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ペナルティギフトと呼ばれたBRD  作者: 猫又花子
第二章 コインロード王国編
16/65

16. 誘拐

なろう系では禁じ手の主人公に厳しい展開です。

苦手な方は読み飛ばしを推奨です。

目覚めると、うっすらと明るい程度の暗闇だった。 

頭がズキズキする。 殴られたのは本当だったようだ。  こんなのは生まれて初めての経験だ。 珍しい体験ではあるのだが、これは他人事ではないのだ。 ピンチなのだ ヤバイのだ。 

こんな時こそ冷静になって、笑うぐらいが丁度いいのだ。

そう思ってすぐに笑おうと思ったが、猿ぐつわをされているようで笑えない。 本当に笑えない状況である。


仕方がないので、まずは状況確認と整理だ。 猿ぐつわをされて、多分拘束衣を着せられているようで、動けないようにして寝かされていた。 さらに頭には袋を被せられているようで外が見えない。 最悪だ、明らかに誘拐されたのだと実感できてしまった。


寝かされている場所はガタゴトと揺れており、風が当たっているのか袋が少しはためいているようだ。 恐らくは自動車に乗せられて移動中なのだろう。 あの自動車事故も故意だったのだろうし、乗り込んできた覆面は僕を見るなり殴った。 つまり僕をピンポイントで狙った誘拐なのだと考えられるのである。


<ステータスボード>を開いてみる


アレン 8才


位階レベル  0   0/1000

HP  16/280    0/100

MP  4080/4080  0/100

STR  9    0/1000

VIT  9    0/1000

AGI  9    0/1000

DEX  9    0/1000

MND  9    0/1000

INT   9    0/1000

状態 幼少加護

ギフト BRD


HPが大きく減っている。 

殴られたことによって、恐らくHPは幼少加護が発動する1にまで減らされたのだろう。 HPの回復具合から考えると、殴られてから20分程度が経過したぐらいと推測できる。 となれば、自動車ではまだ男爵領を出ていない距離のはずである。 揺れの大きさから考えると一本道の街道を走っているはずで、距離的にはダンジョンがある所へも到達していないはずだ。 ダンジョン近くのキャンプに到達したら、周囲の音でわかるはずである。


動ける範囲で体を動かしてみると重い感触があったので、サバイバル装備は着たままのようだ。サバイバル装備があれば、いろいろとできることがあるのだが、いかんせん動けないので装備が使えず何もできない。


さて動けない身であるので、暇である。  暇すぎるので、今日のスッコロビの実験を見直すことにした。 いくら写真を見つめても醜悪なだけで、魔法の発動原理も器官もわからかった。 どうやって魔法を発動したのだろう。


魔法? 


そういえば、と考えて<識別ボード>を見てみた。


ビンゴ! 


魔法特有の32個の青赤パタンが<識別ボード>に履歴として残っていたのである。

この魔法――睡眠魔法パタンは、新発見ではないだろうか。  僕はすかさず睡眠魔法パタンを<文字記録ボード>へコピーし、<魔法大全>などの魔法関係の資料との比較を始めた。 思った通り、どこにも記載がなかったので、僕は知られていない未知の魔法であると断定した。 


やった~ 僕は発見したぞ、僕はやってやったぞ! 


僕はその発見に、つい有頂天になってしまった。 だがその喜びも束の間で、すぐに我に返って白けてしまった。 今は囚われの身なのだ、現実は甘くないのである。


他にできることは何かないだろうか?  僕は今できることを模索し始めた。 未検討課題として残っているのは、犯人グループの動機の推測ぐらいかもしれない。  あまり考えたくないことではあるが、数学の問題を解くより百倍もマシである。


そして、僕は考え始めた。

まずは僕は無事に生かされいて攫われた後での暴行はない。 これで僕への怨恨の線は消えるだろう。 また変態趣味目的の誘拐とは考えたくないので、それも除外だ。 そうすると、身代金目的の営利誘拐か、あるいはミズチ様関係の誘拐なのかもしれない。

ミズチ様関係なら、ミズチ様への脅迫目的か、単に誘拐対象を間違えたかだろう。 脅迫目的ならば、政治的な話とか、魔道具関係なのだろう。 

この世界には電話とかの遠距離通信方法は無い。 そうなれば、営利誘拐にしろミズチ様関係にしろ、人質の生死の確認方法もないだろうから、今も生かされているとなれば、生きて戻れる可能性が高いと言えるだろう。

つまり考えた結果の結論は、大人しくして救援を待つことだったのである


抵抗するのを諦めてしまった僕は、結局暇つぶしで数学の問題を解いたり、共通語に近い外国語の勉強をしたのであった。 本当に面白くない。


暫くして自動車が止まり、周囲から多くの人の声のようなざわめきが聞こえて来た。

恐らくダンジョン付近に到着したのだ。 


僕はイラっと来てしまい、憂さ晴らしに心の中で叫んでやった。

おい、そこの犯罪者!。ここで休憩なのか? 余裕だな! 

