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54 赤き月(4)



「次の患者、来ます!!」


「軽症者はタツミへ! 重傷者はこっちだ!」


「もう包帯がありません!」


「俺のカバンの青の収納札を開けろ!

 そこに予備の医療品が入ってる!」


「イーナムさん! 重傷者です! 右腕を損傷、出血がひどいです!」


「こっちへ回せ! 四肢損傷程度ならなんとかしてやる!」



 ギルドの中は、血まみれの冒険者たちで溢れていた。

受付嬢だけでなく、村中の戦闘に参加していない者をかきあつめ、なんとか治療にあたるも、それでも混乱が収まる気配はない。



「クロウ! 血液製剤を回せ! 赤の収納札だ!」


「はっ、はいっ! ぐっ……」



 最初こそ俺に指示をするななんて言っていたクロウも、今では何も言えずにいる。

惨状にえずきながらも、それでも弱音を吐かず、なんとか立ち回っている姿は、衛生兵としての素質を感じさせる。



「オッサン! 赤の札がこれで最後だぞ!?」


「くそっ……! 輸血用の血液製剤が足りないっ!

 いや、それよりも腕だ! 腕は魔物に食われたのか!?」


「いえ、魔法によって切断されたそうです」


「腕自体はどこだ!? 縫い合わせりゃ、なんとか動かせるようになるはずだ!」


「探すなんて無理ですよ! 戦線でそんな余裕ありません!!」


「くそっ……! これじゃ助けられても……!」


「いい……、いいんだ……。命が助かっただけ、儲けもんさ……」



 痛みにうめきながらもそう言う男は、まだまだ若い冒険者だ。

腕を繋ぎ、動かせるようリハビリしたところで、今後同じように戦うことは叶わないだろう。

けれど、それでも未来ある者が、こうして大きなハンデを負うなど、黙って見ていられなかった。



「場所を教えろ。俺が取りに行く」



 全体の状況を見て、判断を下す立場であるなら、命があるだけマシと切り捨てるべきだろう。

けれど、俺は指揮官でもなければ、冒険者ですらない。

だから、俺はおれのやりたいようにやる。それが俺の生き方だ。

だが、それを止めるヤツがいた。



「待て! 俺が行く!」


「クロウ!? お前に行かせられるわけないだろ!?」


「オッサン、お前には助けないといけないヤツが他にもいるだろ?

 それに、俺はすばしっこさには自信があるんだ。

 大丈夫、お使いくらいガキにだってできるさ!」


「お前……」



 顔色は真っ青で、とても平気なはずはない。

けれど、それでも強がって見せる少年の姿は、できる限りのことをしたいんだという、意気込みに溢れていた。



「だめよ! 危険すぎるわ!

 イーナム様もそう思うでしょう!?」


「…………。行かせてやろう。

 いや、頼む。クロウ、これはお前にしかできない仕事だ」


「へへっ、任せとけって!」


「待って! 待ってクロウ!」



 走り去る少年の背に、受付嬢の言葉は届かない。

俺はただ、アイツが背伸びしたいだけの子供じゃないことを祈ることしかできなかった。



「どうして行かせたんですか!!」


「やれることやれないで、後悔させたくない。

 アイツだって、役に立ちたいって思ってんだ」


「だからって……」


「大人が思うほど、ガキはガキのまんまで居てくれねえもんさ。

 それより、俺たちは俺たちの仕事をするぞ!

 縫合準備! 清浄魔法用聖水と、添え木。

 あとは緑の収納札の軟膏を準備しろ!」


「…………。はい」



 寂しげな目をしながらも、すぐに受付嬢は準備に取り掛かる。

彼女にとっても、クロウは大事な子なのだろう。

けれど、だからといってそれを箱にしまい続けることはできないのだ。


 なにより、俺たちは立ち止まっている暇などない。

怪我人は次々運ばれてくるのだ。即座に対応しなければ、次の救える命が救えなくなる。

それを彼女も、十分わかっていたようだ。



「旦那! 次が来るぞ! また重傷者だ!!」


「わかった! こっちへ回せ!」


「イーナム様! こっちも重症です!!」


「おい! どうなってんだ!? 急に重傷者が増えたぞ!?」


「ヤバい、戦線が崩壊しかかってるぞ!

 これ以上に患者が来る! 全員備えろ!!」


「備えろって、こっちもももう限界ですよ!?」



 思った以上に、今回のブラッドムーンは状況が悪いようだ。

「血液剤」って書いてたんだけど、調べたら「製」があるかないかで大違いだったよ……。

調べるのダイジ。あ、ちなみに血液製剤ってのは、輸血用の血液のことです。

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