40 支部長は出張中
話によれば、結局この騒動は、ギルドの支部長とやらが来れば解決する話らしい。
だが、いまだに収まる気配がないってことは、その支部長とやらは来てないってことだな。
仕方ない、ルーヴは俺が止めるか。
「はい、そこまで。ルナ、お前は何やってんだ」
「はっ!? 旦那様!? これにはふかーーーい事情がありましてっ!!」
「あ!? テメェがコイツの保護者かよ!
どーいう躾してんだってんだ!!」
「旦那様になんてことを! そっちの方が、親の顔が見てみたいってもんですよ!!」
「なっ……!!」
「お前ら、やめとけ……」
若干涙目の少年冒険者は、口喧嘩でもルーヴに完敗のようだ。
実際、ルーヴが本気を出せば、押さえつけてる人を薙ぎ払って、ボコボコにしてるだろうから、口喧嘩じゃなくても勝ち目はないだろうけどな。
「あの、イーナム様。この毛皮が本物かどうかで、二人は争っていたのです。
テイマーとして名高いあなたでしたら、真贋が判定できますよね……?」
思わずため息が漏れる俺に、ルーヴを押さえつけていた受付嬢は、遠慮気味にそう言うのだった。
「あっ!? お前があの……」
「旦那様に、お前なんて口きくなですよ!!」
「二人ともめんどくせえな……」
さすがの俺も、少しイライラしてきた。
いっそのこと、施設修理に使っていた縄で縛った上で、口も布かなんかで封じてやろうかと頭をよぎる。
でも、そんなことするとタツミがなー……。
怒るんじゃなくて、次はこっちもと、変な期待をしそうで嫌なんだよな。
「悪いが俺は、鑑定なんかする気はないぞ。
元々部外者だ、ギルドの話に首を突っ込むつもりもない」
「へっ……。本当は名ばかりで、見分けつかねえから言ってんじゃねえのか!?」
「言わせておけば……」
「ルナ、落ち着け。言わせておけばいい」
ブチギレ寸前のルーヴの頭をぽふぽふ撫でながら、俺はカウンター上にある赤い熊の毛皮を見る。
そこにある巨大な熊と目が合った。かなり手こずったのか、顔は綺麗なものだが、体の部分の革はボロボロだ。
近づいて見るまでもないな……。
「それじゃ、あとは支部長さんとやらに任せて……」
「お待ちください、イーナム様」
待ったをかけたのは、意外にもルーヴではなくタツミだった。
「ん? どうした?」
「聞けばその者、ブラッディベアの毛皮を条件に、ランクを上げるよう要求していたというのです。
冒険者にとって、ランクとは命の次に大切なもの。
それを棚上げされるのは、我慢ならないかと……」
「そういうもんなのか?」
「そうだよ! だからさっさと、受理しろっての!!」
なるほど、必死だったのにもわけがあったのか。
まぁ、結局はギルドの支部長が来れば解決する話なんだが……。
「で、ギルドの支部長に鑑定してもらえばいいんだったよな? どこにいるんだ?」
「それが……。支部長はあいにく、全国支部長会議に出席中でして……」
「居ないのかよ」
「ですので、イーナム様にお願いできないかと……」
「えー、めんどくせぇ……」
めんどくさいってのは、鑑定自体ではなく、その後の騒動に巻き込まれることだ。
雨に濡れた野良犬のごとく、しゅんとする受付嬢だが、俺もこれ以上ギルドのしがらみに首を突っ込みたくないしな。
そんなことを思っているなんて知らないタツミは、妙な提案をするのだった。
「でしたら、こういうのはどうでしょう?
私と、この子が勝負をするのです」
「へ? なんでそうなる?」
「課題として出された魔物の討伐は、つまりその魔物を討伐できるだけの力を示せということ。
ならば、力を示しさえすれば、ギルドとしての目的は達成されますでしょう?
それに、皆が見ている前で力を示すのならば、物品と違い、真贋を問われることもありませんから」
「まぁ、そりゃそうかもしれんが……」
静かに、そして確実に裏のあるにこやかなタツミの顔が逆に怖い。
あーあ、変なのに目をつけられて、この子もかわいそうに……。
支部用不在の間にうまい事やろうとしたヤツの末路。




