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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
20/65

20. エミリ様

 そこにいたのは、何と! 小動物のような可愛らしい女の子だった。

 僕はガッカリしてしまった。 いやちがう期待はずれだったのだ。

 僕は事前情報から、”恐ろしい何か” を想像していたのである。


 そんな思いが顔にでてしまったからなのだろうか、僕を見るとエミリ様はいきなり泣き始めてしまった。 

 最初はさめざめとした泣きだったのだが、ほどなくして大泣きに変わっていった。

 その泣き声は、まるでこの世の悲哀をすべて背負ったような魂の叫びだった。

 やがて僕もその魂の叫びに共鳴するように自然と泣き声を上げてしまい、不覚にも大泣きに変わってしまったのだ。


 6才の女の子と、8才の男の子が大泣きしている。 この状況にキャサリンさんが狼狽えないはずがない。

 キャサリンさんも次第に狼狽えから困惑にかわり涙を流してしまった。

 こうして3人の泣き声の合唱は、10分ほど続いたのだった。


 エミリ様、……侮れない。 

 この子には、人の心を揺さぶる何かが備わっている。

 世が世なら大女優になれる器があるのではないだろうか。


 恐ろしいまでの精神支配力である。 僕は結局エミリ様を恐れた。 

 やっぱりエミリ様は、”恐ろしい何か” だったのである。 僕の期待は間違ってなかったのである。


 泣き疲れてエミリ様が泣き止むと、ほぼ同時に僕も泣き止んだ。 泣き声の合唱は終わったのである。

 するとエミリ様は不思議そうに僕を観察し始めた。


 ん? エミリ様は何か企んでいるのか?


 お返しとばかりに、僕もエミリ様を観察始めた。


「……」


「……」


 しばらく互いに探るように鑑賞――様子見していたのだが、いきなりエミリ様が僕のみぞおちを狙ってパンチを繰り出してきた。


 ほほ~。 不意を突いたつもりか! いいセンスの拳だ。

 だが甘い!


 僕は以前道場で体術も習得したのだ、体をねじって回避動作に移った。 このぐらいの攻撃を(かわ)すなんて容易いのだ。 

 そう思ったとたんにエミリ様がパンチの軌道を変化させた。


 グフゥっ。 


 僕はパンチをお腹にまともに食らってしまった。 エミリ様のパンチはフェイントを交えた高等な攻撃だったのである。


 だがまだ甘い、僕はほぼ毎日、赤服ヨリカンに地獄の腹パン攻撃を受けていたのだ。 このぐらいのダメージは何でもない。


 僕は距離をとって次の攻撃に備えた。

 ちなみに僕のHPは1だけ減っていた。


 エミリ様は精神支配攻撃どころか、格闘攻撃能力も持っておられる。

 6才にしてこの才能……。 怖い、恐ろしい、こ、これがこの伯爵家の秘密なのかっ!


「なんで、離れたの?」


 ん? このタイミングで対話を仕掛けるとは、どんな策略だろうか。

 僕は警戒を強めた。


「次に備えたのです」

「なんで、備えたの?」


 えっと、なんで備えたって言われても攻撃に備えたんじゃないか、何を聞いているんだろう?

 まさかこれは罠、そう罠に違いない。そういえば知らぬ間にエミリ様が距離をじりじりと詰めてきている。


 危なかった。 

 僕は怪しまれないように距離をとった。


「安全を取ったのです」

「なんで安全を取るの?」

「エミリ様が強いからです」

「なんで強いと思うの?」


 僕はハッとして気づいてしまった。 

 こ、これは 僕の妹がよく使った ”なんでなんで口撃(こうげき)” じゃないか?

