43 あまく、ゆるい過去
『なんでテイマーをやってるかなんて、変なことを聞くヤツだな』
私の質問に、彼は何を言っているんだと言いたげな表情だ。
けれど、彼の実力を知る者ならば、誰もが疑問に思うことだろう。
彼は、世間で言われている程度の男ではない。
ドラゴンをテイムした、それだけの話が一人歩きしている。
しかしその噂は、妬みからか、彼の実情をぼかした。
彼は運だけでドラゴンをテイムした。だからドラゴンにかけられたテイミング魔法が崩壊し、一国を滅亡に追いやった、と。
けれど、それは彼の実力を知れば、はき捨てるべき話だと分かるだろう。
彼は、ドラゴンをテイムするに値する実力、ドラゴンと対等に渡り合うだけの、武力も魔力も備えた人物だ。
『そうかな? キミほどの実力者なら、冒険者でも活躍できるし、王国軍にだって入れるだろう。
前線に立つのが嫌なら、魔術師だって選択肢に入る実力じゃないか。
そんなキミが、なぜテイマーに甘んじているか。気になって当然じゃない?』
『買い被りすぎだ。そんなもんに興味もないしな』
『なら、テイマーにこだわる理由、教えてくれるね?』
『それじゃ逆に聞くが、お前はなぜ冒険者をやっている?
お前こそ、王国軍の方が性に合っているだろう』
『私? んー、そうだな……』
◆ ◇ ◆
「ブラッドムーン……?
まさか、そんな前兆なんてなかったはず……」
魔術師のミランダは、ブラッドムーンの前兆があれば大抵は気付く。
ブラッドムーンとは、月が赤く染まり、闇が世界を覆う夜。
それは、月の光により押さえつけられた、魔物たちが宴を開く夜。
人間だけでなく、多くの生物が命の危険に晒される、厄災の夜だ。
「魔力の流れに、異常はなかったはずなのに……」
「ミランダ、まさか勘が鈍ったか?」
「そんなわけないでしょ!!」
アンバの言葉に、ミランダは青ざめた顔を赤く染め、怒りを露わにした。
ただでさえ気が立っているのに、自身の能力に疑問を持たれたのだから、プライドの高いミランダにとっては、許せない言葉だ。
「言い合っている場合でない。行くぞ」
「うん……。姉ちゃん、大丈夫だよね?」
「そうではない」
「あっ、ごめん……。リーダー……」
「そうじゃない。大丈夫か心配していいのは、一般人だけだ。
私たちは冒険者。不安に苛まれる者たちを護ることこそが役目だ。
不安に思うのではなく、不安に思うものに大丈夫だと、安心させてやるのが使命だ」
「あぁ、その通り。それでこそ、ワシの見込んだリーダーだ」
「そうね、私もしっかりしなきゃ……。
私は世界一の魔術師になる女。この程度なんてことないわ!」
「…………」
アンバが同意すれば、ミランダも落ち着きを取り戻そうと、決意を新たにする。
たとえ信念が違おうとも、彼らは実力も、志も高い者たちだ。
準備もなにもない今回であっても、きっとなんとかなる。いえ、なんとかしなければならないのだ。
「ビリィ、覚悟がないならここに残りなさい」
「そんなっ……!」
「恥ずべきことじゃない、裏にだって仕事はある」
「そそ、戦うだけが仕事じゃないの。村人の避難誘導もいるしね。
それに怪我人もいっぱい出るはずだから、ビリー君が後ろに居てくれると、みんな助かるはずだよ?」
「うむ。背を預けられる仲間がいてこそ、前線は力を発揮できるというもの。
ワシらのためにも、皆のためにも、残ってもらえると助かる」
ミランダもアンバも、私の真意を汲んでかそう言ってくれた。
この夜を無事越えられる保証などどこにもない。
まだ経験のあさいビリーならなおさらだ。
甘い姉だと自嘲しながらも、彼らの気遣いに感謝せねばならない。
「うん……。わかった。
姉ちゃん、アンバさん、ミランダさん……。
無事、帰ってきてね……」
「当然だ」
その言葉を残し、私たち三人は戦地へと赴く。
多くの護る者たちを背に……。
『そうだな、人々を脅威から護るため……。かな』
『ほーん、えらく崇高な目的なこって』
「あの時の言葉、決して嘘になどさせはしない」
唐突にリビィの話に飛ぶ。次回は、前回の続きやりまぁす!




