33 報告
「へ、へぇ……。ドラゴンが……」
俺が答えられるのは、ここまでだ。
いやだってさ、居なくなった原因は知ってるし、かといってそれは言えないし……。
だから何を言うのも、ボロが出そうだと思ったわけだ。
「イーナム殿、何かご存知ではありませんか?」
「いやっ!? なにもっ!?」
「そうですか。もしや、本当はドラゴンなどいなかったとは……」
「あ、あれじゃないか? 怪我が治って、どっか飛んでったとか?」
「それはそれで問題ですよ。ドラゴンの行先次第では、大きな被害が予想されます」
「いやー、元いた場所に帰ったとかさ……。
元々この辺にいた奴じゃないんだろ?」
「だと良いのですが……」
「ま、どっちにしろ村にとっては、問題解決ってことでいいんじゃないか?」
「そうなのですが……。何か隠してませんか?」
「うぐっ……」
やっぱ、勘づかれてるよなぁ……。
そりゃ、ドラゴンがいきなり消えるなんてありえないわけだし、不審がられるのも仕方がない。
「それが……」
「ドラゴンはですね、旦那様が治療したのです。
だから、報告よりも早く傷が治り、洞窟から去ったんですよ」
「ルナ殿、それは本当ですか?」
「本当です」
「では、なぜ報告ではドラゴンが傷を負っているとしか言わなかったのです?」
「ドラゴンに手を貸したとなれば、冒険者たちは文句を言うでしょう?
冒険者にとっては、ドラゴン殺しは巨大な富と、名声をもたらすものですから。
けれど旦那様は、冒険者ではなくテイマーです。ですので、ドラゴンであろうと治療するのです」
「なるほど……。そういう事ですか。
実は、後日調査に行かせた者たちも、チャンスがあれば狙っていたそうなのです。
けれどドラゴンが居なかったため、イーナム殿が秘密裏に仕留めたのではないかと、彼らは疑っていたのです」
「あー、そりゃ疑われるか……」
村長は納得したのか、ことの顛末を書類に記している。
面倒なことになるからと、適当に誤魔化したのが、余計に面倒な結果になったな。
まぁ、おかげでドラゴンが居ない事に関しては問題なくなったわけだ。
「それで、もう一つ聞かねばならないことがあるのです」
「え? まだあんの?」
「えぇ。道中、魔物と遭遇しましたか?
例えば、オーク族などと……」
「あぁ、それならハイオー……」
「オークとの戦闘にはなりましたよ。
けれど、旦那様が返り討ちにしました」
「え? あれは……」
俺が訂正しようとすれば、キッとルーヴは睨みつけ、黙れという圧をかけてくる。
うーん、どういう意図かはわからないが、まぁ任せてみるか。
「それは、確かにオークでしたか?」
「はい。オーク6体ですね。旦那様であれば、十分処理できる相手と量です」
「いやいや、それでも十分規格外なのですが……。しかし、それ以上でも……」
「ん? なんの話だ?」
「いえ、こちらの話です。事情はわかりました。
冒険者たちのギルドには、こちらから報告しておきます」
報告書をさらさらと書き終えれば、村長は紙を丸め、荷物をまとめた。
「それだけか?」
「えぇ、私の用事はこれで終わりです。
ところで、イーナム殿はお困りのことはないですか?
何かあれば、村としてもサポートいたしますよ」
「んー、これといって……。あ! そうだ!」
ぐるりと家の中を見回し、ふと気づく。
さすがに三人世帯となれば、畑で採れたもので賄うのは厳しくなるかもしれない。
なにより、俺はここにずっといるわけじゃなく、落ち着いたらここを拠点に、世界を回るつもりなのだ。
その時のためにも、金銭的に余裕を持っておきたい。
「今までも村で野菜を売ってたが、他にも売れそうなものはないか?」
「村で必要とされているものですか……。
そうですね、基本的に食品関係は蓄えもありますし、森で採れるものも、さほど需要がありませんなぁ……」
「そうか……」
そううまく、儲け話があるわけもないか……。
しかたないので、冒険者の真似事でもしようかと考えた時、タツミが口を開いた。
「イーナム様、あの軟膏を生産してはいかがですか?」
対人交渉は人間じゃない奴らの方が得意というちぐはぐ感。




