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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第三章 サトエニア共和国編
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27. 巻き込まれ

 何切れてんだこのお姉さんは…こんな段階で切れるのはおかしいだろう~。 明らかに演技だというのが丸わかりだ。 僕はちょっと驚いたのが、心は不思議と平静を保っていた。


「……はぁはぁ。 あ、貴方、……ただ者じゃないわね。 ……はぁはぁはぁ、はぁ」


 僕はアスナに鍛えられているし、何度も死にかけたし、隷属者も経験しているので多少のことでは動じない。


「……で、結局何者なの? 正直に言わないと酷いわよ」


「……えっと正直に言います。 故郷から連れ去られて、今は追われている流浪の民です」


 お姉さんは、僕を睨みつけて、顔を真っ赤にして体を震わせている。 僕は嘘をついていないのに何か本当に怒らせてしまったようだ。 

 今にも襲われそうな気配もある。 このままでは命が危ないかもしれない、今までの努力が水泡に帰してしまう。

 危機感を感じた僕は、正直に白状してしまうことにした。

 ここは外国だし、正体がバレても即危険な目には会わないだろう。 それに何時までも逃亡し続けるのはやはり無理だ。


「もうちょっと詳しく言うとですね。 僕はアタスタリア王国のマインタレスの町に住んでいたんですが、人攫いに会い隷属者にされて、コインロード王国のクローク伯爵領で働いていました。 そこが戦争で滅んだので隷属者を解放されました。 危ないのでそこからダンジョンを抜けて今度はランドリフ侯爵領へ逃げて、さらに逃げてこの国に入って、何回か町や農村へ寄っては逃げてを繰り返して、ここへ辿り着いたのです」


 怖そうなお姉さんは、怒っていたのだが、突然ハッと何かを気づいたようだ。 

 お姉さんは、”ちょっとここで待っててよ!” と言って更に奥の部屋へ走っていってしまった。


 これはチャンスだと、その場から逃げようとしたのだが……。


「おい! お前! 注文はどうしたっ!」


 例の強面(こわもて)の冒険者さんが僕を睨みつけている。

 

 いやだな~ また僕を怒っている大人がいる。

 大人なんだからもう少し冷静になることを覚えた方がいいと思うんだがな~。

 そんなんじゃアスナの相手はできないよ。 

 ……まぁできなくていいか。


「お前に言ってんだよ、答えろよ!」

「あの~。 緑の制服を着た怖い、……綺麗なお姉さんに、”ここで待ってて” って言われたので待ってるんです」


「なんだ、と?」


 僕は正直に答えたのだが、強面(こわもて)の冒険者さんは明らかに動揺した態度をとってから、すぐに退却していった。 どうやら綺麗なお姉さんは余程人望がある人のようだ。


 そして僕はこの場から逃げようと試みたのだが、その隙を与えず、お姉さんが緑の制服を着たキリリとしたお兄さんを連れて来てしまった。


「この子が?」

「ええ、この年齢で、死にかけるような修羅場を何度も経験しているようです。 わたしの威圧にも動じない奴です」


「あの~もう帰っていいですか?」


「わかった、テストしてやろう」    


 この人もアレか、全然人の話を聞かないお貴族様タイプ。



「え? イヤですよ?」

「円周率を答えよ」

「3.14159」       


 しまった条件反射で答えてしまった。 僕の悪い癖だ。


「2の平方根は」

「1.41421356」     


 ついでだから答えてみた。 もうどうでもいい。


「よし、採用だ」 


 何か採用されてしまった。 これは面倒事の気配がする。


「わかりました。 ではこれで失礼します」   


 自然体を装ってギルドから出て行こうとしたが、お姉さんにまた捕まってしまった。


「逃がさないわよ」 

「逃げるなんてとんでもないです。 そんな風にみえましたか?。 用事が済んだようなので退出しようと思っただけです」

「採用されたんだから、やるべき事があるのよ」

「……」


「僕はやるべき事をやり切ったから満足しました」

「いや、まだやり切ってないわよ」

「えっ? やり切ったから採用されたんじゃないんですか? まさかやり切って無いのに採用されたんですか? ショックです。 この話は無かったことにしてください」

「あ、いや、ちゃんとやり切ったから採用したんですよ」

「じゃ、やるべき事をやり切ったので、今日は終わりですよね」


「……」


「ではこれで失礼します」

「ちょっとそんなんで逃がさないわよ」 

「逃げるなんてとんでもないです。用事が済んだので退出するんです」 

「まだ用事は済んでないの!」

「え? 用事が済んだから採用されたん……」


「そんなんで、大人は誤魔化せません!」


 僕はお姉さんにがっちりと確保されてしまった。


「えええっ? ちょっと離してください。 痛い痛い痛い、これは明らかな児童虐待ですよ。 犯罪ですよ。 これは犯罪ですよ。 攫われる、攫われる!、ショタコンの変態に攫われるぅ~~」



