17. サバイバル
僕は山の中をどんどん登って上へと逃げていく。 街道に戻るため、そして迷わないためにも進んだ道や景色の写真も抜かりなく撮っている。
辺りは薄暗くなり始めていた。 体力の限界も近い。
空腹だったので、くすねて来た水筒から水をのみ少しだけパンをかじった。
辺りを見回して登れそうな木を探した。 これから夜を凌がねばならないのだ。
狙った木にサバイバル装備から木登りの器具(厳密には違うのだが)を取り出して5m程登った。 そしてサバイバル装備毎僕を魔物の紐で枝に固定した。 これで余程のことが起こらない限り夜を凌げるはずである。 あとは度胸一発寝るだけだ。
辺りが明るくなり、朝になったので自然と目が覚めた。 魔物と対決する夢を見続けたような気がしたが、あれは獣の声だったのかもしれない。 木の下には争ったような痕跡があったのである。
強烈に喉が乾いていたので、くすねた水筒の水を飲み干す。 空腹だったが残りのパンは水を確保できてから食べることにする。
山賊と遭遇する確率が高いから、今街道に降りるのは大変危険だ。 あれほどの戦闘なのだから、数日も経てば調査部隊が派遣されて山賊を蹴散らすに違いない。 それまでは山の中で隠れていなければならない。 そうなると水の確保が目下の重要課題なのだ。
山で迷ったときには、とりあえず登れが常識のようである。 水を確保するために沢を探して下りたいのだが、崖に落ちたり遭難の可能性が高いらしい。 僕としては、まずは山頂を目指して上り、見晴らしの良いところで安全そうな沢を見つけて水の確保を目指したい。
アタスタリア王国の東側の地図はどうなっているかというと、街道を東に進むと海に出る道であり、この辺の山は高くても500mはないはずだ。 ここからは見えないが山頂への登坂は可能と思われから、キツそうだがやるしかない。
あとは、獣や魔物が問題だ。 その対策には武器が必要だ。 サバイバルグッズで使えそうなのは、多用途目的のサバイバルナイフ、解体用ナイフ、そして着火用魔道具だ。
とりあえず戦えるようにするため槍を作ってしまおう。 着火用の魔道具の火力を上げて枝を焼き切る。 生木なので山火事にはならないだろう。 何本か切って下に落としたところで、サバイバル装備と枝との固定を解除して下に降りた。
作った槍は2本。 一本は先を尖らせただけの木製の槍。 もう一本は木にサバイバルナイフを銃剣のように固定したタイプだ。
僕は尾根を登っていく。 時々高い木を探して登り、安全な沢の在りかを確認していく。 そして結局は頂上へ到達した。
山頂で木に登って周囲を確認したところ、安全に降りられそうな沢は来た道の反対側にありそうだった。すでに喉がカラカラだし、早く水を飲みたい。 僕は目印の写真を参照しながら慎重に尾根を下り、さらに安全そうな沢へと下っていった。
沢に流れる川に到達した時には、日が暮れかかっていた。 写真チートがなければ、ヤバかったかもしれない。 また幸い魔物や危険な動物にも遭遇しなかった。
川で死ぬほど水を飲んだ後、残っていたパンを完食してやった。 空腹を満たすには全然足りない量だが我慢できる範囲だし、今はどうしようもない。
僕は付近の高そうな木に登り、昨日と同じように夜を凌いだのであった。
途中、何度か催してきてしまった。 水を飲みすぎたのである。 仕方がないので木の上から放出してやった。
なんか獣の悲鳴が聞こえた気がしたが、自然の節理なので気にも留めたかった。
下にいた君が悪いのだ。 僕は悪くない。
翌日目が覚めた。 酷い空腹感だ。 体から力が抜けてしまっているような倦怠感もある。 今日の第一目標は食料の確保だ。
下を見れば、ヤバそうな目つきで僕を睨むイノシシのような生き物がいた。
お前、下にいたのが悪いんだぞ! 僕を恨むのだお角違いだぞ!
