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38 隙あらば

 訓練用の的の修理を終えれば、その後は訓練場のでこぼこになった地面を均したり、汚れた木刀や装備の訓練用具手入れを行えば、ひと段落ついた。


 もう日は傾きかけていて、そろそろ依頼を受けて外へ行っていた冒険者たちが帰ってくる頃合いだ。

この時間が、一番受付担当の忙しい時間である。


 俺の様子を見にくるフリしてサボっていたタツミも、作業が片付いている頃合いだろう。

忙しくしているであろうルーヴの手伝いに、二人で行ってやることにしよう。


 そう思いタツミを探せば、ちょうどゴミ捨て場のほうから歩いてくる姿が見えた。



「おーい、タツミ! そっちは終わったか?」


「あら、お迎えに来ていただけるなんて、光栄ですわ」



 にこやかに笑い、そして抱きついてきた。

いやいや、いつもながら過剰なスキンシップだ。



「おいおい、どうしたんだよ」


「少々お待ちを……」


「ん?」



 なにか理由がありそうな反応に、突き返すわけにもいかずそのまま数秒。

押し当てられた柔らかいタツミの体から、何やら夏のモワッとした空気のようなものを感じる。



「ちょわっ!? なんだ!?」


「もう少しご辛抱を」


「いやいや、なんなんだよこれ!」



 その膨張した空気のようなものが全身を包み、そしてふっと頭の上から抜けていく感覚。

それが全て空へと舞い上がったあと、やっと俺はタツミから解放されたのだ。



「ふふっ、もしかして初めてでしたか?」


「ま、まぁ初めてのことだったが……。なんだ、あれは?」


「あら、ご存知ない? 清浄魔法ですわ。

 汚れは頑張られた証ですけれど、イーナム様を汚れたままにしておけませんもの」


「清浄魔法? あ、もしかしてお前が汚れてないのって、それで綺麗にしてたのか?」


「えぇ。長旅をする冒険者にとっては、便利な魔法ですよ。

 旅では水も貴重ですからね」


「ほう……」



 考えてみれば、俺はいつも魔法に頼りすぎないようにしている。

それは、万一の時に魔力を使い果たしていると困るからというのもあある、

だが、なにより頼りすぎると魔法なしには生活できなくなりそうで、そのことにある種の恐怖を感じているのだ。


 何よりもだ、清浄魔法を使うとして、自分に使うのはまだしも、動物に使う気はさらさらない。

なぜって、手入れこそが最も触れ合える最高の時間だからだ!

それを簡単だからと清浄魔法に頼るなど、言語道断である!!


 ま、今回に関しては善意での魔法なので、別に何も言うつもりもない。

それに、タツミが魔法に頼った生活していたとして、俺が口出しすることでもないしな。


 あ、だが問題はあるな。



「魔法はいいが、元の姿に戻るために、魔力を節約したほうがいいんじゃないか?」


「ふふっ、おかしなことを言いますね」


「ん? そうか?」


「清浄魔法を使うことで、元の姿に戻る魔力を使い果たすことなんてありませんよ。

 それこそ、砂漠の砂一粒を持って帰り、それを咎められるようなものです」


「へぇ、省エネ魔法なんだな」


「と、いうよりも、元の姿に戻るための魔力が多すぎるのです。

 なにせ、人間からドラゴンへの形態変化ですからね……」


「それもそうか。俺は魔法に詳しくないから、いまいちピンとこないが」


「そうですね……。元の姿に戻るための必要な魔力を、炎の魔法に換算すれば……。

 この星を百度蒸発させても足りないくらいですね」


「…………。星って百度で蒸発するか?」


「ふふっ、面白いことを言いますね。イーナム様が、そのような冗談を言うとは……。

 もちろんわかってはいらっしゃると思いますが、百回蒸発させるという意味ですよ?」


「…………。余計ピンとこなくなったわ……」



 この話で俺が理解したことなんて、ドラゴンの口から語られる話など、ちっぽけな人間でしかない俺にとって、到底理解できるものではないということだけだ。

スチームで汚れを浮かして落とすやーつ。

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