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05 森駆ける狼

 山を掛け、沢を飛び越え、崖を駆け上がる。

俺を背に乗せ、ルーヴは木々の間を吹き渡る風になる。

そして丘の上の森を一望できる場所で、すっと伏せてみせた。



「おぉ……。綺麗な景色だな」



 晴れわたる青い空の下、木々がざわめく森が広がる。

湖と、そこから続く細い川。それら全てが、先程通ってきた場所だ。


 それらが一望できるほど高い場所。そんな所に、俺を乗せて悠々と来られるのだから、たいしたもんだ。

どうやらルーヴは、お気に入りの場所を俺に見せたかったらしい。



「ありがとな、ルーヴ」



 優しく顎元を撫でてやれば、グルグルと喉を鳴らしている。

それは猫の仕草ではないかと思うものの、心地よさはこの子も変わらないらしい。



「それじゃ、お昼にしようか」



 ルーヴの背にくくりつけて持ってきた肉と、サンドイッチを広げる。

もちろん肉はルーヴに、サンドイッチは俺用だ。


 ルーヴは狼だから、人間は食べれても、狼には毒になるものも多い。

たとえば、サンドイッチなら中の玉ねぎとかな。

けれど、ルーヴは興味があるのか、スンスンと手に持つサンドイッチの匂いを嗅いでいる。



「こら、ダメだぞ。お前には肉があるだろ?」



 キュウキュウと悲しげな上目遣いをするが、ダメなものはダメだ。

ちゃんと叱れば、仕方なく自身の目の前に置かれた肉塊を食べはじめた。



「よしよし、しっかり食えよ」



 そういう俺の気持ちとは裏腹に、ルーヴは最後の一口を残す。



「どうした? もう腹一杯か?」



 鼻先でぐいぐいと、葉っぱの皿の上に置かれた、少し残った肉をこちらへと寄せる。

そして、甘えるように頭を首元へとスリスリしてきた。



「もしかして、俺と同じもの食べたかったのか?」



 ルーヴはコクコクとうなずき、俺の言葉を肯定した。

そうか、さっきのサンドイッチも、同じものを食べたいというアピールだったのか。



「ありがとな。んー、食べれないものが入ってるから、ちぎってやるわけにはいかないけど……。

 中に入ってるハムなら大丈夫だな」



 サンドイッチを開き、中のハムを出してやれば、ルーヴはベロリと俺の手ごと舐めとり、ハムを一飲みにした。

そのお礼として、俺は一口残った肉を食べる。

もちろんルーヴにとっての一口なので、俺にとってはかなりの量だったのだが……。



「ごちそうさん。ルーヴ、そのまま伏せな」



 俺の指示に、すでに伏せてるルーヴは、首を傾げている。

すぐに出発すると思っていたのかもしれないが、もう少し俺はやることがあるのだ。

置いてあったリュックを開き、俺は道具を取り出した。



「大人しくしてろよ?」



 ざりっというような感覚。

ルーヴは、今まで感じたことのない感覚に驚いたようで、一瞬ビクッと肌を震わせた。



「痛かったか?」



 フルフルと首を横に振り、否定を示す。

どうやら、初めてでびっくりしただけで、ブラッシングは嫌いではないらしい。



「うーん、毛が絡まるな……」



 痛くないようにと、様子を見ながら毛をすくが、それでも今まで野生で暮らしていたのだ、絡まって引っ張ってしまうこともある。

けれど、それでもルーヴは大人しく、俺にブラッシングされていた。


 巨体を一通りブラッシングするには、一時間近くかかってしまった。

慣れないことなのに、よく我慢してくれたものだ。



「よしよし、いい感じだ。どうだ? 綺麗になっただろ?」



 キョロキョロと見回し、自分の身体を確認するルーヴ。

その黒い毛は、きらきらと艶めくほどの、美しい毛並みへと変わっていた。


 それが嬉しいのか、俺にのしかかり、いつものように頭をこすりつけてくる。

その毛もさらさらで、日に当てられた暖かさは、干したての布団よりも気持ちいい。



「うわっ! まったく、本当にお前は甘えん坊だなぁ」



 ひとしきりもふもふを堪能し、そしてベロベロと舐められたあと、俺たちは森の探検を再開した。

まだ日は落ちそうにない。ルーヴのお気に入りの場所をめぐる旅は、まだまだ続きそうだ。

ブラッシングの抜け毛で布団が作れそう。

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