのか。 お前もアホじゃないか、 俺らの仲間だな!」
予期せぬ問題に僕がボー然としている間に、仲間認定されてしまった。
マズイ。
先生から仲間になるなと言われていたじゃないか。
「余りにも予想外の問題だったので気が動転しただけだよ。 それに仲間にはなりません」
「ほぅ、まだ抵抗するか。 それでは円周率を言ってみな」
僕はまた一瞬ボー然としてしまった。 なぜこの世の人は円周率を問題にしたがるのだろう。
「……3.14159位です」
「……」
「なんだ、お前やればできるんだな。 よし合格だ。 特別に仲間にしてやる」
「仲間にはならないって、さっき言ったよね」
「じゃ何で俺らのテストに合格したんだよ」
「えっと訂正します。 ……3.59位です」
「……」
「いまさら訂正しても遅いんだよ。 お前は俺たちの仲間だ。 これは決定事項だ」
う~ん。 この国にはお貴族様はいないけれど、大富豪の方々も貴族様のようなものなのだろうか。 結局同じような人種がいるんだな。 こういう人って言い出した聞かないんだよな~。 さてどうしたら諦めてもらえるだろうか。
「じゃ~僕とゲームで勝負して決めませんか?」
ゲームと聞いて、先輩方がの目が異様に光った気がした。
何かゲームに思うところが有るのだろうか? それとも遊びに飢えているだけなのだろうか。
「お、おぅ。 まぁいいだろう。 俺たち全員に勝てたら見逃してやろう。 それで何のゲームなんだ?」
「ショーギゲームというんですけど、今はそのゲームセットを持ってきてないです。 明日もってくるってのはどうでしょうか?」
「まぁいいだろう。 明日必ずそのショーギゲームを持ってくるんだぞ? おい、お前そいつを解放してやれ」
僕は解放されたので、教室に戻って平然と授業を受けてから帰宅した。
明日は学校をサボろうかな。 そうすれば奴ら僕のことを忘れてくれないかな。
でもそれは甘いだろうな。
仕方がない、ショーギゲームを持って行ってやるか。
「フィリアさんはいますか? ショーギゲームを一つ持っていきますね」
「おぅ。 持って行っていいぞ。 フィリア姉さんはあの町に一旦戻っているからな」
「え? もう戻っても大丈夫なんですか? それに僕と契約していたはずなんだけど」
「なんか急用ができたとかで、一旦こっそりと戻るってことだ。 カインちゃんの小学校潜入業務が終わった頃には戻ってくるそうだぞ」
「ヴァイタリさん、潜入じゃなっくて、編入なんですけど。 でもまぁ分かりました。 後で問い正してやります」
「ちょっとまて! 問い正すのは止めてくれ。 大人の微妙な問題なんだ。 巻き込まれるのはごめんだ」
「分かりました。 微妙な問題なんですね。 あのクールなマスターが関係しているとか?」
「……」
「大人の事情にあまり首を突っ込むと碌な目に会わない気がするぞ。 気をつけろよ」
なんかヴァイタリさんが怖い顔つきをした。 元々怖いのだが威嚇されている気がした。 本当に触らない方がよいらしい。
「……わかりました。気を付けます」
翌日僕はショーギゲームを持って小学校へ登校した。 そして授業を受けようとして待機していたら、あの呼び出し係がやってきて、始業開始前に”特別控え室”まで連行されてしまった。 僕の体力は大人並みなので跳ねのけるのは容易いが騒がれると面倒だから逆らわなかった。
「おぅ。待ってたぞ、早速ゲームを出してみろ」
先輩は大分お急ぎのようだ。 こんなに早く呼び出されるなんて思わなかった。
そんなにゲームに飢えているのだろうか。
「おはようございます。 はい。 持ってきました。 このゲームは商業ギルドに登録したばかりのまだ殆ど知られていない新しいゲームです」
「新しいゲームってお前、随分やるじゃないか。 お前の親は誰なんだよ」
「えっと、親は言えませんが、保護者は冒険者ギルドのマスターです」
「ゲッ、アレか。 ……まぁいいや。 とにかくそのゲーム教えろや」
僕は、先輩達? にショーギゲームを教えてあげた。
そして、簡単な模擬戦をやってあげて、”後は練習しておいてください。明日は僕と勝負しましょう” という展開でその日は授業へと戻ることができたのだった。
そして翌日の朝、僕はまた、”特別控え室” に連れ込まれていた。
このままではこの先輩方々の仲間と見られてしまいそうだ。
「おぅ来たな。 じゃ早速始めようぜ。 まずは一番弱いお前がソイツの相手をしてやれ」
随分急ぐな~と思いながらも挑んで来た子供に速攻で勝ってあげた。 その次の相手もまた次も。
そして、全員を完膚なきまでに叩きのめして圧倒的勝利を勝ち取った。
約束では、これで解放されるはずである。
僕はすぐに本来の教室へ戻ろうとして”特別控え室”の出口へと向かった。
だが、例の先輩に回り込まれてしまった。
「おい。 勝ち逃げは許さんぞ!」
「イヤイヤ、僕が全員に勝ったら、見逃してくれるって言ったじゃないですか~」
「ん? そんなこと言った覚えなんか無いぞ。 お前の勘違いだろ。 とにかくもう一戦頼むわ」
「負けた癖に諦めが悪いな~。 というか先輩達じゃ僕の相手にならないよ?」
「うぐぅ~。 なら、もう一戦だけ、それだけでいいから対戦してくれ」
「わかりました。 けど一つ条件があります。 ”3回まわってワン” をやってください」
「ん? ……なんだそれは? そんなの知らないぞ、教えてくれ」
「……わかりました。 一回やってみるので覚えてね」
僕は ”3回まわってワン” を実演して見せた。
「ワッハッハ、 それ面白いな。 まぁ~許してやろう。 じゃあ1戦するか~」
コイツ!
