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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
23/65

23. 逃亡

 サマーズに宿泊して2日目、キャサリンさんは未だ戻ってこない。

 エミリ様はあれから根を詰めて検索機能を探そうと頑張っている。


 まあそんなに簡単には見つからないだろう。  こんなに早く見つけられてしまったら、見つけるのに数週間かかってしまった僕は何か浮かばれない気がする。 お願いだから、そんなに頑張らないでほしい……。


 さて僕らは朝食を取り、ちょっとだけ気晴らしに外へ出てみた。 

 エミリ様は決意したような目つきになっており、一昨日とはまるで別人だ。  何の心境の変化がそうしたか分からないが、髪を上げて帽子の中へ入れ込み、僕の服を一着奪って着こんでいる。 その気持ちはさっぱり分からなかったのだが僕は何も言わなかった。

 エミリ様のように風変りで可愛い女の子だと色々と絡まれたりして厄介だ。 キャサリンさんの教育なのかその辺を回避するためのテクニックなのかもしれない。 結局のところ僕らはお揃いの服を着た兄弟といった感じになっていたのだ。


 僕は行きかう人々の話をこっそり盗み聞きをして情報を得ようとしてた。 エミリ様はしっかりとした目つきで宙を睨んで集中しており、まるでちょっとアレな子のようだった。  多分一生懸命、検索機能を探しているんだろう。


 そんな感じで過ごしてお昼ごろになったので、中で昼食を取ろうとしたところだった。 キャサリンさんが帰って来た、――というよりは連行されてきた。

 治癒はしているみたいだが、かなり殴られたような痕跡があり憔悴しているようだった。 何事だろうと思ってキャサリンさんを見たところで、キャサリンさんと目が合った。  そしてキャサリンさんは見知らぬ他人のように目を逸らしたのだった。 僕は悟ってしまった。 これは不味い状況なのだと。

 キャサリンさんは何等かの理由で暴行を受けたが、それには耐えたに違いない、でも隷属化されてしまったのだろう。 



 これは、逃げなければならない!



 エミリ様は<ボード>の調査に夢中で状況に気が付いていない。 すごい集中力だ。  僕は静かにエミリ様の手を引いてその場からの離脱を試みた。

 少しずつ僕は歩く速さを早くしていく。  そのうちエミリ様も我に返ってしまった。


「ちょっと師匠、宿から離れちゃだめよね?」


「キャサリンさんが暴行されて帰って来たのをさっき見なかった?  キャサリンさんは明らかに僕らに逃げろっていう態度だったよ? もしかしたら隷属化されて僕らの居場所を吐かされたのかもしれない。 追われるような心当たりある?」


 エミリ様は蒼白になった気がした。

 僕は歩く速さをちょっと早めぐらいに調節して目立たないように進んで行った。 


「もし私が追われる理由があるなら、城の宝物庫の鍵ぐらいだわ。 宝物庫には空間倉庫が300個ほど入っていて、あとは宝玉類がはいっているの。 私がいなければ場所も分からないし、鍵も私が持ってるの」