 必死な抵抗も空しく、僕は結局ギルドの奥へと拉致されてしまった。


「こ、こいつ 私のことを言うに事欠いて ショタコンって言いやがった!」 


 お姉さんは怒っていた。


「あっはっは、 サブマスター ちょっと落ち着いてください。 それにしても中々面白かったですよ。 大したもんです」 


 お兄さんは喜んでいた。

 僕は冷静だった。 こうなったら逃げも隠れもできない。 交渉を有利に進めるだけだ。



「……ではご用件をお聞きしましょうか。 条件によってはご協力することも藪坂(やぶさか)ではございません」


「……」


「まあ強引に事を進めたのは悪かったよ。 ちょっとこの町で事件が多発していてね。 焦っていたんだよ」


「そうですか。 それで?」


「君に事件の捜査に協力してほしいんだ」


「こんな、いたいけな児童に協力ができるとは思えませんが、もう少し詳しくお教えいただけますか?」


「こ、こんガキ、いたいけな児童だって? ふざけるのも大概にしなさい!!」  


 このお姉さんはまだ怒っているのか? これでサブマス? もうちょっと大人にならないと駄目だな。 

 本当にこの町って大丈夫なのかな~。


「サブマス落ち着きなさい。 我々は今大事な交渉を進めてるんですよ?」 


「クッ、 …すみませんでした」  


 お姉さんは漸く落ち着いてくれた。


「話を元に戻しましょう。 それで、最近児童が攫われる事件が4件立て続けに起こっていてね。 その児童は皆そろいもそろって成績優秀な者ばかりなんだよ。 そして我々ギルドも町から依頼を受けて捜査をしているんだ。  ここまではお分かりいただけたかな?」


「ふっ、 それで僕に囮になれと?」


「話が早くて助かるね。 そういうことだよ」


「いたいけな児童を囮にですか。 ……中々斬新な作戦ですね。 斬新すぎてお話にならないですね」


(もっと)もな意見だね。 我々も囮作戦には否定的な立場をとっていたんだけどね。 そこへ君が現れたというわけなんだ」


「なるほど、僕ならこの町の者ではないから、最悪どうなっても良いと?」


「いやいや、そんなことは言ってないよ。 君の素性、……自己申告が間違いなければ、かなりの修羅場を()(くぐ)って来ている手練(てだ)れだと思うよ。 先ほどのサブマスの扱いも見事なものだったね」


「そんな買いかぶりもいいところですよ。 結局逃げられなくてこうして交渉しているわけですしね」


「いえいえ、私がいなければ、サブマスを激怒させて、追い出させるつもりだったでしょ?。 半分以上成功していたよ。 大したもんだ。 それに……」


「それに?」


「それに、ここへ来たということは、何かお困りなのでは? 我々も多少は便宜を図れるよ? それでどうだい?」


 う~ん まぁそういう話になるよね。  けれど囮って明らかに危険なんだよな。 かと言ってこのまま国中を逃げ回るのも危険だしなぁ。 さてどうしたものか。


 僕はお姉さんに視線を移したが、お姉さんは青くなって下を向いている。 ちょっと大人しくなりすぎだ。 

 そして、お兄さんはニコニコしながらこちらを見ている。  

 これだけゴネたらそろそろ交渉に決着をつける潮時なのかもしれない。 


「こちらの要望を全面的に聞いてくれることが最低条件で、あとは作戦次第ですね。 僕も捨て駒にされるのは嫌なので」


「ありがとうございます。 それでは作戦の詳細をお伝えした上で、君の条件をお伺いするとしよう」


 こうして僕は、この町のギルドの人攫い事件に巻き込まれてしまったのだった。 


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