表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/72

03 懐かれました



「よし! 離れないなら、どっかに隠そう!」



 そう思い立ったのは、もふもふに包まれて30分ほどした後だった。

人に見られて困るなら、人に見られなければいいのだ。うん、簡単な話だったな。



「となれば、村とは別方向に行けばいいんだな!

 よし行くぞっ! えっと……、名前がないと不便だな……。

 名前名前……。よし! 今日からお前はルーヴだ!」



 その言葉に、どうやら名前を気に入ったらしいルーヴは、頭を擦り付けて甘えてくる。

凛々しい顔をしてるくせに、意外と甘えん坊のようだ。

その頭を撫でてやると、ブンブンと尻尾を振って喜びを示す。

ホント、動物ってのは可愛いもんだ。



「それじゃ出発!」





 そう言って野営地を出たのが数時間前。

そして、村に着いたのが、日が傾きかけてすぐの頃だった。



「って、なんで村に着いてんだよ!!」



 村を目指さないようにと歩いていたはずなのに、村に着いていた。

何を言っているか分からねえと思うが、俺も分かんねえよ。

そうだね、方向音痴だね。いや、その理屈はおかしい。


 しかし、どうやら俺の方向音痴は「逆張りのスキル」とも言うべきものらしい。

目指すものには辿り着かず、目指さなければ辿り着く。


 俺を追放した奴らを追いかけたのもそのためだ。

追いつこうと思えば追いつかない。それは、今までの経験からわかっていた。

けどさすがにさ、目指さないでおこうとして、着いてしまうのは予想外だったよ……。



「ええと……。よし、引き返そう」



 そう思った時には、すでに遅かった。

周囲を警戒し、巡回していた兵士たちに見つかったのだ。



「なっ! 狼だ! 狼が出たぞ!!」


「待って! ちょっと待って!!」



 俺の声は届かず、わらわらと兵士が集まってくる。

皆臨戦体制で、槍を持ち、陣形を組んでいた。



「ルーヴ、お座り。お前はここで待ってろ、俺が話つけてくるから」



 コクコクとうなずき、ぴしっと前足を揃え、背筋を伸ばしたお座り体勢になるルーヴ。

その凛とした佇まいは、空を仰ぎ、巨匠の製作した石像のようだ。

その姿に見惚れそうになるが、俺は駆け出し、兵士たちの元へと急いだ。



「君っ! 早くこちらへ!」


「ちょっと待って、話をさせてくれ!」


「いいから! あんなのに襲われれば、ひとたまりもないぞ!」


「じゃなくて! あいつは俺の……。

 あ、いや、テイムはしてないんだけどっ!

 なんていうか、懐かれて仕方なく連れてきたというか……」



 俺の言葉に、兵士たちはどよめく。

そりゃそうだろう、普通ならテイムもせずに言うことを聞かせられる方がおかしいのだから。



「はぁ!? テイムもしてないのに懐かれただって!?」


「あ、はい。そうです」


「しかし……。いや、そうであるならテイムしてだな……」



 隊長らしき男も、どうしたものか困り顔だ。

そこへ、歳のとった白髪の男が、村の門から現れる。



「おぬし、先程の話は本当か?」


「長老!?」



 どうやら、その男はこの村の長老らしい。

そりゃ、ただの年寄りが、非常事態に表に出てくる事はないだろうけどさ。



「えぇ。怪我をしていたのを助けたら、懐かれたんです」


「テイムは、まだしていないとの事じゃな?」


「はい。必要なら、今からでも……」


「その必要はない。良かった……、テイムされていれば、大ごとになっていた所だ」


「どういう事です?」


「あの黒き狼は、森の守り神じゃ。

 この森の安寧を支える強者、それがあの狼じゃ」


「マジですか?」


「マジでじゃ」



 軽いノリで返し、微笑む老人。

長老なのに、意外とフランクな人だな。



「して、そんな狼に懐かれたおぬしには、少し話を聞きたいのじゃが……」


「しかし長老、あの狼を村に近づけるわけには……」


「当然じゃ。なにせ、あやつは森で最も強き者。

 暴れ出せば、どれほどの被害が出るか……。想像もしたくない」


「それじゃ、俺はどうすれば……」


「いうことを聞かせられるのなら、もう少し離れた場所で待たせておいてくれるか?」


「はぁ……。ちょっと行ってきますね」



 俺はルーヴに語りかけ、村へと近づかないようにと言い聞かせるのだった。

テイムしてないけど、待てはちゃんとできるだろうか……?

でかいだけの犬疑惑。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