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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
25/65

25. 論理回路

NANDゲートというマニアックな用語が出てきますが、気にせずに読み進めていただくことが良いかと思います

 

 僕は僕でアスナが頑張っている間、不明ボードのに二等辺三角形に新たな色が出てこないかを色々と組み合わせを変えて探し続けていた。

 そして分かったのだが、注意深く観察するとピンク色は色見的に少しふらついて見えいた。 それは時には青色が混ざったような感じの色味になったかと思うと、次の瞬間には赤色が混ざったような色味になったりするのだ。

 そうやってかなりの時間頑張ったのだが、色についてはそれ以外の知見は得られず何も進展がなかった。 もう限界だというところまで探索して、不明ボードに現れた丸印は、 青、赤、ピンク の3色だけだった。 ピンクはマゼンダ色ともいえる。  マゼンダは青色の光と赤色の光を一対一で混ぜたものだから、本質は青と赤なのかもしれない、というのが僕の結論だった。


 ◇  ◇  ◇


 さて時は過ぎ、地図と今までに超えた頂きの数を比べる限り、目指すサトエニア共和国まではあと1週間といった所まで来ているはずだった。  先は長いというか、後もう少しだというか微妙な位置だ。  そして僕カイン(アレン)もアスナ(エミリ様)も二人とも疲弊の色が濃くなってしまっていたのだった。 過酷な山越えは勿論、<ボード>への研究も一生懸命に頑張ってしまった結果なのだと思う。 


 この辺で僕らには息抜きが必要なのではないだろうか。 サトエニア共和国に入れば宿をとってゆっくり休めるが、期間制限がある。 子供2人だけで行動するのには無理があり、そのうちトラブルに巻き込まれてしまうからだ。

 今はその点安全だ。  この付近の山々には魔物はいないらしいし出てくる動物も僕らの敵じゃない。 しばらくこの辺でキャンプ生活しても良いんじゃないだろうか、僕にはそう思えたのだった。



「アスナ、ちょっと提案なんだけどいいかな」

「なによ、お菓子ならあげないわよ」

「お菓子ほしい、……じゃなくて、もう師匠って呼んでくれないのか~」

「何言ってんのよ。 もうそんな間柄じゃないでしょ?」

「どんな間柄なんだよ。 僕はよくわからな~い」

「かわい子ぶっても正体はもう割れているのよ、諦めなさい。 諦めないとこうよ」

「や、やめろ! 槍でつつくな、危ないじゃないか」

「やめろって何よ 減るもんじゃないない」

「減るんだよ、血液が減るんだよ ほんと止めてください。痛い痛いから」

「何痛がってるの、槍にはカバーがついてるでしょ また何時もの腹黒い策略?」

「何時ものってなんだよ。 腹黒いってなんだよ。 僕は真面目に一生懸命生きているだけじゃないか。 って、つつくの止めてください」

「私は知っているのよ、嘘ついて宿屋に無理やり泊まったり、食堂でごはん食べたり。 ほんとビックリよ ほんとのお父さん泣いてるわよ」

「ひ、必要だからやったんじゃないか、僕の父さんについては、……まあ置いといて、ああしないと僕ら困ってたろ?」

「だから腹黒いって言ってるのよ」

「こ、この~、7才児のくせして生意気な!」

「何? やる気? 暴力なら負けないわよ?」

「だから、槍でつつくなって言ってんだろう。 人のいうことを聞けよな。 あ、HP減ってる、減ってるぞ どうしてくれるの?」

「血も出てないくせによく言うわね、この嘘つき」

「じゃ試してみるか? ちょっとその槍貸してみ」

「……って、貸したら私をつつく気でしょ? 危ないわ、ほんと危ない。危うく騙されるところだったわ」

「だから僕に貸してもらって、アスナをつついてHP減るかどうかその身をもって知れってことだよ。 何騙されるとことか言ってるんだよ。 意味わからんわ」

「そんなの自分で自分をつつけばわかるじゃない。 カイン兄さんに渡さなくてもできるじゃないの」

「じゃつついてみろよ、痛いから」

「痛いのやだからやらな~い。 というかHP減る減らないの問題じゃないの? 議論をすりかえているわよ」

「議論すり替えてるなんて、……人聞きの悪い。 そんな人を騙すようなことはしません!」

「それが騙そうとしてるってことよ 自覚しなさい!」

「……」


 僕は頑張った。 頑張ったんだが、7才児と互角の勝負って正直凹んでしまう。

 そこで僕は気づいた。 議論はそこじゃない!