 この子は攻撃力だけでなく口撃力まであるのか。

 僕はさらにエミリ様に恐れをなしたのだった。


 ……なんでなんで口撃(こうげき)(かわ)すには切り札を使わねばならない。


「それはエミリ様が可愛いからです」 


 僕の切り札が炸裂した。  これでどうだ! これを返されたさすがに僕の負けだ。


「……」


「……」


 エミリ様は”なんでなんで口撃”を封じられてしまい顔を真っ赤にして怒っておられる。 

 今は次の攻撃を考えているのであろうか、二人の戦闘は膠着状態になったのであった。


「アレン様。初対面でいきなりエミリ様を口説くなんて、……教育者としてどうなんでしょうか」


 キャサリンさんの怒ったような発言に僕は驚愕してしまった。


 何を言ってるんだキャサリンさん、 ”なんでなんで口撃”を封じただけじゃないですか。

 戦いの最中なのにエミリ様を口説くってなんだよ? 


 ……もしかしてこの伯爵家では、”可愛い”って言えば口説くことになるのだろうか。 

 ちょっと実験が必要かもしれない。 ……よし、いつものようにやってみよう。


「キャサリンさんも可愛いです」 


「アレン様、大人をからかわないでください!」  


 ふむ、口説いたことになったようだ。 この伯爵家は独特の風習をもっているのだな。 中々奥ゆかしい家柄のようだ。 


「アハッ、アハッ、アハハハハハハ」  エミリ様が突然笑い始めた。


「アハハハハ  キャサリン この人変、この人変~~~っっっ!」 


 またもやエミリ様は僕に精神支配攻撃をしかけているのだろうか? 

 しかしその程度では僕には全く効き目がない。 

 戦いに勝つために、支配されているかのように演技してやろう。


「アハッ、アハッ、アハハハハハ」 


 僕も負けじと笑ってやった。 

 さあエミリ様、どうでる。 僕の演技をみて隙をみせてくれるだろうか。


 ”パシッ”  


 僕は突然キャサリンさんに頭を(はた)かれた。


 ちょっ、真剣勝負中なのに何するんだ!


 何と僕はキャサリンさんに不意をつれてしまったのである。 僕の不意をつくなんてキャサリンさんも侮れない。


 キャサリンさんは僕を睨んでいた。


「アレン様っ、 やりすぎです。 ちょっとこっち来てください」


 そして僕は、キャサリンさんに引きずられて戦場から離脱させられたのであった。

 エミリ様、勝負は次に持ち越しですね、次こそ勝って見せましょう。 


「アハハハハハハ…」  


 僕はキャサリンさんに引きずられながら、エミリ様の笑い声が少しずつ遠のくのを聞いていた。


 以上がエミリ様とのファーストコンタクトであった。 

 それから僕はキャサリンさんから怒られてしまった。 エミリ様から攻撃を受けたと思ったのは、完全に僕の誤解であったとのことだった。 あの高度なパンチはただ力不足で軌道がブレただけとのことだ。


