08 リビィの苦悩(1)
「おらっ! 動けよっ!!」
銀色に輝く毛並みの馬に、ぎりぎりと黒い手綱が食い込む。
テイマーのイーナムを置き去りにしてから、荷運びの馬の管理は、私の弟であるビリーの仕事だ。
「ねーちゃん! 全然動かねえんだけど!」
「はぁ……。ちゃんとリーダーか、リビィと呼びなさい」
「あっ……。ごめん、ねーちゃ……」
まったく、これでは身内贔屓でパーティーメンバーを選んでいるという陰口が、一層大きくなりそうだ。
重くなる頭痛を抑えながら、私はイーナムのテイムした、銀馬に近づいた。
金の瞳は、いつも私を睨んでいる。
当然だ、私がこの子の主人を捨てたのだから。
「ほら、ぐずってないで行くわよ」
ぽんぽんと、イーナムがよくやっていたように、首元を優しく叩く。
前に聞いた時、ここを叩かれるのが馬を褒めている合図なのだという。
それ以上に、彼は言葉でも褒めるし、指示を出していた気もするけれど……。
あるいは、テイマーを極めると動物と話せるのかもしれない。
フンっ! という鼻息と共に、銀馬のケンタはゆっくりと歩き出す。
その遅い歩みに合わせるよう、私たち4人も歩き出した。
「やっぱリーダーなら、馬動かせるんじゃん。
イーナムなんて、いなくてよかったんだね」
「その話はなしよ」
そう言うのは、魔法使いのミランダ。
彼女は、知能の高いものが最も優れているという価値観で生きている。
だから馬なんてただの道具でしかなく、それに媚を売るテイマーは、それらと同等の存在でしかない。
「無しって言ってもねー?
前までは馬に合わせて動いていたようなもんだし?」
「確かにな。アイツは団体行動ってモンが分かっていない」
ミランダに同調するのは、剣士のアンバ。彼らの言うことも最もだ。
なぜならイーナムは、馬のケンタが行きたい方向に勝手に向かい、それを私達が追うというのが、いつものパターンになっていた。
だから、私の指示ですべてが動く今こそ、正しい姿であり、厳しい剣士としての修行をしてきたアンバにとって、上に従う今こそが、正しいあり方だと思っているのだ。
「ホント、リビィが決断してくれて良かったよねぇ」
「まったくだ。輪を乱す者は、邪魔にしかならん」
ミランダの言葉には含みがある。
私がいつまでも決断せず、イーナムを庇い続けたことへの嫌味だ。
アンバは気づいてこそいないが、私が不甲斐ないリーダーだという認識ではあるのだと、言動の節々から感じ取れた。
「今はそんな話をしている場合じゃないわ。
今回の依頼、簡単なものではないのだから」
「ドラゴンの調査でしょ?
倒せってんなら無理だけど、見にいくだけなら余裕でしょ?」
「目撃情報のあった地を確認するだけで済む。
気配さえ消し、気づかれなければ、なんとかなるだろう」
「えぇ。けれど、くれぐれも油断はしないで」
会話を終わらせるためだけの指示。
それに気づいているのかいないのか、彼らとの話は終わった。
静かに歩く荒野、巨大な岩々の隙間を縫うように歩みを進める。
死角に魔物が居るかもしれないと、気を配りながら歩く。
けれど、それだけで危険を回避するのは限界があった。
「前方に魔物発見! オークだ! 数は4!」
先鋒のアンバはそう声を出す。つまりそれは、隠れて先に進むのが不可能。
すでに気付かれ、敵対しているという証。
「戦闘配置! アンバは食い止めて!
ミランダは攻撃魔法準備!
ビリーは万一に備えて、支援魔法を!」
指示を出せば、すぐに各々が配置につく。
オーク4体ならどうとでもなる。そう考えているのか、ミランダは余裕の笑みだ。
「ま、オークくらい余裕だし?」
「けど4体もいるんだよ!?」
「こっちも4人。10いるとかならまだしも、たったの4よ?
一人一体なら、なんとかなるでしょ?」
「結構ギリギリだと思うんだけど……。
それになんか、最近魔物との遭遇率高くない?」
「ビリー君、もしかして怖いのー?」
「そっ、そんなわけねーし!」
「喋ってないで、来るわよ!」
遠くの敵影が近づいた時、先陣を切っていたアンバの叫びにも似た声が耳を刺した。
「あっ……! あれはオークじゃない! ハイオークだ!!」
さくっと二章突入。
二人目の嫁探しの始まりですよ。