 僕はアスナが、僕を師匠って呼ばなくなったことを、……いやちがうな。

 僕は、休息を提案したかっただけなのに……。


 コッホン、と僕は咳払いをしてやり直すことにした。


「えっと議論が《逸()れてしまいましたので、最初からやり直します」

「だから、お菓子は上げないって何度も言わせる気?」

「いやお菓子はほしい、……じゃなくて、アレ? そうそう、疲れたからそろそろ休憩したいと思って提案したかったんだよ」

「もう休憩してるでしょ? 何言ってんだか理解ふの~」

「アレッ? 確かに休憩している、な……」

「……」

「いや、そうじゃなくて、そろそろ一旦進むのを止めて拠点を作ったらどうかと思ったんだよ」

「何のためにわざわざ拠点を作るのよ。 疲れるじゃない」

「だから休憩するために、疲れてでも拠点を作って、……アレッ?」

「バッカじゃないの? しっかりしなさいよ」

「ちょっと待って、ちょっとまってくれ、……そんなわけない、整理するから待ってくれ」


 コッホン、と僕は咳払いをしてやり直すことにした。


「えっと議論がおかしくなったので、最初からやり直します」

「しつこいわね! いくら頑張ってもお菓子は上げないわ!」

「お菓子はほし……」


 こ、こいつわざとやってるのか? やってるよね? やってるわこれ。 この~、7才児の癖に!

 ……ちょっとまて、まて、 冷静になるのだ。 冷静になるのだ。 

 これは明らかにペースに乗せられている。

 やっぱりこいつ侮れない。 侮れないぞ。 

 警戒しろ、警戒しなければならない。


 コッホン、と僕は咳払いをしてやり直すことにした。


「えっと最初からやり直します」

「まだお菓子に……」

「わかったから、お菓子の話はやめてください。 ……お願いします。 僕の話を聞いてください」

「……ま、今回はこのぐらいで許してあげるわ。 それで何?」

「……」

「……」

「真面目な話、このまま進めば、あと2週間でサトエニア共和国に着くはずなんだ」

「それで?」

「着いたらどうすると思う?」

「そりゃ、宿に泊まってゆっくりするわよ。 当り前じゃない」

「うん そうだよね。そうだよね。 それからは?」

「それから? ……それは、カイン兄さんが考える役じゃない。 私に頼らないでよ」

「……」

「……」

「そこが問題なんだよ。 宿に泊まり続けることはできないよ。 なぜなら子供2人だけだと非常に不自然だから」

「……まぁそうね。 それで?」

「つまり、どうするかじっくりと方針を考えたいんだ。 今考えておかないと、すぐに追い詰められてしまうんだ」

「ふぅ~ん。 まだ考え無しなのね」

「……クッ、まあそういうことです」

「まぁ、事情は分かったわ。 貴方のために拠点をつくりましょう。 貴方のためにね!」

「……ぜ、是非お願いします、アスナ様」

「カイン、”様”付けはいらないわ、アスナでいいわよ」

「……」


 こうして、僕らは拠点づくりをすることにしたのだった。

 アスナ様、侮れないどころか、僕では勝てないのかもしれません。

 拠点作りの検討がはじまったのだが、その拠点にどの位の期間住むのかによって作る規模が違ってくる。 僕はもしものことを考えて最長1年ぐらいの期間を考えたいと思っていた。 衣食住、このうち衣については手持ちでOKだ。  食については手持ちでは全く不足となってしまうため、自己調達できるようにしておくことが必要だ。 住については言うまでもなく、テントでは余りにも貧弱だ。 作り直す必要がある。


 今本当に切迫しているのは、住だと言って差し支えないだろう。

 まずは資材だ。 自己調達するか、他からもってくるか。 それにしても、僕たちはお金を沢山もっている。 

 もってるはずだよね? もしかしてヤバイ? ちょっと聞いてみよう。

 僕の手持ちは132ギリルだ。  まあ十分といえば十分なのだが、家レベルの資材を購入ともなればキビシイだろう。


「アスナ~ ちょっといい?」

「何? またお菓子?」

「あ、それはもういいからね」

「もういいって、わかったわ、もう絶対にいらな……」


 ヤバイ、また変な方向へ誘導されてる気がする。 ペースに乗ってはダメだ。


「拠点の住居を作りたんだけども資材をね、買ってくるか、自前で作るかを判断したいんだ。 それでね、アスナはお金どの位もってるの?」

「ちょっと、女の金を当てにするの? 最低よね、この甲斐性なしが~!」


 もうビックリするね。 

 どこでそんな言葉を覚えたんだ! 7才の癖に。

 まぁ あの図書館の本だろうな。 

 全くくだらない。もっと実用書をコピーしておけよ!

 僕は突然何もかも嫌になってきてしまった。


「……わかった。 もうどうでも良くなってしまったよ、 もうアスナとは別れてもい……」

「えっ? ちょっと悪乗りしただけじゃない。 そんな怒っちゃだめよ 大人になりなさいよね? ね?」

「はぁ~、疲れる。 ……真面目な話、二人の今の財力を把握しておきたいんだ。 少なくとも成人するまでは、或いは成人してからどの位稼ぐ必要があるのかをね。  そして今回も資材を外から購入しても大丈夫か考えたいのさ」


