36 冒険者とは
「そんな! 安すぎます!!」
「悪いが、この薬じゃこれ以上は出せないな」
村にある雑貨屋で言われた値段は、ルーヴにとって、到底受け入れられるほどのものではなかった。
材料費、手間賃を考えれば、畑を耕していた方がマシな程度だったのだ。
「うぅ……。これじゃあ、作り損ですよぉ……」
「そうは言うが、効能がなぁ……。それに、薬品店にも断られたんだろう?
ウチだと薬として扱うわけでもないし、必需品じゃなけりゃ、買う客も限られるさ」
店主の言う通り、すでにルーヴたちの作った軟膏は、薬品店での取り扱いを断られていた。
そちらでは、魔法で厳密な成分分析を行い、効能を調べていたのだ。
結果としては、清浄作用と撥水作用は認められた。
だがそれだと薬としては、水で洗って布で巻くのと大差ない。
というか、薬品店で普段扱っている軟膏と差がないのだ。
そうなれば、自身で作った薬の方が利益が取れると、薬品店では扱ってもらえなかったのだ。
そして、それならばと手荒れに効果があるのはわかっていたので、雑貨屋でハンドクリームとして売ろうという話になったのだ。
「もっと裕福な奴らが多い大都市なら、もう少しばかり値がつくだろうが……。
この村じゃ、欲しいって人間は限られるさ」
「そう……、ですか……」
ルーヴは、がっくりと肩を落としている。
だが、一緒に来ているタツミは、さほど気を落としている雰囲気はない。
そりゃ、タツミなら薬を売るよりも、冒険者として活動した方が稼げるだろうしな。
他に手があるから、余裕でいられるんだろうな。
「はぁ……」
店を出た瞬間、ルーヴの大きなため息が、地響きのように聞こえてきた。
価格交渉などは、普段の村での買い物でうまくやっていたのもあって、自信があったのだろう。
それが今回通じなかった事も、ルーヴにとっては落ち込む原因になったのだと思う。
まぁ、俺としては薬の販売がうまくいかなくたって、別にどっちでもいいんだけどな。
「ま、そう落ち込むなって。最終手段として、冒険者の真似事でもすればいいしな」
「えぇ。イーナム様と私で組めば、無敵ですわ」
「だめですよ!! なんのために村長を誤魔化したと思ってんですか!!」
「あ、そういやそれ気になってたんだよ。
なんでハイオークの事隠したんだ?」
「そんなの、知られたら冒険者仕事がくるからに決まってるでしょう!?
そうなったら、忙しくて一緒にいられる時間が減るじゃないですか!
なにより、そんな危険な仕事しなくていいようにしないと!」
「ほーん。心配してくれてたんだな。ありがとな」
「ちょっと! 子供扱いしないでくださいっ!!」
「悪い悪い」
くしくしと頭を撫でてやれば、嬉しいながらも恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながらそう言うルーヴ。
ま、ルーヴの言うことも分かる。
冒険者なんて、その道しかないような奴がやる仕事、そういう認識が人間にはある。
盗賊か冒険者か、その二択しかない人間の、最後の良心が選ばせる仕事なのだ。
そんな話を、ルーヴは今までの短い人間生活で理解し、俺に冒険者をさせないために、色々考えてくれているのだろう。
まぁ、俺としては前みたいに、危険生物の調査依頼なら、テイマーとして受けたいところなんだけどな。それなりに報酬も良いし。
逆にやるにしたって、討伐依頼なんかは避けたいな。
「では、どうするヨツミミ?
先立つものは必要なのだろう?」
「うぅ……」
タツミの静かな威圧に、ルーヴはまた肩を落としている。
だが、ピンと来たのか、ばっと顔を上げて宣言した。
「そうだ! 実際に冒険者の人に使ってもらいましょう!」
「ん? どういうこった?」
「前に見たんですよ! 実演販売ってやつを!
実際に怪我した人に使ってもらって、効能を実演するんです!
薬品店ではああ言われましたけど、実際に試したわけではないですもん!
旦那様のレシピ通りに作ったのだから、きっと効きますよ!」
「ふむ……。確かに一理あるか……」
タツミも静かに納得しているが、どう見ても別物なのに効能があるのか、俺はかなり疑問に思っていた。
ゴロツキたちを管理する冒険者ギルドの苦労がしのばれる。




