34 試作
庭に急ごしらえした作業場で、ルーヴとタツミは俺の書いたレシピを熱心に読んでいる。
そのレシピこそ、俺のとっておき軟膏の作り方を記したものだ。
どうやら、二人も世話になるのだからと、製作を請け負うつもりらしい。
「えぇと、まずは蜜を絞った後のハチの巣をお湯に入れる」
「そして、浮き出た油だけを取りだすと……。
ヨツミミ、試しに作るだけとは言え、このハチの巣の量では少なくないか?」
「うっさいですねぇ。それなら、ハチの巣探し手伝いなさいよ」
「何を言うか、他の材料を探したのは誰だと思っている」
うーん、大丈夫か? すでにいがみ合ってる気がするんだが……。
材料集めは二人で手分けしてできていたから、問題ないと思ったんだがな。
それは二手に分かれたから大丈夫なだけだったんだろうか?
といっても、材料集めに関しては、ルーヴの方が優秀だったな。
なにせ森はルーヴの庭だし、鼻が利く分、蜜の匂いでハチの巣のありかが分かったらしい。
逆に、薬草の収集はタツミの方がうまかったな。
これは、人形越しとは言え、冒険者をやっていた経験が活きたようだ。
なにより、魔力量を測れるらしく、魔力を多く含む薬草を集めている。
薬草に含まれる魔力が高ければ、それだけ薬効が高くなるので、その分高値で売れそうだ。
「もし量産するなら、ミツバチを飼う方がいいだろうな。しかし、それはそれで面倒だな……」
「何が面倒なのでしょうか?」
「前みたいに、依頼で家を空けることもあるだろうし、手が回らなくなるかもしれんしな」
「でしたら、村の者に依頼いたしましょう。材料さえ揃えばいいのですから」
「それよりもまず、今回の試作ですよ。量産の話はその後です」
「そうだな」
村に養蜂家は居るのかとか、そういう事は二人に任せてしまおう。
俺は、村の奴らと交渉するなんて面倒事、やりたくないしな。
「えーっと、蝋だけを取り出して、それを薬草の抽出液と混ぜる……。
え? これだけですか?」
「うん。それだけ」
「蜜蝋と薬草抽出液を作るのは手間なものの、製作自体は混ぜるだけなんですね」
「大抵のものって、そんなもんじゃないか?」
「そうかもですね。料理も材料の下ごしらえは大変ですけど、仕上げは焼いたり煮たりするだけですし」
いつも料理をしてくれているルーヴは納得した様子だ。
しかし、このレシピは、今俺の使っているものと作り方が違う。
どっちかというと、より手間のかかる作り方を書いてあるのだ。
とはいっても、嫌がらせのためではない。
元々祖母から教わったレシピがこれで、むしろ今持っている軟膏は、俺が手抜きで作ったものである。
その手抜きが量産に向かないし、誰にでもできるものではないので、元のレシピを教えたのだ。
ま、最終的に同じものができればよかろうなのだ。
「ということで、試作品一号完成です!」
「ふむ、売り出すなら見た目も匂いも味気ないが、それはおいおい考えるとしよう。
なにをもっても、まずは効能だな。ヨツミミ、試してみよ」
「ちょっと!? 試すってどうやって!?」
「さくっとその辺怪我でもすれば、問題ないだろう?」
「人を実験動物みたいに扱うなですよ!!」
「実験に犠牲はつきものよ」
ははは……。全く、なんだかんだ仲良く完成させたと思えばこれだ。
まぁしかし、それでも無事完成したのだから、とりあえず成功だ。
問題は、これが売れる出来栄えかどうかなんだが……。
試すために怪我をするなんてことはやめておいたルーヴだが、手に塗ってみたようだ。
まぁ、手荒れにも効能があるし、ハンドクリームとして使っても問題ない。
けれど、なにやら微妙な顔をしていた。
「あれ? この軟膏、旦那様のものと違って、染みませんね……」
「む……? 確かにこれは、痛くないな……」
ルーヴの言葉に、自ら試したタツミも不思議そうな顔だ。
あれ? もしかして失敗したか?
スローライフ感あるかと思いきや、材料は買って済まそうとする。
スローライフとは……。




