41 鶴の一声
タツミは、ルーヴに突っかかってきた、まだ幼さの残る冒険者との勝負を提案してきた。
俺は別にドウデモイーのだが、それでギルド側が良いとするかが問題だ。
「ってことなんだが、受付のお姉さん方、どうする?」
「そう言われましても……。私たちの裁量外ですよ……」
「だよなぁ……」
「まぁまぁ、良いではないか。面白そうじゃしの」
割って入ってきたのは、村の長老だった。
野次馬の中から、ひょっこり顔を出すが、腰も曲がって背が低くなっているのもあってか、今まで誰も気づかなかったようだ。
「あ、出たな! 長老!」
「おひさー、じゃ。さてさて、面白いものが見れそうじゃのう……」
ふぉふぉふぉと笑う爺さんは、ただただ二人の試合が見たいだけのようだ。
あの真面目な村長の父親と思えないほど、この爺さんは自由人である。
まぁ、それでもこの村の前村長であり、長老が言うことなら、大抵の無茶は通るらしい。
一線を退きながらも、いまだに力を持つ年寄りほど、面倒な奴らはいないな。
長老が前向きな意見を言ったがために、受付嬢たちは互いに顔を見合わせながらも、困惑した表情で準備を始める。
長いものには巻かれる、それが人間社会の仕組みであり、闇である。
「はよはよ。ワシは生い先短いでの、見物する前にお迎えが来てしまいそうじゃ」
「でっ、では……。お二人とも、裏の訓練場へ……。
他の方々も、立ち合いということで、ご一緒にお願いします」
「はー、血湧き肉躍る闘い。これぞ人生の醍醐味じゃ……」
「俺の意見は聞かねーの!?」
当事者である、冒険者の男の子は呆然としていたが、今さら叫んでももう遅い。
周囲の野次馬も、たのしみだと一緒に移動し始めていた。
「あれ? なんか訓練場綺麗になってねーか?」
「そういやそうだな。穴も空いてねえし、草一本生えてねえし」
そんな野次馬達の声が聞こえる。
そりゃそうだ、今日はずっとここで、俺が整備してたんだからな。
しかし、この程度は普通だと思っていたが、冒険者たちにとっては、かなり行き届いた手入れらしい。
そういや、前にタツミが畑が綺麗すぎると言っていたし、意外と他の奴らってのは、もっと適当なのかもしれないな。
ともかく、このフィールドなら、どうやっても言い訳が立たない。
穴につまづいたとか、草に足元をとられたなんていう、ありがちなアレだ。
といっても、冒険者ならどんな状況でも問題なく動けなければ意味ないけどな。
森の中で魔物を仕留めるとしても、平坦な地面なわけないのだから。
あ、そういうことを考えるなら、もっとでこぼこを残しておかないとダメだったか……?
ま、いっか。今はタツミとあの子の勝負だ。
そういや、名前聞きそびれたな。まあいいか。
「では、これより試合をはじめま……。
あ、長老様、ルールはどういたしましょうか?」
受付嬢の一人が、試合の開始を宣言しようとするも、何も決まっていなかったことに気付く。
だが、長老は長老で、そんなこと瑣末な問題らしい。
「なんでもいいわい。はよはよじゃ」
「えっと……。では、互いに木刀での試合とします。
どちらかが負けを認めるまで、時間無制限で行います」
「ふぉふぉふぉ……。おぬし、よく分かっておるな……」
あぁ、これは言葉にしなかったが、長老好みのルールってことだな。
多分、木刀うんぬんではなく、負けを認めるまで時間無制限というあたりが。
どうせ、若い衆が必死に倒れながら食らいつく姿を見たいとか、そういう陰険な考えだ。
なーんとなく、そんな気がする。
「ふむ、木刀か……。そのようなもの、我には不要」
「は? オバサンなめてんの?
試合ふっかけてくるってんだから、相当自信あるみたいだけど、リーチの差を分かってないど素人なワケ?」
「たわけ。道具など使えば、力加減がわかりにくいのでな。
手加減してやろうという、優しさよ」
「へぇ、言ってくれんじゃん。
ガキだって舐めてっと、痛い目見るぜ……?」
うわ、このバチバチの言い合いに、すでに長老が惚けた顔してやがる……。
あのジジイ、やっぱ危険人物だ……。
長老、3話目以来の登場。




