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37 裏仕事


「ほーん。調査や討伐だけじゃなく、護衛や採集依頼なんかもあるのか……」


「イーナム様。もし冒険者業に乗り気でなければ、私が稼いできますわ」


「いやぁ、さすがに甘えるわけにもいかないし……。

 なにより、お前が暴れたら村ごと吹き飛びそうじゃん?」


「あらあら、その程度の力加減は覚えたつもりですわ」


「ホントかー? 今は人形デコイなしの、直接なんだぞ?」


「…………。確かに、少し練習したほうがいいかもしれませんね」


「いや、ちょっとした冗談のつもりだったんだけど……」



 ルーヴが冒険者ギルドの受付と交渉している間、俺とタツミは依頼一覧の前でそんな話をしていた。


 タツミがどこまで本気かはわからないけれど、そりゃドラゴンだしなぁ……。

ドラゴンといえば、うっかり寝返り打っただけで、巨大地震を起こしちまうような生物だしな。


 ま、どちらにしろ、そんなヒモみたいな生活する気はないんだけどな。

そうしていれば、ルーヴが笑顔でこちらへ駆けてくる。



「旦那様〜! 許可もらいましたよ〜!」


「おぉ、そうか。ご苦労さん」


「ただ、条件がギルドのお手伝いをすることなんです」


「え? 手伝い?」


「はい! 今は怪我をしている人もいないので、試せないんですよ。

 だから、その間はギルドでお手伝いをして欲しいって」


「うーん? なんかうまいこと使われてるような」


「あっ、もちろんタダじゃないですよ!?

 待ってる間、手伝いした分はお給料が出るそうです!

 もう一度薬を作るにも、お金は必要ですし、ちょうどいいと思いませんか?」


「俺は構わないが……」



 ふっとタツミを見れば、優しい微笑みが返ってくる。

なーんか、逆に怖いんだけど。



「私も構いませんわ。ギルドも人手が欲しいのでしょう。

 それに、これを機会に名を売るのも、また良いかと」


「そ、そうか……。それじゃ、頑張ろうな」



そんなこんなで、俺たちはギルドの手伝いをすることになったのだ。

役割としては、対人仕事が得意なルーヴは受付の手伝い、タツミは施設内の掃除など。

そして俺は、壊れた備品の修理をすることになった。


 俺がまず取り掛かった修理は、剣の訓練用の人形……。

といっても、地面に刺した丸太の周りに、縄で藁を取り付けたものだ。


 真剣であれば即座に切れてしまうだろうが、打ち込み訓練は木刀で行うから、これで十分だ。

だが、それでも何度も叩かれた藁は擦り切れ、ほぼほぼ丸太が露わになっていた。


 その縄をほどき、新たな藁を付け、縛り直す。

簡単な作業だが、立ててあるので、自然に藁が落ちてしまわないよう、しっかりと結びつける必要がある。

そんな作業をしていると、背後から声をかけられた。

振り返れば、タツミが作業着で立っていた。



「器用なものですね」


「んあ? まぁ、縄仕事は慣れてるからな」


「あらあら……。もしやイーナム様は、女性を縛りあげる趣味をお持ちで?

 私も、覚悟しておかないといけませんね」


「んなわけねーよ! ほら、テイマーだからな。

 テイムするとき暴れないよう、先に縄で動きを制限すんだよ。

 まぁ、俺はそんなことしなくてもテイムできるけど」


「なるほど、テイマーの基礎技術なのですね」


「まあな。それに、今は畑の作物の支柱作りで縄を触ってるしな。

 馬に荷物を背負わせる時とか、他にも色々使える技術さ。

 何かと覚えておくと、ちょっとしたことで便利なもんだぞ?」


「目立たぬ技術ですが、その積み重ねが日々の暮らしに良い影響があるのですね」


「それは、大げさすぎやしないか?」



 そんな俺の反応に、タツミはクスクスと笑う。

何がおかしいのだろうか?



「私は何をしても……。いえ、何もしなくとも、目立ってしまうものですから。

 裏方仕事というものに、少し憧れに似たものがあるのですよ」


「あぁ……。そういうもんなのか」



 タツミは、ドラゴンの時も、人形デコイ越しの時も、常に目立つ存在だからなぁ。


 でも、今もある意味で十分目立ってるんだよな……。

ギルドの連中がずっと見てたぞ? その目立つ胸元をな。

縛る時はちゃんと縄の毛羽立ちを焼いて落とし、その上で茹でてなめすんだぞ。

なんの話や? 縄の話や。

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