31 これ、前も見たな
ルーヴが飛び出していってしまったので、俺は昼食の片付けをしてから畑仕事に戻ることにした。
それ自体は大した仕事ではないし、タツミも手伝ってくれていたので問題ない。
しかし、ルーヴは飛び出して、どこに行ってしまったんだろうか。
まぁ、アイツのことだから、森の近くにいる限りは安全だろう。なにせ、森の主だしな。
というか、俺が心配してやることもないか。元はといえば、アイツが聞きたがった事なんだし。
なにより、ドラゴンだけでなく、人間や他の動物にも共通した、単なる生理現象の話だ。
それをやいやい言うなんて……。やっぱ、アイツ見た目通り若いのか?
うーん、狼の時からデカかったし、仔犬という感じはしなかったけどな。デカかったし。
毛並みは良かったから、若いとは思うが……。
「ま、いっか」
「何がでしょう?」
「え? あ、いやなんでもない」
「そうですか。ところで、今日は来客のご予定が?」
「ん? いや、そんな予定はなかったと思うが」
「では、私が追い払うとしましょうか」
「へ? 何の話……」
言い終える前に、コンコンと遠慮気味に玄関の戸がノックされた。
なるほど、タツミはこの気配を察知していたのか。
「いい、俺が出る」
ノックするってことは、相手は人間だ。
追い払うつもりのタツミに対応させるわけにはいかない。
俺は返事をしながら、玄関の扉を開けた。
「お久しぶりでございます、イーナム様」
「なんだ、村長か。何かご用で?」
「ええ。前回の依頼の、その後の報告に来たのですよ。
あと……」
何やら少々困り顔の村長。
ちらりと自身の後ろを見て、早く気づいてくれと言わんばかりに、愛想笑いの困惑比率を上げたのだ。
そういう言葉を介さない、空気の読み合いってのは嫌いなんだが、仕方ない。
ぐいっと覗き込めば、そこには必死に村長を盾に守りの姿勢を固める、ルーヴがいた。
「お前、何してるんだ?」
聞いても、村長にしがみついて、グルルと唸るだけだった。
まったく、なに怒ってるんだか……。
「ま、ソイツは放っておいて、立ち話もなんですから中へどうぞ」
「ははは……。失礼いたしますよ」
村長は困っているけれど、ちょうど良かったな。
ルーヴの機嫌を取るのも面倒だし、探しに行くのだって一苦労だ。
今の姿であっても、ルーヴは十分すばしっこいからな。
とりあえず村長を座らせ、いつもならルーヴがやってくれるが、今回は俺が代わりに茶を入れた。
それをタツミが運び、そっと村長の前に差し出す。
その時村長は、目前に迫った豊満な胸の谷間に目が釘付けになっていたが、ここは気づかなかったことにしてやろう。
まぁ、気づいていない奴なんてこの部屋の中には一人としていないけどな。
村長の隣に座っていたルーヴも、若干距離を取ったし。
「ありがとうございます。あなたは、確かタツミ殿でしたかな」
「その節は、お世話になりました」
「あれ? 二人って知り合いだったのか?」
「イーナム様を探しているとき、村で教えていただいたのですよ。
なにせ、手がかりは途中で途切れておりましたから」
「手がかり?」
「特殊な糸を手繰って、村の近くまでは来られたのです。
その後どこへ向かえばいいかわからなかった時、助けていただいたのですよ」
なるほど、タツミは洞窟の前でルーヴに持たせた、連絡糸をたぐってきたというわけか。
あの時、うっかり回収を忘れたせいで、村の近くまで糸が続いていたようだ。
しかし、タツミはやはり人形を使って、人間と関わってきたと言っていただけあり、対応がうまいな。
俺の方がダメなくらいだ。まぁ、俺の場合は、気にしてないだけなんだが。
「して、その時に聞きそびれたのですが、お二人はどのような関係で?」
「夫婦です」
「ちょっまっ!?」
褒めようとおもったらこれだ……。
ホントに、勘弁してほしいもんだ。
二人目を村長に紹介。




