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72 治療完了

 魔法による治療薬の生成と言っても、魔法が全て解決してくれるわけではない。

材料が浮かぶのも重力魔法の応用だし、その後の工程だって魔法を使うだけで作り方は手でやるのと同じだ。


 ハチの巣が風魔法でぐるぐると回りだし中の蜂蜜が飛び散るのも、水魔法と炎魔法で残った巣を湯煎するのも、同じく湯でられ抽出液と化す薬草も、全ては基本の魔法によって行われている。

そして出来上がった蝋と抽出液が、再び風魔法で切り刻むように混ぜ合わせられれば完成だ。



「なんと……。魔法によっていともたやすく薬ができるとは……。

 それをなしうる繊細な魔力操作、さすがイーナム様にございますね」


「わが主は、強いだけで手加減を知らぬドラゴンとは違うのでな」


「…………。癪に障るものの、返す言葉はありませんわ」



 なぜかケンタがドヤ顔だが、そんなのは後だ。今は目の前の患者を救わないと。

そのままできたてほやほやの薬を傷口に塗れば、やはりかなり染みるのだろう。

ピクリとも動かせなくなったはずの熊の顔が引きつり、血に濡れた牙が顔を覗かせる。

しかしそれでも、再び噛みつくほどの力は残されていなかったようだ。



「よし、あとは包帯を巻けば完成だ」



 ポーチから収納札を破れば、ガーゼや包帯が転がりだす。

大型獣用ではないため何本も使うことになったが、なんとか巻き終える頃、ケンタとタツミの会話が耳に入ってきた。



「あの軟膏の効果、やはりイーナム様が作ったからこそのもののようですね。

 魔法によって作成されたからこそ魔力が染みだし、効能を上げているかと」


「あれは効果こそ良いものだが、あまり多用したくはないものだぞ」


「あら、あなたも使ったことがあるのですね」


「うむ……。あの激痛は、無茶をするなという主からの忠告だろうな」


「確かにイーナム様はそうお思いかもしれませんが、実情は違いますよ。

 あれはいわゆる、かまいたちというものと同じですね」


「かまいたち?」


「人を転ばせ、傷を付けるが、最後に治療するため傷が塞がれるという、人間の間に伝わる妖怪。

 風と共にやってきて、そのような怪異を起すと言われているのですよ」


「つまり、風魔法によって作られた薬が、同じような効果を及ぼしていると……」


「そう考えるのが妥当でしょうね。だから私が作った薬とは効能が違った。

 まさか、魔法によってそのようなことが再現できるとは、さすがイーナム様ですわ」



 口を挟まなければ挟まないで、なんか話があらぬ方向に飛んで行ってるきがしないでもないが……。

ただの手抜きだ手抜き。魔法でなんでも解決しようなんてのは、面倒くさがりのやることだ。

まーでも、俺は実際面倒くさがりだけどな。



「よし! 治療完了! あとは念のため、輸血もしておかないとな。

 よく頑張ったな。えらいぞ」



 熊の頭をなでてやっても、反応はない。息はあるのだが、動く体力は残っていないのだ。

それでも声をかけ、励まし褒めることが、頑張った者への接し方だ。


 最後の仕上げに、収納札か血液製剤を取り出す。

これはブラッドムーンの時に暴れた動物から抜き取り、魔法で精製した輸血用の血液だ。

だが、人間用に調整されている。そのため、熊用にもう一度精製し直さなきゃならない。

これがまた厄介で、薬と違い物理的な魔法でどうにかできるものでもない。

材料だけ揃えて、無理やり完成形へ持ってゆく魔法なのだ。

そのため、魔力量も多く必要なうえ、繊細な魔力操作が必要となる。


 もう一度集中しなおし、血液製剤へと魔力を流す。

その時、ふっと頭に血が回らない感覚に陥り、がっくりと膝をついてしまった。



「イーナム様!」


「主よ!」



 ケンタとタツミがかけより、支えてくれた。

さすがに、ブラッドムーンのゴタゴタのあと、さらに追加で患者を診るのは、少々キツい。

なにより魔力も使いすぎたし、血も流しすぎだ。

だが、あとは輸血するだけだ。もう一踏ん張り……。



「ありがとな。あとはコイツを刺すだけ……」



 手元が震えるが、無理を通して輸血用の針を刺す。

ゆっくりと袋から血液製剤が流れてゆくのを見て、やっと一仕事終えたと実感した。

しかし同時に気が抜けてしまい、そのままふっと目の前が真っ暗になった。


 限界を迎え、意識が遠のく中、俺が最後に思うこと。それは「昔はもうちょっと無理が効いてたのに、歳はとりたくねえな」なんていう、ジジくささの滲む言葉だった。

「歳はとりたくない」が口癖になりつつある今日この頃。

ま、まだ気だけは若いから! 気だけは!

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