僕に ”3回まわってワン”をやらせた上に、もう一戦とか立場を分かってないんじゃないか?
ヤバイ、コイツはヤバイ位に鈍いのかもしれない。
もう一戦やって相手にならないことを十分に分からせるしかないか。
僕は、仕方がないので、もう一戦ショウギゲームをやって、今度も完勝してみた。
「お前! ずるいじゃないか。 なんでそんなに強いんだよ。 おかし~だろ~」
「僕は1か月前くらいから、研究していたからね。 一日の長って奴さ」
「やっぱりズルしているじゃないか。こんなの平等な勝負じゃない。 もっと違うのを教えろよ!」
「……」
これは一体どうしたらよいだろう。 僕は考え込んでしまった。
一日の長が許されないなら僕が知っているゲームは全部ダメということだ。
既存の良く知られているゲームなんかじゃ、この先輩方は満足できないだろうから、何か新しいゲームを作らなきゃならないのかな。
そこで ピン ときた。
僕は新たなゲーム案を提案してやることにした。
「なら僕たちで新しいゲームを作ってみない?」
「……」
「何を作ればいいんだよ。 こんな凄いゲームなんて作れないぞ?」
「そ~だよね。 ……うん、実践的な感じに近くするのはどうだろう。 STRとかMNDとか持ってる駒が勝負するっての。 全駒がHPとMPを一定量持っていて、集団で対戦するゲームとかどう?」
「で?」
「STRは攻撃は全方位できるけど、HPは低い、移動可能なマスは2づつ、 VITはHPが高いが、攻撃はできない、ただし範囲1マスの駒は移動できなくなる、移動は1つづつ。 INTは攻撃のみ遠隔で……」
「なるほどなカイン、そのゲームは実際に魔物と戦う感じか? 魔物の強さも色々と調整できそうだな」
「ね~先輩、魔物だけじゃなくて、人と人との戦いでもいいわよね?」
「お前ら、HPとかMPの管理ど~すんだよ?」
「そんなの駒を少し大きめにして、数字を描いた磁石を貼り付ければいいじゃん。 それで攻撃を受けたら、減らすみたいな?」
「駒の動ける範囲とかは、MNDが金将みたいでいいかな? INTは銀将的な?」
「なら、AGIは縦横斜めに2マスとか全方位桂馬のように移動するとか、どう?」
こうして僕を置き去りにしての話し合いが始まり、新しいゲームの原案作りについて熱い議論が展開された。 そして僕は、関心を示す先輩方が居なくなったので、こっそりとその場からトンズラしたのだった。
先輩方、今回は僕の大勝利だったな! 簡単に逃げてやったぞ。
不良先輩なんて人攫いとかと比較すると子ネズミみたいなもんだぁ~。
だがしかし、数日後また呼び出されてしまった。
何だよも~。 僕を巻き込まないでほしい。
自分たちだけで遊んでろよ~。
今度は、先日皆で作っていたゲームで、僕を魔物役に仕立てて対戦してみるとのことだ。
そのゲームで僕は魔物役をすることになり、その魔物はでHPやMPも高く一回あたりの移動距離も長く設定されていた。 だが、相手は12人もいて、どう見ても相手の合計HPより僕のHPの方が低い。
これって明らかに不公平じゃないの?
そうまでして、僕を苛めたいのか?