 僕は、それだ! と思った。 

 空間倉庫が300だなんて、それを目的に戦争が起こってもおかしくないレベルの富だ。 

 さてどうしよう。 僕は歩きながら考えた。 

 このまま逃亡するのもありだが投降するのも手だ。 

 投降するとなると、下手すると秘密を(しゃべ)った後に消される可能性もあるので危険だ。

 逃亡するとなると、キャサリンさんが捕まっている以上、僕らの手の内は完全に明かされてしまっている。 つまり捕まるのは時間の問題だ。


 よし、一旦昼食を取ろう。 

 逃亡者が優雅に昼食だなんて普通考えないだろう。



 決めたら即行動に移すことにし、近くの手ごろな食堂に走って飛び込んだ。  エミリ様は僕の行動に驚いていたが素直に付いて来てくれた。



「おばさん、お腹減っちゃって死にそうだ。 お金はあるから何か食べさせてくれない?」


「坊や、ご両親はどうしたの? お金あるって本当?」


「なんか、お父さんは “急がなきゃ” ていって、お金を押し付けてどっかいっちゃった」


 僕は1ギリル金貨をおばさんに見せた。

 おばさんは驚いた。 1ギリルというお金は子供が持っている金額ではないのだ。


「ちょっと坊や、そんなのここで見せるんじゃないよ。 分かったからこっちへいらっしゃい」


 僕らは、食堂の奥の方へと連れていかれた。

 そこで渡されたメニューをみて言ってみた。



「おばさん この牛飯っての、早くて安くて旨いの?」


「安いわけじゃないけど、早くできるわよ。 そんなにお腹減ってたの?」


「だって朝食抜きだったんだもん。 ひどいよね。 児童虐待だよね。 牛飯を2つお願いします」


 おばさんは呆れたような顔をして注文を伝えに厨房へと行ってしまった。 エミリ様も呆れ顔だ。


 さて作戦検討のお時間だ。 

 まずは逃亡もダメ、投降もダメだ。 

 それなら捕まえる理由を無くしてしまおう。



「エミリ様、鍵ってもってる? その鍵と宝物庫への地図を何とか相手に届けてしまえば、僕たちを追う理由はなくなるかもしれない」


「えっとね、鍵って言っても6桁の番号よ。 番号は589210で、宝物庫の場所はここよ」


 エミリ様は、こっそり空間倉庫から城の見取り図を出して僕に場所を教えてくれた。

 僕はそれを念のために写真にとっておいた。

 そして僕はその見取り図の主要部分だけをいきなり破りとった。 それを見てもエミリ様は何も言わなかった。 僕を信用しているにちがいない。

 僕は破りとった見取り図のその場所に、印をつけて文字を書き込んだ。


 ”エミリとアレンです。 ここがその場所です。 調べてみてください。 番号589210”



「見取り図の図形は記録済だから安心してね。 必要になったらいつでも書き写せるから。 それで、これを何とか宿屋サマーズのキャサリンさんに渡せればいいのだけど。 ……誰かに頼んじゃおうかな」


 そこへおばさんが牛飯を2皿もってきた。  本当に早いじゃないか! 

 おつりは小金貨4つと銀貨6枚だった。  つまり2人前で銀貨4枚だったのだ。


 僕はお礼を言って、飢えているようなフリをして思いっきり食べ始めた。 

 エミリ様もよせば良いのに僕の真似をしてくれた。 

 あとでお腹痛くならないだろうか、心配だ。




「どうしよう。誰に頼んだらよいかな?」


「冒険者に頼んだらどう? 」 

 エミリ様から提案を受けた。


「冒険者?」


「そう、冒険者ギルドでお金を事前に払って依頼を出すのよ。 守秘義務があるし確実だわ」


「冒険者ギルドか~ いいかもしれないね」


 僕らは食事を済ませて食堂を出るとすぐに冒険者ギルドへと向かった。  道順は事前に<図面記録ボード>へコピーしておいた地図ですぐわかった。

 そして僕らは冒険者ギルドへ入って行ったのだった。


 冒険者ギルドは、僕の故郷のダンジョン開拓団と同じような組織かと思っていたけれども、ちょっと違っていた。  ダンジョン開拓団はどちらかというと騎士のような上品な人達であったのだが、冒険者ギルドの構成員はハッキリ言って雑多という感じだったのだ。

 僕は外から様子を伺って、意を決して、”弟” の手を引いて堂々と中へ入って行った。 そしてすぐさま近くにいる親切そうなお姉さんに声をかけた。



「すみません。 依頼を出すように言われてきたんですけど、カウンターはどこですか?」


「あっちの方よ。 坊やお使いとは偉いのね。 ただここはちょっと怖い人もいるから今度は大人に来てもらうようにしてね」  



 僕の勘は間違いなかったようだ。  親切そうなお姉さんは親切にしてくれたのだ。 僕は礼をしてカウンターの方へ向かっていったのだった。


 冒険者ギルドのカウンターでその場で手紙を書いて、速達手紙の依頼を出した。 手紙の宛先は宿屋サマーズのキャサリンさんだ。  報酬は銀貨2枚、ギルド報酬銀貨1枚で不在の場合は宿屋の受付へ渡すようにお願いしておいた。 

 カウンターの人はその金額にちょっとだけ驚いていたようだが特に問題なく受け付けてくれた。 うまくいったので、僕はついでにもう一つ追加で依頼を出してみた。 


「観光案内してくれる護衛兼案内人を雇いたいんですがいいですか? 父さんに、観光に連れてきてもらったんですが、ここでお金を出して誰か雇えって言われてしまいました。 酷い父親ですよね 児童虐待ですよね。 これがそのお金です。 観光時間は今から5時間ほど。 あとすみません、その後宿までの護衛も含めてお願いしたいです」 


 僕は小金貨を3枚渡してみた。  またもカウンターの方は驚いたようだったが、すぐに冒険者を紹介してくれた。


 紹介された冒険者は、この街でも中堅クラスのパーティーとその見習いだそうだ。 男性2名女性3名、そして見習いと思われる僕たちよりも少しだけ年上の子供たち5名の総勢10名だ。 

 ちょっと人数が多いなと思ったが、依頼金額も高いし丁度見習いの研修も兼ねるそうなので連れて行ってもらうことにした。 

 そのパーティ名は、”銀の翼014”だった。  なんでも”銀の翼”というクランの14番小隊みたいな意味だそうだ。 念のため同行する面々に僕らは偽名を名乗っておいた。


 僕らは人力車を雇って堂々と観光を楽しむことになった。 人力車の運賃は僕ら持ちだ。 

 小金貨2枚取られたが、12名の大所帯なので快く了解した。

 勿論僕の本当の目的は観光ではない。 本当の目的は時間稼ぎだ。 

 僕らの出した手紙が追跡者に渡って、僕らを追う価値がなくなるまで待つつもりなのだ。 

 それからの僕らは本当に優雅に観光旅行をして楽しんだのだった。


 このランドルフ侯爵領サマイヤ市はかなり広い都市だ。 ただし、アタスタリア王国と比べるとやはり少し文化の発達が遅れているといってよいだろう。  車はほとんどなく、馬車と人力車が主要な交通機関だったのだ。 

