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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
19/65

19. クローク伯爵家

港町に到着するとすぐに、大男に連れられて大浴場へ入らされた。

そして成人や子供、男女区別なく、中年のおばさんたちに風呂で徹底的に洗われてしまった。 風呂から出された僕らは、小ぎれいなワンピースを着せられた。


いよいよ誰かに売られてしまうのか……。 僕はなすすべ無くサリンの命令に従うだけだった。


隷属者競売の舞台そでへ連れていかれて、そして僕の順番が来た。


ステージに立たされた。 もう羞恥心など微塵も感じられない。

そして競売が始まった。


「1ギリルスタートです」   


まさかの 1ギリルスタートだった。

1ギリルがどの程度の価値かは分からなかったが、僕には酷く安いように思われたのである。


「2ギリル!」


「3ギリル!」 

  

お前らセコくないか? もっとドバッといけよ。

ドバっと。


「4ギリル!」   


「5ギリル!」 


その時、僕をステージに立たせたお姉さんが僕のお尻をペロっと触った。


「ドッヒャー」  


僕は身震いして叫んでしまった。 なにすんだよこの変態!


「100ギリル!」 


「110ギリル!」 


「130ギリル!」 


お前ら! なんでレートを二桁上げてんだよ この変態ども!

僕は心の中で毒づいた。


「150ギリル!」


「500ギリル!」 


周囲が し~ん となってしまった。

結局僕を落札したのは中年の貴婦人であった。

一旦隷属魔法を解除する魔法を掛けれて、再度隷属魔法を掛けられて、新しいご主人(ツキヨミ様)の隷属者となった。

もちろん<識別ボード>で解読した魔法パタンは<文字記録ボード>に記録した。 隷属化から脱するのに役立つかもしれないし、魔法研究に役立つかもしれない。


さて今度はどのような試練が待っているのだろうか……。



僕の新しいご主人は、ツキヨミ様というらしい。

全国貴族名鑑のコインロード王国を調べると、ツキヨミ・クローク伯爵という女性の名前があった。

このご主人は伯爵様である。


ツキヨミ様が僕のご主人となった後、ツキヨミ様直々の聞き取りが始まった。


「さて名は何という?」  


質問は命令と同じなので逆らえない。 逆らう理由もない。


「はい。 アレン・グレイプルと申します。 アタスタリア王国のモトリオーネ男爵領の出身です」


「なるほどコインロード語が話せるようだな。 どこで覚えた?」


「はい。ここへ来る途中の船の中で覚えました。 母国語と似た言語なので覚えるにはそれほど苦労はしておりません。 また辞書も使いました」


「隷属者が辞書を使うのか。……あり得るのか? で、どのような教育を受けたのか?」 


「小学校へは行きませんでした。 ですが中学校の卒業証を持っております」 


「ほぅ。 年はいくつか? アタスタリア王国貴族の関係者とは本当か?」


「年は8才です。 お貴族様の実験関係でお手伝いをしていました」


「ふむ。 <ギフト>はなにか? あと特技は何かあるのか?」


ぐふっ……。 質問されてしまった。 一番話したくないところを突かれてしまった。

しかし隷属者としての強制力が働き、答えざるを得ない。


「……BRDで御座います。 特技は文字記録と図面記録で御座います」


「何? BRDと申したか?」


そうだよね。 めずらしいから当然驚くよね。

多分、現在はこの世に僕しかいない。


「はい。 その通りでございます」


「こ、これは、たまげた。 ……そんなことがあるのか。 なぜ隷属者になったのか?」


「はい、人攫いに会い、一旦逃げたのですが、今度は隷属者商に捕まったのでございます」


「ということは、非合法的な経緯で隷属者に落ちたということなのか、……ふむ。 まあいい。 アタスタリアと国交があるわけではないからな」


「ではアレンに命令しておく。 まずはクローク伯爵家を裏切るな。 クローク伯爵家のために精進せよ。 最後に、故郷へ帰ることも連絡することも禁じる」


そう言うとツキヨミ様は、優し気に僕にほほ笑んだ。

何故だか僕はその様子が何かとても恐ろしく感じられたのであった。

ほほ笑みって外見上は好ましいのだが、使い方によっては威嚇にもなるよな。


「はい 分かりました」


最後の命令には不満だったが、隷属者の身としては当然要求されることであり、むしろ寛大なくらいだ。 今のところは大きな不利益はない。 この謁見には恐ろしさもあったが、少しばかり安堵したもの事実だった。


「ズルマンよ、 このアレンをエミリ付きの従僕にして大丈夫か確認せよ」


「はい かしこまりました お任せください」


僕はズルマンさんに試されて、エミリという方の従僕になるようであった。 僕はツキヨミ様の隷属者であるのだが、エミリという方とは隷属魔法の主従関係にしないようだ。


もしかして、隷属者といってもかなり自由なのでは?  僕は少しだけ期待してしまった。




その会見後、僕はズルマンさんに連れられて、港町アスペラの南に位置するクローク伯爵領へと向かったのであった。

 

クローク伯爵領も港町である。 交通手段は、馬車や人力車が普通で、自動車はめったに見ない。 僕は人力車で運ばれていた。  人力車――それは、馬なんて比較できないぐらいにSTRを強化した人が引っ張る車で、この世界特有の車であると言ってよい。


