70 リフォームと畑仕事
「せっかく増築するなら、剣術の練習場が欲しいよな!」
「そんなの、あなたしか使わないでしょうが!」
「とも限らないぜ? リビィのねーちゃんも使うよな?」
「訓練は毎日するけど……」
「んじゃ、決まり決まり! あとは馬のにーちゃんの厩舎とー」
「ちょっとー! そんなの予算いくらあっても足りないじゃないですかー!」
「それはほら、うまく捻出するのがそっちの仕事だろ?」
「テメェをぶちのめした方が安く上がりそうですね!!」
「はいはい、適当に頼むわ……」
ルーヴとクロウの攻防を見ていると、心底めんどくさくなった。
そんな二人の間に挟まれたリビィは、意外と楽しそうにしているし、俺は口を挟まず最終確認だけするとしよう。
さて、その間に魔物に踏まれ、荒らされた畑を任せた二人の様子を見に行こうか。
タツミは農作業の様子を見ているのもあって、耕し直すくらいはできると言っていたな。
向こうはさすがに、こっちほどには混沌としていないだろう。そういう希望的観測だ。
やいやいと賑やかな家を出れば、晴れ渡る空が徹夜明けの目に染みる。
どれだけ凄惨な夜があっても、朝というのは無慈悲なほどに、関係なくやってくるものだ。
なーんて変な思考がめぐるのは、徹夜明けのせいだろうな。
てこてこと歩いてゆけば、クワをふるタツミの姿が見えるはずだった。
しかしそこには、クワを地面に放置し、うずくまる姿が見えた。
「おい! なにかあったのか!?」
何かあったのかと駆け寄れば、今までにない純粋な、満面の笑みのタツミがそこにはいた。
「あら、イーナム様。見てくださいなこちらを」
「ん? あ、ちび助じゃないか」
「ふふふ……。やっと慣れたのか、来てみれば足元に擦り付いてきてですね……」
頭を撫でながら説明するタツミの手からするりと逃げ出し、仔だぬきのちび助は、俺のズボンの裾に噛みつき、引っ張る仕草をする。
「なっ!? なぜ逃げるのです!?」
「ん? なんだなんだ? なんでそんなに引っ張る?」
何かを訴えていることは分かる。
だが、いつものように野菜をねだる様子ではない。
どうにも、森の方へ誘導しているように感じたのだ。
「もしかして、森の中に何かあるのか?」
「森? そういえば、あのケンタウロスがこやつを見て、森の中へと入ってゆきましたが……」
「へっ? ケンタが?」
「ただの気まぐれかと……」
「よし、俺たちも向かおう」
ケンタが何かを察したということは、状況はあまり良くないということだ。
ガキの頃から一緒だったがゆえに、あいつは俺の考えを先読みして、自分で対処しようとするところがある。
つまり森には、俺に危害を加えうる何かが潜んでいるか、もしくは……。
俺はちび助を抱き上げ、指し示す方向へと走る。後からタツミも、同じようについてきてくれた。
そして森の奥で俺たちを待っていたのは、木々がバキバキに折られ広場となった空間と、折れた木の根元に横たわる、傷を負った巨大な熊だった。
その傍らには、ケンタの姿もあった。
「熊? まさか、またブラッディベアではありませんよね?」
「いや、アイツはただの熊だな。だが、かなり深傷を負っているな……」
近寄れば、ケンタがこちらにやってきて俺を制止した。
そしてゆっくりと、首を横に振るのだ。
「あの者は、もう助かりません」
「…………。嘘だな? お前の嘘なんて、すぐに分かる。
まだ治療すれば、十分に助かるはずだろう?」
「いいえ、結果的にそうなるということです」
俺に確認させないということは、確実に嘘だ。ケンタが俺の性格を分かっていないわけがない。
自分で確認し、諦めざるを得ないと判断するまで悪あがきする場面を、コイツは何度も見てきたのだ。
だから今回も、本当に手遅れならば、自ら確認せよと促すはずだ。
だが、なぜケンタはそんな嘘をついたのか。そして、結果的にそうなるとはどういうことか……。
それは近づいてみれば、すぐに分かることだった。
なぜ不定期更新と言いつついきなり二本も更新したのか。
その真相を探るべく、取材班は森の奥地へと踏み入った。