僕を助けに来る追って手が迫っているって想像できないのか? 

見つかって臨検されたら一発でバレるんじゃないのか? アホーーー!!


ここで長く休息してくれればいいのにと思ったが、すぐに自動車は動き出してしまった。 奴らもある程度の想像力はあるのだろうか。  ちょっと止まったのは怪しまれないための偽装? となれば、一筋縄ではいかない奴らなのかもしれない。 いや、単におトイレ休憩なのかもしれないぞ。 

つい奴らのその光景を想像してしまって、僕の気分は悪くなってしまった。 奴らがキレイなお姉さん達なのなら赦せるかな? いやそんなことないな、やっぱり許せない。


暫くして、車は左へ大きく旋回したようだ。  これはもしかして伯爵領へは行かないのか? 良くない傾向だ、このまま何処へ行くのだろう? 東の山?川?  どちらにしても目撃者が減るだろうから、救助隊の捜索は困難になってしまうのではないだろうか。

悩んでも仕方ないので、またもや外国語の勉強に励むことにした。 やはり数学は僕には合わないようだ。  微分方程式とかはまだマシなんだが、この世界独自の証明方法なんかを習得しても問題を解ける気が全くしないし実用性もわからないからである。


さて、暫くして車は止まり、動かなくなった。 

また休息なのかと思ったら車がゆらゆらと揺れ始めた。 これは船に車を乗せて移動を開始したことを意味するのではないだろうか。 これではどこを進んでいるのかそのうちに分からなくなってしまう。 僕は<図面記録ボード>で、男爵領の周辺地図を出して現在位置を推定したのだが、これ以降は速度とかが分からないから、どの位先へいったのか分からなくなる。  そろそろ、現在位置の推定も諦めるべきなのかもしれない。  


いっそ寝てしまおう と思ったのだが……。


危機的状況に陥った。 

要は催してきてしまったのである。


まずい。 まずい。 まずい!


おい! おまえら捕虜のことちゃんと考えてるのか? 

人権はどうなったんだよ!

虐待だ! これは虐待だ! 許さん! 許さんぞおまえら!

僕は粘れるだけ粘って悶えたのだが、結局は楽にしてしまった。

……はぁ~ もうどうでもいいわ。

そう思って一旦は落ち着いたのだが、……まさかこのままだと明日の朝には、大の方も?


僕は真っ青になってしまった。

そして極度の緊張状態を保ちつづけた僕は、非常に疲弊してしまい、ちょっと気を緩めた隙に眠りに落ちていたのだった。


目が覚めた。

しまった! 寝てしまっていたのか。  こんな状況で、しかもまっ昼間から寝れるなんて僕はどうしてこう、大物なのだろう。

まだ車はゆらゆらと揺れて揺りかごのようだ。 揺りかごで寝てしまった赤ちゃんだった時の気持ちが、今更ながら理解できてしまったかもしれない。


<ステータスボード>を見る


アレン 8才


位階レベル  0   0/1000

HP  259/280  0/100


以下省略


HPの回復度合いから逆算して見るに、もう4時間ぐらい経っているのか。

そして袋からうっすらと漏れる光から推測すると、まだ昼間だ。

喉が乾いた。 

お腹が減った。


昼食はどうしたんだ? こっちは育ちざかりなんだから、ちゃんと食べさせてくれないとグレちゃうぞ!


胃が痛たくなってきた。 

お腹も痛くなってきた。 

って、お腹は痛くなってはいけない!! 

まだ諦めるのは早い。  まだ早いのだ。 僕は精神をコントロールして、何とか体調を整えたのであった。


これは気を張っていてもどうしようもない。 8歳児にこの仕打ちなら、慈悲の心なんて微塵も期待できない。 抵抗しても無駄だ。 安静にしておくのが一番だ。 そう思うと、僕はまた寝ることにしたのであった。  

