25 あたたかな日々
人間と行動を共にするなんて、まっぴらごめんだ。
なんて、そこまで当たりの強いことを言うつもりはない。
けれど、それでも誰かと一緒に居るというのは、俺にとってはストレスだった。
それは、人間は嘘をつくだとか、騙すだとか、残虐で冷酷だ、なんて理由じゃない。
俺が一番嫌なのは、人間は空気を読む生き物だからだ。
そして、空気を読むことを、強要する生き物だからだ。
「あなたが噂の、ドラゴンもテイムしたというテイマー?」
「ん? ドラゴンはテイムしたが、噂は知らないな」
「へぇ……」
「なんだ? 言いたいことがあるなら、言えばいいだろう?」
「いえ、別に。意外と若い人だったから、驚いただけよ」
この会話にさえ、空気を読むという技能を必要とするのが、人間というものだ。
本当に思ったこと、それはもっと別のことだっただろう。
例えば「こんなうだつの上がらなさそうな男が? 本物かしら……」なんていう、懐疑心とかな。
けれど、人間はその言葉を発することはない。
それは、この先の目的のためには、相手の機嫌をとっておく方が得策だからだ。
だが、俺には何となく分かってしまうがゆえに、その空気を読むという行動が、非常に不快だ。
「で? 用がないなら馬の世話をしたいんだが」
「待って。あなたの能力を見込んで、お願いがあるの」
「お願い?」
「えぇ。あなた、ウチのパーティーに入ってくれない?」
それが、リビィとの初めての出会いだった。将来有望な、女冒険者。
けれど彼女の雰囲気は、威圧的ではなく、冒険者としては頼りないほどに、あたりの柔らかい人だった。
彼女は、世界を回り、自らを鍛え、そして人々を救いたいと願った。
そのためには、行動を共にする仲間も強くあらねばならないという。
「そんな崇高な夢を持っているやつが、なんで俺を?」
「あなたがテイマーとして、最高の逸材だからよ」
「そりゃどうも。でも悪いが……」
「世界を回るため、誰とも組む気はない。でしょ?」
「分かってるのかよ」
「えぇ。他の人も、そう言って断られたと言ってたもの」
「なら、なんで声をかけた?」
「さっきの話、聞いてなかったの?
私は、修行のために世界を回るつもりよ。
あなたも、テイマー修行として同じことをするのでしょう?
目的が同じなら、組んだ方が効率的だと思わない?」
「なるほどな……」
その言葉に嘘はないと、俺の直感が言っていた。
今までの、上辺だけ綺麗ごとを言う人間とは違う。
そんな空気を感じた俺は、リビィと行動を共にすることにしたのだ。
「ただし条件がある。俺にとって、お前は二番手だ。一番は動物たち。
だから、いつでもお前のために動くと思うな。
そして、俺は俺の好きにさせてもらう。
俺たちは、ただ目的地が一緒なだけだと思え」
「えぇ、それで十分よ。でも、それだと荷運びも頼めないのかしら?」
「動物たちが嫌がらなければ、別に構わない」
「そう。助かるわ」
俺の付けた条件にも、リビィは文句を言わなかった。
彼女は、俺の能力を買っただけ。俺も、目的が同じだから一緒にいただけ。
ただそれだけの関係だ。
約束通り、彼女は俺の行動には何も口出ししなかった。
馬がぐずって遠回りをさせようとした時も、文句も言わず付いてきた。
たまには酒でも一緒にと、酒場に誘われた時、馬の世話を優先した俺にも、文句も言わずただ一言「気を付けて」とだけ言って送り出した。
俺は面倒な人間との関わりをリビィに任せ、その代わりに、荷役と多少の戦闘補助を行っていたのだ。
うまくやれていたとは思わない。ただ、アイツが俺に合わせていただけ。
それは分かっていた。けれど、俺は変わらなかったし、変わろうとも思わなかった。
けれどそんな二人の旅は、長くは続かなかった。
リビィが優秀な冒険者だと名が売れるほどに、行動を共にしたいと申し出る者が現れたのだ。
追放されるためには、出会いが必要なのですよ。