道中ズルマンさんからいろいろと情勢などを聞くことができた。 コインロード王国は漁業と農業が盛んな国で、西側に海、その他は3国と接しており、そのうち2国と同盟関係、1国と敵対しており戦争中である。   この数か月であの世界的な小競り合いは、世界大戦へと発展しているようであった。


クローク伯爵領は、漁業中心で運営されており、ダンジョンも2箇所存在していたため、冒険者というこの国固有の組織からなる組合が、ダンジョンを攻略し、素材を産出しているとのことであった。 

 

エミリ様は、ツキヨミ様の長女で6才になって半年ほどである。 つまり僕より2才程度年下なのである。

6才になってからというもの極度に塞ぎこんだり、いきなり荒れたりして兎に角ひどく情緒不安定なのだそうだ。 僕にはエミリ様の従僕兼教育係となって、エミリ様を支えて癒すことを期待しているとのことであった。


僕のような隷属者に重要そうな役目を与えるなんて、どれだけ人材に困ってるんだろう。

まさか隷属者にしないと勤まらないような凄惨な地獄が待っているのだろうか、その点については多少不安である。


それに僕は自他ともに認める?突っ込み役であり、決してボケ役ではない。 癒し役はボケ役の領分じゃないのか? ボケ役もできないことは無いと思うのだが、あのミズチ様との実験での失敗を思うと、命に関わるのである。  恐ろしいので今後も僕はボケ役になるのは止めておいた方がよいだろう。


それしてもズルマンさん。 ”従僕にして大丈夫か確認せよ”ってのはどうなった?




人力車は早い。 自動車に匹敵するぐらいだ。  

クローク伯爵領へは3時間程で到着し、その主要であるイスカンダリア市へは30分ほどで到着してしまった。 このイスカンダリア市は人口1万人を超える中規模な都市であり、クローク伯爵領のやや北よりに位置している。 僕の故郷であるマインタレスの町と比較すると、人は多いもののその暮らしぶりは一段落ちると言ってよかった。


お城についても上品だが大きな屋敷といった感じであった。 それにしても鎧を着こんだ武人が多い。 ダンジョンが近いので冒険者が多いのだろうか、そんなことを考えていると程なくしてお城へと到着した。

城門をくぐり中へ入ると、使用人と思われる人々が待っていた。



「ズルマン様 おかえりなさいませ」


使用人と思われる人たちが一斉に声上げたので、僕はビックリしてしまった。 慌てて全国貴族名鑑え調べたが、ズルマンさんらしき人物の記載は無かった。 僕はちょっと安心してしまったのであったが、この状況は理解できずにいた。



「丁度いい皆に紹介しておこう。 今日からエミリ様の従僕兼教育係となるアレン殿だ」


ちょっとズルマンさん、 隷属者に対して ”殿” 呼ばわりはいかんだろう~。

この人って僕の素性分かってるよね? なんか良くない予感がしてきた。


まぁここは合せておこう。 ズルマンさんに恥をかかせてはいけない。


「ご紹介いただきました。 アレンと申します。 今回エミリ様の従僕兼教育係を拝命いたしました。

いろいろとご迷惑をおかけするかもしれませんが、今後ともよろしくお願い申し上げます」

 

すると、使用人たちは僕に目を見開いて驚いたようだった。



ん? 間違えてしまったのか? 僕はファーストコンタクトに失敗してしまったのか?

 

すると驚愕から立ち上がった使用人たちからひそひそ話が聞こえて来た。


あんな小さいのに……可愛そうに……どうするの……いつまでもつか。


僕はこれを聞いて狼狽えた。

 

”可愛そうに”って何のこと? 怖くなるじゃないか。 やはり僕が隷属者であることを知っているのではないだろうか。 それにしてもこの伯爵家はどうなっているのか訳がわからない。


その後、僕はキャサリンさんという使用人?に連れられて部屋を一室割り当ててもらった。

整った綺麗な部屋である。 僕の実家の部屋より少し良い感じだ。


「それではごゆっくりください。 後でエミリ様にご紹介させていただきます。 あと何か御用がございましたら、このベルを鳴らしてお呼びください」  

そう言ってキャサリンさんは退出していった。


これって僕が隷属者って絶対に知らないよね。

これじゃ~まるでお客様扱いじゃないか。 

誰かと勘違いされている? いや、ズルマンさんは伯爵様の隷属者になった頃から一緒だったので、少なくともズルマンさんは間違えるはずがない。


暇なので部屋の中を物色していたところ、収納棚の中に多量の本を見つけてしまった。 本の背表紙をみると、この国の言語で書かれた教育書関係であった。 


何時ものようにパラパラと内容を<文字記録ボード>へとコピーしていく。 50冊ほどだろうか、棚の半分をコピーし終わったところで部屋のドアがノックされた。


本漁りを止めてドアを開けると入ってきたのはキャサリンさんであった。 いよいよエミリ様と引き合わせるというのでドキドキしながらついて行った。

ストックはあるのですが、文章の見直しのペースが追いつきません(できていません)。 また同時投稿の小説を優先するため。次話から投稿のペースを落とさざるを得ないです。

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