27 ひなたぼっこと昔ばなし
若干冷めてしまった朝食を終え、俺はいつも通り畑へと出る。
なんかルーヴがすねていたように思うけど、放っておこう。
いつまでも、すねれば俺が折れてくれると思われても困るしな。
沢から引いた水場で、バケツに水を汲み、畑の作物へと杓子でまく。いつもの光景だ。
一緒についてきたタツミは、そんな俺を物珍しそうに見ている。
「綺麗に手入れされた畑ですこと……」
「ん? そうか? 見様見真似の、適当菜園だぞ?」
「いえいえ。ここまで除草が行き届き、土づくりも見事な畑、見たことありませんわ」
「そうなのか? というか、タツミはドラゴンなのに詳しいのか?」
「ふふっ……。こう見えて私、人間には、イーナム様以上に詳しいと自負しておりますわ」
「人間の寿命も知らなかったのに?」
「それは……。詳しくとも、添い遂げる気がなかったので、気づかなかったのです」
「ん? なんか引っかかる言い方だな」
俺と二人きりにも関わらず、過剰気味なスキンシップもなく、距離を保ちながらそう話すタツミ。
振り向き姿を見れば、優しい日差しに身体を温めるトカゲのように、ふんわりとした笑みを浮かべていた。
ついてきたのは、ひなたぼっこをするためだったようだ。
「しかし、ドラゴンと人間の接点なんて、あんまりピンとこないんだがな」
「人間から見れば、そうでしょうね」
「ドラゴンから見れば違うってことか」
「というよりも、私から見ればと言った方が正しいでしょうか」
「へぇ、人間にちょっかいでもかけてたのか?」
「ふふふ、気になります?」
「多少はな」
「もっと積極的に、興味を持っていただきたいのものですね……」
作業しながら横目で見ると、少し寂しげな目をしていた。
俺が興味なさげだからか? んー、ドラゴンの生態だし、興味はあるにはあるんだがな……。
そうしていると、小さくあくびをして、タツミはうつらうつらとしはじめる。
「教えてはくれないのか?」
「あら、大した話ではありませんわ。
ただ、昔に少し、人間と関わったというだけ」
「国をひとつ滅ぼしたとかか?」
「そんな無意味なこと、暇を持て余した野蛮なドラゴンしかしませんよ。
それに、私は神として人間に祀られていたんですもの」
「あー、そういう地方もあるな。
畏れるあまり、神ってことにしてご機嫌とるやつ」
ふと、この森の主の扱いを思い出す。
ある意味、ルーヴもまたそういう扱いをされてきた。
だから人間との距離感がおかしくなったし、そのせいで今の状況になったってのもある。
やっぱ、タツミも似たようなものなのだろうか。
「その昔、生贄として歳ゆかぬ女を寄越したのですよ」
「ありがちな話だな」
「まったく、どういう意図か計りかねますね。
食料とするにも、人間など骨と皮しかないんですもの」
「そりゃ、イノシシでも狩った方が食べでがありそうだ」
「そうでしょう? なので、適当に飼っていたのですよ」
「飼うって……」
「イーナム様も、同じような事をしているではありませんか」
タツミはちらりと森の方に視線をやると、そこには茂みに隠れた、タヌキのちび助がいた。
あぁ、ドラゴンにとっての人間は、そういう風に見えているのか……。
「それで、その生贄で人間のことを知ったのか?」
「そうではありませんわ。
それなりに育った頃に、その子は別の国へ嫁がせましたもの。
その時、人形を使い、親として人間の街へと赴いたのです」
「人形?」
「えぇ。人形を幻覚魔法で人間に見せかけるのです。
その人形を媒体に、感覚共有で人間の暮らしを垣間見たのですよ」
「えらく器用な魔法を使うんだな」
「他の生き物の意識の乗っ取りなどもできますよ」
タツミは少ししたり顔だが、しかしドラゴンってのはやっぱり規格外だ。
というか、その魔法でここに来ていれば、変化する必要もなかったのでは……。
俺も朝は弱いので、午前中はポンコツ。
実際は常にポンコツやけどな!




