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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
24/65

24. 山越え

二等辺三角形についてかなり理屈っぽい記述がありますが、読み飛ばしても何の支障もありません。 これは作者の自己満足でしかありませんし、今の段階でこれが何なのかを理解できてしまう人はいないかもしれません。

 停留所では様々な方面への乗合馬車が出ている。 取りあえずは北側の友好国であるサトエニア共和国を目指すことにする。 少なくとも言語は共通であるので何とかやって行けるだろう。 

 勿論僕らは子供2人だけなので、正規のルートでサトエニア共和国へ入国するのは困難だ。 目的地は共和国と山を挟んで接しているナルメシオ男爵領だ。 つまり僕らは山越えをするつもりなのだ。  そして僕たちは例の如く架空のダメ父を出汁にして乗合馬車へと乗ったのだった。


 2日程してナルメシオ男爵領へ到着した。  エミリ様は未だに検索機能を認識しようと集中している。 ちょっと心配だがこのままにしておこうと思う。 

 僕は架空のダメな父親をつかって宿をとり、そこにエミリ様を放置してから戦争に関する情報収集を始めた。 結論を言ってしまえば、戦争に関する情報には全く進歩はなかった。 相変わらず停戦状態なのだ。 


 土地勘を高めるために町をブラブラ歩いていると、小さな子供たち(僕よりは大きい)の話し声が耳にはいった。 


「ね~ね~ 明日のいつもの採取ツア~ なにを準備したらいいの?」 


「袋と手袋と鎌だろ? そんなこと先生が言ってたじゃないか「


「あと、お昼ご飯と、お菓子!」


「……お前、食い気だけだな。 ちゃんと採取しろよ? 頭悪いんだから採取で点数稼げよな 」 


「お父さんと妹も連れて行っていいんだよね? 手伝ってもらお」


 おおっと、この辺では定期的に採取ツアーとかあるというのか?  今いる町の情報を、<文字記録ボード>で検索したのだが、採取のことは載ってなかった。 しかし調べることでこの町の特産品の一つとして様々な薬類があることが分かった。 おそらく山から取れる植物を使って薬を作っているものと考えられる。

 これは採取ツアーに紛れ込んでそのままサトエニア共和国を目指してもいいかもしれない。 僕は採取に関する情報を取集することにした。 この手の情報といえば、冒険者ギルドだ。 必ず護衛とかが必要になるから十中八九冒険者ギルドが関与しているはずだ。


 冒険者ギルドは怖いから入りたくないが、ここは度胸一発ということで気合を入れてギルドへ入って行った。 ギルド内には都合よくカウンターの人以外誰もいなかった。


「すみません。最近採取ツアーってやってますか?」 

 僕はカウンターの人に聞いてみた。


「ああ。 それならそこの掲示板に張ってあるよ。 坊主は字は読めるのか?」


「はい 読めます ありがとうございました」


 僕に向かって字が読めるかとは失礼な! この辺の子は字が読めないのだろうか。  少し怒りながらも掲示板を見てみた。


 小学校採取ツアー、中学校採取ツアー、一般開放採取ツアー、慈善採取ツアー、初心者採取ツアー 実に沢山の採取ツアーがあった。  

 この中で目をつけたのは、一般開放採取ツアーだ。 このツアーは誰でも参加可能で、早朝出発して夜になる前に帰ってくるという1日コースのツアーだ。 山までは全員で移動し、移動先で出た魔物に対しては冒険者の人が対処してくれる、そして基本は自己責任で参加者名簿も作らないとのことだった。

 これならば僕らが採取中に居なくなっても問題ないだろう。 問題は日程で、ツアー開催まで後3日もある。 その間目立たないようにしなければならない。 なんとか宿の人を言いくるめて宿に籠ってしまうのが妥当だろうか。


