39 騒動
タツミと共に、仕事がひと段落ついたことを報告しようと、ギルドの建物へと入ろうとした時、何やら中が騒がしいことに気付く。
「なんだ? 喧嘩か?」
「いくら喧嘩っ早い冒険者たちといえど、ギルドでそのようなことを行うとは考えにくいのですが……」
「これ、知らないことにして、収まるまで待ったほうがいいか?」
「そうですね。私どもは所詮部外者、ギルドの問題はギルドの者に任せる方が得策かと」
人形ごしとはいえ、冒険者をやってたというタツミのいうことなら、その方がいいのだろう。
ルーヴが中にいることは気になるが、さすがにただの手伝いが騒ぎに巻き込まれているとも考えにくい。
そう思っていたのだが……。
「……! 恥を知れってんですよ!!」
聴き慣れた声が聞こえてしまったんだよなぁ……。
しかも、かなりご立腹のご様子だ。
「…………。放っておくのはマズそうだな……」
「放っておきましょう。この程度のことを解決できないなら、見切りをつけて森へと返すのが優しさというもの」
「おいおい、どういう内容でモメてんのかもわかんないのに、そう言ってやるなよ……」
タツミも、まさかルーヴが巻き込まれているとは思っていなかったようで、頭が痛いと言わんばかりに、眉間を押さえている。
「まったく、主人に恥をかかせるとは、とんだ駄犬……。
しかし、イーナム様がそうおっしゃるのであれば、助けるほかありませんね」
「いや、助けるというか……。ともかく、理由次第だな。
アイツから喧嘩を売るとは考えにくいし……」
「えぇ。では、そっと入って、中の者に事情を聞きましょうか」
ため息をつきながらも、タツミはそう言う。
中に入って、いきなりルーヴを叱りつける気はないあたり、一応はアイツのことを考えてくれているようだ。
騒ぎに乗じて、そっと中へと入る。
もちろんその騒ぎの中心にいるのはルーヴで、相手はどうやら、まだまだ若い冒険者……。
というか、幼いと言った方が正しいくらいの男の子だ。
見た目的には、ルーヴとそう大差ない歳に見える。
なにか言い合ってはいるが、まだ殴りあいには発展していない。
というか、冒険者の方は、他のベテラン風の男たちに抑えられているし、ルーヴもルーヴで、他の受付嬢たちが抑えている。
そのため、二人して飼い主に引っ張られながら吠え合う犬のようだ。
そっと取り巻きの冒険者の隣へと近づき、タツミは問いかけた。
「一体、何があったのです?」
「あ?」
その問いかけに、冒険者は怪訝そうな顔を向けたかと思うと、そこにあった美女の姿に、即座に鼻の下を伸ばし、そして視線もまた少々したに下げるのだった。
とんだエロオヤジだと言ってやりたいが、大抵の男は同じ反応するだろうな……。
「お、おう……。見ねえ顔だな……」
「えぇ。今日はわけあって、少しギルドのお手伝いに来ておりますの。
それで、何があったか教えていただけませんか?」
「あぁ、それがな……」
その冒険者の話によれば、ルーヴが受付していた所に渦中の若い冒険者が、依頼の品を収めにきたらしい。
「依頼の品を収める時に、受付してたアイツが偽物だって言ったらしいんだよ」
「あらああら。偽物だなんてこと、あるのでしょうか?」
「まー、なくはないな。けどよ、あの受付の子は、今日入ったばかりらしくてな、新入りに見極められるワケないってことで、揉めてんだよ」
「あらあら……。けれども、他のベテランの受付係も居るでしょう?
彼女らがみれば、それで問題ないのではありませんか?」
「あー、それが面倒な品でな……。ブラッディベアの毛皮なんだよ」
「あら、それは珍しい……。たしか、生息数自体が少なく、かなり強い魔物だと聞きますわ」
「んだんだ。アンタ、魔物に詳しいんだな。
実際、10年に一度目撃されるかどうかの魔物だ。
そして、それを倒すには、ランク25以上くらいの腕前がいるな。
そんなのの鑑定なんて、ギルド支部長くらいの経験がなけりゃ無理な話だろうな」
「それを偽物だと?」
「あぁ。臭いが違うとかなんとか……」
「臭い、ねぇ……」
そりゃ、狼で森の主のルーヴなら、その臭いくらいは嗅ぎ分けられそうだな。
このエロオヤジ、確実に目を合わせずに視線が少々下がってる。