「じゃ、ここに出すから数えてもらえる?」

「いやいや、金額だけ教えてもらえればいいから、信用してるから」

「何言ってるの? 算数が苦手な私に数えさせるの? ちょっと酷すぎない?」

「そっちだったか! ……まぁいいや。 じゃここに出してくれる?」


 ジャラジャラジャラと出て来た金貨を数えてみると。1204枚あった。

 結構もってるなオイ!  でもこれからのことを考えると決して贅沢はできないと思う。


「1204枚か。 じゃ倉庫に戻していいよ。 僕のが、132枚だから、全部で1336枚だね」

「うん? 面倒だから全部カインもっていてよ」

「いやそれはマズイから、もし僕らが別れたらアスナはどうするの?」

「カイン兄さん、別れるってそんなこと……」

「いや違うからね、僕が先に亡くなったり、空間倉庫を誰かに取られたら困るでしょ? リスクは分散すべきだよ」

「わかったわ。 じゃ半分だけ持って置くね。 えっと668枚ね」

「……」


 お前! 計算できるじゃね~か。 

 ついこの間まで7+5は11?12?って言ってたけど、ぶりっ子だったのか!  

 こいつ本当に恐ろしい奴だわ。 

 あの楽しかった算数クイズの時間は何だったんだ。

 僕は体から力が抜けてしまった。


 ……いや、このままじゃ全然話が進まない。 気を取り戻そう。


「……まぁ この金額じゃあ、将来的にどうなるか分らないから、贅沢はできないな。 ということで、資材は買えないけれども、難しい資材は購入してしまおうと思う。 つまり……」

「つまり? カイン兄さん、どういう事なの?」

「つまり 拠点はもっと町に近い所にしようと思う。 町まで2日程度がいいかもしれない」

「……カイン兄さんって、頼りになるのか、なら無いのか、わからない人ね」

「……アスナ、ごめん」


 こうして僕らは、また山の中の移動を開始したのであった。

 途中、短期間でも休息しようという話になって、2日間ほど同じところで木上キャンプをしたことはあったが、それ以外は全て普通に進むことができた。

 真にけしからんことに、アスナは移動している間に<図面記録ボード>のほとんどの機能を習得してしまっていた。 そして一つだけ残った課題、それは図面と<文字記録ボード>との相互リンク連携だった。 さすがにこればかりは、かなりの時間を要するはずだ。  僕としては簡単にはできないことを切に願っていた。


 ◇  ◇  ◇


 そして僕の研究だが、移動の間に非常に重要なことを発見してしまっていたのだった。

 それは、……かなり重要というか衝撃的な事だったので、つい僕は興奮して熱をだして意識を失ってしまうほどだった。  その時は本当に危なかった。  以前のように死にかけて幼少加護が発動しまったのだ。  気づいたときには木に縛られていた。 つまり木の上でのサバイバルキャンプ状態だったのだ。

 もちろんアスナには大分怒られました。  年下の幼子に怒られるって、何かいいような感じがしてしまった僕だった。


 発見の内容だが、結論を言ってしまえばあの二等辺三角形はNANDゲートという論理回路を組む場合の基本素子だったのだ。 それは何かっていうと、簡単に言えば、NANDゲートを組み合わせれば論理回路になり、そしてパソコンとかに使われているICとかは超大規模な論理回路なのだ。

 今回の<ボード>上に現れた二等辺三角形は、 電気信号の代わりに青丸印と赤丸印を0と1に見立てて魔力の論理回路を作成できるはずなのだ。


 思い返せば、あの青丸印と赤丸印は魔法パタンの青丸印と赤丸印と同じだ。 <BRDギフト>の本当の正体は、魔力の論理回路で魔法が扱えるようになる<ギフト>なのかもしれない。 

 ただしそこへ至るまでには大きな課題が残っている。 

 まずは、NANDゲートを用いて有用な論理回路を設計しなければならないこと。

 そして論理回路から出力された青丸印と赤丸印の列を魔法として発動させる出力装置を見つけることだ。


 魔法に関して<BRDギフト>の希望への道は大きく開けた気がしたのだが、現状では実利がない絵に描いた餅状態だ。 その餅を実際に食べれる餅にするためには、また一からコツコツとBRDの研究しなければならない。

 ぼくは、<線引きボード>を<配線ボード>と名称を変更し、そして9才で覚えた<ボード>を、<論理回路ボード>と名付けたのだった。


 ◇  ◇  ◇


 研究にはそのような進捗ががあったが、現在僕らは町が見えるところに到達してしまっていた。 

 これは正直不味かった。 

 何故かっていうと、見える所に町がある。 お風呂とか、おいしい食事とか、フカフカなベッドがそこに在るということなのだ。 当然行ってみたくなるし、行くしか有り得ない。 ということで、当初の懸念事項が現実化してしまったのだ。


 今度も行き当たりばったりの危うい綱渡り対応をしなければならないと思うと、僕は憂鬱になってしまったのだが、やってしまったことは仕方がない。

 僕らは残っている水を少し贅沢に使って、体を拭き、髪や顔を洗った。 そして薄汚れたサバイバル装備をはずして新品の服や下着に着替えから、町へと入って行ったのだった。

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