 僕は宿に帰って来た。 エミリ様に方針を説明すためだ。

 部屋に入ると、エミリ様はニヨニヨしていた。 何だ? と思うとエミリ様が口を開いた。



「師匠、やったよ 検索機能を探し当てちゃった。 すごいねこれ。 これなら本を沢山覚えても全く問題ないね」


 僕は愕然としてしまった。 

 早い、覚えるのが早すぎる。 僕よりも才能があるんじゃないのか? ちょっとエミリ様に脅威を感じてしまった。


「図書館行こう。 沢山本を覚えてやるんだわ。 図書館へ行こうよ。 行こうよ。 行ってもいいよね!」


「気持ちは分かるけど、……多分入館できないと思うよ。 僕らはここの住人じゃないし」


「そこは、師匠の詐欺のテクニックでなんとかできるでしょ? よし決まった行きましょう」


 詐欺ってなんだよ! 

 僕は真剣に人を(だま)しているだけだ。 

 決して金を(むし)り取ってるわけじゃないぞ。 

 せめて嘘つきって言えよ!


「エミリ様、行くだけですよ。 もし入れなかったら大人しく帰りましょうね」


「師匠、エミリ様って言うのはもう止めてもらえる? もう貴族じゃないから、それを思うと苦しくなってしまうじゃないの」


 ああそうか。 何時までも”様”付けだと、過去から逃れられないのか。 それは失念していたな。


「わかった。 これからはエミリって呼ぶことにするよ。 それでいいの?」


「う~ん それもちょっと苦しいような気がする。 いっそのこと名前変えるってのどう? 師匠、私に名前を付けてよ」


「わかった付けてやるね。 今日からエミリ様の名前は、”スッコロビ” だ」


「何よそれ、ふざけるな~! そんな間抜けな名前許されるわけないでしょ。 馬鹿にしないでよ」


「えっと、ま~冗談だけど、スッコロビを決して馬鹿にしていはいけないよ。 それを海で言ったら殺されちゃうからね?」


「まだ馬鹿にしてるでしょ スッコロビって一体なんなのよ!」


 エミリ様のお怒りモードが治まらないので、水生魔物のスッコロビについて説明をしてあげた。

 エミリ様は最初、信じられないというような顔をしていたが、僕が隷属者になって受けた仕打ちなども交えて説明してやったら漸く納得してくれた。


「それで、私の名前は ”スッコロビ”になっちゃうのね。 ちょっと悲しいけど受け入れるわ」


「いやいや、スッコロビはあくまでも冗談だからね、そんな名前つけたら流石に弟子がかわいそうだろう?」


「アハッ ひっかかった~。 師匠、今海にいたら殺されてたわね」


 くそ~、 エミリめ~、 僕を嵌めたな~? もう名前はスッコロビでいいか! 


 そんなやり取りの結果、 結局はエミリ様はアスナ、僕はカインと名乗ることになったのだった。



 僕たちは早速町の図書館へとやって来た。 予想通り住民でなければ利用できないとのことだ。

 アスナ(エミリ様)に納得してもらうために、ちょっとだけ司書さんにゴネてあげたのだが、何のことは無い、お金を払えば入館できるになってしまった。  それでも世間は甘くない。 2名で2ギリルも取られてしまった。 これはまあ仕方がないか、……無理を通したんだし。


 図書館の蔵書量は、ざっと見て1万冊程度だろうか。 これなら出発までにコピーしきれないぐらい十分な量があるだろう。 

 そして気づいてしまった。 まだアスナ(エミリ様)に採取ツアーのこと言ってなかったことに。 

 まあそれはいつか食事の時にでも話せばいいのかもしれない。 そう考えて僕も新しい本が無いかどうか探し始めたのだった。


 お昼の時間になったので、ちょっと外出して昼食を済ませようとしたら、受付の司書さんから別途入館費用がかかると言われてしまった。 

 明日からはお弁当をもって来てもいいですか? と聞いたのだが、手ぶらでないと入館させません、また館内での飲食は禁止ですと、言われてしまった。 諦めて空腹だがコピーを続けようとして、館内の読書スペースへもどって辺りを見たのだが、皆さんはこっそりと飲食しているようだった。 

 要は見つからなければ良いのだ。 僕らはこっそりと空間倉庫から水と保存食を取り出して食べた。 僕はひそかにあの意地悪司書さんに ”ざまぁ” と心の中で言ってやったのだった。

