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63 死線を超えて

 倒したデカブツを引きずりながら、ギルドへと戻る。

そこには、辛くも無事ブラッドムーンを乗り越えたことを喜び合う冒険者たちがひしめいていた。

そして、クロウの獲物を見るや否や、皆で英雄を取り囲み、やいのやいのと騒ぎ立てている。


 俺はそんな賑やかさを背に受けながら、怪我人たちの詰める部屋の扉を開けた。 



「旦那様! よかった、ご無事で……」


「おう、ただいま」



 ルーヴが駆け寄り、抱きついてくる。

その頭を優しく撫でてやれば、グスグスと泣く声が聞こえる。



「無事を喜んでくれて嬉しいが、仕事だ。

 怪我人の状況はどうだ?」


「はい。軽症者はみなさん処置が終わってます。

 重傷者は7名。輸血待ち状態です。そちらはタツミが延命中です。

 けれど、死亡者は奇跡的に居ないと、受付の人が言ってましたよ」


「そうか。表にいる奴らも、多少なりとも怪我しているはずだ。

 悪いが、そっちへ行ってくれるか?」


「はい! もうひと頑張りですねっ!」



 ルーヴは、受付嬢たちと共にパタパタとかけてゆく。

そして、少数残った者たちとタツミの視線が、こちらへと向かってきた。

俺は事前に魔法で精製した、血液製剤を渡し、作業を頼む。



「数は足りるはずだ。各自手分けして作業を頼む」


「ありがとうございます。イーナムさんのおかげで、皆さん助かりそうです。

 タツミ様も、ずっと魔力供給を行っていただいて……。本当に、どうお礼を言っていいのか……」


「安心するのは、全員回復してからだ。

 タツミも、俺のわがままに付き合わせて済まなかった」


「いえ、イーナム様の望むことであればなんなりと……」



 そう言って微笑むたつみを、俺はぎゅっと抱きしめた。



「どっ、どうされましたかっ!?」



 驚くタツミの耳元で、俺は他の奴らに聞こえぬよう小声で語る。



「お前のおかげで、クロウが死なずに済んだ。ありがとう」


「一体、何のことでしょうか……?」


「ブラッドベアの動きを止めたのは、お前だろう?

 お前が俺の所にくる時回収した通信糸が、クマの体に絡まってたぞ」


「全てお見通しですか……」


「あれは俺特製だからな、すぐわかったさ。ありがとな」


「お役に立てたのであれば、なによりですわ」



 最後にトドメを刺す時、飛び掛かったクロウに対し、ブラッドベアは一瞬動きを止めた。

それはタツミが糸を使い、動きを止めたからだ。


 その糸というのは、俺がまだドラゴン姿だったタツミのいる洞窟へ入る時、ルーヴと俺を繋いだ通信糸。

この糸であれば、たとえブラッドベアであったとしても切ることはできない。

特殊な魔力の練り上げを行い、それを付与した刃物でしか切れないのだ。


 その特殊な糸が、タツミがこの件に関わった何よりの証拠だ。

俺とルーヴの住む家に来る時、タツミはその糸を手繰り寄せてきたのだからな。


 そしてタツミは昔から、人形デコイを操って人間と交流があった。

ならば糸を操り、ブラッドベアに絡ませることだって可能だろう。



「あと、死者ゼロってのもお前の仕業だな?」


「それは買い被りすぎですわ。さすがにそちらにまで、手を回しておりませんよ」


「え? マジで? だが、さすがに今回の襲撃で怪我人だけで済むはずが……」



 タツミは戦況が悪化しても余裕の表情だったし、それも手を回していたからだと思ったんだがな……。

それに、村の壁の崩壊が防がれていたことなんかは、誰かが何かしたと考えなければ、辻褄が合わないんだが……。



「細かいことはよいではないですか。

 今は、無事乗り切ったことを喜びましょう」


「そうだな」


「それに、周りの目が気になりますわ」


「へっ!?」



 タツミを離し、周囲を見れば、いつの間にか来ていた冒険者たちだけでなく、受付嬢、そしてニヤつくクロウと、刺すほどの怒気を纏うルーヴが俺たちを取り囲んでいた。



「旦那様の、浮気者ー!!」



 ルーヴの強烈な飛び蹴りが、俺の脇腹を抉り、俺はそのまま冷たい床にダイブした。

通信糸の話なんて、読んでる人で覚えてる人いなさそう。

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