26 戦争の朝
鳥のさえずりと、朝の優しい陽の光で俺は目覚めた。
旅の時とは違い、夢を見るほどにぐっすりと眠れたが、こんな堅いベンチで寝たせいで、体中が痛い。
しかし、それも仕方ない事だ。さすがに、ドウデモイー程度にしか興味の持てない相手であっても、客人をこんな場所に寝かせるほど、俺は空気を読まない男じゃない。
いつものベッドは、今日はタツミに譲っているのだ。
とりあえず家を増築して、タツミの部屋を増やさなければと予定を立てつつ、俺は起き上がる。
リビングのベンチから身を起せば、台所からいい匂いが漂ってくる。
「おはようございます、旦那様」
ニコニコと、可愛らしいエプロンを着たルーヴは、スープの入った鍋を手に台所からやってきた。
「あぁ、おはよう」
「顔を洗ってきてくださいね。
朝ごはんはできてますので、そのあと食べましょうね」
「ありがとう、助かる」
ぼんやりとやわらかい、昔の夢を見たせいか、足元がふわふわとした、綿毛の上を歩いている感覚だ。
寝ぼけた頭に、冷たい水を浴びせかけ、パンパンと頬を叩いた。
多少感覚の戻った足で向かうは、リビングだ。
テーブルに並べられた、ルーヴ特製あさごはんの匂いを辿ると、途中で何やら騒がしい声が聞こえた。
その声のする先は、俺の部屋だ。
ギャンギャンと騒がしい部屋の扉を開ければ、そこにはベッドに横たわるタツミと、それに苦言を呈するルーヴの姿があった。
「どうした?」
「ちょっ!? 旦那様は見ちゃだめですっ!!」
「ん? 何がだよ」
「このバカ女が、なにも着ずにねてたんですよっ!」
「だからどうした?」
「旦那様っ!?」
何を今さらルーヴは騒ぎ立てているんだろう。
姿こそ今と違えど、タツミの身体なんて隅から隅まで見ている。
今さら何を見たところで、俺はなんともないんだがな。
しかし、タツミの方は嫌なのか、不機嫌そうな様子を取り繕うことなく、ムスッとした顔で上体を起こす。
「朝からうるさいぞヨツミミ、もう少し静かにできんのか……。
おはようございます、イーナム様。こんな姿を見せてしまい申し訳ない。
この姿になったとはいえ、ドラゴンは変温動物、朝は苦手にございます。
叶うのであれば、イーナム様の人肌で温めていただければ……」
「テメェはいつまで寝ぼけたこと言ってんだ!!
さっさと起きやがれですよ!!」
「まぁまぁ、ルーヴも落ち着け。
しかしタツミ。ドラゴンは変温動物だが、自らの魔力で身体を温めるもんだろう?」
「あらあら、よくご存知で。
けれど、女は誰しも、王子のキスで目覚めたいものですの」
「ははは、冗談きついな。最近までは男だったはずだろう?」
「釣れない反応ですわねぇ……」
ゆっくりと起き出し、そう言いながら昨日と同じように、その豊満な胸に俺の腕を沈める。
これはあれか? ドラゴン的コミュニケーションなのだろうか?
まぁ確かに、ドラゴンが目の前に立ち塞がる時、一番目立つのは胸、つまり胸筋かもしれないが、そんなに特徴あっただろうか?
俺としては、あのさらりと長い尻尾の方が、よっぽど目を奪われるがな……。
そんなことを考える俺とタツミの間に、またこれも昨日と同じく、ルーヴは割り込んできた。
「なに二人でほっこり朝の会話楽しんでんですか!!
テメェはさっさと服着ろ! 痴女か!!
旦那様も、こんなのに合わせてやる必要ないんですからね!!」
「そう騒ぐほどでもないだろう?
ドラゴンなんだし、服着る方が普通じゃないんだし」
「それに、いまさら恥ずかしがる仲でもございませんものね。
イーナム様には、私の全てをすでに見られてしまっているのですから」
「なっ!? どういうことですか旦那様!?」
「そりゃそうだろ? 子どもができてるか調べたんだから、そりゃ隅々まで見たさ」
「うわーん! この浮気者! 変質者! 頭おかしい異種族バカー!!」
ルーヴは騒々しく、何か呪文を唱えて部屋を出て行った。
というか、異種族バカとはなんだ。俺はただのテイマーだ。
テイマーだったら、これくらい普通……。普通だよな? たぶん。
「さて、邪魔者は居なくなりましたし、二人でゆっくりと……」
「朝飯冷めるから、顔洗ってリビング来いよ」
「あらあら、やはり釣れない反応ですわね」
くすくすと笑いながら、タツミは俺の首元に、優しく口付けをした。
うーん、ドラゴンのコミュニケーションというのは、よくわからんな。
最初は「異種族バカ」じゃなく、「異種○野郎」とか、「獣○趣味」とかにしようかと考えたんですが、R15しかつけてないのでやめました。




