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09 スローライフと隣人

 よく晴れた空の下、俺は畑を耕し続ける。

あれから一ヶ月ほどか……、あいつは元気にやってるだろうか。


 そんな事をぼんやりと思いながらクワを振れば、森の方からタヌキが一匹やってきた。

最近遊びに来るようになった、ちび助だ。

仲間の分の野菜を貰いに、怖いだろうに俺の元へとやって来る。



「おっ、今日も来たな。

 んー、そうだな。待ってろよ、トマトが食べ頃だったはず……」



 真っ赤なトマトをいくつか持ってくれば、恐る恐る近づいてきてその手に抱える。

そんな健気な姿に、俺はついつい出来のいい野菜をやってしまうのだ。


 本当は村に売りにいくつもりだったのだが、金を稼ぐなら別の手段だってある。

それに、クズトマトだって、見ためが悪いだけで味は変わらない。

もちろん、食べる分以上の収穫があるので、食事に困る事もない。


 だから、こうやって森の動物にお裾分けしている。

俺の畑自体が、森の敷地を借りてるのだから、このくらいはして当然だろう。


 ひょこひょこと森へ帰るちび助は、茂みに入る手前で振り返り、立ち上がって何かを訴えるように俺を見た。



「気をつけて帰れよー」



 その声に従うよう、大きな赤い収穫物を手に、その姿をしげみへと隠した。

平和な一日だ。こんな毎日がずっと続けば……。

そんな小さな祈りは、元気な声にかき消された。



「旦那様っ!! お昼ご飯ができましたよっ!!」



 声の主は、黒髪揺らし、ついでに尻尾も揺らすメイド服の少女。

ぴこぴこと頭の上の耳をはためかせ、全力で俺の方へとかけてくる。



「もうそんな時間か……」



 見上げれば、太陽は高く高くへと上り詰めている。

のんびり過ごしているわけではないが、やりたいことが多すぎて、あっという間に時間は過ぎてゆく。


 袖で汗を拭いながら、農具を脇に置く俺に、少女は突撃せんと全力疾走だ。

けれど、それはあとほんの数メートルというところで、急ブレーキによって緊急停止した。



「くっさ! 旦那様! 臭いです!」


「へ? そうか?」



 くんくんと匂うも、自分自身のニオイとはわからないものだ。



「何やったんですか!? ものすごく臭いですっ!」


「あ、そういやコンポスト混ぜてたな」


「それですっ! お昼の前に、先に体を洗ってきてくださいっ!!」


「はいはい」



 まったく、あれほど可愛かったのに、今じゃ口うるさいオカンみたいだ。

そう思いながらも、俺は家の風呂へと直行した。


 風呂は、何度か家を建て増しした時に付けた部屋だ。

排水溝と湯船を用意しただけだが、水タンクを外に設置して、栓を開けるだけで水を入れられる設計にしてある。

あとは温めれば使えるのだが、それは火魔法を湯船の中で直接使うことで温めている。

あんまり魔法に頼る生活はしたくないのだが、風呂の設計が面倒になるのでここは妥協した。


 湯船に手を入れ、炎を中に出現させるイメージをするが、炎は出たとしてすぐ水に押し負ける。

そうしているうちに、水自体が温まってくるのだ。

ほどよい温度になれば、桶で救って湯を浴び、石鹸で体を洗う。

アイツは今でも鼻がいいから、しっかり洗っておかないとな。



 しかし、汗臭くても何も言われないのに、臭いのきついものを触った時には、口うるさく言われるのだ。

どういう判断基準かはわからんが、許せるものと許せないものがあるんだろう。

ラベンダーの香りを付けたソルトを使って、一応俺も気にしているというそぶりを見せておくか。


 浴室から出れば、綺麗に畳まれた、タオルと服が用意されていた。

慣れないだろうに器用なもんだと思いつつ、そのピシッと折り目のついた服に俺は着替える。

なんだかいつもより、小洒落た服な気がするな。気のせいか?



「待たせたな」


「はい! では手早くご飯にしましょう!

 時間もあまりないですからね!」


「時間?」


「お忘れですか? 今日は午後から村長が来るんですよ?」


「……、そうだっけ?」


「ちょっと! 忘れちゃだめでしょう!?」



 うーん。村長の相手か、面倒だな。

全部任せて、俺は畑の様子見に行きたいんだがなぁ……。

コンポストって、本来肥料を指すらしいですね。

肥料を作る桶は、コンポスターって言うんだって。

まぁ、日本では混同されてるみたいだけど。

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