61 赤き月(11)
「援護は任せろ。お前はただ、弱点に剣を突き立てればいい」
「わかった……」
「なに、心配するな。危なくなったら、俺がなんとかしてやる」
「うん。頼む」
ブラッドベアに悟られぬよう、隠蔽魔法を使いながら、俺たちは茂みで最終確認を行っていた。
クロウの手に握られた剣は、少し震えて見える。けれどそれは、恐れからくるものじゃない。
必ずブラッドベアを倒し、村を守るという覚悟が溢れた結果だ。
「よしっ! 行くぜ!!」
「おう!」
駆け出すクロウ。俺は援護に徹する。
速さも力も魔法で強化している。並の魔物相手なら、負けなしの超強化状態だ。
魔力剤を大量に飲んでかけたんだ、これ以上の支援は勇者と呼ばれる者くらいにしかできないだろう。
そして、そんな状態であるのだから、作戦通りにいけば無事倒せるはずだ。
「オラァ! ノロマな熊さん! こっち来いや!!」
クロウはこちらに気づかず背を向けるブラッドベアに投石し、振り向かせる。
その瞬間を見計らい、俺は閃光魔法を放つ。
「ガァっ……!?」
目の前が真っ白になり、混乱するブラッドベア。
その足にクロウの蹴りが入り、ぐらりとその巨体が揺れる。
しかし、その程度で転ぶ相手でもない。よろめきながらも体勢を立て直し、ぼやけているであろう目でクロウを睨む。
「へっ! どんくせぇヤツ!!」
バスっと腹に一文字入れ、瞬間クロウは距離をとる。
その痛みに怒り、ブラッドベアは巨木と見まごうほどの太い腕で、クロウを叩き潰さんと拳を振り下ろす。
「左だ!!」
「おう!!」
俺の合図とともに、拳が当たる寸前、クロウの左に地魔法の石壁が現れる。
そしてそちらに向かい、クロウにかかる重力は向きを変えた。
同時にクロウはそちらへと地を蹴っており、勢いよく石壁に衝突する。
つまり、クロウは石壁に向かって跳び、同時に重力魔法によって引かれ、落ちたのだ。
その速さはブラッドベアの拳を避けるに十分で、向かってきていた拳は地面へと吸い込まれた。
「今だ!!」
「オラァっ!!」
地面に腕をめり込ませたブラッドベアは、一瞬動きが鈍る。
そしてその顔面は、地面との間に立つクロウの、十分手の届く先にあった。
『ブラッドベアの弱点、それは眉間だ』
『眉間?』
『目と目の間な』
『それはわかってる。けど、熊なら喉とか、心臓の方がいいんじゃねえのか?』
『普通の熊ならな。ブラッドベアは、魔物に取り憑かれた熊。
その魔物は熊を操るために、脳を支配してんだ』
『てことは眉間をぶっ飛ばして、頭をぶっ壊すのか?
俺の短剣じゃ厳しそうだ……』
『それは大丈夫だ。眉間の浅いところに陣取って、頭に根を張り巡らせてんだ。
だが、根の心臓部はそんなに深くない。それを叩けば、倒せるって寸法だ』
クロウは俺の説明を十分に理解していた。
寸分の狂いもなく、その手に持つ剣は、ブラッドベアの眉間へと吸い込まれる。
「俺の勝ちだっ!!」
「よしっ!!」
このまま決着がつく、そう思われた瞬間、予想外の事が起こる。
熊が突然跳ねたのだ。
「なっ!?」
「クロウ、下がれっ!!」
それは、地についた腕を本来曲がるはずもない方向へ曲げてしまう跳躍。
無理やり体勢を変える、普通の生物なら、魔物であっても取らないであろう行動。
だが相手は、右腕を犠牲に急所を守ったのだ。
「このまま! つっきる!!」
「待て! やめろっ!!」
俺の声虚しく、クロウは間合いを詰める。
対する熊も、弱点を突かれぬよう立ち上がり、クロウの身長では到底届かぬ高さへと頭を持ち上げた。
「届かねえなら! 届かせるまでっ!!」
クロウは飛んだ。熊よりも高く、赤き月を背に。
しかし、その先など見るまでもない。残った左腕で、反撃されるだけだ。
「バカがっ!!」
駆け出し、同時に風魔法で吹き飛ばそうとする俺は、一瞬の光を見る。
赤き月の光が反射する、白い一筋の線を。
俺の意識がそちらへ向いた時、ブラッドベアの動きは鈍り、ほんのわずかな瞬間静止する。
「もらったあぁぁぁぁ!!」
ブラッドムーン・ブラッドベア戦これにて終了!
俺に! バトル展開を! 書かせるな!! (謎の逆ギレ)




