1. ペナルティギフト
僕は目が覚めた。
僕は意識を取り戻したのだ。
僕は流行性の病気になり気絶したようだが、何とか病気は治ったのだ。
僕の名前は、アレン・グレイブル 6才だ。
グレイブル商会の次男である。
そして、僕は生まれつき不思議な記憶を持っていたのである。
これは、明らかに神が僕を祝福している。 僕は英雄になるべくして生まれたのだ。
そう思っていた時期も確かにありました。
僕はつい先日6才になり、<ステータスボード> の感覚を発現させたばかりである。
この<ボード>というのは、人間にのみに授けられるている基礎的な能力であり、魔法を使うために必要になるのである。
また僕は同時に、<文字記録ボード> という固有のボードも取得していた。
僕は、<ステータスボード>を開いてみる。
アレン 6才
位階レベル 0 0/1000
HP 10/260 0/100
MP 4060/4060 0/100
STR 7 0/1000
VIT 7 0/1000
AGI 7 0/1000
DEX 7 0/1000
MND 7 0/1000
INT 7 0/1000
状態 幼少加護
<ギフト> BRD
何度見ても、6才でステータスを見ることができていて、<ギフト>はBRDだった。
また予想通りHPがかなり減っていた。
僕は病気になり、多分一旦はHPが1まで減って意識を失ってしまったのである。
その後何とか持ち直し、病気が治ったのでHPが10まで回復したのだと思われる。
治療師である母が所要で遠方へ行っていなければ、僕は意識を失うとかなかったかもしれない。
それに僕がヤケになって暴れて、体調を崩さなければ病気にさえならなかったかもしれない。
今回の危機は、僕の自業自得である。
自業自得ではあったのだが、問題はそこではない。
<ギフト>がBRDであるのが問題なのだ。
僕に課された理不尽な運命を思うと、感情が高ってまたもや耐えられなくなってしまった。
僕はまた号泣してしまったのだ。
僕は不思議な世界の、しかも大人の記憶を持っていて、それ相応に理知的だと自覚している。
それでもなお感情は子供なりであり制御できなかったようだ。
僕の号泣を聞きつけて、兄のレビンと妹のミレイが飛ぶようにしてやって来た。
「アレン昨日からどうしたんだよ~。 そんなに泣いてちゃ、また具合悪くなっちゃうよ~」
そしてレビンは母のように僕の頭を撫でてくれたのだった。
あのレビンが、である。 フリーダムで悪ガキで、何時も僕の頬をつついて逃げていく。
そんな兄に理知的な僕はいつも上から目線で思ったものだ。
鬱陶しい奴だが悪気は無いんだろうな、今は優しく見守ってあげようと。
妹のミレイは、もらい泣きしている。
「うぇぇ~ん。 お兄ちゃん。 えぐっ、えぐっ、 何故泣くの~? えぐっ、お腹痛いの~?」
そんなに泣かないで、僕はもう大丈夫だから…僕はそう思ったのだが、僕の涙はまだ止まっていなかった。
妹のミレイは僕に懐いていて異常に可愛い。
可愛いさ余って頬をつついてしまったことさえある。
母のカイヤは治療師であり、僕にとっては菩薩のような人だ。
父のソラは商人で、……うん、まあ立派な人だ。
つまるところ、僕の家庭は幸せだったのである。
さて僕がヤケになってしまったのには理由がある。
<BRDギフト>持ちには以下の特徴があるのが定説だったからだ。
1. ステータスを上げられないので決して戦闘的な意味では強くなれない。
2. 成人になると貧弱で死にやすい
3. 記録者としては優秀なはずだが、歴史上役に立ったという事実がない。
つまり僕はチートで無双できるどころか、役立たずで成人になると命すら危ういのだ。
僕は兄弟に囲まれながら泣いて、泣いて、泣き疲れて、その暖かさに安心してしまったのか、いつの間にか眠りに落ちたていったのだった。
◇ ◇ ◇
まずは、この世界について説明しよう。
人には位階レベルが存在する。
位階レベルとは魂の位階のこととされており、20才になると位階レベルの制限(20才未満はレベル0で固定)が解除される。
そして、魔石という魔物から取れる素材の一種の特殊なエネルギーを吸収することで、 位階レベルの修練値を得て、それを貯めることで位階レベルを上げることができるようになるのである。
僕の位階レベル表示欄は以下のようになっている。
位階レベル 0 0/1000
これは僕の位階レベルが0で その修練値が0、そして位階レベルが1だけ上がるのに必要な修練値が1000ということだ。
この位階レベルを上げると、一種類のみステータスがランダムに選択されて、さらにランダムでステータスの値が、1~9だけ上がるのだ。
このステータスの値こそが、人の強さを示す本質なのである。
ステータスには以下の種類がある。
HP : 現状の体力。 0になると仮死状態になり、1日放置で死亡する。
休むと徐々に回復するが、仮死状態では回復しない。
MP : 現状の魔力。 魔法を使うと減り、0になると魔法が使えなくなる。
休むと徐々に回復する。
STR : 力の強さ。肉体的な力に影響し、さらに習得可能な身体強化魔法にも影響する。
VIT : 頑健さ。 肉体的な体の頑健さに影響し、さらに習得可能な身体強化魔法にも影響する。
AGI : 素早さ。 肉体的な敏捷性に影響し、さらに習得可能な身体強化魔法にも影響する。
DEX : 器用さ。 肉体的な体の使い方に影響し、さらに操作系魔法の習得などに影響する。
MND : 回復系魔法の習得などに影響する。
INT : 攻撃系魔法の習得などに影響する。
HP 10/260 の意味は、現在HPが10であり、最大まで回復すると260ということだ。
また、0/100 は、現在の修練値が 0で、ステータスが上がるに必要な修練値が100ということである。