少々残念な気持ちになってしまったのだが、ここは大人対応で相手してあげることにする。
対戦が始まった。
相手は12人の冒険者チームだ。
VIT役が2名、STR役の5名、INT役の2名、MND役の2名、AGI役の1名の12人で、それぞれの駒を各先輩方々が1名1つづづを担当していた。
僕はまず相手の動きを見ながら、ゆっくりと右前方へ移動していった。
僕の動きを封じたいのだろうか、相手のVIT役の2名がが前に出て来た。 それに連動するようにしてアタッカーであるSTR役、INT役、回復担当であるMND役、遊撃担当のAGI役が続いてくる。
僕はVIT役から逃げるようにして微妙な距離を保って捕まらないようにして隙を伺っている。
この戦力差では、VIT役に捕まったら負けは見えている。
やがて相手のINT役が遠距離から魔法を放つ準備を始めた。 魔法の発動は1ターン後ときめられている。
僕はギリギリのその範囲を逃れて、STR役の1名に近寄ると物理攻撃を仕掛けた。
物理攻撃は接触すること発動でき、そのターンで効果が出るのである。
僕がそのSTR役を狙ったのはVIT役から少し離れていたからだ。
僕のその攻撃によってSTR役のHPは減らされることになった。
STR役は逃げずに踏み留まって僕を攻撃することを選択し、その結果僕のHPがほんの少しだけ減ってしまった。
するとそこでMND役がSTR役へHP回復魔法を準備し始めた。
回復が発動するのは、攻撃魔法と同じく1ターン後だ。
周囲の先輩方は僕を目指して集まって来ようとしている。
このまま攻撃すればSTR役を倒すことは可能だろう。
だが僕の目的は違うのだ。 あくまでもこれは陽動なのだ。
HPが残り6割となっているSTR役を放置し、MND役目掛けて移動し、予定通り物理攻撃を仕掛けた。 そして僕の攻撃によって脆弱なMND役のHPは一発で消し飛んでしまった。
相手の敵チームは何やら騒いでいるが、僕には関係ないことだ。
今度は移動速度を活かして、一旦距離を取り、少し遠めにいるAGI役の方へ旋回するように進んでいった。
AGI役は桂馬飛びで逃げる。 だが、速度は僕の方が早い。
あっという間に距離を詰めて攻撃を始めた。
AGI役のHPが減る。 AGI役は逃げるために攻撃しない。 回復してもらうためにMND役のいる方向へ進むことを優先させているのだ。
僕は逃げるAGI役を追って物理攻撃を仕掛ける。
そして漸くMND役の射程に入ったためかAGI役が止まり無謀にも僕へ攻撃を仕掛けてきた。
MND役が回復魔法の準備を始める。 AGI役への着弾は1ターン後だ。
僕はそこで踏み留まって、AGI役を放置して範囲攻撃魔法をMND役へ向かって放った。
そのMND役の近くにはSTR役とVIT役、INT役が居るが、僕には関係ない。
INT役はAGI役を巻き込めないので僕へ範囲攻撃魔法を使えない。
VIT役は僕を補足しようと僕へと迫る。
VIT役がMND役から離れたので僕は躊躇することなく、MND役へ近づき物理攻撃を仕掛けてHPを消し飛ばしてあげた。
MND役の近くにはSTR役3名居り、僕に仕返しとばかりに物理攻撃を仕掛けて来て、僕のHPは8割近くにまで減ってしまった。 でもその程度の損害は折り込み済だ。
僕の戦略上の作戦は成功しMND役を全て葬ったのだから全く問題ない。
僕はVIT役が到着する前に、その場から離脱した。
魔物役の僕には回復魔法はないが、HPが高く物理攻撃や単体または範囲攻撃魔法が使える。
それからの僕は、移動速度を活かして、ヒットアンドアウェイで範囲魔法や直接攻撃を行い、
最後にVIT役を仕留めて勝利を勝ち取った。
相手がMND役の重要性を全く理解していなかったことが僕の勝因だったと言える。
「お前なんだよ~。 MND役を最初に倒すなんて卑怯じゃないか~~~」
「先輩方、僕の駒のHPは先輩方のHPの合計よりも低いんだよ? 明らかに僕の方が不利だったよね。 それでも僕が勝てたのは、先輩達が戦いの基本を知らないからだよ」
「じゃあお前が今度冒険者チーム役やってみろよ。 俺達が魔物役やってやるからな」
僕と先輩方々は、それから魔物役を入れ替えたりして数回戦ったが、当然ながら僕が全て勝利した。
先輩方々も疲労見え始め、僕も疲れて来たので ”もう帰りたいからそろそろ負けてあげます” と言ったら、それが切っ掛けとなってその日の対戦は終了した。
そして、翌日も、その翌々日も、僕はその新しいゲームの相手しなければならなくなり、そしてほぼ毎日、”特別控え室”へ連行されるようになってしまった。
これって完全に僕は先輩方々の仲間だよね。
先生ごめんなさい。
約束守れませんでした。
だがそんな不良グループにも変化が現れて来た。
僕の出番はだんだん減っていき、驚いたことに、先輩が1名、また1名と減りだしたのである。
減ったのは15才以上の先輩達で、驚いたことに修練をするためにゲーム遊びを止めるいう理由だった。
そんな年齢の先輩がこの小学校で遊んでいてもよかったのか? とも思ったが、それがこの学校の実態だったということだ。
そんな問題がある先輩方々も結局はステータスの有用性を理解したようで、真面目に修練に取り組むようになったのだから、これはこれでいいことだ。
そして、遂に、中学生年齢の先輩達も人数が減り始めた。 勉強してステータス向上のために備えるとのことだった。
そして1か月程経過した頃には、僕は先輩達から解放されて教室へ戻ることができていたのだった。