 そんな感じで図書館に籠り、時が過ぎて行った。

 図書館に籠った成果として、アスナはその日までに1000冊ほどコピーして記録したそうだ。  僕は、新しい種類の本を見つけるのに苦労して23冊だけコピーしただけに留まってしまったのだった。 もちろん背表紙のタイトルを検索機能を駆使して探したのだが結局はその程度だった。



 ところで採取ツアーから始める山越えのための事前準備として、アスナ(エミリ様)の空間倉庫の容量と中に入っているものを教えてもらった。 アスナの空間倉庫の大きさは、何と一辺が3メートルの立方体相当と、めっちゃ大きかった。

 おもちゃとか、絵本とかも入っているそうだが、僕の27倍の倉庫ならまあ許せる範囲だろう。 空間倉庫を扱う伯爵の一人娘だったのだからこの空間倉庫程度は不思議ではないのだ。 ……きっとそう違いない。

 倉庫には空きスペースがかなりあるとのことだったので、テントや簡易トイレ、太目のロープや大きな防水布、クッションや毛布、日曜雑貨、変装用のメガネやかつら、果ては本格的な槍や剣までも買い増しして入れてもらっておいた。 



 そしてあっという間に例の採取ツアーの早朝となった。 

 それまでの宿屋には、架空のダメ父が採取ツアーの準備にかかりきりで僕らは放置されてしまっている、という苦しい言い訳で何とかして泊めさせてもらっていた。

 僕らはお弁当と、事前に用意した鎌などを背負い袋にいれて、採取ツアーの集合場所に来ていた。 参加人数は恐らく200名以上、家族連れてきている人が多数あり、まるで大規模なハイキングのようだった。 護衛も多くの武装した人々がおり、この町一番のイベントだそうだ。


 大号令とともに出発した一行は2時間ほどで採取場所に到着した。 この付近はあたり一体草原といった感じで、遠くまで見通すことができた。 早速採取開始といことで皆も護衛達も四方へ散って行ったので、僕らはそのタイミングで採取するフリをして、どんどん山側へと進んでいき、そして気づかれないように山の中へと消えて行ったのである。



 さて、本格的な山越えの開始だ。 

 僕たちの足だと、早くて1か月で、もしかしたらそれ以上かかるのも十分あり得る。 それでも空間倉庫に蓄えた水も食料も十分なので、躊躇なく例の如く山の尾根をどんどん登って行った。


 山越えでは外敵への対応が勿論必要だ。 それで僕が戦闘する前衛でアスナが後衛としての役割を担うことにしたのだが、空間倉庫を持っているため、二人とも槍以外はほぼ手ぶら状態でサバイバル装備をむき出しにして行軍をしていた。

 途中であのイノシシのような獣――イノたんに数回襲われたが、奇声を発して襲って来るので、槍以外に余計なものを持たない僕らはソイツを余裕で退けることができたのだった。 


 そんな感じで行軍を進めていたある日、僕はとうとう9才になってしまった。

 新たに覚えた<ボード>は、そのままでは何もできず評判通りに意味不明だったが、夜中になって木の上で過ごす時になってから集中して<ボード>で何かしようと試行錯誤してみた。


 僕にとっては意味不明な<ボード>の解明こそが、<BRDギフト>持ちの謎を解き明かすための最大の研究テーマだったから必死に取り組んだ。 その結果、割とすんなりと数日ほどでその<ボード>へ二等辺三角形の図が描けることが分かってしまった。

 今まで報告されていない<ボード>の性質を発見できたのだ。 <文字記録ボード>や<図面記録ボード>にも新機能の発見があったので、ある意味それほど不思議ではない結果であったものの、それでも大変な達成感と充実感を得ることができた。


 ただし描くことができた二等辺三角形は意味不明なものだし形も変だ。 二等辺三角形の底辺は他の辺と比較すると2/3ぐらいと短くなっていて、そこから2本の線が出ている。 そして二等辺三角形の底辺と反対側の頂点からも線が一本出ているのだ。 