修練値は修練魔法という15才から使える魔法で増やすことができる。
ただし20才を超えると修練魔法によるステータスの修練効果は年々非効率化し、30才ごろで全く修練効果が無くなってしまう。
その代わりに20才になれば、位階レベルのレベル上げ上限が解放されるので、それによってステータスを上げることができるようになるのである。
なお、STR, VIT, AGI, DEX, MND, INTは、年齢とともに自動的に1つづ増加する。
この世では、(恐らく神から)全ての人に<ギフト>という能力が1つだけ与えられる。
知られている<ギフト>は以下の通りである。
<STRギフト> : STRの修練値上昇が2倍程になる。
<VITギフト> : VITの修練値上昇が2倍程になる。
<AGIギフト> : AGIの修練値上昇が2倍程になる。
<DEXギフト> : DEXの修練値上昇が2倍程になる。
<MNDギフト> : MNDの修練値上昇が2倍程になる。
<INTギフト> : INTの修練値上昇が2倍程になる。
<BRDギフト> : 特殊な<ボード>を覚えいく、かなり特殊なギフト。
STR~INTなどの<ギフト>は、対応したステータスの修練の効果が2倍程になるものであり、
修練をサボらなければ、そのステータスにおいては値を高くでき強くなれるのである。
そしてBRDであるが、これは恐らくその時代に1名いるかどうかという程度の極めて稀な<ギフト>である。
その内実は以下の通り、非常に特殊で理解し難い<ギフト>である。
1. 初期MPが膨大である。
2. <発動ボード>(魔法を使えるようにするための感覚) を、7才という早い時期で覚える。
3. <発動ボード>に魔法を使うための書き込みができない。 <発動ボード>は封印状態。
4. 20才以上になっても位階レベル上げが無効化されている。
<BRDギフト>持ちは魔法が使えず、位階レベル上げもできないため、努力では一切ステータスを上げられないという冗談のような<ギフト>なのだ。
もっとも16才までは、HPが減っても1で踏み留まるという、かなりチートな幼少加護が誰にでもついてくるため、16才までは一般の子供と余り変わらない生活ができるのである。
16才になり成人になると、この幼少加護が消えるため、ちょっとしたことで簡単に命をおとしてしまう。
<BRDギフト>は、別名ペナルティーギフト とも揶揄されるぐらい最悪な<ギフト>なのである。
この<BRDギフト>で唯一救われるのは、 年齢で次々と固有の<ボード>を覚えることである。
6才
<ステータスボード> : ステータスを表示する。 普通の人は8才で覚える。
<文字記録ボード> : 文字を書いたり、見ただけで本から<ボード>へコピーできる。
<BRDギフト>固有
7才
<発動ボード> : 魔法パタンを打ち込めば魔法を発動させることができる。
普通の人は15才で覚える。
<BRDギフト>では封印されている。
<図面記録ボード> : 図面を書いたり、見ただけで図をコピーできる。
<BRDギフト>固有。
8才
<識別ボード> : 魔法のコードを読み取れる。 <BRDギフト>固有。
<線引きボード> : 多層構造になっており、線が引ける。<BRDギフト>固有。
9才~15才 :
不明な<ボード> : 用途不明。 <BRDギフト>固有。
<発動ボード>は封印されてしまっているが、 <識別ボード>、<文字記録ボード>、<図面記録ボード>は大変有用に見える。
これをうまく活用できれば生きた図書館といった存在になれるはずであるが、不思議なことに過去に生きた図書館になって大成した者がいない。
病気に怯えながら、家に閉じこもって、本を読みながら一生を過ごすというのが<BRDギフト>持ちの典型的な人生であるとされているのだ。
◇ ◇ ◇
僕はまた目が覚めた。
体調は回復しているようだ。
体調が回復したことで、心も落ち着つき冷静になっていた。
そしてなんかこう、ウジウジして思い悩んで泣いてしまった僕が嫌になってしまった。
こんなんじゃ人生が無駄になるだけじゃないか?
何となく僕の本能が何かを訴えかけてきたのである。
う~ん、でもな~ 悩まないためには何をすればいいんだろうか。
僕は、悩まないためにできる事を考えてみることにした。
僕は今6才になったばかりだ。
寿命が尽きるまでにはまだかなり時間がある。 これはだけは確かだと思う。
この世のものではない知識と大人レベルの思考力がある。
そしてBRD…何のための<ギフト>なのか分からないことと、不明な固有ボードの存在。
そして僕は突然閃いてしまった。
これって、この世を作った神が、僕に授けた不思議な知識を使ってBRDの謎を解けと言ってないか?
僕は既に一見して<文字記録ボード>という非常に有用な能力を発現させている。
普通に考えればこれだけでも知識的に無双できることが保証されているはずなのである。
僕は不思議な知識を持っているし、この世で知識チートできる可能性だってある。
そういう事か。
そういう事なんだな。
ならば僕は徹底的に<BRDギフト>を研究して謎を解明してやろうじゃないか。
そして色々と発見して僕の有用性を誇示してやろうじゃないか。
僕は今を大切に生きるために、ちょっと早いが人生の目標を定めることにした。
1, <BRDギフト>の<ボード>を深く研究し、理解し解明する。
2, 15才までに可能なかぎり能力を極める。
3, 15才以降も諦めずに生き延び、幸せな人生を送る。
僕は将来へ向けて力強く闘志を燃やしたのであった。
さて、これからが僕の人生の物語が始まるのだ。
BRDをペナルティギフトなんて呼んだ奴を見返してやるぞ!