32 誤解
タツミの夫婦宣言に、村長は目を丸くしている。
ん? なんでだ?
そりゃ、ルーヴの「妻です」宣言なら、お前年齢差考えろよと言われても不思議ではない。
だが、今回はタツミだ。見た目は十分大人……。
というか、酸いも甘いも経験してきたような、色香がある。
実際、村長も見惚れてたくらいだしな。お前こそ歳考えろと言いたい。
そんな俺の心中を察したのか、村長は小さくため息をつき、静かに語った。
「事情はわかりました。けれど、あまり褒められたことではありませんよ」
「なんの事情だよ!?」
「まったく、ルナ殿が悲しむわけです」
「いやだから、なんの話だよ!?」
「イーナム殿、重婚は禁じられておりません。
むしろ、何があるかわからぬ世の中、力と経済力のある者が、多くの女性を娶るのはよくある話。
しかし、それは女性側の了承あってこそであり、精神面をサポートするのが、男の務めですよ」
「マジでなんの話してんの!?」
「まずは、ルナ殿とよく話し合い、合意した上で新たな女性を招くべきですよ」
「もう、帰ってもらっていい?」
「ルナ殿が家から飛び出してきた時は、何事かと思いましたが……。
まったく、至上のテイマーと名高いイーナム殿も、乙女心は分からないのですね」
「勝手に納得して、勝手に話を進めるな」
俺の言葉は聞こえないのか、村長はくどくどと続けた。
いや、俺が招いたんじゃなく、勝手に来たんだけどな……。ルーヴ含めて。
どうやら村長はルーヴが飛び出していったのを、俺がタツミを招いたからだと誤解しているようだ。
まぁ、最近の様子からすれば、近からず遠からずな気もするが……。
しかし、飛び出していった本当の理由を話す方が、色々と面倒になりそうだ。
歳ゆかぬ子になんてことを教えてるんだ、なんて言われそうだし。
なにより、ドラゴンの生態についての話なんて、村長は知らないだろうから、俺が食事中に下品な話をしただけだと思われるだろうな。
ま、村長にどう思われようが、どうでもいいことではあるんだが。
「ルナ殿、二人でちゃんと話あって、今後を決めなさい。
もし、わだかまりなく受け入れられるようでしたら、私が二人の挙式を開かせていただきますよ。
ご希望でしたら、村の教会の見学も……」
「あの、村長? そんな話しに来たんじゃないですよね?」
「おっと……。そうでした。しかし、これだけは。
私はルナ殿の味方ですよ。何か悩みがあれば相談してくださいね」
にっこりと笑い、ルーヴの頭を撫でる村長。
まったく、近所のおじさんが、ちっさい子を甘やかしているだけじゃないか。
…………。いや、考えてみれば俺もタヌキのちび助には甘いし、ひとのこと言えないか。
「さて、それはそれとしてです。今回やって来たのは、ドラゴンの件のその後の報告です」
「うん。それはさっきも聞いた。わざわざもう一回調べたってことは、何か問題があったのか?」
「いえ、全ての調査依頼は、二つ以上のパーティーに出す決まりになっているのです。
よからぬ者が、調査せずに報告をでっち上げる可能性がありますのでね」
「俺はそんなことしてねえぞ?」
「もちろん、信用しておりますよ。それは決まりというだけですので」
「色々と面倒な決まりがあるんだな」
「えぇ。なにせ、冒険者は荒くれ者だけでなく、ずる賢い者も多いもので……」
そりゃ、確かに言えてるな。そういう意味で、リビィは特別だった。
アイツは、王国軍の騎士にでもなった方がいいんじゃないかってほどに、凛とした振る舞いと、性格を持ったヤツだった。
だからこそ、周囲の冒険者たちとは、折り合いを付けるのに苦労していたようだがな……。
おっと、そんな事を思い出してる場合じゃなかったな。
「それで、当然問題はなかったんだよな?」
「いえ、それが……」
「ん? どした?」
「ドラゴンが、居なくなったそうなのです」
えぇ、そうですね。あなたの目の前にいる人が、そのドラゴンですよ。
なんて、口が裂けても言えるわけがなかった。
勝手に納得して、勝手に話進めるやーつ。