……寝てばかりだな僕は。



突然結構乱暴に揺すられた。 


「 おい! 起きろ」 


僕は強制的に起こされてしまった。


「 きったね~な。 こいつ漏らしてるぜ」  


おまえも汚いぞ! 僕は心の中で罵った。


「ハッハッハ もうあれから半日だぜ? 俺だって漏らしてるぜ」


「ま~な。 可愛そうなガキだぜ。 まったく嫌な仕事だわ」


嫌ならやるな! と思ったが、突っ込みを入れる場面じゃない。

これから何が始まるんだろう。

袋からだされて、こいつらの顔も見えている。

ここは? と周囲を見回すと川のどこかの停留所のようだ。

<図面記録ボード>で位置を推定してみるが、10箇所ぐらいは該当する候補がありそうだ。


「ほら 立てよ。 よーし 拘束衣を脱がすから、暴れるんじゃね~ぞ。

暴れたらまた一発いれてやるからな!」  


こいつが殴った奴か! 一瞬怒りに燃えたが、表情に出してはいけない。 今はされるがままになるのが正しい。


「ズボンどうすっかな~ このままだと匂いで雑に扱ったのがバレるかもな」


「脱がせて洗えよ、お前のせいだろ」


「なんでだよ、まったくもう面倒なガキだぜ」 


一発ビンダされた。  


こいつら本当にチンピラだな。 

おい! 頬が腫れるじゃないか。  

雑に扱ったのもろバレになるんじゃないのか?。


「ほら脱げ グズグズるんじゃね~」

 

逆らってはいけない。 無駄なだけだ。

僕はズボンを脱いだ。

更にパンツも脱いだ。

もう羞恥心なんて些細なことだ。


「こっち来て 自分で洗え。 さっさとやれ」


またビンタされそうだったので急いで洗った。


「よし、 しぼってここへ干しとけ。 乾いたら手前で着ろよ。

あと逃げたらぶっ殺すからな!」


「おい 殺しちゃ金にならんだろ」


「いいんだよ、幼少加護があるから 殺すぐらいの勢いでぶっ叩けばいいんだよ!」


極めて狂暴な奴らだ。  今は絶対に逆らってはいけない。

救出されたら指名手配するために、僕はこいつらの写真を取ってやったのであった。


暫くしてズボンがちょっとだけ乾いたので着用しておいた。 もうほとんど夜であるし、これ以上乾くわけがない。 匂わないだけマシである。 ついでに、「トイレ行きたい」 といって無理やり、”大” も済ませておいた。


そうやって待っていると、そこへ新たな集団が車に乗ってやってきて、アイツ等と何か交渉を初めていた。

そして僕は新たな集団の車へ乗せられて東方面へ移動が始まったのであった。

新手のやつらは、車に乗る前に僕のネックレスを確認していた。 これはミズチ家関係者を示すものだから、そういうことなのだろう。 


夜になったので寝た。

朝になったので目が覚めた。 

要所要所での写真撮影は抜かりないし、勿論犯人たちの写真もだ。

僕への扱いはかなりマシになり、トイレや食事も十分だった。 ただし、トイレ以外は車からは出してもらえない。  車両の内側から鍵が掛けられていたのである。 


鍵はタレ目の年老いた爺様が管理していた。

この世界では年老いて強くなることはあっても弱くはならない。  ステータスは増えることはあっても減ることはないのである。 つまり爺様は強い可能性が高い。


攫われてから2日目の昼過ぎ、昼食後にそれは起きた。

鬨の声とともに、汚れた身なりの山賊が襲い掛かってきたのだ。

激しい剣戟と飛び交う魔法。 

車の中から見たそれはまるで映画のようだった。

違うのは、飛び散るリアルな血しぶきと、汚物、嫌な臭い、そして止まらぬ悲鳴だった。

数は山賊が圧倒的に多いが、迎え撃つ人攫いチームはかなり鍛えられた武人達のようだった。

戦いは拮抗しているようにも見えるが人攫いチームが勝ちそうである。 ところが何をトチ狂ったのか、例の爺様が鍵を開けて逃げ出してしまった。


おい爺! お前は強いんじゃないのか? 戦えよ! ありえない!

僕は爺様に強い憤りを覚えてしまった。 

山賊が勝つのは僕にとって危険だ。

山賊は金目の物を目当てとしているはずなのに、この一行の目玉は僕なのだ。

山賊に僕の素性が分かったとしても、人質交渉なんて無理だし価値も分からないだろう。

これだけの犠牲者を出して、無駄な襲撃をしたとなると怒りにまかせて何をされるかわからない。


戦況は爺様の離脱を契機として、人攫いチームの指揮がくずれ始めてしまっている。

人攫いチームに逃げ出す者が出始めたのだ。


これはまずい!


僕は、食料と水をちょっとくすねて、目立たないように逃げることにした。 車からそっと降りて、戦いで余裕がない人々の間をすり抜けて逃げていった。 途中僕に気づいた山賊もいたのだが、戦いを優先させたのだろうか追ってこなかった。

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