60 赤き月(10)
すっと音もなく地面に降り立ち、クロウを降ろす。
抱き上げられていたことにようやく気づいたのか、ばっと距離を取りわめきだした。
「邪魔すんなよっ!!」
「お前、あれで勝てると思ったのか?
あのままほっといたら、象に踏まれた蟻のごとくぺったんこだぞ?」
「それは……、そうだけど……」
「それに、相手の弱点分かってないだろ?」
「弱点? んなもんあるのか?」
「やっぱりな……。いや、お前の持ってきた毛皮見て分かってたけどさ……」
「なんだよそれ、教えろよ!」
「教えてください、だろ?」
「くっ……」
少し大人びたかと思ったが、やっぱガキだな。
物おじしなくなっただけで、性根は変わってない。
ま、俺も人のこと言えないほど頑固だけどな。
少し唸ったあと、クロウは口を開く。
「ブラッドベアの弱点……、教えてください……」
「お、意外と素直じゃん。弱点なんて知らないくせにとか、言いそうだと思ってたんだが」
「だってほら……。さっきのすごかったし」
「んあ? 何がだ?」
「おっさんの動き、速すぎてわかんなかっただけじゃなくてさ、魔法も使えるなんてさ……。
テイマーだからって、正直ナメてた。おっさんなら、アイツの倒し方知ってそうだなって」
不服そうな表情は少しばかり見えているが、それでも俺のことを信用したようだ。
これじゃ、弱点を教えてやるしかないな。
反発してきたなら、無理やり村に帰して俺が処理するつもりだったんだが……。
「いいか、まずもってブラッドベアは熊であって熊じゃない」
「は? デカいけど、どう見ても熊じゃん」
「デカさなんて関係ない。むしろチビのブラッドベアもいる。
もちろん、でかい方が強いし……。今回みたいな森の主級がブラッドベア化するのは、かなり珍しいな」
「ん? ブラッドベア化?」
「そうだ。ブラッドベアは、元からブラッドベアじゃないんだ。
元は普通の熊。そこに、魔物がとり憑くことでブラッドベアになるんだ。
当然、元の熊が強いほどに、魔物の影響でさらに強化される。
今回のアイツは、今まで俺も見たことないデカさだし、なにより他の魔物も怯えるほどの大物だ。
そのうえ……。あれを見ろ」
「へ? なんだ?」
そこには、無人となった戦場に残された魔物を捕らえ、食いちぎるブラッドベアの姿があった。
「うぇ……、気持ちわりぃ……。魔物を喰ってやがる……?」
「あぁ、魔物も一枚岩じゃない。
人間を襲うという目的を同じにしていたから、同族で潰しあわなかっただけだ。
それはお互いに消耗しないようにという、魔物たちの暗黙の了解。
だが、アイツにそれは関係ない。一方的に蹂躙できるブラッドベアにとって、魔物でさえただの餌だ」
「マジかよ……。その魔物に、あんなに苦戦してたんだぞ……?」
「こうしている間にも、ブラッドベアは魔物を喰って強くなってる。
さっき他の奴らが助かったからって油断しているのかもしれないが、もし一撃でも食らったら、今度こそ命はないぞ?」
「…………」
「大人しく引き下がるのもまた、強さだ。
この話を聞いて、それでもお前はやるってのか?」
クロウはすっと地面を見つめ、思案する
けれどぐっと拳を握り、覚悟を決めたようだ。
「…………。でも、俺がやらなきゃ……」
「なんでそうまでして、お前は戦おうとするんだ?」
「…………。何もできずに、見てるだけなんて嫌なんだ。
俺が弱いせいで、守ってもらってばかりで、そんなの嫌なんだ。
もう、二度と俺のせいで、誰かが死ぬ姿なんて見たくないんだ!!」
目に涙を浮かべ、クロウは叫ぶ。
コイツの過去になにがあったかなんて、俺には知るよしもない。
けれどその目を見れば、言葉にしなくたって、コイツの覚悟は伝わってきた。
「わかった。そこまで言うならもう止めない。
ブラッドベアの弱点を教えよう」
RPGで徒党を組んで襲ってくる魔物って謎だなーって常々思ってたりする。
え? 思わない? 俺だけですかね?