 僕らは、堂々とお城に入城したり、図書館、劇場など所謂(いわゆる)名所めぐりをしたのだ。 

 道中戦争の話も聞くことができた。 僕らが居たクローク伯爵領は、やはり敵の手に落ちたそうだ。 ただし、どうやらそこで敵の侵攻は止まったようで、今のところこちらへは来ないとのことだった。 

 避難民の数は増え続けており、ダンジョン周辺に難民キャンプが作られてそこに集められているそうだ。 


 正直僕らの持っている情報と大差ないと思った。 そして侵攻が止まったということと、ここの領主関係者らしき人々が僕らを探しているということから、 停戦の交渉材料として空間倉庫が使われているかもしれないと感じたのだった。


 夕方近くになり付近の高級宿屋へと送ってもらって冒険者の一団とは分かれた。 

 僕たちは宿の人に ”父はここへ来るはずだ” と言い張ることで何とか泊ることができた。 

 金貨2枚、つまり2ギリルも取られてしまったが、そんなのは僕らが保有しているお金と比較すれば誤差の範囲だ。 

 そして次の日朝も、”父は来なかったですが、こんな僕たちを見捨てるんですか” と言って念のためその日も泊る予約もしておいた。 


 そうはいっても何時までもこの状態、子供2人だけの行動は不自然だ。 せいぜい引き延ばしてあと1日がこの都市で活動できる限界のように僕には思えた。 そこで僕はエミリ様を部屋に残し、手紙配達後の状況調査に乗り出すことにした。 


 まずは、僕たちが初日止まった宿屋サマーズ行ってみるのもいいかもしれない。  そのまま行けば捕まってしまうかもしれないので少しは変装が必要だろう。 

 僕は空間倉庫の中から、今まで着ていたのとは全く違うタイプの服を取り出して着こみ、僕の髪の毛もバッサリ切ってしまった。 そして魔道具として保管されていた近眼用のメガネをかけてみた。 ちょっと目がクラクラしてしまうのが難点だが、恐らくこのプチ変装で宿屋サマーズの人達にはバレないだろう。


 さて行動だ。 今日は危険を冒すことなる。

 キャサリンさんと直接話そうと思っているのだ。 


 歩きなれた道のように大通りを歩いていき、宿屋サマーズの中を伺ったが誰もいないようだ。 僕は一旦向かい側の雑貨屋に入ってタイミングを待つことにした。 

 雑貨屋を物色して、ちょっとしたバックパックみたいな背負い袋をお揃いで2つ買い。 更に水筒や食物入れ、万能ナイフや着火用の魔道具など、ちょっとしたピクニックに行くためのものを買いそろえた。 


 さらに物色して1時間たった頃、宿屋サマーズの食堂にキャサリンさんが一人で現れた。 雑貨屋さんに買ったものを一旦預かってもらってから、僕は宿屋サマーズの食堂へ堂々と入って行った。 キャサリンさんと目があったが、やはりキャサリンさんは僕から目を逸らした。 僕はキャサリンさんの近くの椅子へ互いに背を向けるように座った。 


「はやく逃げなさい」  


 キャサリンさんは小声で言ってくれたのだが、それを聞きたいわけじゃない。


「隷属魔法ですか?」 


「まあそうね」 


 思った通りキャサリンさんは頼りにできないということだ。


「どこへ行けば?」 


「……普通に考えれば、アンニカ子爵領ね」  


 つまりアンニカには行くなということに解釈した。 

 そこには僕が隷属者にされた港町がある。 

 今はまだ故郷へは帰れないということだ。


「わかった」    


 それだけで僕はキャサリンさんをチラリとも見ずに宿屋から出た。 僕は向かいの雑貨屋さんで荷物を受け取り、誰にも追跡されていないことを確認してからエミリ様のところへ戻った。


 それでは出発だ。 


 宿屋への予約金はそのままに、エミリ様(もちろん変装済)を伴って乗合馬車の停留所へと向かったのだった。 


 停留所では様々な方面への乗合馬車が出ている。 とりあえずは北側の友好国であるサトエニア共和国を目指そう。  少なくとも言語は共通なので何とかやって行けるだろう。  もちろん僕らは子供2人だけなので、正規のルートでサトエニア共和国へ入国するのは困難だ。

 目的地は共和国と山を挟んで接しているナルメシオ男爵領だ。 つまり山越えをするつもりなのだ。 

 僕たちは例の如く架空のダメ父を理由にして乗合馬車に乗ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あまり読んだことがないチート?能力のお話。 [気になる点] ちょっとだけ1話2話の説明回が煩雑でとっつきが悪いかな? こちらの理解力がおぼつかないのか3回ぐらい読みました。 でもこの小説…
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