 色々と操作してみると、くるくる回したり、コピペできたり、無数に増やすことも減らすこともできた。そして一つ意外だったのは、何とこの二等辺三角形からでている線をあの役立たずの<線引きボード>へ繋げることができてしまったことだ。 ただ頂点から出ている線同志は繋げることができなかったことは不思議だった。 


 何日か経過して、僕らは何度目かの山の頂上へ来ていたが、そこで僕らは本当にピンチを経験してしまった。

 ものすごい暴風雨に晒されたのだ。

 勿論事前に暗雲が立ち込め始めたのが分かったので、大きな木の大きな枝や幹にロープを固定して頑丈なテントを張ってはいた。 だがそんなテントがはじけ飛ぶかというようなすさまじい嵐になり、稲光や強烈な風切り音と、叩きつけるように雨が降り、そして身も凍るような寒さのため、僕たちは一睡もせずに保温シートや防水シートなどあらゆる装備を用いてやっとこれらを凌いだ。 その体験を通して、本当に山の天気は恐ろしかったんだなと僕らは身に染みて感じてしまった。 

 それからは僕らはできるだけ山頂付近には長居しないこととして常に天候を気にしながら進んでいった。


 さて例の二等辺三角形だが、色々と線をつないでこねくり回していたところ変化があった。

 なんと二等辺三角形の頂点 つまり、底辺の逆側の線の末端にピンク色の丸印が浮き上がったのだ。 それが浮き上がった時にはかなりビックリしてしまったのだが、余りに奇妙だったせいで僕の研究魂には更に火が付いてしまった。


 そして色々と模索した結果、このピンク色の印を三角形一つで生じさせることに成功したのだった。  三角形の底辺側の2線を、A, Bとし、その反対側の頂点から出る線を、Cとした場合、 CをAとBにつないだ場合に、Cにピンク色の印が浮き上がったのだ。 それからは2週間程この三角形を色々と接続したり組み合わせたりして、めちゃくちゃいじり倒してやったところ、またもや変化が起こった。

 なんと今度は赤印がCのところに現れたのだ。 これはどうやったかというと、例のピンクの浮き上がった線を2つに分けて2つの三角形につないだのだ。  最初の三角形をa、2つの三角形を それぞれb, cとしよう。 b側の 線A、Bに、aからでているC線のピンク色丸印をつないだ。 すると、bのC線にはピンク色の丸印が浮かんだ。 ところが、このbのC線と、aのC線を、cのAとBへそれぞれ繋いだ場合に、cのC線に赤い丸印が浮き出たのだ。 


 そこからは早かった。 もう一つ三角形 dを用意して、そのdのAとBに先ほどの赤い丸印をつないだら、何と青い丸印まで現れたのだ。


 おお~ 赤、青、ピンク色 の3色が揃ってしまったぞ。 

 これは色々な色の丸印を、その<ボード>上に浮き上がらせることができるのではないか? 


 それの意味するところは分からなかったが、僕は他の色も出現するかもしれないという期待を持ってしまったのだった。 



 それからさらに時間が1か月程経過した時に、エミリ様、つまりアスナが、とうとう7才になってしまった。 7才になってしまったということは、<発動ボード>と<図面記録ボード>を覚えたということなのだ。 

<図面記録ボード>は、白黒の図面だけでなく頑張ればカラーにも対応できるし、カラーの点の集合をイメージすれば、絵もかけるし写真も取れる。 さらに写真を連写すればパラパラ動画まで可能となる。

 もちろん<文字記録ボード>のように階層で分類できるしコピペもできる。 そして非常に大変なのだが、<文字記録ボード>との相互連携、具体的にはリンク張りのようなものも可能なのだ。

<図面記録ボード>について知っていることは勿論全て教えてあげた。 つまりアスナ(エミリ様)に、またもや修練の時が来たということだ。


 まあアスナ(エミリ様)頑張ってください。 君はまだ若いのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございました。 [一言] 二等辺三角形の件 中学受験の算数の問題を読んでるみたい。 定規と白い紙用意しようかな。
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