 大変、大変に恥ずかしいのたが、おかげで僕はエミリ様の心を開くのに成功ようだった。

 ま、まあ。 結果的には僕は勝利したとみてよいだろう。



 明けて翌日。

 改めてキャサリンさんは、僕をまたエミリ様に引き合わせてくれた。

 僕は気まずかったのだが、エミリ様は気にしていなかったようだ。

 とりあえず挨拶をせねばならない。


「昨日は、大変失礼しました。 今度エミリ様の従僕兼教育を担当することになりましたアレンと申します。 エミリ様、よろしくお願いします」


 エミリ様は今日は泣かないようだ。 


 じっと僕を観察してるようだ。 わからない、何を考えているのかわからない。 僕は挨拶したのに返答がない。 ここは僕から切り出すことにしよう。


「エミリ様 早速ですが、僕は従僕というのを経験したことも、見たこともないので何をすればよいのかわかりません。 何かご希望はありますでしょうか」


 エミリ様はニンマリ笑った。 


 笑顔だともっと可愛いじゃないか。 僕はちょとだけエミリ様に好感を持った。



「じゃ私の代わりに、小学校へ行ってくれない?」


「えっと、小学校へ行って僕は何をすればいいんでしょう」


「勉強するに決まっているでしょ バカじゃないの?」


「何のために勉強するのですか?」


「私の代わりに行くからに決まってるでしょ」


「僕は小学校も中学校も卒業しているので、勉強する必要が無いのですが……」


「えっ? アレンはもう成人しているの? そんな風の見えないんだけど」


「僕は今8才です。 僕は小学校へ行きたくなかったので、6才のときに中学校の卒試験を受けて合格して、それで回避したのです」


「ちょっと、なんでそんな嘘をつくの? 私を馬鹿にしてる?」


「いえ、僕は実際に卒業証を持っていました」


「持っていましたって何よ、今見せられないの?」


「はい。 僕の実家に置いてありますので今は見せられません」


「じゃ取ってきて、ちゃんと見せてくれたら、……嘘じゃないって信じてあげる」


「えっと。僕の実家はアタスタリア王国のマインタレスの町なので、往復で最低5か月はかかると思うのですがそれでよいのでしょうか? 」


「信じられない! 本当に私を馬鹿にしてるのね!」


「いえ本当のことなんです」


「じゃなんでコインロード語をしゃべっているのよ。 言い訳できるなら言ってごらんなさい」


「はい、こちらへ来る途中勉強したんです。 アタスタリア語とコインロード語はかなり似ているのであまり時間はかかりませんでした」


「そこまで言うなら、何かアタスタリア語で歌うたってみてよ」


「……えっと僕は…ちょっと諸事情がありまして歌う事を禁じられているのですが」


「歌いなさいよ 卑怯者!」


 そこまで言われたら歌わざるを得ない。 

 僕はアタスタリア語を使って、世界的に知られていると思われる歌を歌ってみせた。 


「いつか見た~ あの赤い陽は~、古の都の~♪ 」


 僕は<図面記録ボード>の楽譜をみながら正確に歌っていた。

 しかし他人には独特な風味に聞こえているらしい。


「アハハハハハハ  って、ちょっと何ふざけてるのよ。ちゃんと歌ってよ」


「僕はちゃんと歌っているんですが、他人にはそうは聞こえてないみたいなんです」


「音痴ってこと?」


「一般的には、そうとも言います」


「……」


「……えっと何だっけ、ああ卒業証はもういいわ。 じゃテストしてあげる」


 そう言ってエミリ様は、またニンマリと笑ったのである。



「じゃ歴史の問題です。 コインロード歴×××に、×××××子爵領で起こった出来事と関係者を言ってみて」


 僕は<ボード>で検索を掛けた。 すると、昨日取り込んだ教育書にその記載があった。


「それは、×××が発生し、×××になって、それを×××等が解決したのです。 これでいいでしょうか」


「……まぁ いいわよ」


「それでは僕からも歴史の問題です。  コインロード歴×××に……」



 僕とエミリ様は、30分ほど、”歴史なぞなぞ”で遊んだのであった。

 エミリ様、正直見直しました。 歴史をよく勉強しているようですね。 回答に少し時間がかかるものの、正確な回答が帰ってきていたのだ。


「それでは僕から今度は、算数の問題です。 132+25はいくつでしょうか」


「ちょっと卑怯者! 数学は卑怯よ! 歴史が国語にしなさいよ」


 えっ? 卑怯って何のことだろう。 まさか苦手?

 歴史と国語だけが得意ってことだろうか。


「では、 2+5はいくつでしょうか」


「7に決まってるじゃない。 馬鹿にしてるの?」


「では、 7+5はいくつでしょうか」


「……11? いえ 12?」


「おお~。 12で正解です」


 算数は6才相応といったところと見受けられる。

 その後算数をクイズ形式出題してきっちりと勉強させてやった。 体育もストレス発散として殴られ役をして、体術を習わせてやった。 音楽は、……教えようとしたのだが、キャサリンさんから止められてしまった。 本好きなのであろうか、エミリ様の国語の力は抜群だった。


 こうして登校拒否のエミリ様への家庭教育が始まったのだった。 


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