図鑑と動物園の知識からは、あれは食べられるはずだ。 イノシシのような獣――イノたん(僕がつけた愛称です。正式名は別にあります)は、しきりに唸り声をあげて僕を威嚇している。
そうか、そういう態度をとるんなら、いいだろう、この僕が相手してやる。
逃げるなよイノたん!
僕は木の上から空中戦を挑んだのだった。 (空中戦は言いすぎです、ごめんなさい)
とにかく槍が届く範囲まで降りて行き、飛びかかって来たイノたんの目に、カウンター気味のタイミングで槍を突き刺してやった。 するとイノたんは、鋭い悲鳴を上げてあっさりと逃げて行ってしまった。
お前、逃げるなんて卑怯だぞ! 最後までやるって言わなかったか?
……まぁイノたんはそんなことは言ってないし、追いかけることもできないから、素直に諦めるしかない。
さて余興は終わりだ。 食物探しの旅の本番である。
中型の動物は一撃で動きを止められなければ逃げてしまう。 今の僕では狩るのは困難である。 小動物は見つけるのが困難だし、戦うまでもなく逃げてしまうか、毒持ちで危険である。
魔物は最後まで執拗に相手してくれるのだが、非常に強いケースがある。 魔物には見つからない、近寄らない、逃げるが、僕の基本姿勢だ。
以上から食べ物の有力候補は植物関係だ。 食用の果実や木の実、野菜や草などである。 ここに来るまでの写真を現在位置に近いところから確認していく。 もちろん<図面記録ボード>の食用植物図鑑と比べながらである。 この辺は記録チートがあって良かったと思う。
それらしき果実の写真があった。 ここから20mほど登ったところである。 僕は早速行動開始したが、 現場について少しがっかりしてしまった。
実が熟していなかったのである。 それでも美味ではないだろうが、何とか食べれるだろう。 僕は果実をたくさん確保して食べ始めた。
ぐえぇぇ~ これは不味い。
それでも我慢してお腹いっぱい食べてやった。 それから僕は何度も往復して、水場の拠点へ果実を運んだのだった。 空腹が収まり、僕はやっと一安心できたのだった。
次の課題は、雨とかの対策だが、 とりあえず今は雨は降りそうにない。 それでも街道が安全になるまでに余裕をもって3日ほど粘りたいので備えは必要だ。 雨に濡れて低体温になるのが危険なのだ。
傘になるような物と、焚火が効果的だろう。 僕は水辺近くの葉が多い大きな木の下に陣取り、乾燥した薪を集め、サバイバル装備付属の魔道具で火をつけた。
暇つぶしに、食用植物図鑑を覚えてやった。 昼間は焚火の近くで過ごし夜は木に登って寝た。
朝になったので起きた。 これで山籠もり3日目である。 これで当初考えた最低限の日数は稼げので、下山しても山賊とは遭遇しないと期待できる。
昼過ぎになって空をみたがまだ雨は振りそうにない。 ちょっと時間をとって遠くの雲の流れと観察していたのが、何となくこちらへ来そうな気がした。
僕は下山を決意した。 今から向かえば夕方の少し前には街道へ出れる。 そうすれば誰かが通りかかるかもしれない。 その街道は結構交通量は多いはずなのだ。
水と食料さえ持っていけば、最悪ここと同じ感じで野宿できるかもしれない。 あの戦場へもどれば、サバイバルに必要な物が残っている可能性もあるので行くしかない。
街道に出た。 あの戦場に戻って来たのである。 人影はなく、物を燃やした跡があるが、きれいになっている。
探したが有用な物資は何もなかった。 あとは人が通りがかるのを待つだけだ。
その間にもしもを考えて大きな木陰を探して薪も集めておこう。 薪を探して少し経ったところで、車の音がしたような気がした。 高級車ではないのだろう少し大きめ音だ。
僕は、街道を目指して全力で走った。
「助けてください! 助けてください! 助けてください! 」
僕はあらん限りの力で叫んだ。
通りかかったの車は4台の一行だった。 僕の叫び声で止まってくれたのだ。
助かった! 僕はやっと安堵できたのであった。