06 一夜城
日が沈み、地平線がグラデーションに彩られる頃、俺たちは村まで戻る。
そこには、光球魔法で周囲を照らし、作業を進める男たちの姿があった。
「ルーヴ、ここで待っててくれよ」
少し寂しそうな表情をするが、大人しく伏せの姿勢になるルーヴ。
本当に甘えん坊で困ったところもあるが、従順な良い子だ。
「旦那、すまねぇ。少し手間取ってやがる」
「あぁ、悪い。俺ももう少し時間をおけばよかったな」
「いや気にすんなって。それよりもアイツは……」
「大丈夫だ。もしこっちに来ても、俺が止めるから」
「そうかい。一応、家のガワだけは完成したんだがな、中身が空っぽなんでさぁ……」
「ははは、すげぇもんだな。家が一日で建つなんて」
「村中の男と魔導士をかき集めたんだ、こんくらいの小屋ならなんとかなるさ」
「ありがとう。助かる」
男たちは、俺の家を建てるために集まっていたのだ。
その作業の邪魔をしないため、俺はルーヴを遠ざけていた。
そりゃね、いくら俺に懐いているとはいえ、近くに強い魔獣がいれば、作業どころじゃないだろう。
しかし、魔導士まで動員して一日で建てるとは、あの長老もああ見えて、かなり焦っていたのだろう。
ルーヴに出て行かれれば村が危ないとは言っていたが、ここまで高待遇にするほどの存在らしい。
「旦那、相談なんだが、明日も時間をくれねえか?」
「いや、その必要はないさ。建物さえあれば、あとは自分で揃えればいい。
必要なものがあれば村に買いに行くし、安定してくれば畑でも耕して、野菜を売りにいこうかと思ってる」
「それはいいんだが……。その、問題はだな……」
「もちろん、ルーヴは連れて行かないさ」
「そうじゃなくてだな、荷車を引く家畜が、アイツを怖がって使い物にならねえんじゃ……」
「あ……。それは考えてなかったな」
思わぬ落とし穴だ。基本的に怖がりな馬はもちろんのこと、牛だって絶対的捕食者である狼が近くにいれば、怖がって動かないだろう。
他の方法といえば収納札だが、あれもあれで魔力消費が大きい魔道具だ。
村くらいの距離で使うには、あまりに非効率だし、なにより野菜を売りに行くのに使うくらいなら、収納札自体を売った方が金になる。
「んー、そうだな。それじゃあ、今持ってきている大工道具を売ってくれないか?
内装ができてなくて、荷車が使えないなら、自分で家具を作った方がいいだろ?」
「かまわねえが、新品でなくていいのかい?」
「村まで行き来するのも面倒がかかる。それなら今あるので十分さ」
「あぁ、わかった。一通りの道具を置いてくか」
「助かる」
俺は冒険者時代に貯めていた金を渡し、大工道具を買い取った。
買えないなら作ればいい。簡単な話だ。
家を建ててくれた男たちは、各々の道具を台車に積み、暗くなった道を帰ってゆく。
俺はそれを見送りながら、まずは何を作ろうか、そんな事を考えていた。
やはり、一番はベッドだろうな。
敷くマットなんかの寝具は持ってきてくれていたのだが、木は現地調達するつもりだったのか、生えていたのを切っただけの丸太が転がっているだけだ。
板材への加工からとなると手間だが、贅沢は言ってられないな。
そうやって先の予定を考えながら、俺は夕食の準備を始めた。
「ルーヴ、旨いか?」
イノシシの肉を焼いて、二人で分け合いながら問い掛ければ、ガツガツと食べながらも、コクコクと肯定を示す。
同じものを食べたい、昼のサンドイッチでそのことは分かっていたので、肉を丸ごと焼いて分けたのだが、俺もずっと肉ばかり食べているわけにはいかない。
どうにかうまく、別々のものを食べる方法も考えないといけないな。
そんな夕食を終え、俺はルーヴにおやすみを言ったあと、家へと入る。
家と言っても、一室と手洗い場しかない質素な家だ。
けれど、ガラスのはめられた窓があり、澄んだ星空が姿をのぞかせている。
その窓際にマットを敷き、眠りにつこうとした時、ガタガタと窓ガラスが揺れる。
何事かと思えば、ルーヴがクゥクゥ鳴きながら、鼻先で窓を鳴らすのだった。
ガチャリと窓を開けると、長い舌でぺろぺろと舐めてくる。本当に甘えん坊なやつだ。
「こらこら、お前は中に入れるサイズじゃないだろう?」
そう言っても聞く気はない。クゥクゥという鳴き声は、いつまでも止みそうにないのだ。
仕方ない、今日のところは外で一緒に寝るとするか。
どのみち、まだベットは完成してないし、寝心地ならルーヴの毛の方が良いだろうしな。
性格には一夜城ではなく一日城。